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ブレイクソード  作者: 遊者
交差点に向かって
48/100

第四十八話 ようやく

あのまま何も起こらないで俺たちはユグドラ・リーフィンに着いた。目の前には巨大すぎる木が生えていた。空をも貫く大木。世界中どこを探してもこの木を越えるモノはないだろう。


世界で一番高い山ですら、この木の真ん中で終わってしまう。ではなぜこの木はこれほどまでに高いのか。それは魔力と龍脈、自然が関係している。葉が空気中の魔力を吸収し、龍脈に流れるエネルギーを根で回収し、栄養が豊富な山脈に根付いたからだ。


町は四つの区間に分けられていて、貴族、商人、国民、奴隷といった感じで高い壁で分けられている。俺達冒険者は商人として扱われる。


「通って良し」門番から通行許可証を貰い、町の中に入る。中はどこもおんなじだな。名物の物を売っていたり、生活に必要な雑貨が売っている。


「やっぱりでかいな」緑の髪を揺らしながらにやりと笑う男が俺の隣にいる。ここまでこれたのはこいつのおかげだ。いなかったらたどり着くまであと数か月はかかっていただろう。


「これが世界樹か,,,」世界でたった一本しか無い貴重な木。それは人間とエルフが対立し、戦争を起こすほどのもの。


「ブレイクの、目的地、到達。でも、もっと、奥」俺達の目的はここに辿り着くことじゃない。ここからブランを蘇らせるために世界樹の内部に入ること。そしてベータの指示を聞いて忘却の墓場に行くことだ。


「あぁ。忘却の墓場まで行かないとな」


「いや、終わりなき交差点だ」ベータが俺の発言を訂正する。あれ、違ったか。ま、出会えるのに変わりないからいいか。


「どうやって行くんだ?」肝心なのはここからだ。世界樹は世界でも重要な場所で、国単位で管理されている。不用意に近づこうものならすぐに処刑対象だ。


「ん?あぁ。それなら大丈夫だ」ベータは魔法空間から何かを取り出した。それは一枚の薄い紙のようなもので、複雑な魔方陣が書かれていた。


「スクロールか?」しかし、世界樹で使えるスクロールなんて世界中どこを探しても無いだろう。なにせ世界樹は天然の魔法結界でもある。エルフ以外が魔法を使うと阻害されるし、ダメージも喰らう。


「いいや。これは隠し通路に入るために必要なもんだ」ベータは笑いながら路地裏の中に入っていった。俺たちはそれについて行く形で一人ずつ中に入っていく。怪しまれないように自然に。


しばらく歩いていると、ベータがあるところで立ち止まった。辺りは暗く、悪臭が漂っている。壁には落書きがされているし、地面には不穏な痕跡がある。正直長いはしたくない。


「ここで間違いないな」ベータがおもむろに壁に先程の紙を張り付けた。すると、重い音を立てながら開き始めた。隠し扉、ね。考えたもんだな。


「なんでこんなことを知っているんだ?」


「情報屋だぞ。馬鹿にすんな」彼は笑いながら、目の前にある階段に足を進める。明かりも無いのによく踏み出せるな。一メートル先なんて真っ暗だぞ。


「そうだったな」足を滑らせないように慎重に足を前に出す。魔法が使えないってのはきつい。スキルで対応していくか。


「ブレイク、暗い」ほら、後ろから文句の声が聞こえる。可愛い少女のためにも光って上げますか。


「はいはい、光りますよ」蒼を一点に集中させて光源の代わりにする。こいつもいろんなことに使えるから便利なんだよな。


「ありがと」後ろから感謝の言葉が聞こえる。手をひらひらさせて、無問題だということを伝える。こういうのは口に出すと恥ずかしい。


「そんなことも口に出せんのか」前の方から辛辣な言葉が飛んできた。俺のガラスのハートが砕けるからやめて!


