第六十四話 禍福
「嘘だろ!?」上空から降り注ぐ鎌を避けながら右腕の回復を図る。このままじゃ死ぬのは確実。かといって反撃しても死ぬのは明白。俺ができるのは一時間このまま生き残ること。アタナシアが言ってることが本当なら俺は変えられるはずだ。
「嘘じゃないよ!?」ゼロの攻撃がブレイクの体に当たった。ゼロの攻撃がブレイクの体に当たった。ゼロの攻撃がブレイクの体に当たった。ゼロの攻撃がブレイクの体に当たった。
「は?」避けたはずの攻撃が俺に当たり、左腕、左下腹部を抉った。世界に干渉したのか?分からない。ただ分かるのは死に王手をかけられたことだ。
「___!!」声にもならない叫び声をあげる。痛すぎる。余りにも。耐えられない。今すぐ体を倒して死んでしまいたい。でも俺にはやり残したことが多すぎる。蒼もそのことを感じているのか、体力を消耗するにも関わらず、迸っている。こいつはどこまでも自分勝手な奴だ。
「ひゃはひゃは!僕は自由で無敵。混沌の中で生きれば?」悶絶している俺のことを見下しながらゼロは笑っている。むかつく、怒りで体が燃える。
「ほらほら!抵抗しなよ?」~混沌団~
ゼロの手から様々な動植物、楽器、人形が飛び出す。そしてそれは明確な敵意と殺意を持って俺に突っ込んでくる。
動物は天から授かった牙、爪を剥き出しにして俺の体に傷をつける。植物はアシストをするように俺の身体の動きを阻害し、楽器はこの空間に盛り上げを付け加えている。
「っ!!」今の俺は何もできない。体の傷を治そうにも集中できない。避けようそしても茨の生えた植物がさらに体に巻き付いて事態を悪化させるだろう。
「呆気ないなぁ」ゼロは手も足も出ない俺を見て退屈そうにしていた。あいつは蒼の充填に気が付いていない。慢心して油断するのは狩る側の運命なのかもな。
「面白くなるぜ?」~黎明~
蒼を爆発させ、範囲五メートルを完全に吹き飛ばす。また勝手に強くなった蒼は俺の想像を軽く超えてくれる。生まれた一瞬の隙を見逃さず回復魔法を唱える。無詠唱だから修復されているか怪しいが、蒼で補えば何とかなるだろう。
後ずさりするサーカス団を押しのけ、魔法空間から大剣を召喚し間合いを詰める。生き残るじゃなくて俺はこの戦いに勝つ。そして知りたいこと全てを知る。
「やっぱり君は蒼の使い手か!?」俺の蒼を見たゼロは嬉しそうに体を跳ねさせて喜びを表している。その余裕そうな顔を一気に白くさせてやる。
「ならこれも使える?」~緋剣~
ゼロは手から緋色の剣を取り出し、ぶん投げてきた。これはジェノサイドの能力,,,でもこいつの方が威力が高い。もしかして,,,
「考えるのはあとだ!!」大剣を横に振り地面に叩き落とす。軌道がぶれた剣は地面に突き刺さり爆発した。
「喰らえ!自由の咆哮!!」体を錐もみ回転させながら技を放つ。どんな態勢からでも撃てるこの技は本当に強い。
「君は蒼で決まりだ!!」蒼に撃たれた道化は体を頭を残し遥か後方に吹き飛んでいった。身体の構造はどうなっているんだ?
「黙れ!」目の前に浮かぶ顔を掴み、蒼を爆発させたいところだが、まだサーカス団が残っている。こいつと一対一で闘うには団員を殺さないといけない。
「感情の奔流!」大剣に蒼を纏わせ薙ぎ払う。暗闇の地面がめくれ上がり、動植物を飲み込んだ。楽器たちは宙を飛んでいて、今の状況に合わせて音楽を奏でていた。喧しいのは大歓迎だ。
「素晴らしい!君は禍福に入れる素質がある!!」だが、この五月蝿い道化だけは別だ。欲しいことだけを話してくれればそれでいい。
「うるせぇなあぁぁ!!」~星砕撃~
魔法空間から蒼を纏わせた大量の大剣を空から降らせる。地面を砕きながら落ちる星屑はまるで彗星。空を覆いつくす剣の群れは星空。
ドオォン!ゴオォオン!!バアァァアンッッ!!爆音と煙が視覚と聴覚に焼き付く。
「君は本当に良い!!世界が ゆるすのなら まだ たたかいたい
でも おあずけだ 世界はこのことを ↑望んでいない!??悔しい?
僕はあんまり!でも君は 禍福に入れる!
