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ブレイクソード  作者: 遊者
魔界
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第八十六話 魔界6

~アミス視点~

クロの友人から放たれた万人を拒む殺気。攻撃をされていなくても、顔を見なくても分かる凶悪さ。渡された紙が手汗でふやけるくらいに緊張が走った。今はその存在がいなくなり、空気がゆるやかに流れている。


「アイツが来たなら仕方ない」


「運がないな。お~い、死体を運ぶのを手伝ってくれ」


「神が人を殺したのは何年ぶりだ?」


「百年単位じゃね?それよりも葬式の準備だ」魔族はこの光景が至極当たり前なのか、簡単に受け入れ、死者を弔う準備をしている。


「嬢ちゃんとそこの兄ちゃんはどうするよ?」未だに硬直して動けない私の前に、右腕が極端に発達した紫の肌の色をした魔族が立っていた。金色の腕章が輝いており、位が高いということが一目でわかる。


それに隣に立っている白衣を着た銀の髪に白い角を持った魔族がメモを取り始めている。恐らくはこの肥大化した腕を持った男の部下だろう。


「神の知り合いの知り合いですので、紙に書かれたことを守れば大丈夫なはずかと」聞かれた男は先程までのやり取りを思い出しながら紙に指さした。


「了解。ってことでちょっとその紙を見せてもらうよ」笑いながら目の前に居た魔族は優しく私の手を開き、握られていた紙を取り出し、内容を読み上げた。


「何々,,,その人間は俺の知人の仲間であり、この世界の客人だ。とはいえ、初めての場所で困惑していることだろう。魔界についての話や歴史について話してくれると助かる。楽をしたいなら城に入れてやれ。あと、そいつらの我儘を多少聞いてやってくれ。傷つけたりしたらこの大陸を消す,,,だとよ。どうする?」右腕が発達した男は隣にいた魔族に聞いた。


「城に入れるしかないでしょう。そうしないとこの町が消えてしまいます。長もそれは望んでいないはず」城の方を向き、白衣の男はそう答えを下した。


「分かった。嬢ちゃんも兄ちゃんもそれでいいか?」


「,,,」声を出したいのに出せない。緊張と弛緩を繰り返しているうちに体がエラーを起こした。少しづつ浅くなる呼吸に速くなり続ける拍動。視界の端から黒ずんでいく。


「あ、あ,,,」まともに声も出せないまま地面に倒れ込む。同時に薄れていく意識。ベータはまだ放心状態でその場に突っ立ている。


「倒れたぞ!」


「医療班を呼んできます。アムストロは城に運んでください」意識が完全に途切れる前に私たちの事を助けようと魔族が動いているのが見えた。


意識が完全に飛んだ私たちが次に目を覚ましたのは、絢爛な装飾がされた屋内だった。柔らかいベッドの上に温かい毛布。久しぶりに感じることができた全身が安らぐ感覚。城の中で間違いない。


「ここは,,,」もうしばらくこの幸せに包まれていたいが、今はベータの安全確認が先だ。この部屋には居ないようだし、他の部屋に居るのだろう。


「起きましたか」扉に手を掛けると、私の方に扉が開いた。突然の出来事に大きくバックステップを取り、ないのに槍を構える動作をした。


「警戒しないでください。私たちは危害を加えるつもりはありませんから」白衣を着た男は無害を証明する様に両手を上に上げた。


「ベータ、どこ?」その素振りに安心した私は、仲間が何処に居るのかを聞く。


「ベータ,,,緑色の髪をした男の人ですか?」


「そう。体、心配」


「ベータさんは隣の部屋で休んでいます。気を失っているので起きるのはもう少し後かと」彼はそう言うと、部屋に置かれていた椅子に座り、一枚の紙と一本のペンを懐から取り出した。


「起きるまでの間、聴取と言う話に付き合ってもらえませんか?上司から頼まれているので」少し困ったように笑う彼は明らかに苦労している人だということが分かる。


「分かった。何、聞きたい?」彼の対面に座る。この方が話しやすいだろう。


「まずは名前と出身を」


「アルテミア・スノウ。生まれは、分からない」私の言った言葉を一言一句間違いが無いように、彼が紙に書き起こしていく。


「経歴は?」


「人界の、帝国で、戦った。今は、忠誠を、誓うのも、やめた」昔の事を思い出すために苦虫を潰すような表情になる。楽しくもない戦いに、強制的な指令。仲間を平気で裏切る内政。うんざりだ。鍵だったラヴィも失った。


「苦労しているようですね」私の不満そうな顔を見た彼は少しだけ申し訳なさそうな顔をした。


「別に」フォローをするわけでもなかったが、自然とそう言葉が出た。私の中で霧がかかっていたものに光が差し込み始めたのだろうか。


「魔界について知っていることは?」


「成り立ち、歴史、大陸、神、魔王、魔法、神具、政治、そのくらい」指を折りながら知っていることを数える。ベータには申し訳ないが、この世界は私も知っている。クロが知っている様に。鍵を取り戻したいから。


今は力も記憶もない。誰かに盗まれたから。真の目的は記憶と力を取り戻すこと。最適解だったのがベータと、抵抗者,,,いや、神であるクロと一緒にいることだった。向こうは少し不審に思っているみたいだけど。


「内容はどこまで?」少し顔を青くしながら白衣の男は深入りしてきた。


「マート、魔界、創造。ヘル、そこまで、悪い、神じゃない。神具は七十二、このくらい」端的に言葉を紡ぐ。しっかり喋りたいけど、力を奪われているからそれも叶わない。本当に鬱陶しい。