「うっせ」ベータを蹴って恥ずかしさを紛らわす。なんでこんなに心を読める人間がいるんだ。


「三人はこんな風に旅を?」最後尾にいるクロが聞いてきた。


「ああ」「そうだな」「うん」各々が過去を思い出しながら返事をする。いろんなことがあった。人生の中でも濃い所にはなるんじゃないかって思う位にな。


「正直、羨ましい」クロは寂しそうに呟く。


「そうか?お前も俺達と来ればいいだろ?」


「いいのか?素性も分からない,,,」


「ここにいる奴みんな素性なんて隠してるぞ。気にすんな」何か言おうとしていたクロの言葉に被せるように俺は笑いかける。


実際俺の過去の話だってクロには聞かせていないし、アミスにもベータにも詳しくは話していない。ざっくりとした内容だけだ。


「そうか,,,だからここはこんなにも居心地が良いのだな」クロは何か納得したように笑った。俺達も何故だか分からないが笑顔がこぼれた。そのあとはいつもの様に談笑が始まった。


世界樹についてどのくらい知っているのかの知識マウントに、死後の世界の話だとか、俺の目的とか、背負うものとか、運命とか、能力とか。


他愛のない話ばかりだったが、人間が近づくためには一番効率のいい方法だと思う。現に今俺達の距離は船から降りたときよりも明らかに近くなっている。


話に抑揚が出てきたし、探るような話し方も無い。馬鹿みたいに笑って馬鹿みたいに怒ってを繰り返している。


「そろそろ到着だ」話が一区切りつきそうな所ででベータがこの階段の終わりを教えてくれた。結構長かったな。時間にして一時間以上、降りた段数は数千を超えているだろう。


「やっとか」背中を伸ばして体の関節を鳴らす。こうしないと体が凝り固まっている感じがして嫌なんだよな。


「目の前の扉を開ければゴールか?」目の前には鉄で作られたであろう重厚な両開きの扉があった。周りは塵や埃が積もっているが扉は錆びていない。それどころか金属特有の光沢を放っている。


恐らく魔法で守られている。ここを通るのにはそれなりの力か、許可、もしくは資格が必要だろう。


「そうだ。ブレイク開けれるか?」コンコンと扉を叩いて聞いてきた。なるほど。俺の力の見せどころってことですか。伊達に大剣をぶん回して無いからな。こんな扉軽く開けてやりますよ。


「任せろ」両手を扉に押し当て力を入れる。が、何も起こらない。中々に重たいな。足に力を入れて全身で押す様にする。


「うおおぉぉ!!」声を上げながら扉と向き合う。まじで重たい。それでも俺はこんなところで止まっていられない。ブランに会わなきゃいけないからな。


ゴゴゴゴゴ!!重たい音が狭い空間に響き渡る。少しづつだが扉が開き始める。それを見ていた三人は「おお」と声を出すほどだ。


扉を押し続けること数分。俺の顔には汗が滲み、したたり落ちている。乾いた地面は俺の汗を吸収している。扉は少し開いただけで、人が通れる間は無い。


「きついな」額の汗を拭きながら呟く。これは俺一人でどうにかできる様なものじゃない気がしてきた。


「でも、やるしかないよな!!」力をさらに入れ、雄叫びを上げる。塵や埃が俺の声で舞い上がる。俺を軸に空気が渦巻く。


ドゴォン!!爆音と共に扉が開き切る。先には暖かな光が差し込んでいる。ようやく前に進める。


「やっと開いたか」飲み物を飲んでいたベータが飲み物を捨てて、扉を潜り光の中に吸い込まれていった。開けたのはお前じゃなくて俺なんだが,,,


「まあいいか」俺もベータに付いて行くように光に進む。アミスもクロも付いてきてるのが足音で分かる。


「ここからが世界樹だ」光が剝げ落ちると、目の前には大きな木ではなく、一本の若木が生えていた。そしてそれを守るように一匹の龍が佇んでいた。


見た目は緑色。恐らくは鱗が苔で覆われている。二対の翼に六本の足。大きさは二十メートル程と小柄。だが、身に纏う神々しさが俺達の歩みを止める。


爪は侵入者を殺すように鋭く、慈愛に溢れている。翼は鱗粉を撒いているのか時々羽ばたかせ、俺達に向かって飛ばしてくる。


「なぁ、ベータ。この龍は,,,」


「世界樹戦争で闘った龍だ。今は新しい世界樹の成長を見ている」俺が言いたいことを見透かすように答えてくれる。それにしても新しい世界樹って,,,俺たちが見たのはもしかして死にゆく樹なのか。


