第四十六話 下山
~ブラックナイト視点~
「損傷が激しい。急いで構築しなければ」オリジンに言われてこの場所に来たが、ここまで損傷が激しいとは。しかし、ここまでの死闘を繰り広げてなお意識も魂も存在することができるなんてやはり別の軸が特別視をするだけのことはあるな。
「金髪の方は,,,記憶にないな。放置でいいだろう」目の前に横たわるベータに向かって魔方陣を描く。本来であれば真円に近ければ効率は上がる。しかし生死に関わる魔法はこの世に存在してはいけない。だから歪んだ魔方陣を描く必要がある。
「形はこのくらいでいいだろう」目の前に描いたのは横に長い楕円の様な形。内側には縦横無尽に走り書きされた無数の五芒星。魔法文字も書く必要が無い。自分の意識で書けばいい。
「あとは魔力を注ぐだけ,,,とその前にブレイクを説得しなければ」山の上から土煙を上げながら現れた彼は私が知っている中でも一際エネルギーに溢れている。
全身から蒼が立ち上り、目には殺意と敵意が。剣には怒りが。呼吸は殺人鬼の様に潜めているが、今にも決壊しそうなほど。そしてそれを補助するように周りには石や木が浮いている。
「オマエガやったのか?」ビキビキと音を立てながら地面に亀裂が入っていく。口からは水蒸気が溢れている。あのままではブレイクにも支障が出る。
「違うと言っても信じるのか?」ベータを修復しながらの戦闘は厳しいな。なにしろこの魔法は世界図書館に許可を貰わないといけない。それくらい死者を蘇らせることはタブーなのだ。
「オマエノ行動次第ダ」彼の腕に蒼が集中していくのが分かる。しかしそれはブラフ。本命は蒼ではなく、左腕に装着しているボウガンからの攻撃だろう。それかマントに隠している暗器か。
どちらにせよ、飛び道具を使ってくるのは間違いないだろう。彼の戦闘スタイルはどこの世界線でも変わらない。相手の出方を見るための先制攻撃。格上であれば魔法で距離を取る。格下であれば一気に間合いを詰め、蒼で仕留めに来る。
「どうすればいいんだ?」手を上に上げて敵意が無いことを表す。まぁ、魔方陣がある限りは殺しに来るだろう。
「ウゴクナ」剣を大きく振りかぶる動作が見える。蒼を纏わせているが警戒すべきはそこじゃない。魔力が渦巻いている左手だ。
「自由の咆哮」真っ向勝負を嫌うブレイクが馬鹿正直に攻撃を仕掛けてきた!?
「!」咄嗟に防御魔法を張るが、亀裂が入る。感情的になり過ぎて本来の戦い方をしないというのか。オリジンの奴また面倒ごとを押し付けてきたな。
「感情の奔流」地面からの振り上げを警戒していたが、左手から光線が放たれる。こんな戦い方をしていたらブレイクの体がもたない。
「バリア」魔法を再構築して受け流す。行き場を失った光線は天を貫いた。
「ウゴクナ」地面から剣が浮き上がる。彼の両手には超圧縮された蒼が、そして後ろには業火を纏う門が現れている。
「私も本気で行くか」魔方陣を超高速で展開していく。地面には防御魔法を張り巡らせる。ここが崩れたら元も子も無いからな。崖には攻撃魔法を、空には支援魔法を作り上げる。この時間僅か数秒。
「処刑人ガ」蒼を大剣のように持ち、彼は呼吸を整え始めた。全身から蒸気が噴出している。大剣は二つに増え、地面が浮き上がり始めている。
「何か勘違いしているようだ」だが、この攻撃を喰らわない限りは聞く耳を持たないだろう。それにしても処刑人か。奴は私と同じ姿をしているのか。調停者の奴はどこまでも鬱陶しい。
「防御に徹するか」攻撃魔法を書き換え、防御に専念する。対象は私ではなく、後ろにいるベータのためだ。あの少女もブレイクの守護の対象だろう。仕方ないがリソースをそっちにも回そう。
「いきかえりの時間旅行。軸を回して愚か者から英雄に」魔法を詠唱して自分を一度殺す。そのあとに蘇る。これを成功させるにはそれなりの代償が必要なんだが、オリジンに払ってもらおう。
「冥府から天まで、声を上げ。垂れた糸を手繰り寄せる。泥に咲く花に手を向けて。冷徹な空に不敵に笑う。これは始まりでも終わりでもない。現在を生きる我らに与えられた宿命を止めるだけ。時間遡行」全身が時計を模した魔方陣に覆われていく。後は一度死ねばいい。
「喰らえ」~蒼穹天空~
地面を抉り、空を割るその一撃は神を傷つけることすら容易なのではないかと思えた。バリバリと空間が割れる音が鼓膜を震わせ、眩しい程の光が網膜に焼き付く。
