第六十五話 見限り
~ブラン視点~
「やっとマギア魔法大学校の入試ね」ここまで来るのに時間が掛かった。恐らく約束の時間までは短い。最短で卒業しなくては。幸いだったのは前に来たときに店主が手続きをしてくれて尚且つ継続してくれていたことだ。
彼には本当に頭が上がらない。だから魔法空間にある価値のありそうな物の殆どを譲渡した。数年は豪遊して暮らせるくらいの金額だ。
「次の受験生!さっさと準備をしないか!」体をほぐしていると前方から罵声が飛んできた。周りを見渡すと、列ができていて、各々が教員の前で魔法を撃ちだしていた。
この大学校に入学するためにはいくつかの試験を通して合格を貰わないといけない。今回は魔法の実演らしい。
「お前は落ちに来たのか!?」禿頭のいかにもな教員が詰め寄って杖で頭をぐりぐりとしてきた。これだから学校も嫌いだし、地位が上の人間も嫌いなのよ。
「いいえ。あの的に当てればいいですよね?」砂場の上にちょこんと置かれている的を指す。直径三十センチ。距離はおよそ百メートル。打ち抜くのは至難の業だ。皆は範囲魔法で破壊をしている。
「そうだ!もっとも杖のない貧相なお前にはできないだろうがな!」瞬間にどっと笑いが起こる。この世界の魔法はよっぽどの才能が無い限り超級まで会得することができる。しかしそれは杖があるという前提条件がある。
杖は魔力の操作性を高めてくれるもので、そっちの世界で言う機械?というモノに似ている。少ない力で大きな力を出したり、適当にやっても狙ったところに飛んでくれたり。
メリットも多いけれど当然デメリットもある。杖に依存してる人間は杖が無いと魔法が使えなかったり、不安定になったりする。魔法使いの一族に生まれた人間は杖の無い生活を送り、力を付けてから杖を持つ。そのくらい杖は便利なのだ。
「魔法の種類は?」
「なんでもいい!お前にはできないからな!」また笑いが起こった。いまこの場で笑っていないのは私だけだ。
「なんでもいいんだ。じゃあ,,,オリジナル魔法でも良い?」私の発言でまた笑いが起こった。それもそうだ。杖も無い、みすぼらしい服装の女に何ができるのかって話だ。答えは簡単。世界を変えることができる。
「やれるもんならやってみろよ。腹が痛い」
「言ったわね?責任取ってよ。ハステア・ピリオド」黒と翡翠色の風が手の平の一点に集まり、甲高い音を上げていた。金属同士が超高速で擦り付けられるような不快な音。教員が顔を青ざめさせて駆け寄ってくるがもう遅い。
「バースト」リリースの合図を送り、魔法を射出する。刹那直線状にあるもの全てを抉る、もしくは吹き飛ばし、校舎にまで穴を空けていた。
対象が居ない時はこうやって自分で空間を選択して撃ち込まないといけないからめんどくさい。でもこの後、舐められながら卒業するのはもっとめんどくさい。
私はブレイクと旅をする、目標と夢がある。それにお嫁さんだし。こんなところで躓いてなんていられない。
「これで合格ですよね?」膝から崩れ落ちる教員の肩を叩きながら確認する。これで落ちたらこの大学校はさぞ高名な魔法使いをたくさん輩出しているのだろう。それこそ魔神だったり、魔王だったり。
「あ、ああ,,,」項垂れ生返事をするだけの彼の姿は今にも燃え尽きそうな程儚いものだった。まぁ、外見で決めつけてる奴にはいい薬よね?