「そうだ。ブレイクの考えで正しい。私たちが見ていたのは死にゆく世界樹。理由は,,,私たち人間が浅はかだからだ」内容を捕捉するようにクロが声を響かした。こいつもまた俺の心を見透かしている。これにはもう慣れるしかないな。


「それで、俺たちはどうすればいいんだ?」目の前の龍を倒すのは不可能だろう。神に近い存在。いや、それ以上かもしれない。そんな龍に挑むのなんて命知らず、死に急ぎ野郎だ。


「そのことなら任せてくれ」緑の髪を揺らしながら彼は龍に近づく。龍もその存在に気が付いたのか、金の眼を開眼させた。


「俺達を通してくれないか?見返りは出す」両腕を開き、全てを受け入れる姿勢を見た龍は固く閉ざされていた苔塗れの口を開いた。


「汝ら、何を求む?」重々しく、神々しい言葉は俺達の鼓膜を揺さぶり脳にまで届き、心までも揺さぶる。圧倒的なカリスマ。絶対強者。個の頂点。


「俺らは終わりなき交差点に行きたい」そんな言葉に物怖じせずにベータは言葉を紡ぐ。これから起こる事全てを予見しているように。


「汝らの魂の欠片を貰う」龍が片腕を上げると体から何かが抜け落ちていく感覚があった。魂が持って行かれているのだろう。


龍の手には俺達四人分のオーブが浮かんでいた。色はそれぞれ違っていて、蒼、黒、緑、金だった。恐らくは髪の毛に由来している。


「これって大丈夫なのか?」不安になってベータに聞く、魂と意識は俺達が生きていることを証明するために必要なことだ。欠片でもなくなるのはまずいだろう。


「大丈夫だ。不安定なものしか取れないからな」笑いながら言う彼の姿を見て疑う気持ちも無くなった。信頼する仲間がそう言ったんだからそうなのだろう。


暫くの間、龍は俺達の魂を見ていた。特に見ていたのは黒色の魂だった。色的にもやはり暗い感情が詰まっているのだろうか。それとも他に興味を惹くものがあるのだろうか。


その間俺達は談笑しながら待っていた。能力はどのくらいまで使えるのか、魔法はどのくらいまで扱えるのか。どっちの方がオリジナル魔法が優れているのかとか。またマウントの取り合いをしていた。


「汝ら、数奇な運命を辿っているようだな。面白い。終わりなき交差点に繋がる門を開けてやろう」二対の翼を大きく広げると、周囲に金と銀の鱗粉が舞い始め、一点に集まったかと思えば、穴のようなものができた。


「これを潜れば汝らの求む場所に着くだろう」目の前にできた穴は、或いは門は人一人が通れるくらいの大きさで、轟々と音を立て、周りの空気や魔力を吸い上げていた。


「これを通るのか」額から冷汗が流れ落ちる。何度も死を目の前にしてきているが、ここまで静かな死なんて見たことが無い。これに触れれば最後、俺という存在が消えていなくなってしまうような気がする。


「そうだ。行くぞ」ベータは何の躊躇いもなく門の中に入っていった。アミスもクロもそれに付いて行くように次々と門の中に入っていった。今この空間にいるのは俺と龍、そして新たな世界樹だけだ。


「汝は,,,入らないのか」いまだに入ることをしない俺を龍が金の眼で見下ろしている。品定めをするような人間らしい眼で。


「入るさ。でもその前に聞きたいことがあってな」


「何だ?」


「お前は,,,世界を壊す存在をどう思う?」


「我は,,,いや、汝には関係の無い話だ」龍は言葉を選ぶように話していたが、最終的には濁す様にし、突き放した。


「そうか。言いたくないことはあるよな」俺はそういって門の中に入った。全てが塵になるような感覚もあれば、全てが再構築されていくような感覚もあった。


まるで自分が自分じゃないみたいな感じがして、気が狂いそうだ。そんな気持ちの悪い時間を一分過ごしたような気もすれば、一年を過ごしたような気もする。


気が付けば俺は交差点にいた。石畳で綺麗に舗装された十字路。端には民家や店が立ち並んでいる。しかし、人影は見当たらず、閑散とした雰囲気だけが、この世界を包み込んでいる。