「がっ,,,!」その衝撃に遥か彼方に吹き飛ばされ、肉体が砕け散る。自分を認識できているということは魔法が成功したのだろう。肉体の再構築まであと数秒。その間にブレイクが正気を取り戻してくれればいいが,,,,
「ベータ!アミス!」ブレイクが二人に駆け寄っていくのが見える。どうやら正気に戻ったみたいだな。どれ私も時間を戻して存在を証明しよう。
吹き飛んでいった肉体が、意識が先程の場所に集まる。渦を巻きながら復活を望む私の体はさながら火の鳥のように、舞い上がっていた。
「君たちに敵意は無い」黒鎧に身を包み、ブレイクに話しかける。いまなら話を聞いてくれるはずだ。
「そうか,,,で、俺は、こいつらはどのくらい生きていられるんだ?」涙を静かに流しながら彼は聞いてきた。自分の死期を悟ったのだろうか。
よく見てみれば、蒼を纏っていた部分は原形を留めていない。それに体の器官が一部停止しているのか、目が虚ろだ。
「私を受け入れてくれるのなら、いくらでも」魔方陣を描きながら近づく。ベータの分は書き終えた。あの少女の分も。ブレイクはいつ暴れだすか分からない。今は放置するのがいいだろう。
「,,,治してやってくれ」彼は泣きながら私に縋りついてきた。一度敗北を味合わせた敵に今は助けを乞うている。やはり、こいつはどこまで行っても自分勝手な奴だ。
「変わらないな」こいつはどこの軸に行っても世界線が移動してもこんな奴だった。己のために行動しているのかと思えば、誰よりも仲間のことを考えていて、自分が犠牲になるのもいとわない。それどころか、仲間のためなら文字通りなんだってしていた。
「いいだろう」暴走すると考えていた私が馬鹿らしく思えた。彼はどこに居たって彼だ。ジェノサイドだろうが何だろうが。
「エクス・ヒール」魔方陣を瞬時に描き、彼の体を回復させていく。全身が淡い緑色に包まれ、傷が癒えていく。これだから魔法の追求は止められない。
「次は二人だな」ブレイクは疲れたのか、気を失ったかのように地面に倒れた。あれほどまでの欠損に先程の闘気。倒れないわけがない。
「ベータはいいとして,,,彼女は一体誰だ?」私の記憶には金髪の少女とは出会わないはずだ。知っているのは銀の髪の少女に赤色の髪をした女だ。
「まぁいいか。ブレイクとは友好的に、だからな」私の目的は調停者を殺すこと。いや上位者を殺すこと。その目的のためにはこの軸の彼の力が不可欠だ。こんなところで失うわけにはいかない。希望も見失ってしまったしな。
彼女は一体どこに行ってしまったのだろうか。世界図書館にすら記されていない彼女を。こうやって記憶に残っているのは私とオリジン。後は他の軸の奴らだろう。この軸から完全に消えてしまっている。
「考えるよりも先に修復するか」魔方陣を描いて時を巻き戻す。代償は大きいがオリジンに肩代わりしてもらおう。このくらいのことをしてくれないと、原初の意味がないからな。
時計が浮かび上がり、針が巻き戻っていく。十一から十にどんどんカチカチと音を刻みながら。針が動くたびに、体がもとに戻っていく。しかし、その様子は禁忌に触れているのか、靄がかかって上手く観測することができない。
数刻の時が流れブレイクと少女が目を覚ました。ベータは修復が完了したはずなのに、起き上がらない。魔法が不完全だったのか、それとも別の何かが介入しているのか。それとも本人が望んでいないのか。
「お前、処刑人じゃないのか?」起き上がった彼は早々に聞いてきた。
「私の名前はブラックナイト。クロとでも呼んでくれ」手を差し出し有効的であることを証明する。
「よろしくな。クロ」彼は笑いながら手を握ってくれた。問題は少女の方だ。私は彼女のことを知らない。必然的に彼女も私のことを知らない。
「君の名前は何というんだ?」知っていることだが、間違いがないか聞く。嘘つく道理なんて無いし、吐いたところで私は彼のことを知っている。看破して能力とでも言っておこう。
「ブレイクだ。金髪のロリ娘はアミスだ。緑の髪をした奴はベータだ」笑いながら仲間のことを紹介するブレイクを見て、なんだか懐かしく感じる。金髪の子はアミスというのか。やはり知らない名前だ。まぁ、これから知っていけばいいか。
