第九十七話 世界戦7
~テトリア視点~
「アクセルは上手くやっているだろうか」果ての丘に存在する上位者の痕跡を辿りながら、まだ未熟な彼の事を考える。
ここでいう未熟は実力が足りないということではなく、経験の話だ。彼の戦闘スタイルはよく言えばオールラウンダー。誰を相手にしてもある程度は戦えることができる。悪く言えば決定力が足りない。故に自分よりも格上と相対した時に勝てなくなる。
「これで克服してくれると嬉しいのだけど」だから少し酷だが、遥かに上の存在である上位者にぶつけた。こうでもしない限りは欠けている部分を補うことは出来ないだろう。
「まぁ、彼なら乗り越えてくれる」ここに来るまで幾度となく死線を私の補助はあったが超えてきた。今回もまた、死の淵で何かを掴んでくれる。それこそ彼に渡した神具の解放。もしくは更なる大神の召喚や神自体の力を引き出すか受け継ぐか。それか能力や運命の開花、餓狼の強化か。
複数の選択肢が考えられる。それくらい彼には伸びしろがある。もしかしたら全てを手に入れるのかもしれない。
「それよりもここにいる二人を殺さないと」アクセルへの期待から思考を変える。この丘に居る上位者は三柱。破壊者、打開者、堕落者だ。強奪者はアクセルに任せているから残りを殺せばいい。
「面倒ごとが嫌いな愚者」全ての詠唱を省略し禁断の魔法を発動させる。すると右腕が腐り落ち、中から百足が這い出た。何かを探すならこれが最適解だ。
「そっち側か」右腕を修復しながら後を追う。難点は小さくて見失いやすいことだが、その時はまた発動させればいい。
百足を追い続けること数十分。遂に目的の奴らに出くわした。片方は金色の髪に程よい筋肉で覆われた肉体を有した男で、手は光り輝き理を握っている。
もう片方は茶色い髪に少しだけ肉が付いている。手には朽ちかけた柄に割れ欠けの水晶玉が取り付けられた杖がある。
「先制させてもらうよ」他の軸で生み出した魂を固め、男に向かって弾き飛ばす。当たればラッキー当たらなければ他の攻撃で押し切ればいい。
「テトリアか!!」男は攻撃に一瞬で気が付くと気を解放させるのと同時に拳に纏わせ、魂を一撃で砕いた。八強でも壊すのに二撃、三撃は必要な強度があるんだけど,,,
「めんどうくさいのがきたね~」女の方は少し遅れて魔法の準備を始めた。あの遅さなら先に狙った方がよさそうだ。
「お前等よりは面倒臭くないと思うよ?」~魂乱~
自分の魂を具現化し女に向かって乱れ撃つ。速度も威力も硬度も十分。この攻撃で沈んでくれたら有難い。
「どの口が言ってんだか」攻撃と女の間に超神速で体を男がねじ込んだ。肉眼でも追うことが叶わない程の速さ。どうやら,,,全てを託す時が近いみたいだ。
「ありがと~__レイ__これで魔法が放てる~」~堕落砲~男の後方から紺碧色の球体が空間を占有するように飛び出し、景色を喰らいながら向かってくる。
「速い,,,」やはり女の攻撃も目で追い続けることは叶わず、勘で回避を要求される。後方に大きく飛び、左右に高速で動きながら振り切る。がそれも長くは続かない。
「くっ!」集中力が切れ、次第に勘と動きが鈍くなり、一撃、二撃と被弾する。攻撃が命中した個所からは瘴気の様な物が噴き出ては、痛みと気怠さが蓄積されていく。それに魔法の発動も上手く出来ていない。
「反撃もしねぇのか?抵抗者も名ばかりだな」固定砲台のように魔法を放つ女を守るように気を溜めながら男が呆れたように、そして勝利を確信したように笑う。
「っ!!」奴の言葉は否定できない。攻撃をいなすことも、避けることもまともに行うことができていない。反撃など、夢のまた夢。今はただ耐え続けるしかない。
「しぶといな~これで死んでよ~」~堕天砲~
女がそう言うと攻撃は更に烈度を増し、空間自体に隙間を生み出しながら体の感覚を奪っていく。
「死ぬわけにはいかないさ」四肢の感覚はとうに無くなり、視界も半分が闇に覆われ、鼓膜も震えなくなった。それでも魂にあらかじめ設定している魔法が動いている。