彼女にも言っておくよ」攻撃をしていると世界が歪んだ。こいつが目の前に現れたときのように。そして意味の分からない言葉を並べている。
「逃げるなよ」どこからともなく声が聞こえると同時に大剣がゼロの体を貫いた。ゼロの後ろには青の雷を纏った男が立っていて、手には俺よりも大きな獲物が握られていた。
「その声はブレスかい??」口から血を吐きながらゼロは背後にいる男に問いかけた。
「その通りだ」男は端的に答えると大剣を振り上げ頭を貫いた。これで絶命した,,,,,,様に思えた。半分になった体から光線が飛び出し、修復を始めていた。
「でも残念、僕にその攻撃は効かないし正直興ざめだヨ」ゼロの攻撃がブレスを貫いた。ゼロの攻撃がブレスを砕いた。ゼロの攻撃がブレスの存在を砕いた。
「痛い?体は朽ちる。回る世界。笑うは僕。踊るは世界。喜ぶは僕」ゼロはまた意味の通っていない言葉を口にして笑った。
「さてブレイク、君には権利がある」ゼロはボロボロになった服をそのままにして俺に話しかけたきた。
「このまま知らないで生きるか、知って生きるか」舞台では道化を演じるはずの道化の目が覚悟と決意で固まっていた。狂気と正気が混じり合った瞳は混沌としていて、見る者が見れば精神が壊れるだろう。
「知りたければフォーズに聞け。同じ『業』を持つ
もの同士として。 僕はここらでお別れだ
世界が拒んでる。 ゼロと一の狭間で
待っている」彼はそう言うと暗闇に溶け、俺は城に戻っていた。
「その様子はサーカスを見たんだね」アタナシアはあの空間で起きたことを予想しながら俺の体に傷が無いかどうかを確認してくれた。
「それで君には権利があるけど、どうする?」アタナシアの目にもまた覚悟と決意で固められた炎が揺らいでいた。
「聞く。俺にはそれしかない」
「分かった、それじゃ話すよ___」アタナシアの口から紡がれたのはこの世界と禍福についての事だった。
世界を作り出した創造神マート。彼女はこの世界を生み出す時に魔法、運命、能力という三つのことを確立させた。
そしてそれらを上手く動くように管理者と言う神を三柱を自らの体を捧げて作った。初めの内は皆与えられた仕事を全うしていたがある時、魔が差した三人は想像神に楯突いた。
マートは正直な話、世界を作ることも見ることも飽きていたので、自分からこの世界に降り立った。三人の管理者はそのことに歓喜し、思うがままの世界を作って遊んだ。そうして今の世界が出来上がった。
乱雑な魔法に、適当に割り振られる運命。スキルと魔法で意味の無い能力。管理者は頭を抱えたが遅かった。世界はこれを正常だと捉え動いていた。異常だと分かっていたのは上位者と禍福のメンバーのみ。
上位者はそのことを理解し、無視をすることに決めた。自分たちの管轄外だし、何か問題が起きたときは神に擦り付ければいい、という考えだった。
それに対して禍福の創設者であるゼロは世界を正常に戻すために動くことを決めた。その動きに反応を示したのが想像神のマートだった。彼女はゼロと接触し、この世界の構造を教えた。彼がなぜこの世界に異常だと感じたのかはいまだに語られていない。
世界の構造を知ったゼロは世界を取り戻すために魔界、神界、龍界に赴き力のある人物に声をかけていった。大半、いや、九割以上断られて終わった。でも成果が無かったわけではない。人間界からアタナシア、魔界からファスター、神界からツーフェイス、龍界からミライと言う者が賛同した。
アタナシアは勇者として人間界でも名を馳せていて一世を風靡していた。が、この頃には人間に裏切られ魔王に変わった。ファスターは人間界で生まれ魔界で育った異端児。彼の剣術は従来の遥か上を行く神速。人型と言う形態を取っていたのでこの二人は仲が良かった。結婚するくらいに。
人間から神に昇華したツーフェイスは能力の使い方が上手く、戦闘を有利に進めることができた。中でもミライと言う龍との連携は凄まじく、灼熱のブレスの威力を倍にしたり、能力を倍にしたりとやりたい放題だった。
活動がうなぎ上りで管理者まであと一歩だった時に、この集まりに名前を付けようと発言した人間がいた。皆は長考の末『禍福』という名前を付けた。混沌とした不幸塗れの世界でもこんな気の合う仲間と出逢えたという幸運から。
名前を得た禍福の絆はさらに深まり、盛り上がりは最高潮に達した。そして勢いに任せて管理者に戦いを挑んだ。結果は惨敗。全員が能力と運命を剥奪され、下界に堕とされた。
だが、一人だけ封印された人物がいた。それが創設者であるゼロだ。管理者は能力と魔法の使い方、そして運命が複雑に絡まった彼を放置するわけにいかなかった。
禁断の魔法を使い、生み出した能力、魔法を代償にして世界と繋げ封印した。でもそれも長くは続かなかった。名前にワールド、そしてEと付く人間が増えたことにより、世界の均衡が崩れ始めた。それによりゼロは自力で封印を解除。そして集まった能力をばら撒いた。
そのあとの動向は誰も分からない。ゼロの世界で時折姿を現しては消えるというのを繰り返しているというのだけが分かっている。
「今話せるのはこのくらい。もっと知りたかったら禍福に入る事ね」長時間に渡って語られた話は俺の脳みそに焼き付いていた。
「考えておくよ」今の俺に禍福に入るという選択肢はない。今は罪を償うので精一杯だ。
「ブレイク、君には入る資格があるんだよ?」アタナシアは少し悲しそうな顔をした。
「それに,,,,,,いや、君には何を言っても意味がなさそう。でも気が向いたらここに来て。私はここにいるから」何かを言いかけたあと、何か納得したような表情をした。
「分かった」ネックレスを外してアタナシアに返す。そして俺は門がある方に向かって足を出し始める。
「あと、君の能力知りたい?」城を去ろうとした俺をその言葉が引き留めた。
「俺の能力か,,,知りたいが、知らなくてもいい。そんなんで人生が揺れ動くなんてつまらないだろ?それに運命も俺からしたらおまけだ。俺の結果に付随するもんだ」俺の考えを赤裸々に話す。仲間と言われたら話しちまうだろ。
「やっぱり君は面白い」勇者の笑い声と、勇ましくなった者の笑い声が城を包んだ。