「こんなとこに何年も俺はブランに居させたんだな」静寂と孤独しかないこの交差点にたった一人だけというだけでもぞっとするのに、ブランは実際にこの世界に二年も居させてしまった。


気が付けなかった自分、力が無かった自分が情けないし、みっともない。己の弱さが最愛の人を孤独に導いてしまった。俺ができることはこんなことが無いようにこの世界から彼女を救うということだ。


「ブレイク、やっと来たのか」目線の先にいたのは俺よりも先にこの世界に来た三人だ。どうやら俺のことを長い間待っていたようで、退屈そうに欠伸をしている。


「悪いな、行くぞ」適当に謝って前に進む。どこにいるのかも分からない。だから俺はただただひたすらに前に進むしかない。かつての英雄がそうしたように。


ここは終わりのない交差点なんだ。ブランもきっとどこかにいるだろう。もしかしたら退屈していて、死んでるのかもな。死後の世界でも死ぬってどういうことだ。こんな風にノリツッコミして元気にしてんのかな。


なんてことを思いながら石畳の上を歩く。三人は本当に暇だったのか、一マス飛ばしや、溝の上を歩いたりしている。申し訳ないことをしたな。「ここに来てからどのくらいったんだろうな」体感時間は優に一週間は経っている。なのに体は疲れないし、空腹や喉の渇きなんかの生理現象も感じない。


それに終わりなき交差点と言っていたのにあの十字路から一回も十字路にぶつかっていない。本当に俺は終わりなき交差点に来たのだろうか,,,


魔法もスキルも能力も使えないこの世界で孤独に耐えることはどれだけ辛いことなのだろう。俺は想像したくもない。そんなことを俺はブランにさせてしまっている。


あの時の二人を守るだけの力が欲しいと願ったあの日から俺は何も成長していない。育ったのは自尊心だけだ。醜い自分を隠すのに精いっぱいで他のことになんて目を向けられない。


「さぁな」俺の頭の回転を止めるようにベータが頭を叩いてきた。仲間がいるときにネガティブになっていたら駄目だな。


「教えろよ。情報屋」


「しゃーねぇな。一時間も経ってねぇよ。この世界は時間の流れが狂ってるからな」彼は欠伸をしながらだるそうに答えた。


「時間の流れが遅いんだな」ふと空を見上げると、雲が静止しているのが見えた。思い返して見えば、風も吹いていない。この空間は本当に時間の流れ、空間の流れが遅いんだ。


俺たちがいた世界と比べて明らかに。ここで感じる時間が一週間だとしても、向こうの世界では一時間も経たない。


ブランがこの世界に来たのが、一年、二年も前だとしたら、体感時間で数十年以上だろう。俺はなんて本当に残酷なことをしたのだろう。自分の情けなさに下を向いてしまう。


「何暗い顔してんだ?愛人がいるんだろ?笑顔で迎えてやれよ」ベータの声で前を向く。目の前には、俺が命を懸けてでも守ると決めた、赤い髪の魔法使いのブランが立っていた。


「ぶ、ブラン,,,なのか,,,?本当にブランなのか!?」込み上げる感情で絡まる脚を無視して前に進む。


「ブレイク!遅いわよ!」倒れそうになる俺を彼女は優しい腕で包んでくれた。この温もり、この声、この鼓動。ブランだ。俺が忘れてはいけない、守らないといけないブランだ。


「ブラン!ブラン!」泣きながら彼女に抱き着く。声にもならない声は終わりなき交差点に響き渡る。泣き始めてからどのくらいの時間が経ったのか分からない。


目は泣き腫れ、地面は俺の涙で水たまりができていた。その光景を三人は間に入ることをしないでただ見てくれていた。俺達だけの空間を大事にしてくれるように。


「もう泣き止んだら?」彼女は俺の頭に手を添えて撫でてくれる。この空間にいたことが苦痛じゃなかったと教えてくれるように。


「あ、あ、あ,,,でも,,,俺はブランを助けるために」涙を堪えようとしても溢れてしまう。感情を制御できない。抑えきれない。


「助けるために来たんでしょ?ブレイクなら来てくれるって信じてたわよ」彼女は俺のことを笑って許してくれようとしてくれている。


「でも、でも俺はここに来るために、何年も時間を費やしたし、忘れてもいたんだぞ?」


「そんなのどうでもいいわ。だって助けに来てくれたんだから」彼女の笑顔は俺の暗くなった心を晴らしてくれる。だから俺は彼女に惹かれたのかもしれない。


「だからもう泣かない。また旅をしましょう。後ろの三人とアクセルを連れてね」デコピンをされて、顔を掴まれて後ろを強制的に向かされる。そこには俺達のことを見ている三人が立っていた。