「博識な方の様ですね。聞きたいことはもうありません」白衣の男は書く手を止め、懐に紙とペンを戻した。上司から言われたことは全てこなすことができたのだろう。


「じゃあ、今度は、私から」向こうの質問が終わったということはこちらが質問してもいいということだろう。クロに渡された紙の内容も少し覚えている。


「分かりました。聞きたいことは何ですか?」彼は嫌な顔をしないでこちらを向いた。知的な人は嫌いじゃない。


「貴方の、名前」この町の歴史を知ったところで何の価値もない。でも名前だけは聞く価値がある。付けた親の想い、その人の生き方。全てが反映されるものだから。


「あぁ、名乗り忘れていましたね。私の名前はスクバートと言います」彼はそう言って席から立ち、優雅なお辞儀をした。名前からして知的な人物なのだろう。立ち振る舞いからそのことが見て取れる。


「私の隣にいたのはアムストロといい、私と彼が王直属の護衛です。有事の時はこの身を犠牲にして守り抜きます」


「腕、大きい、人?」曖昧な記憶を辿りながら発言する。


「そうです。彼は魔界でも随一の腕力を持っていて、過去に山を消したり、一万の軍隊を一人で蹴散らしたり,,,なんでここに居るのか分からない位豪快な人です」スクバートは紫色の肌をした男の名前といくつかの実績を教えてくれた。


アムストロにスクバート。やはり、名前が付いている魔族は相応の能力を持っているようだ。人間と何も変わらない。


「他に聞きたいことはありますか?」彼はそういってにこりと笑った。


「長に、会いたい」城に来たかった理由は長に会うため。上辺では手腕がどうとか言ったけど、本当は鎧型の神具を貰うため。交渉が進まなかったら諦める。


「長ですか,,,長は今不在なんですよ」頭を掻きながらスクバートは言葉を濁した。この話し方は何か裏がある。


「何故?」紙の効力を信じて深入りする。我儘は少しなら聞いてくれるだろうし、攻撃するようなこともしないだろう。してしまったら文字通りこの大陸が消し飛ぶから。


「,,,」彼は俯き、黙った。本当に隠し通したいことがあるのが分かる。でも引いたら城に来た意味が無くなってしまう。だから追い打ちを仕掛ける。


「黙る、なら、ヘルと、叫ぶ」トリガーの言葉を大きく言えば、クロか、ヘルと呼ばれる死神が来るだろう。そして殺戮の限りを尽くす。それだけは避けたいはずだ。


「長は今、不治の病に侵されているんです。その病魔がどのように広がるのかもわかりません。ただ、見舞いに行った者はみな血の気の引いた顔で出てきて、墓地に歩いて行くんです。そのあとは,,,想像に任せます」彼はそう言うと、カーテンを開け、城の後ろにある墓場に指さした。


数キロ離れていても分かる異様さに鼻を突く異臭。恐らくは自ら命を絶っている。原因は死を伝染させる悪魔『デスデミア』対処法は人界で生み出された神聖魔法。私は使えないからクロを頼る必要がある。


だけど、いきなり言うのは怪しまれる。帰ってくるまでは書庫に籠り、情報を漁ろう。神具とか、管理者とか。ベータは城の探索をするだろうから、呼ばなくてもいいだろう。


「分かった。それなら、書庫に、行かせて」


「では書庫まで案内します」安堵した表情を見せたスクバートは私の手を取り、書庫まで歩いてくれた。時間にして数十分。豪勢な内装に迷宮の様に入り組んだ城の中は直線距離が短くても時間が掛かる。


「何か必要になりましたらこちらの笛を吹いてください」そう言われて手渡されたのは黒い角笛だった。


「ありがとう」礼を言うと彼は影の中に溶け込んだ。影使い、と頭の中をよぎったが今は目の前の本を読むことに集中したい。


「暇、どこまで、潰せる、かな」私は学が無い。理由は記憶の九割が抜け落ちるから。今この瞬間の事を覚えていても翌日には忘れている。残るのは嫌な記憶と大事な事だけ。それ以外は分からない。


脳に刻まれているかもしれないし、無くなっているのかもしれない。


「それより、神具の、詳細、見ないと」神具は魔界で作られた神に抵抗するための手段。正確には上位者と呼ばれる七十二柱に対抗するための武具。


相性が良いものもあれば悪いものもある。相手に応じて適切な物、優秀な人物を抜擢して戦うことが大事だ。クロが着ているのは上位者に対して無類の強さを誇るし、ヘルが使う銃と鎌は犠牲は多いが、確実に仕留めることができる。


「長の、防具、詳細、あるかな」私の目当ては長が着用している耳飾り。詳しい内容は知らないが、主武装は一日一回だけ死ぬことができる。これは肉体だけではなく、魂、意識が崩壊する時も発動する。その場合は時間が十秒遡り、やり直すことができる。手遅れの場合は知らないけど。


「気長に、探そう」目の前には数百を超える本棚が並び、高さは天井に届く程。空いている場所がない程みっちりと詰まった本たちに圧倒されながらも目当ての物を探す。


私が知りたいのは副武装、奥の手、切り札。三日の猶予で見つけられるのかどうか。頭と運の勝負。賽の目に祈りながら書庫を歩く。大まかに見るだけでも丸一日はかかる。それくらい魔界の建物は大きく、人知を超えたものなのだ。管理者が見たくなくなるくらいにね。

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