第五十七話 正義
~ジャスティス・アクセル視点~
「ウィザード軸の俺は頑張っているし、俺も真面目に向き合うか」一撃必殺を撃ち込もうとブレスを溜めている龍に目線を向ける。赤い鱗に空気を掴む大きな翼。地面にしっかりと食い込める凶悪な爪が前後脚に備わってる。
「こいよトカゲ。俺の正義の前に叩き潰してやる」右手にレイピアを、左にダガーを構えて挑発する。人里に降りてくるくらいの龍は俺達の人語を理解している奴が多い。
「がああぁぁ!!」喧しい咆哮と共に口の中にため込んでいたであろう魔法ブレスを俺に向かって吐き出した。なんだ、人語も操れない落ちこぼれか。
「その程度か?」剣に氷属性のエンチャントを付与し正面から斬り伏せる。久しぶりに体を動かせると思っていたが勘違いだったみたいだ。
「次があれば戦う相手を選ぶことだ」空中に躍り出て魔法で体を翻し、龍に向かって突撃する。刹那一瞬の静寂が訪れ、龍は細切れになった。
ヒュンヒュン!剣を振り刀身に付着した血や肉を地面に落とす。
「最近は物騒なモンスターが湧くな」今俺がいるのはグロリア王国の北側。オーバー家で血の繋がりが見られない俺は辺境の地に一人飛ばされた。歳は十三位だったか。そんな前の事なんて覚えていない。今が楽しくて仕方ないからな。
「今一度気を引き締めて警戒する必要があるという旨を王国に連絡しなければ」俺の役職はここの防衛、及び調査だ。北側と言うこともあって寒冷な土地に凶暴なモンスター。そしてそれ相応の資源がある。
「出て来い」~大神召喚・ファンド~
スキルを発動させ神を顕現させる。この箱は力が足りていないと一方通行になるがある基準を超えると好きなところに転移することができる。使用制限も無いしそこらの魔力を使うクソみたいな魔法よりも効率がいい。
「王国まで頼む」口をカパカパさせているファンドを撫でながら目的地を伝える。神の機嫌を損ねたら面倒くさいからな。
「カパ!!」大きく開いた口の中に飛び込む。中の景色は城の入り口になっているから今回も問題ないだろう。
「やっぱこれだな」体全てがファンドの口の中に入ると城の入り口まで転移していた。
「さて玉座の間に行くか」ここから歩きだけだと数十分かかる。貴族たちはこの中を馬や、従者のスキルで移動する。貴族以外は橋の方を申し訳なさそうに歩く必要がある。
俺の移動の仕方は天井に向かって縄状にした餓狼を張り付けて移動する。どっかの蜘蛛男みたいにな。これが結局早いし、端の方を歩かなくていい。貴族にぐちぐち言われても無視すればいいだけだ。
「おいじじい。話がある」両開きの金属で、できた重い扉を蹴り飛ばして豪快に開け、中にいるこの国の長、まぁ、王に話しかける。
「アクセル、お前は何度注意すればやめてくれるのだ?」頭を抱えるじじいの顔にはたくさんの皺が刻まれていて、たくさんの時代を生きてきたということが分かる。
「やめるわけねーだろ」王を守る騎士達が俺のことを止めようと接近してくるが、その上を飛び越す。呆気にとられているのを確認して、スキルを展開する。
「ここからはプライベートだ。少しの間借りてくぜ」~狼界~
俺と王の周り半径五メートル程が、金色と深緑の疾風が吹き荒れ、別空間に誘ってくれる。向こうの俺もこの技が使えるんだったら良いんだが,,,
「それでなんの用だ?」この事態にようやく慣れたのが玉座にどっしりと座り、話を聞く態勢に入った。王女はうるさいから毎回連れてきていない。
「警戒を厳重にするということだ」魔法空間から適当な石を取り出し座る。椅子とかは高いし、勝手に持って行ったら怒られるしで面倒くさい。こういう自然の物が一番早くて座り心地がいい。
「用はそれだけじゃないだろう」
「あぁ。ここらは騎士に聞かれるとまずいからな」
「お前がそこまで言うとはな」
「北の山で災禍と朧を発見した。そして災禍は朧を吸収して数を増やそうとしている。今は俺が阻止しているが突破されるのは時間の問題だろう。王国で精鋭の人間を数人連れて来てくれ。玉座にいる騎士は無しだ。あいつらは自分の地位でしか動けないからな」さっきの騎士たちを馬鹿にするように笑う。