「あんた、本当に人間か?」合格を貰い、帰ろうとしていると目の前に生徒三人が立ちはだかった。手には杖が強く握られていて装飾でつけられた魔石は輝いている。金持ちのボンボンね。
「人間よ。才能があるだけの」手に魔力を溜めながら応答を始める。こんなところで死んだらブレイクになんて言えばいいか分からない。
「オリジナルであそこまでの魔法を使う奴は魔族の類だ」ドレッドヘアーの筋肉がある男がそう断言した。
「魔族じゃなわいよ。それに魔法障害も無いし。あと、魔族は魔界から来ている種族でここの魔力の流れと違うからあそこまでの魔法は使えないわ」言われたことを事実でねじ伏せる。
「でたらめなことを言うんじゃねぇ!!」私を魔族と断言した男は青筋を浮かべ、魔法を放った。無詠唱なのは素晴らしいが、せいぜい上級の炎魔法は火の粉を散らすよりも容易い。
「バリア」結界魔法を展開して魔法が体に当たらないようにする。下級の結界魔法だけどそこら辺の物よりも強度の密度も高い。
バリバリ!!魔法同士がぶつかり相殺された音が響く。
「ここの程度も知れるわね」知識の無い生徒に他者を蔑む教員。ここに在籍しても意味が無い。目的の禁断の魔法も別のところから習得すればいい。既存の魔法もオリジナル魔法の前では歯が立たない。もう終わらせてしまおうか。
「そこまで」次の魔法を展開しようとしていると一人の老人が私たちの間に入った。よぼよぼの体とは裏腹に全身に魔力が行き通っている。この中で誰よりも強い。理事長だ。
「君はブランくんだね。魔法の才も知識もある。だがそれを他者を傷つけるために使うのは魔法使いとしてどう思う?」全てを見透かすような黒い眼を見てがっかりする。自分の事を信じてやまない人間だ。
「魔法使いとして一流ですよ。魔法は人間が戦争のために改良したものなのですから」この話はバッド軸の私から聞いた。エルフから魔法を剥奪し、殺すために改良を重ねた残酷なものだと。
「君はこの学校に入る資格は無い」私の回答を聞いた老人はそう言い放った。私の回答が気に入らなかったのかしら。
「その気がないから安心して。自分の知らない物を拒む教育場所は私の限界を近づけるので」転移魔法を展開しながら老人を見る。周りにたくさんの人だかりができていた。恐らくはここの教職員達。当分はマギア王国に来れないだろう。来る必要も無いんだけど。
「それじゃ」魔法を適当に展開して近場の平原に転移する。あの空間に長いこと居たからこの世界の大きさがあまり分からない。あそこはどこに行っても同じ風景に同じ匂い。変わらない音に落ちない太陽。気が狂いそうになった。狂わなかったのは他軸の私が来てくれたから。
「ここから近い王国って言ったらブレイクのいるグロリア王国よね。あんな感じに別れたのにすぐに会うのって変な感じがするわ」ブレイクについて行かなかったのはマギア王国で魔法を勉強するためだった。でも私の魔法に追いついていないし、何よりも人が終わっている。
あそこに居れば私の人間性まで腐ってしまう。朱に交われば赤くなる、だっけ?あんたたちがいる世界の言葉は。
「仕方ないけど、行くしか無いわね」風魔法で足を浮かせ、空中を歩く。この方法なら魔法の精度も上がるし、疲労もそこまで溜まらない。欠点があるとすれば筋力が減少することだが、身体強化でいくらでも補える。
「禁断の魔法を覚えたくても代償は厳しいし、オリジナル魔法を鍛えた方がいいかもね」この後の計画を練りながら平原を走り抜ける。バッドは代償を世界にして無限に使えているって聞いたけど今の私にそんなことは出来ない。
「今できる私の最大の魔法はハステアを除いてクリムゾン・ボーンかな」目の前に出てきたレッドサーペントを魔法で燃やし尽くす。この魔法は対象の生命力を燃やす魔法で生き物に対して有効だ。
「研究しないと」威力が出ても範囲を絞れなかったら意味が無い。ハステアも超広範囲攻撃で味方まで巻き込む可能性がある。かといって絞り過ぎると発動しなくなる。塩梅が難しい。これを解消するために大学校に入る予定だったんだけど,,,後悔しても無駄ね。
そもそもこの魔法が無いから入る予定だっただけで、この魔法が使えるならあそこは用なしみたいなところがある。
「はぁ、早くブレイクと会いたいわ」ため息を吐きながら王国に向かう。転移魔法は規模が分からないから使えないし、アクセラレーションも前の出力と違うから使いたくない。虚無の空間に放り込まれると時間も空間も曖昧になるから嫌なのよ。
晴天の下弾丸のように一直線に魔法使いが平原を駆け抜けた。




