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ブレイクソード  作者: 遊者
獣世界
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第七十二話 世界を楽しむ

~アクセル視点~

「まだまだ遠いな」吊り橋を歩きながらドラゴニック・ガイアを見る。今俺がいるのは大陸横断吊り橋。気が遠くなるほどの昔。まだ人間とドワーフの仲が良かったころに作られた、大陸を安全に渡れるよう願いが込められた巨大な橋。


全長は数千キロ。途中途中で休憩場が設けられていて、何ヶ月もの時間が掛かることを考慮されている。また結界魔法や、保存魔法が何重にもかけられていて、数百年先でも倒壊しないと見込まれている。


だが、最近は海が荒れていたり、モンスターが活発化していて、橋に侵入してきたという報告も出ている。今のところ俺はそういったアクシデントにあっていないが、時間の問題だろう。さっさと地面に足を付けたいものだ。


「餓狼で駆け抜けたいが人がいるんだよな」金がかからないので沢山の人間がこの経路を利用している。またここを管轄する国がいないというのもメリットだろう。文字通り文字通り誰でも使える。


じゃあなんで安全に使えているのか。それはゴーレムが守っているからなんだよな。機械仕掛けのゴーレムが海中に何十体も居て、以上を探知すればすぐに排除に向かう。


立ち向かえる人間は八強くらいだ。並大抵の人間は攻撃をする前にこの世を去る。速すぎる攻撃に圧倒的な装甲。馬鹿でもこいつらに戦いは挑まない。そのくらい強い。


「おとなしく歩くか」揺れる足場をしっかりと捉えながら歩く。下は荒れる海で、高さは数十メートル。落下すればすぐに藻屑になるだろう。ブレイクがいれば足を震わせて泣いているだろう。


「今日中に渡り切れるかな」身体強化をしているから肉体的な疲れはない。心配なのは精神的に疲弊することだ。精神がやられると動きたくなくなるし、死にたいと思うこともある。旅をするには厄介な病気だ。


仲間がいれば軽減されるだろうが、生憎今の俺には居ない。自分自身との勝負。今日が山場だということ自分でもわかっている。なるべく早くこの橋を渡り、人と接したい。


この橋を渡り始めてから三十回太陽が俺の頭の上を通過した。その間で喋ったのは一回だけ。通行する時の注意事項を聞いた時だけだ。


「気を病む前に何とかしないと」神を召喚しようとしても最近は顔を出してくれない。八咫烏とか、カムイとかなら分かるんだが、ファンドすら出てこない。力が無くなったのだろうか。


「こんな風に考えている時点で病んでいるのかもな」悲観的になるのはブレイク達と別れた時以来だ。あの時は初めてできた気の合う仲間との別れだったから来るものがあった。思い出すだけでも胸が痛くなる。一度思い出すと中々頭から離れてくれない。


「しっかりしろよ、俺。この世界を楽しむんだろ」でも、昔の俺と違うのが一つだけある。神と出逢ってこの世界を楽しむと決めたんだ。あいつらの悲しむ顔はブレイク達が悲しむ顔を次に嫌だからな。


「そうと決まったらやることは一つ」頬を撫でる雫を腕でふき取り前を向く。


「進むしかない」荒れていた海はすっかり穏やかになり、鉛色の空は太陽が飲み込んだ。これだけ美しい世界が俺の事を歓迎してくれている。落ち込んでいる場合じゃない。


「いつだって俺等を動かすのは本能」どこからか懐かしいフレーズと声が聞こえた。そうだ。俺にはエルザがいるんだ。こんなところで止まっていられるかよ。


「今日中に町に辿り着くぞ」決意を固めた俺の足取りは橋を渡る時のどれよりも早かった。


「本当に今日中に渡りきれた,,,」あの後俺は数時間ほどで吊り橋を渡り切った。目の前には息を切らした旅人もいれば、これから渡るであろう元気な旅人もいる。


「お疲れ様でした」受付の人に労いの言葉を貰い、大陸横断吊り橋を後にする。久しぶりの地面だからか、それともずっと揺れる足場にいたせいなのか、少しだけ体が左右に振れる。


「こんな事ならもっと魔法を覚えておくんだったな」回復魔法は船酔いや、精神を病んだ時に使えば、数時間だけ前の状態に戻せる。俺は魔法が苦手だからできないが。


「何はともあれ近場の町に行くか」地図を広げて現在位置と町の場所を確認する。ここから海沿を歩いて数日のところに小さな村がある。餓狼を使えばすぐだろう。


「餓狼発動」全身が黒く包まれていく。前みたいに毛が出るということも無くなったしデメリットも消えた。不安なのはこれからスキルを開拓する時に縛りが増えるのではと言うことくらいだ。


「行くか」脚に力を溜め、空中に飛び出す。一気に景色が変わる。下は緑に覆われ、上は青と白色が広がっている。


「ふっ!」体を回し、村がある方向を変える。ここからはスキルを使いながら空中を飛ぶだけだ。ワイバーンを召喚するのも良いが、あれは複数人で移動するとき限定だ。なんたって遅いからな。