「いつまで強がっていられんだろうなぁ」蒼白く光る手が顔の前まで近寄る。
「これで終わりだけどな」~空解~
頭を鷲掴みにされ、溜まっていた気が解放される。脳髄の奥の奥まで刻み込まれる空を連想させる蒼。痛みは感じない。
魔法が成功したようだ。
「呆気なかったな」頭上から男の声が聞こえる。
「そうだね~。でも居場所が割れたから場所を変えないと~」
「あぁ。果ての丘も安全ではなくなった。強奪者と合流して次なる土地を見つけよう」
「移動はめんどくさいけど、世界を束縛されるのはもっとめんどくさい~」
「同感だ。だから俺達がいるんだろ?それに片割れの情報も手に入れた」
「じゃあ早く共有しないと~」
「行くぞ。背中乗れ」
「分かった~乗せてもらうよ~」
少しの間無音が続いた後、地面を大きく抉るような轟音が丘に響き、二人の気配が無くなった。
「まさか負けるとは,,,」かつて自分の器だった肉の塊を見下ろす。この軸で他に器にできそうな強靭な肉体は無い。他の軸に移動して、またこの軸に戻るか,,,
「無理だろうな」吐けるはずもないため息を吐く。この軸に辿り着くための工程は複雑になった。それに他の行くとの干渉も強大になり過ぎた。そのうち、他の軸に名を刻む八強もどこかに統合される。
「託すしかないのかな」私の能力は輪廻転生。死んでも魂がある限り他の肉体に移ることができる。そして魂に不滅の魔法、時間遡行の魔法を刻むことにより、魂が消失することは無い。文字通り不滅の存在だ。
「諦めるにはまだ早い」自分にそう言い聞かせ、肉の塊に変わり果てた自分の体に魂に付与した時間遡行魔法をずらす。これで魂が消える可能性が高くなったまだ戦える。
「発動」私がそう口にすると肉の塊が眩い光に包まれていく。そして金属同士を激しく擦り合わせたような甲高い音が響き渡る。更に数秒の時間が流れると骨が折れるような音、肉がすり潰されたような音が木霊する。
更に数十秒の時間が流れると粘土の高い液体が固い地面に撃ちつけられたような汚い音が聞こえた。そして悲鳴にも、叫び声とも取れる様な苦痛に溢れた声が耳を劈く。
「成功したか」聞くに堪えないような音を乗り越えると、先程までの「私」がそこに横たわっていた。装備の欠損も無ければ肉体の欠損も無い。
「さてと、またこの肉体を借りるよ」能力を発動させ器に強引に魂を入れる。何度も何度も繰り返し行っていることだが、どうにも抵抗感がある。本来の肉体ではないからだろうか。
「真の決戦の時は取り戻せているかな」体を動かし馴染んでいるかを確認する。この作業を忘れれば、日常生活、戦闘に大きな支障が生まれる。
「まぁ先の事なんてどうでもいいか」遥か北、極圏に封じ込められた肉体を思い出しながらアクセルがいた場所と空間を繋げる。
「次は負けない」我の真骨頂は無限の残機による繰り返し。そして他の軸からの魂の呼び寄せの自己の強化と他者の強化。これで幾度の戦いを切り抜け勝利してきた。勝てない奴らもいたが負けてもいない。
故に無敵。
「代償は世界にな」魔法の矛先を世界の中枢に向ける。これで何度でも魔法を扱える。魔力切れの心配もいらない。
「待ってろアクセル。今すぐ行く」切り裂いた時空の隙間に入り込む。
数舜視界が暗く染まると転移が完了した。目の前には倒れたアクセル。つまらなそうな顔をした強奪者と真剣な面持ちをした打開者と寝ている堕落者。
それに世界を彩る赤い線と何処から響く弦を引き絞る音。少しばかり神力の残滓が散らばっているのが分かる。
「よかったなぁ、アクセル。死後の世界でも一人じゃないみたいだぞ」
「まだ来るのか?」
「,,,,,,,」抵抗者は三者三様の反応を見せた。
「至極当然。殺してやる」莫大な魔力をため込み空に打ち上げる。その速度は打開者ですら反応出来ない。
「起きろアクセル。力を貸せ」あらかじめ用意されていた蘇生魔法をアクセルに使用する。回復酔いがあるかもしれないがしったこっちゃない。負けた奴が悪い。我を含めてな。
「二回戦を始めようか」




