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ブレイクソード  作者: 遊者
世界戦
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第九十六話 世界戦6

~LIB・アクセル視点~

「遂にこの時が来ましたね」共に眼下に広がる丘を見下ろす仲間に話しかける。


「あぁ。君も随分と力を付けてくれた」昔を懐かしむような優しい声が響く。


「まだまだです」褒められるのは悪くない。だが僕はまだ未熟だ。大神召喚で呼び出せる神も少ないし、能力の加速も周囲に多少の影響を及ぼせるくらいだ。正直『果ての丘』に来れたのも奇跡に近い。


「あまり謙遜をしないでくれ。一緒にここまで来たのだから」獣世界から共にここを目指して早一年。僕たちの付き合いは長くなった。ブレイク達と一緒にいたときよりも。


「分かりました」だから彼女の言葉は信頼できるし、素直に受け止めることができる。


「よろしい。それよりもこの後の計画は覚えているか?」


「はい。果ての丘のどこかにいる強奪者を殺し概念を取り戻す、ですよね」あの日テトリアから聞いた壮大な計画の最後。ここを突破できなければまたこの後に待ち構えている難関を超えることができない。


「そうだ。そしてその強奪者を君に殺してほしい」


「僕に、ですか?」


「あぁ、そうだ。これは君にしかできないことだし、強くなるために必要なことだ」真剣な顔をしながら喋る様子から、彼女が本気で言っているということが分かる。


「ですがまだ神具の解放も出来ていませんし、上位者となると勝てる算段が,,,」


「大丈夫。君なら勝てるさ。それとも私の言葉が信じられないのかい?」


「信じられますが,,,」彼女に軽く詰められて言葉が出なくなる。正直今の俺が上位者に勝てるビジョンが少ししか見えない。


「なら胸を張って戦いに行きなよ。向こうは我慢できなくて来たみたいだし」テトリアの視線の先を見ると、『それ』はいた。


それは黒い短い髪にボロボロになったパーカーのようなものを着ていて、手には二刀の短剣を握りしめている。背は俺と同じくらいか少しだけ高い。体格もよく似ているが、痩せこけている。周囲には赤と紫の霧が立ち込め、異様な雰囲気を醸し出している。


「自ら奪われに来たのか?愚か者」どこか聞きなじみのあるような、ないようなしゃがれた声が、丘全体に響き渡る。


「何か勘違いしてない?お前と戦うのは私じゃなくてアクセルよ」背中を強く押されて前に出る。


「本当に戦うんですか?」俺は困惑しながらも、腰に携えていた二刀の短剣を引き抜き、餓狼で刀身を覆う。


「いつでも言ってるの。ほら男でしょ?君が戦っている間に私はここにいる上位者を二人殺してくるから」彼女はそう言って空間移動魔法の魔方陣の中に体を押し込んだ。


「まぁ、こうなるのは必然なのはわかっていましたが,,,では、胸をお借りします」双剣を顔の前に構え、攻撃と防御の態勢を取る。そして少しでもダメージが軽減できるように餓狼を自分と、その周りの空気中に飛ばす。


「あ?借りるも無いだろ。奪うか奪われるかだ」刹那二刀の短剣が眼前まで迫っていた。


「っ!!」咄嗟にバックステップを踏み攻撃を回避する。そのままの流れで餓狼を放ち、更に後方まで下がり距離を取る。おおよそ数百メートル。態勢を立て直すには,,,


「逃げてんじゃねぇ」地面を抉りながら再び迫り込んでくる。余りも速すぎる。もう目の前だ。


「奪取!」短剣から鎖のような影が右腕に向かって伸びてくる。恐ろしく速く、避けるには少しだけ技量が足りない。


「ぐっ!!」鈍い痛みと共に、腕に力が入らなくなっているのが分かる。機能が奪われたのだろう。そして蓄えてきた力は奴の体に取り込まれている。


「どうだ?アクセル。力の差が分かったか」クルクルと短剣を回しながら奴は俺の事を見下ろす。圧倒的なまでの威圧感に心が折れそうだが、こんなところでへし折れるような心は捨ててきた。


「えぇ。それでも戦わなければいけない時があるので,,,ね!!」地面から餓狼で生み出した槍を突き出す。こんなちゃちな物でダメージを負わせられるとは思っていない。これは次の行動のための布石。


「フンッ!」案の定、一瞬で強奪者はあっさりと槍を霧散させた。


そう。その一瞬。その一瞬が俺の事を勝利に導いてくれる。


「飲み込め!!」~錯綜世界~

霧散した餓狼の力と幻術を組み合わせ強奪者を偽物の世界に叩き落とす。


「っつ!!」焦りと戸惑いの表情を見せながら奴は深淵に姿を消した。


幻術と餓狼の組み合わせ。テトリアがこれなら上位者にも通用すると教えてくれた秘伝の技。発動まで時間はかかるし、下準備も必要だ。文字通り命がけでやらなくてはいけない。それでもやるだけの価値はある。確実に一分間は動きを止めることができる。


「次は効かないでしょうね」錯綜世界に落とせたのは奇跡に近い。条件として餓狼を対象の周囲に散らすこと、幻術をばれないように発動させること。それらを十秒以内に完遂させること。あいつが奪うことだけに意識を割いてくれて助かった。


