第八十九話
体が痛い。視界も暗く何も見えない。額から流れ落ちるものが何かも分からない。血なのか、それとも別のものなのか。視覚からでしか情報を得てこなかった私には到底想像することもできない。
脚を前に進めているつもりだが、歩いているのかどうかも怪しい。視認しなければ私は動けない。それが管理者の役回り。設定した、された以上のアクションは出来ない。
「無様な姿だね?だね?管理者である君が地面を舐めてる?
面白、面白い。でもそれじゃ、世界は動かない、無いね?
僕の目的のためにも、
にも、為に、治して?元通り」
どこか聞きなじみのある声が聞こえる。が、視認していないから分からない。声なのかどうかも分からない。盲目の中で生まれた虚像、偶像、もしくは幻覚、幻聴の類なのかもしれない。
「動きなヨ?世界は望んでる。少なくとも、終わりが来るまでは、ははは。
その後 は 知らない。 消えるかも 壊れるかも どっちでも イイヨね?
見捨てた以上は 文句は 言えない??」
どれだけ思考を落ち着かせても幻聴は止まらない。この声は実像である可能性が高い。だが私は視認、観測できなければ意味がない。全ては無駄、水泡に帰す。
「君は、君は、世界を進めるための、鍵。鍵。 こんなところで詰まるのは、詰まるのは、駄目、駄目。 どうやら、どうやら??目がイカレ、イカレテル??
はぁ、はぁ、ヘルの奴、計画を 左から 右に 流しているナ?ナ?
変革 が終わるまでは 君は死なない 殺せない 無い?
ほら、ほら、目が見える?ル?僕はここで
BYEBYE~~」
声が遠のくと共に私の片割れともいえる視界が戻ってきた。これでまた世界を見れる。事象を見れる。声は出せないがこれでいい。私は世界を構築するために要素に過ぎない。
さて、また世界を俯瞰し、観測しよう。流れる時の中に入り込もう。そうしなければ君たちはこの世界を見れないから___
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「また世界が壊れ始めたか」目の前に浮いている水晶玉が映し出す映像を見る。前までは鮮明に見えていたのだが、今はノイズばかりが走っていて、詳細が分から無くなっている。
「今まで見て見ぬふりをしたツケが回ってきたな」俺達は少しの出来心でこの世界を生み出した人物を追放し、何が正しいのか分からないまま運営をした。
反感と不満ばかりが溜まった国で何が起こるかは分かるだろう?あの時の俺達は知らなかった。今はしっかりと、痛いくらいに分かる。反乱と革命。現状を変化させるために動く。
「だが、無抵抗のまま死ぬわけにはいかない」俺達は少しの信念と想いを託しながら世界を作っていた。思い入れはある。好き勝手やらせて壊される筋合いはない。
「管理者としての威厳を保たせてもらう」両手に魔力を掻き集める。広く認知された概念、事象は書き変えることは出来ないが、それ以外の事は変えることができる。
最も、力を付けては蠅のように飛び回る抵抗者は気が付いているようだが。だが、そんなことは関係ない。敵意には敵意を。好意には好意を。向こうも相応の覚悟を持って挑んできているのだろう。こちらも覚悟を持って相対しなければ無礼だ。
「世界の天秤を傾けるのは、人か、魔族か、神か。それを証明しよう」魔力を開放し、アップデートを行う。簡単な物から複雑なものまで。途中でバグ、エラーが起きるかもしれない。でもそんな些細なことはどうでもいい。
今はただ、俺達の邪魔をする虫を殺せばいい。過程で失敗した事は遥か過去の話。いつまでも過去に縛られているようでは成長は無い。それを教えてくれた創造神に感謝を。そして怒りと憎悪を。
「終わりは確実に迫っている」手直しを加えた世界は相も変わらずノイズばかりが走っている。抵抗者が気が付き、変更を無かったことにしているのだろう。焦りが見える。早く終わらせたいという愚直なものが。
この程度で慌てふためくのなら___必要は無い。
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「ダストは変な動きをしていないな」一つの軸を注視し、それ以上の分岐が無いかを確認する。管理者は楽観視しているようだが、敵が増えるのは厄介だ。割かなければいけない戦力に、練り直さなければいけない作戦。
増援を止めるためにも監視する人物が必要だ。想定外の動きがあれば縛りを付ける。LIBやバッド、ダストに科したように。
「ジェノサイド軸はどうだ?」今俺が危険視しているのはこの軸だ。目につく物全てを虐殺するこの軸は恨み辛みを蓄積させる。そして溜まったものは他の世界にまで悪影響を及ぼす。
早急に破壊したいが強くなりすぎた。並大抵の攻撃では死ななくなってしまった。総攻撃や全霊で攻撃すれば存在を消すことができるが。その間に抵抗者に乗り込まれる可能性が高い。無防備な状態で攻撃されれば管理者である俺でも危うい。
「落ち着いてるな,,,」覗き込んだ先には手すりに腰を掛け、空を見上げているブレイクが写っていた。少し前までは唾液を地面にまき散らし、落ち着きがなかった。
「何か変化があったのか?」軸が落ち着く要因は複数ある。一つ目は分岐する前の軸に大きな変化が起きた時。戦争、仲間の死。それ以外にも抵抗者に成りあがる。八強に入る。魔界、龍界、神界に進出。要は力を得るイベントが発生した時。
二つ目はその軸の役目を見失った時。バッドは不幸にならなくてはいけない。ダストは荒灰した 世界で生き続けなければいけない。ジェノサイドは殺戮を続けなくてはいけない。
そのことに不満、疑問を持った時、変えるために作戦を練る。恐らくはこのブレイクは何故殺しをしているのか、殺すことに意味があるのか分からなくなっているのだろう。
生まれた軸に意味なんて無いのにな。
「どれだけ変化しても終わりは決まっている」この物語の終わり方は生まれたときから決まっている。死と言う約束が付きまとうように。




