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ブレイクソード  作者: 遊者
世界戦
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第九十一話 世界戦 1

~ブレイク視点~

「冷えるな」白い息を口から吐きながら空を見上げる。頭の上からは雪が優しく降っていて、肌に当たると冷たいと思う前に溶けて無くなっていく。


今この大陸は本格的な冬を迎え、今までに溜めた貯蓄を少しづつ使いながら春が来るのを待っている。だが、そんな風に生きていれば当然苦しくなるのは明白だ。だから国の騎士や兵団が町を歩き回り物資を届けている。


「物資を届けに来ました」一軒家を戸を叩き扉が開くのを待つ。厳冬の中外を出歩く馬鹿なんてそうそういない。


「その声はジャガーかえ?」ゆっくりと扉を開いたのは皺だらけの老婆だった。


「あぁ。それよりも開きすぎると中が冷えるぞ」魔法空間から取り出した食料や衣類、後は少しばかりの金を手渡していく。


「そうさね。冬はまだ始まったばかりだからね」重たい荷物も意に介さないように中に放り投げていく姿を見ていると、老婆ではなく快活な女性と言った方が良い気がしてきた。


「雪が積もった時にまた来ます」全ての物資を渡し終えた俺は頭を下げて次の家に向かう。そう、冬はまだ始まったばかりだ。道の上にはまだ雪が無い。本格的な時期になれば腰ほどまで積もることになる。


魔法で溶かす試みが過去に何度かあった様だが全て無駄だったということを聞いた。雪神やら冬神の影響で象徴するものを消すのは不可能だということだ。


「さて、次の家は,,,」メモを見ながら家から家へ、通りから通りを歩き必要としている人に必要な物を渡していく。笑顔で受け取る人、少しだけ悪態をつく人、黙ったままの人。誰もが心の奥底で感謝の気持ちを持っている。


「疲れた」依頼されていた家全てに荷物を届け終えた俺は王国の中でも一際高い塔の上で空を見上げていた。少しだけ強くなった雪が俺の頭を白く染め上げる。炎魔法で体を覆っているから寒さはあまり感じない。


「アクセルは元気にしてっかな」コーヒーを飲みながら町を見下ろす。約束の時間が来てドラゴ・ケープまでスクロールで飛んだがそこには居なかった。何の手掛かりも無い状態では探すことなんてできやしない。


出来た事はギルドに張り紙を張ってもらうことくらいだ。ベータがいれば話は早かったかもしれないが交差点で分かれてしまった。


「今日は一段と寒い」風に吹かれめくれ上がったフードを被り直し、冷たい空気が入らないように胸元まで服を引き上げる。外側は常に温かいが、内側はどうにもできない。内部が凍傷で死にましたなんて笑えない。


え?お前らは笑えるのか?さいてー。


「帰るか」今は日が暮れてからそこまで時間が経っていない。街灯もまだついているし、家の窓からは暖かな火の光が零れている。足元が照らされているうちに帰らないと転んでしまう。


凍っている石の階段を手すりを掴みながらゆっくり下りて行く。外側に設置されているせいで風は強烈に当たるし、雨や雪ももろに掛かる。でもそれが気にならない位世界が綺麗に見える。


「もう帰るのか?」階段を下りていると前からフードを深く被った男が話しかけてきた。顔も見えない、武器も見えない、服装は破れた衣に黒い鎧。不気味な雰囲気を纏っている。


「,,,」俺は黙ったままそいつの横を通り過ぎる。怪しい人間だし、凍てつく寒さの中で歩く奴なんて頭のねじが外れている。俺みたいに働いているなら分かるが王国に仕えている証である紋章が見えない。関わらないのが賢明な判断だ。


「無視か?まぁそうだろうな。お前は、は俺の事をし、し知らないからな」声に少しだけノイズが走る。嫌な予感がする。調停者か他の軸か。


「誰だお前は?」魔法空間から無銘を取り出し蒼で身を強化する。魔王と出会った時から半年の時間が過ぎ、力が付いた。誰が来ても惨敗は避けられるだろう。


「誰だって酷いな。アクセルさ」深く被ったフードを引き上げて顔を見せてきた。しかし俺が知っている見た目とは全く違った。金色の短髪に炎が燃え滾るような鮮明な深紅の目。頬には獣が付けたと思われる三本の爪の跡が荒々しく残っている。


腰には紫の刀身の短剣と黒い短剣をぶら下げ、周囲には黒の靄が常に纏わりついている。霧の中に光る双眸の群れが俺の事を見定めるように睨みを利かせている。


「まぁこの世界のアクセルとは違うが」


「他の軸から来たってことか?」どこまで本当の事か分からないが前に助けてもらった恩がある。話はしっかり聞こう。


「察しが良いな。俺はナイトメア軸から来た」彼が少しだけ笑うとこちらを見つめていて鋭い視線は無くなっていた。感情と連動しているんのだろうか。


「ナイトメア,,,どんな軸なんだ?」


「名前の通り悪夢みたいな世界だ。死体が歩き回り世界は瘴気と悪意に満ちている。ブランも、お前も、その仲間も全員上位者に殺された」手を少しだけ震わせながら俺の質問に答えてくれる。


「対抗するために神具と呼ばれる武器を手に入れ世界を壊した上位者全てを破壊した」腰に下げていた短剣の一つ。紫の方を逆手に持ち空を切るように振った。


その瞬間、空は黒く染まり煌めく流星が空を燃やし始めていた。先程までは穏やかな雲の流れに優しい雪が降り落ちていたというのに。


「今はナイトメア軸も落ち着いた。だから別の軸の手助けってところだ」もう片方の黒い刀身の短剣を振ると壁から異形の魔物が這い出てきた。


影から姿を現したそれは融解しては結合を繰り返す、一定の姿を持たない霧のような存在だった。その中でも消えずに残る黒く渦巻いた角が魔界からきた悪魔であることを証明している。