現にあいつらは王という国の最高人物を守るということを出来ていないからな。コネで買った武器に地位。そんなのに頼っている奴に戦場で背中なんか任せられない。
「災禍と朧が同時にな。お前が秘匿したくなる理由が分かる」王は俺の考えが分かったのか府に落ちたような顔をしてくれた。
「期限は今日から数えて三日くらいだな。それ以上は阻止できるか怪しい」これは半分本当で半分嘘だ。三日以上耐えられるが、俺が我慢できない。時間が経てば経つだけ他の軸に遅れを取る。それだけは何としても避けなくてはいけない。
「分かった。随一の腕利きを派遣しよう」
「物分かりが良くて助かるぜ。解除」俺が狼界の崩壊を告げると元居た空間に戻った。
「それじゃ俺はまた予定があるからここら辺で帰らせてもらう」餓狼を身に纏い、日光の中に溶け込む。俺の餓狼は正直者らしくて堂々としていないと気が済まないらしい。溶け込むのはどうだって話なんだがな。
これからの予定はたくさんある。他国への牽制、他軸の干渉。俺が守れなかった相棒を蘇らせるための素材集め。情報屋からの渡される闇ルートの撲滅etc
「まずはベータから情報を貰うか」ブレイクと出会った時に一緒にいた緑の髪をした男だ。その傍には銀の髪の少女と赤い髪のブレイクの愛人がいた。
そのあとはまた馬鹿みたいに旅をしていたが、長くは続かなかった。ある時に迷宮に探索しないかという話が出た。冒険者に憧れていた俺達は要項を見ないで突っ込んだ。
結末は想像通りだ。ブレイク、ブランが迷宮の最奥部で死に、銀の髪の少女は俺達を地上に出すために迷宮のボスに挑んで儚く散った。その惨劇を両の目でしっかりと見ていたベータは今でもその時のことを思い出して嘔吐する。
俺は事の顛末を泣きながら悔しそうに話すベータから聞いて知った。俺は迷宮に入ると同時に転移の罠にはまり、隠し部屋に飛ばされ救出してもらうのを待っていただけだったから。
話が逸れそうだから戻すか。俺の今の目的はこの大陸に蔓延っている奴隷を開放することだ。エルフはワールド・ブレイクの影響で概念は帰ってきたが、権利までは戻ってきていない。人間も捨てられればそこで終わり。一気に人権が無くなる。
「よう、ベータ」グロリア王国のメインストリートの路地裏の最奥、誰も来ないような陰気な場所に彼は根城を立てている。家の大きさは人が一人生活できるような大きさでボロボロ。中身も大量の資料で埋まっていて、歩ける場所が無い。
「アクセルか。なんの用だ?」げっそりとやせ細った顔をこちらに向ける。彼は過去の事を今日起こったことのように思い出す。それを抑えるために薬をたくさん飲み生きながらえている。
「奴隷解放の話についてだ」紙を蹴飛ばして座る場所を確保する。本当に汚い場所だが、病人wお責め立てる様な事、俺にはできない。
「あぁ、その話か。ブレイクとブランの意志のためにも成し遂げないとな」彼はそういって引き出しから数十枚の紙を取り出し、俺に渡してきた。
「全てそれに書き起こしてある。不測の事態が起こったときは悠遠眼を使ってくれ。文字が変わるはずだ。俺は眠たいから寝るよ」彼は糸が切れたように机に突っ伏し寝息を掻き始めた。目の辺りを見るとおおきな隈ができたいた。夜通し作ってくれたのだろう。
「ありがとな」地面に落ちていた毛布をかけ礼を述べる。ベータもベータなりに戦ってくれている。俺もそれに応えなくてはいけない。
「それじゃ、解放作戦開始するか」餓狼を発動させて天に昇る。目的地は幸いここから近い。ファンドを使うまでもない。
手順は、俺と言う存在を認知してもらう。その後に俺が独自で立ち上げた『バルトリア・スターズ』という名の奴隷保護区域があるということを知ってもらう。最後にそこに居住したいという人間を俺と俺の部下、そしてベータが案内するという流れだ。
これまでに何度も練習をしてきた。ベータから確実な資料を貰った必要なのは俺がこれを正義であるということを貫きやり遂げるという覚悟があるかどうかだ。
「見ててくれよブレイク___」




