第六十話 真
~トゥルー・ブレイク視点~
「俺の予想よりも遥か遠くに軸がぶれたな」目の前にある千枚鏡を見ながら呟く。この鏡は全ての軸を一気に閲覧することができる時空図書館の優れもの。元は創造神が生み出したものだが、そいつはこの世界を諦め堕天した。
「お前もどう思う、調停者?」椅子をくるりと回し、後ろに立っている男に話しかける。
「どうもこうも無いだろう。僕は僕のために全てを殺す」手に握られた刃物が明らかな殺意を物語っている。小さなダガーのようなものだが、不安定な軸を殺すには十分なものだ。
「へぇ~頑張るんだな。俺が存在している時点でお前の負けが確定しているのに」馬鹿にするよう俺は笑う。俺はこの物語の終着点。ここに他の軸の誰かが辿り着けば世界は終わる。そして誰かが生きている限り俺は存在できる。
「でも君を殺せばどうなる?」顔の横をダガーが掠める。髪の毛がパラパラと地面に落ちて行く。調停者もこの数年で力を付けたようだ。前までは俺に攻撃を命中させることができなかったからな。
「殺せば?空想の話はよせよ」
「空想?お前のそれを現実にしてやる」調停者は亜空間から一振りの剣を取り出した。銘は赫怒。所有者の負の感情を糧に成長する神剣。刀身はどす黒い炎が滾り、周囲が陽炎で揺らいで見える。並大抵の覚悟で来ていないということは分かる。
「だがな、それは本当に無理だぞ」不敵に笑い亜空間から無銘の愛剣を取り出し相対する。この剣は現存する剣の中で一番強い。理由縛りが無いからだ。この世界の剣は強くするために縛りが設けられている。それを突破しない限りは真価は発揮できない。
「その顔が嫌いなんだよ!!」激怒した調停者が俺に神剣を振り下ろす。それは光の速度を超す速さ。つまりは俺の過去に、右肩から左足に向かって真っすぐと一刀、俺の体に傷を入れた。
「っと、過去にまで干渉するようになったか」口から出た血を拭いながら称賛する。正直ここまで来るのは想定外だ。人間の予想は上位者には当てはまらないということが分かった。でも手の平の上でお遊戯ってのも俺の性に合わない。
「でもよ、今の俺を殺さないと意味ないぞ?」過去の俺を殺したところで時空図書館が書き換わるわけでもない。重要なのは『今』を生きる人間をどうするかだ。物語も綴り手が、語り部がいなければそこで終わる。
「だから何だよ?お前が諦めるまで僕はやるさ!」体に無数の傷が一瞬にして付く。この程度の痛み、苦しみ、俺はずっと味わってきた。今更この程度びくともしない。
「諦め、か。とうの昔に捨ててきた」無銘を振り下ろし過去への干渉を防ぐ。赫怒は縛りがあって過去に攻撃するためには相手が無抵抗、もしくは同等の状態じゃないといけない。だからこうやって敵を向ければ過去に攻撃できなくなる。
「スカすんじゃねぇ!!お前はいつもそうだった!上から目線でもの言って!蟻の癖に何ができんだよ!!」赫怒の炎がさらに滾る。人間が想像し得る中で最も悪が凝縮され、それが周囲にばらまかれている。
今まで生きてきた人間たちの記録がされた本が落ち、千枚鏡が砕け散り、天井は吸い込まれ、広く透き通った青空が顔を覗かせている。俺達が望んでいたものはこんなにも身近にあるのに俺達は囚われている。
「世界を変えれる、それだけで十分だ」無銘を振り下ろし、調停者の体を半分にする。神格である以上これ以上追い込むことは出来ないが、ここまでできれば上出来だろう。
「ソレガ僕にとって不都合なんだよ!!」壊したはずの神格が元に戻り、また赫怒を振り下ろしてきた。
「がっ!」突然の攻撃に対応しきれなかった俺は直に攻撃を喰らい、遥か後方に吹き飛ばされ、本棚と一緒に床に自由落下した。
「不味いな」久しぶりに死が見える。血が止め止め無く溢れていく状況を理解したのは心拍数を高め、さらに出血を速めている。
「君がトゥルー?嘘じゃないのか?」怒りが俺の体に突き刺さる。それは大小様々、形も都度違う。ただ同じなのは耐え難い痛みということだ。
「ほら!ほら!抵抗してみろよ!できないだろ!?なぜならお前は格下だからだ!言葉通り住む世界が違うんだよ!!」罵声を浴びながら攻撃を受け続ける。怒涛の隙を突くのは至難の業だ。おとなしく力で倒すか。
「それを***のが抵抗者だろ?」無銘が俺の意志に呼応し蒼く光り天空に撃ちあがる。これはLIB軸がくれた『蒼』と言う失われた能力。空をこよなく愛した人間が発現させた宝物。
「落ちろ」~蒼彗星~
大剣が数舜もしないうちに調停者の体に突き刺さる。これが俺が今できる最大の攻撃。条件は青空であるということだけ。
「がはっ!」
「俺が真のブレイクだ」血だらけの調停者に言い放つ。向こうは悔しさの表情を顔に張り付け微動だにしない。今回も俺の勝ちみたいだな。
「結末をゆっくり楽しもうぜ?」~蒼空之鳥籠~
神格をバラバラにして箱の中に閉じ込める。これでこのモザイクばかりの体は使えなくなった。次に使うのはまた不明瞭な生命体だろう。他軸に干渉してもすぐに気が付くはずだ。
こいつらは下位の生物に興味が無いからな。必然的にあやふやになる。お前らが神の姿を想像するだけで見たことが無いのと同じだ。
「さてと、俺も皆が来るまでバトンを繋ぐか」今までに散っていった俺の意志が背中にのしかかっているのが分かる。やるせなさ、悔しさ、弱さ、怒り、悲哀、いろんな感情が俺に生きろと囁く。
「任せたぞ、俺」千枚鏡を修復し、軸の観測を始める。俺ができることはここまでだ。世界を焼く松明の日を消さないこと、それが俺の役目。真の目的は愚かだが___