「質問いいか?神具ってなんだ?あと上位者って誰の事だ?」悪魔に目が行きそうになるのを抑え、重要そうな部分を質問する。


「神具は上位者と管理者に対して有効な武器の事だ。作成方法は分からない。世界中に散らばっているからな。上位者は管理者の部下だ。命令に対して忠実に動く犬みたいな存在だよ」出てきた悪魔を撫でながらアクセルは笑った。


「成る程。それでこの軸で息巻いている奴らを殺しに来たんだな」


「半分正解だ」口角を上げながらナイトメアは笑った。


「じゃあ他の目的なんだ?」


「異世界から来て暴れる人間。そいつらを始末することだ。上位者殺しはそのついでだ」両手に握り締めた短剣を数回振ると世界は元に戻り、悪魔も溶けて地面に落下し消えていった。


「転生とは違うのか?」王国に置いてある文献の中に別世界から魂が転生しやってくることがあるというのを目にした。だが、力を失い保護しなければ生きていけないということも書いてあった。アクセルが言う暴れるほどの力は無い筈だ。


「全くの別物だ。転生じゃなくて渡ってきている。魂を大きく損傷しているが補填する様に管理者どもがスキルや能力を授けている」


「しかしなぜ殺さなきゃいけないんだ?」今の俺達がやらなくてはいけないことは,,,って俺達って言い方は違うか。魔王たちがやるべきことは管理者を殺すこと。俺は調停者を殺すことと、罪を償い続けること。相互関係があまりないように思える。


「世界の崩壊。これだけで分かるだろ?」少しだけ、悲しそうな顔をして彼は空を見上げた。


「そう言うことか」異世界から来た奴らはこの世界のことを知らずに強いスキルを貰い暴れている。今は脅威が少ないかもしれないがどうなるか分からない。芽は早く摘んでおきたいということだろう。


「言いたいことは言えたし、俺は別の世界に行く。行くぞマーナ」ナイトメアは言いたいことが言えたのか、霧の中から銀の体毛を纏った狼を呼び出した。


「何かあったら呼べよ。ま、お前なら心配いらないな」狼に跨ると同時に手に魔力を溜め始めた。黄金に光る魔方陣に迸る魔力の流れ。極級魔法だ。しかし流れ方がおかしい。変に絞られているのか、乱気流の様に不規則に渦巻き天に昇っている。


「おま,,,!!」制止するために声を上げたが遅かった。魔力の暴走が始まり周囲の建物を飲み込みながら膨張し、白い光を四方八方に発している。


「止められない,,,」研鑽してきた魔力操作でどうにかしようと試みるが何重にも発動されているせいでどうにもすることができない。そしてこうやって行動している間にも光が強まり、魔力は巨大になっていく。


「ベータのおかげだな」視界が全て染まる前にアクセルの声が聞こえた。


「眩しっ!!」強い光を避けるために目を閉じると同時に激しい轟音が国を包み込んだ。


「っ!,,,町は大丈夫か?」痛いほどの耳鳴りと視界にちらつく光の残像に耐えながら辺りを確認する。これほどの強い魔法であれば辺り一帯が半壊、いや全壊しているかもしれない。どちらにせよ被害は甚大だ。


「どうなってんだ?」しかし目に入ってきたのは何一つとして変わらない町並みだった。魔法が使われた形跡も無ければ、轟音が鳴り響いた様子もない。現に寝ている人々は野次馬の様に外に出ていないし、吸い込まれた建物も無い。


不都合と矛盾を無くすために世界全体の時間が巻き戻ったような感じだ。


「損害が無ければいいか」大きな欠伸をしながら再び階段を下りて行く。住民たちが心地よく過ごせるのなら先程の光景は俺の幻覚だと言い聞かせることができる。


「流石に眠いな」アイツと話しているうちにすっかりと暗くなった。街灯は点いていないし、どこの家も寝息を立てている。


「神具と上位者の事、もう少し聞けばよかったな」話を聞くだけじゃ推測することしかできない。具体的な上位者の名前とか、能力とか聞けば対策できるんだが。


神具はよく分からないが、ナイトメアが腰にぶら下げていた短剣がそうなのだろう。人知を超えた事象を振るだけで起こすことができる。この世界を作った奴の部下を殺すにはそのくらいの威力が必要になるはずだ。


「ブランにも話してみて意見を貰うか」この王国で心の底から信用できるのは彼女しかいない。別の軸の存在も知っているし、禁断の魔法も使うことができる。頓珍漢な事を言っても理解してくれるだろう。


「プロティスやレンにも話したいが気が狂ってると言われそうだ」俺の事を馬鹿にする二人の顔が思い浮かぶ。日頃の行いが悪いからか心配するような素振りは一切見せないだろう。真面目にやってるんだけど報われることは無い。


「こういう相談はアクセルにベータ、アミスにクロがいれば心強いんだが,,,」全員頭が良く他の軸の事も知っている。戦闘力も高いし頭も良い。何かに長けているところも抜け目がない。


「ブランと仲良く解決するか」折角一緒に過ごしているというのに別の奴と話していたら嫉妬されるだろう。可愛くてたまらない彼女と一緒に神具と上位者の謎を暴く。今の俺がやるべきことだ。

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