「っと、ここが限界か」村が見えたときにスキルが使えなくなった。俺がずっと空中にいないのはスキルのクールタイムがあるからだ。


何回も使うと、次に使える時間が長くなり、最終的には地面を歩かないといけなくなる。大陸横断吊り橋を使う理由これだ。海に落ちて死んだなんてあの世に行っても言えない。


「日没までには間に合うよな」少し遅めに走りながら計算する。最近の俺は体力が減った。餓狼を頼りにしていたこともあるし、精神的にも辛かった。明日から,,,いや今日から少しだけ頑張ろう。あいつらに会う時に胸を張っていられるように。


舗装された道を走っていく。空には茜色に染まった入道雲が堂々と風に乗って動いている。鳥も夜が来ることを知っているのか集団で飛んで巣に帰っている。


「綺麗だ」夕焼けに照らされる雄大な海は美しく、懐かしい。丁度巨大な岩の隙間に太陽が被さっていて、大きな目のように見える。


地面に座ってナギサたちと約束した世界を楽しむ。涼しくなってきたからなのか虫が鳴き始めている。俺はいまいち良さが分からないが、神界の奴らは皆心地よいと言っていた。


「感受性が低いな」そんなことを思いながら潮風を浴びる。橋の上で散々喰らってきたが、こっちの方が穏やかだ。


「っとこんなことをしている場合じゃない」のんびりするのも良いが、今は村に行って人間らしい生活を取り戻さないとな。浄化魔法で体が綺麗になるとはいえ温水で体を流したいし、髪も整えたい。


「でももう遅いか」空はいつの間にか暗くなっていた。ぼーっとし過ぎたみたいだ。仕方ないから今日はキャンプするしかない。


「面倒だな。今日は適当に終わらすか」魔法空間からキャンプに必要なものを最低限取り出す。テントにランタンくらいだ。食料は干し肉があるし、乾燥させたパンもある。飲み水は自分が作り出した不味い水を飲むしかないが。


「疲れたな」テントの中に入って飯の支度をする。準備と言っても食べやすい位置に置くだけなんだが。


「いただきます」パンで肉を挟み口の中に放り込む。そしてそれを水で流し込む。


「相変わらず美味しくない」乾燥したパンに塩味が濃すぎる干し肉。そして同じ魔法なのか疑いたくなるようなあり得ない位に不味い水。でも幸せを感じることができる。


そんな時間を過ごしていると外から音が聞こえた。感じからして人間の物で間違いがないが、音が少しおかしい。人間にしては重すぎるし、かといって魔獣にしては軽い音だ。索敵スキルも人間と教えてくれるが納得がいかない。


「誰かいるのか?」短剣を構えながらテントの外に出る。夜目が効いているとはいえ周囲が見ずらい。見えて向こう数十メートル。それ以外は闇に溶け込むように暗くなっている。


ガサガサッ!!奥の茂みから大きな音が聞こえると同時に何かが俺の体に衝突した。


「ぐっ!!」強い衝撃を受けた俺は少しだけ後方に飛ばされた。警戒しないで立っていたら簡単に吹き飛ばされていただろう。そして俺がいたところに小さな,,,獣人が転がっていた。


「いったああぁぁ!!」叫びながら地面を転がっていく彼?はとても痛そうに頭を抑えていた。


見た目は犬のような耳に凛々しい目。二足歩行になれば身長は百六十センチくらいはあるだろう。革の鎧に皮のズボン。手足を守るように生えている毛は柔らかそうだ。


「大丈夫ですか?」駆け寄りながら体を確認する。


「ってすみません!!」獣人は俺の存在に気が付くと頭を下げてきた。


「気にしなくていいですよ。それよりも怪我はありませんか?」見た目は大丈夫そうだが、内部を怪我していたら後々大変なことになる。回復魔法は使えないが、ハイポーションはある。それを使えばいいだろう。


「平気です!それよりも貴方の身体の方が,,,」申し訳なさそうに俺の体を見てきた。あのくらいの衝撃なら痛いくらいで済む。


「僕も平気です。それよりも何故あそこまでの速度を出していたんですか?」俺に気が付かない程の速さで走るには相応の理由があるのだろう。


「そのことなんですが,,,その,,,」


「怒らないので言ってください」


「モンスターから逃げてきて,,,それがもう来てるんです!」獣人はそう言うと四足歩行になり、茂みの方向を向いた。


「そういうことですか。僕も戦わせてもらいます」短剣を持ち、彼の横に立つ。命からがら逃げてきた奴を見殺しにするなんて俺にはできない。法を犯しているわけでもないし。ていうか俺はこの大陸の法は知らないから何もできないんだけど。


「怪我では済みませんよ?」牙を剥き出しにしながら彼はそう呟いた。


「構いません」目の前の茂みが大きく揺れ始めている。もうここまで来たら逃げても遅いだろう。一緒に戦って時間を稼いだ方がいい。


「があぁぁあああああああ!!!!!!」周囲を凍らせながら『それ』は現れた。全長は数十メートル。鰐の体には四つの足に二対の翼。獅子のような顔には無数の傷が付いている。尻尾があるべきところには蛇が三匹ついている。そして空気を凍らす棘が全身に生えていた。


キマイラ,,,厄介なのを連れてきたな。それに属性を持つ特殊な個体。もしかしたら二つ名が付いているかもしれない。神界からこの世界に来てからの初めてのでかい戦い。滾るな。


「来ますよ!」


「了解!」餓狼を纏うと同時に戦いが始まった。

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