第五十九話 愚者
~フーリッシュ・ベータ視点~
「もう朝か」テントの間から差し込む光で目が覚める。今俺がいるのは人間界の生活が困難な区域。魔境と呼ばれるところだ。なんで俺がここに居るのか。それは人を助けるためだ。
こんな所じゃなくてもいいんだが、他の大陸に比べるとここは帝国、王国からの援助が少ない。理由はこの大陸に来るために数ヶ月は掛かるし、何よりもモンスターが強い。通常のモンスターですら二つ名なのかと勘違いするくらいだ。
「支度をしてモンスターを狩るか」だから俺みたいな強い人間が集まる。そして現地の人は助かるということだ。
「愛用の剣にクロスボウ。回復のポーションはまだ余っているな」自分の体に装備を取りつけながら確認していく。ここでは少しのミスが命取りになる。前に刃毀れした剣で戦って死にかけたことがある。あれはあまり思い出したくない。
「今日は二つ名の依頼が舞い込んでいたからそれを受注するか」勿論この辺境の地にもギルドがある。まぁ、他大陸に比べれば見劣りするようなものだが、交流の場になっているということは間違いないだろう。設備もあらかた整っているし、依頼もしっかり受けることができる。
「行ってきます」テントを出るときにしっかり挨拶する。俺は家を持っていないし宿にも泊まっていない。あんなのは金の無駄だ。自分で完結させた方が楽しいし節約にもなる。
舗装のされていない道を歩き、町を目指す。俺がキャンプ地にしているところは町から少し離れているところだ。理由はいろんなところにアクセスしやすいからだ。狩場、墓地、炭鉱、町の四角形の真ん中に住むということは凄く合理的なことだと思う。
「おはよう」町に着いた俺はギルドに向かい、受付嬢に挨拶をする。
「おはようございます、ベータさん。今日はどのような依頼を受けますか?」定型文のような言葉を聞きながら依頼書を確認していく。俺のやることはただ一つ。町に被害をもたらしているモンスターを倒すこと。
「二つ名の冥剣で頼む。墓地に出現しているんだろ?俺が倒してくる」一枚の紙をサッと取り受付嬢に渡す。どこのギルドも同じでこうやって依頼を受ける必要がある。本当にこのシステムを考えた人間は本当に天才だ。
「気を付けてくださいね。冥剣は魔剣を使いますから」印が押された紙を貰い外に出る。ここまで信頼されているのは俺が強いからだろう。普通ならパーティーで挑むものだからな。
俺の能力は収集と封印、そして鼓舞の三種類だ。収集は自身が望んだものを得ることができる。封印はスキル、魔法、五感を数秒間押し込めることができる。能力は封印できない。鼓舞は仲間と認識した者のスキル、身体に対してバフを与えることができる。
能力を三つ持つものは少ない。理由は運命に左右されるからというのが一つ。もう一つは途中で切り捨てられることが多い。俺の能力を見ればわかるだろうが一つ一つが弱い。平坦に伸ばすくらいならどこかに突出させていた方が強いとされている。
俺がそうしない理由は面倒くさいから。全てを見定めて伸ばすなんて器用なことは出来ない。それに手数は多ければ多いだけ良い。
「それで冥剣はどこにいるんだろうな」綺麗に並べられた墓石を眺めながらモンスターの影を探す。過去の英雄たちを弔う神聖な場所にモンスターが居座るなんて無礼すぎる。
「オマエガツギノアイテカ?」一通り墓地を見渡すと後ろから声が聞こえた。今回の騒動の主が出迎えてくれたようだ。
「お前の相手?英霊を無下にする奴と戦う気はないぞ?」~魔封・剣~
振り向きざまに能力を発動させ魔剣を封印する。見た目はミノタウロス。体色は黒く、闇に紛れ込むには丁度いいだろう。両手には銀と金の大剣が力強く握られている。
「ぶもおぉぉ!?」自身の一番の武器である魔剣が封じられた冥剣は一瞬体を硬直させた。武器に頼っている時点で俺の勝ちは視えていた。
「黙っていろ、獣が」~口縫~
封印で口元を縫い付け言葉が出ないようにする。魔剣の名前を叫び強制的に効果を呼び戻すかもしれない。それを抑えるためにもこの方法が有効だ。
「悔いて死ね」~愚者舞踏~
長剣が墓石と共鳴して赤く光り、目の前の怪物を細切れにする。俺の能力の収集と鼓舞の同時併用で使える奥義。死んだ人間の魂が存在するときこの世に一度だけ顕現させることができる。俺の力を出すにはいい環境だ。
この技のいいところは威力だけではない。成仏ができなかったり、円環の理に入れなくて彷徨っている魂を天に昇らせられる。これでここの英雄たちを本当に安息の場に連れて行ける。
「,,,,,,」獣は最後の咆哮を出すことすら叶わず息絶えた。死を冒涜する生物には相応しい最後だろう。
「ま、こんな事をしている俺も死者を冒涜しているんだろうな」そんなことを口にしながら戦利品である魔石を拾う。二つ名となれば大きさはこぶし大以上。これ一個で一つの町を一ヶ月は運営できるくらいの力がある。
「さて、帰るか」今日の依頼は早く終わった。太陽がまだ俺の頭の上にある。場所が近いこともあるだろうがし環境的なこともあるだろう。それにしても体が重たい。英霊たちを使ったからか?
「待てよ」墓地から出ようとした俺を止めるように後ろから声が聞こえた。ミノタウロスのしては声が流暢すぎるし、防人にしては声が厳格ではない。
「なんだ,,,」重くなり続ける頭を後ろに向ける。そこには俺が何度も見てきた___俺がいた。驚きのあまり声が出ない。
「よう、俺。俺はもう死ぬからこれだけ」一方的に言われ一枚の紙を渡された。と、同時に彼は塵になり、風に運ばれこの世から消えた。
墓地にあるのは不可思議な体験をした愚者と一人の男が綴った生涯のメモ。漠然とした何かが俺の中に残り、立ち尽くすことしかできなかった。