「そうだな」俺のことを縛っていたのは俺だったんだな。自由とか、運命とか背負うモノとか、それ以前に俺は自分で自分を縛っていた。


俺には仲間がいるんだ。だから頼っていいし、迷惑をかけてもいいのかもしれない。最期に笑っていられるのなら。


俺だけで背負う必要は無いんだ。だから仲間がいるのだろう。だから仲間を集めていたのだろう。大事なものは些細なことで小さくて見えにくい。だから気が付かないで終わるのかもしれない。


幸い俺は今大事なことが何か気が付いた。


「それじゃ現世に帰るか」ベータが俺の肩を叩いて歩き出す。気が付けば十字路の真ん中に立っていた。


左側には同じような風景が。真ん中は神門と書かれた看板が立っていて赤い鳥居の奥に三日月が浮かんでいる。右側は暗闇が続いている。


「ブランの魂と意識を持って行くのはどうすんだ?」俺たちは正規のルートでここに来ている。だから俺たちはベータに行動を任せればここから出ることができる。だがブランは一度この軸から抹消されている。そう簡単には行かないだろう。


「あぁ、そのことか。それならあいつと戦うしかない」ベータは俺の後ろを指さしていた。いつもと違うのはその表情が青ざめていて、冷静な様子を見せていなかったことだ。


振り向きたくない。でも振り向かなければ俺はブランを助けることができない。立ち向かわなければいけないことがある。今回もまたその時。覚悟を決め後ろを向く。


目測三十メートルほどに怪物がいた。それは爬虫類のような顔に長い鬣を巻き付けていて、下には触手を縦横無尽に伸ばしている。高さは十メートルほどで円錐形。一番目を引くのは無数の口や、目ではなく、心臓の部分にある真っ黒な双眸だ。


「こいつは,,,?」俺はブランの前に出て、怪物と相対する。


「そいつはこの世界の番人。俺の目的を達成するためにも倒さないといけないんだ」その強い語気とは裏腹にベータの顔には脂汗が滲んでいた。それでも腰からバフアイテムを取り出して戦えるようにしている。


「私も、目的、ある。私も、戦う」冷静に槍を構えるアミスの足は震えていて、目の前にいる怪物の強さを表している。


「そうだな,,,私も戦おう」メイスを構えるクロはいつもと同じだ。顔が見えないからな。でも声がいつもより上ずっているような気がする。


「覚悟を決めるか」大剣を背中から取り出して構える。正直勝てる気がしないがブランを取り戻すためだ。何だってする。文字通りこの命を懸けて。


「ブレイク、そういうことなら私に任せて」ブランがこの世界では使えないはずの魔方陣を描き始める。


「私もあんたに追いつくために鍛えたんだから」笑いながら魔法をぶっ放す彼女は俺がいつも見ていた綺麗な笑顔だった。


~ブラン視点~

ブレイクが私のことを助けに来た。それだけでも嬉しい。なのに彼は私に抱き着いてきて、子供のように泣いて、そのあとはまたあの頃の私を守ると決めた覚悟が決まった顔をして、この世界の門番と対峙を始めた。


今にも笑顔が溢れ出てしまいそうだ。でもこの感動は後に取っておきたい。今目の前には私たちのことを邪魔する門番がいるから。


こいつの名前はエンドレス。この空間を司る神。死者をこの空間に閉じ込めることがこいつの役割。調停者に殺されたはずの私が言った情報だから間違いはないだろう。


能力は無限。魔力だったり、空間だったり、時間だったりを無限大に引き延ばすことができる。封じ込める方法は無い。神だから。でも対抗策を私が教えてくれた。確かバッドって呼称していたわね。