「それよりも殺すために準備をしなければ。大神召喚」~ファンド~


「かぱかぱ~」俺の呼びかけに応じて箱型の神様が姿を現した。長い間共に過ごしてきてようやく別の使い方ができる。


「ファンド、今まで俺が預けてきた力を返してくれ」


「かぱかぱ~~」笑うように口を開け閉めすると、中身が光り輝き、拳ほどの玉が浮き出た。


「ありがとうございます。これで戦えます」玉を受け取りすぐに砕く。これは俺が今の今までファンドに預けてきた力。無茶な使い方をすれば即、牙を剥く危険な代物。


「出て来い」~狼現門~

地面に手を当て、門を召喚する。ファンドから返してもらった力の三割はこの門に注ぐことになる。狼現門は使用者の練度や力によって出てくる狼の強さが変わる。今回は無理やり力を跳ね上げ、上質な奴が現れるようにする。


「もうすぐ出てくるはず」最速で準備をしていたはずだが、深淵が悲鳴を上げている。あと数十秒もしない内に激昂した強奪者が戻ってくる。


「その前に最後の仕上げを」胸の中から一枚の札を取り出す。かつて八咫烏を呼びだした時と同じもの。上手く召喚できるのか、力を貸してくれるのか分からないができなければ負ける。


「大神召喚!!」札に全身全霊で力を注ぎ込む。と同時に周囲に豪雪が降り始める。生きる者全てを凍らし、薙ぎ払うような強い吹雪。息をするのも辛くなる程だ。


「お前のその覚悟,,,,,,,果たして本物か?」かろうじて見える視界の奥に揺れる影が見える。


「あぁ。だから力を貸してください」能力で餓狼の成長を加速させていく。このやり方は寿命を大幅に削る。それでもこの後の世界を創るためには仕方のないことだ。


「ほう,,,なら力を見せてみろ」吹雪の中から大きな弓と剣を握った___青年が現れた。それは神界に居たときに世話になった熊の神、カムイによく似た風体をしていて,,,というか本人だ。


「カムイ,,,お前は普通に呼べるんじゃないのか?」


「ん?あぁ、無理だな。あの札は俺をこうやって呼べた後に効力を発揮するからな」時間を空けて明かされた事実に頭が痛くなった。だから何度呼んでも現れなかったのか。


「しかし、よく俺を呼べたな。余程力を付けたようだ」


「そうなのでしょうか?」


「あぁ。内側から力が漲っているのが分かるぞ。それに,,,」


「長い話は後にしてくれませんか?僕は神の力を借りたくて召喚したので」話が長くなりそうだったので強引に終わらす。このまま話していれば何もしていないまま強奪者が戻ってくる。


「すまないな。久しぶりに会えて嬉しくてよ,,,で俺は何をすれば良い?」


「上位者を殺す手伝いをして欲しいのです」


「分かった。後方から支援してやるよ。ここぞって時に特大のをかましてやる。とどめはお前がやれ」カムイはそう言うと景色に溶け込むように姿をくらました。恐らく背中に担いでいた大弓で手助けをしてくれるのだろう。


「アクセル,,,!殺してやるぞ!!」深淵から怒号が響き渡る。十秒後には怒りに身を任せた怪物が襲い掛かってくる。


「僕は死にたくないので抵抗しますよ。八咫烏!!」相棒の名を呼ぶと吹雪が止み、空に掛かっていた雲が晴れ、太陽から一羽の烏が目の前に舞い降りた。


「我を呼んだということは上位者戦か」


「えぇ。その能力で勝利に導いてください」


「任せろ。それに神が三柱いる。負ける道理はない」不敵に笑い、煌めく翼を周囲に散らばした。赤い線が道を案内するように四方に放たれた。


「雑談は終わったか?クソ野郎!!」深淵の方に目を向けると怒りに打ち震える強奪者の姿が見えた。


「はい。十分です」勝利まで算段は十分。後は事通りに進めば,,,


「なら死ね!全てを奪ってやる!!」


風を切る音が聞こえた気がした。


「ああぁああ!!」左腕が熱い。いや肩が熱い。そして肩から先の感覚が無い。


「遅い」


視界がぐらついた。


「ああああああ!!がああぁああ!!」地面に倒れ込む。左足に力が入らない。いや、また感覚が無い。


「分かったか。これが俺とお前の実力差だ」奴はそう笑い、倒れ込んだ俺の目の前に二つの___塊を投げた。


「これは,,,僕の,,,」思考が目の前の現実を否定している。


「分からないか?腕と足だ。この調子で奪ってやる」


瞬きをするよりも早く、視界の中で何かが動き、消えた。そして何が起こったのか。そう知覚できたのは瞬きを終えてからだった。


「抵抗者もよくこんな雑魚を引き入れたな」欠伸をしながらまた奴は俺の目の前に塊を放り投げた。


「___!!!!」叫ぼうにも声が出てこない。恐らく声帯が奪われている。


「まぁ、努力賞だ。来世に期待しとけ」どこか見覚えのある短剣が俺の肩を突き刺した。


「___!!!」声を出したくても、助けを呼びたくても空気が出るだけだ。あの時と同じで、目の前で失うのを見ていることしかできない。何も変わっていない。


「しぶといな」乱雑に強奪者は短剣を体中に突き刺していく。悪寒と生暖かさが全身を包み込んでいく。死が近い,,,抵抗することができない。俺の仲間の神は何処に行ったんだ?


「これで終わりだ」やはり見覚えのある短剣を逆手に持ち、俺の心臓を貫いた。

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