バッドはいろんな世界線を移動して神の弱点を見つけることができた。神は不変の存在。故に変動が起きれば対応しなければならない。


その方法は簡単で世界を破壊する魔法を発動させればいい。それは禁断の魔法のさらに奥。深淵を覗いても見えないところに閉ざされた場所に封印されていなければいけない魔法。


代償は世界の崩壊。対価は世界の始まり。相反するもの同士がぶつかり、融合する魔法。


「ワールド・ブレイク!」魔法を発動させていく。この魔法のいいところは魔方陣を必要としないこと。代わりに相応の覚悟が要される。いままで書いてきた魔方陣はこの門番に対してのブラフ。


魔法やスキルが扱えない空間で扱えるという不測の事態で気を逸らすため。こいつは馬鹿だからまんまと引っ掛かってくれた。神は馬鹿正直だから助かるってバッドが笑って罵っていたのを思い出す。


「!!!!!!」エンドレスの叫び声にもならない叫びがこの交差点に響き渡る。不測の事態が重なってどう対処すればいいのか分からなくなっている証拠ね。


今壊したのはこの世界の概念。でも本当に些細な事。一つの言葉を破壊しただけ。それを認知しているのは不変の神と使用者の私だけ。


「奪われる気分はどう?」形が曖昧になっていく神に中指を立てる。こんなクソみたいなとこに何年も閉じ込めた奴にはこうよ。むしろこれで済んで幸運な位ね。


「,,,」悔しそうな顔をしているのか分からないが、歪みに歪んで気持ちが悪い。こういうやつはさっさと倒して終わらせないとね。


「じゃあね。あなたたちは何度も生き返られるから別にいいでしょ」心臓の部分にある双眸が真っ黒から真っ赤に変わり、その眼には瞋恚の炎が滾っているのが分かる。


これから少しの間消える神にそんな顔されても怖くない。本当に怖かったのは調停者に殺された時だ。


「ハステア・ピリオド」黒と翡翠色の風が一点に集まり、対象を細切れにしていく。神格を破壊するくらいは容易いだろう。だってバッドの私が教えてくれた最強のオリジナル魔法なのだから。


「それじゃ、通してもらうわね」塵になる寸前の神を見下しながら笑う。


「行きましょう。それともここで他にやる事でもあるの?」立ち尽くしている四人に話しかける。緑髪の人は傷で隠れているけどイケメン。金髪の少女は槍を持っていて可愛らしい。


ブレイクは呆気に取られているのかボケーとした顔をしている。覚悟を決めて私の前に出てきたのにこうなってしまったら仕方ないわね。


「あぁ。お前の意識と魂を確保しなきゃな」


「意識はあるし、魂はこれの事でしょ?」手のひらから小さな玉を浮かす。それは白く光り輝いていて、熱を帯びている。これが私の魂,,,と思われるもの。


「ブラン、さん,,,か?それは魂で間違いない。後はこの交差点を右に曲がればいい。ブレイクと一緒に行ってくれ。」緑髪の男が玉を指しながら教えてくれた。


「あなたたちはどうするの?」この口ぶりからするに、この人はここに残るつもりなのだろう。金髪の少女もぴったりとくっ付いているし、黒い鎧を着た騎士も緑髪の男の後ろに付いている。


「俺はここでやらないといけないことがあるし,,,アミスもクロも同じだろう。ここでお別れだな」緑髪の男はブレイクと握手をして神門と書かれた門を通って行った。


「あの人たちとはどんな関係だったの?」悲しそうな顔をしているブレイクに聞く。傷口に傷を塗るようなことだけど、これからの動きを考えるためには必要なことだ。


「仲間だ。時間は短いが、楽しかったよ」笑いながら教えてくれる彼にはやはり悲しみの感情が張り付いていた。


「そう、なら追いかけないと。アクセルとの約束はきっと叶うから」ブレイクの手を取って門に向かって走る。叶うという確信はないがアクセルは笑って許してくれるだろう。


それに彼氏が悲しい顔をしていたらそれを笑顔にするのが彼女の役割だろう。分からないけど、私はそう感じている。


「お前は本当に変わらないな」そんな声が聞こえた,,,気がした。

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