「にしてもベータの奴起きねぇな」顔をぺちぺちと叩いて反応を確認している。
「では、私の魔法で上に行くのはどうだろうか?」そうすれば頂上まで行くという目的を達成できるし、安全な道のりになるはずだ。動けない人間を動かせるのだから。
「そんなに動かせるのか?」魔法に詳しいブレイクは顎に手を当て、考え始めた。確かに人間からすれば、かなり難易度の高いものになるだろう。極級かそれ以上の魔法効率で尚且つ、オリジナルにしなければならない。
ここまでの境地に達することができるのはほんの一握り。志半ばに死んでいく者も多い。そのくらい長距離を移動させるのが大変なのだ。
「あぁ、任せてくれ」だが何年も生きてきた私には関係の無いことだ。魔法を追求し、今も深淵を覗き続けている。本当にこの分野は飽きが来ない。
「レビテーション」魔力が渦巻く。私たちを上に運んでくれる風の様なもの。刹那、地面が分離する。一人一人浮かすより、物を一つだけ浮かす方が楽だ。
「すげえな」ブレイクは凄いものをみた少年のように笑顔をこぼしていた。
「もう少しで着く」そんな彼を横目で見ながら、地面を浮かしていく。
数刻の時間が経った頃、頂上に辿り着くことができた。本来であれば寒く、呼吸もままならない程の高度だが、魔法を使うことにより、そんなことは気にもならなくなっている。
「起きるまで待つか」ブレイクは魔法がかかっているのに気が付いたのか、手ごろな岩に座り、ベータが起きるのを待ち始めた。アミスもまた、ブレイクの横に座った。しかし目線の先にはベータが常に映っている。
「その間、俺の話でも聞くか?」退屈そうにしている私に気が付いたのかブレイクが話題を振ってくれた。
「よろしく頼む」折角だ。この世界のブレイクを楽しもう。
「,,,とまあこんな感じだ」ブレイクの話はとても面白いものばかりだった。偽りのない本当の体験に緩急のある話し方はエンターテイナーさながら。皆が付いて行く理由が分かる。
「君の目標はブランという子を蘇らせるということなんだな」彼の話で最も大事なことを聞く。
「あぁ。俺の、大事な人だからな」遠い目をする彼は触れれば崩れて無くなってしまいそうな儚さを帯びていた。
「私も同行していいか?」
「いいのか?大変だぞ?」笑いながら倒れているベータと黙ったままのアミスを指す。
「構わないさ。私も蘇らせたい人がいるからな」
「じゃ、これからよろしくな」ブレイクと固い握手を交わす。
~ブレイク視点~
「やっと降りれるな」下から吹き付ける風を受け止めながらベータに聞く。
「あぁ。条件もばっちりだ」親指を立てて準備が完了したことを教えてくれる。
目の前には大きな籠の様な物があり、側面には竜の翼を模したものが取り付けられていた。何よりも目を引くのが細かく刻まれた魔方陣だ。これで風を操作し、滑空する。
「しっかし、こんなものに身を預けるなんて不安だな」バシバシと籠を叩きながら乗り込む。中は木製なのか、軽い音がする。
「安心しろ。由緒正しき竜籠なんだからな」ベータは笑いながら魔力を注入していく。
竜籠とはお前たちの世界で言う気球みたいなものだ。もっとも竜籠は滑空にしか使えない。理由はそこまで複雑な魔方陣を刻めるのはドワーフだけということ。そして人間とドワーフの中がそこまで良好ではない。
だから人間は無い脳を使って模倣することに成功した。だけど劣化品は劣化品。条件が噛み合わなければ墜落してしまうし上昇することもできない。
「俺はトラウマがあんだよ,,,」アクセルに渡されたパラシュートのことを思い出して足がすくんでしまう。
「そんなもの忘れるくらい楽しくなっからな」全員が乗ったことを確認したベータは竜籠を動かし始めた。操舵は自動。というかできない。風の流れに任せるしかない。これが条件の一つ目。
「しっかり掴まってろよ!!」ベータの声を聞いて端を掴む。クロは自分を魔法で強化しその場に鎮座。アミスはクロにしがみついている。
条件の二つ目は上昇気流が無いといけないということだ。こいつが無いと上手く飛んでくれないらしい。魔力でどうにかできないかと模索していたらしいが、耐えられる素材が限られるため、こんな風に飛んでいるってわけだ。
だとしてもさぁ,,,「揺れすぎだろ!!!」視界がグワングワンしている。左右にベータが行ったり来たり、上にはクロが下にはアミスが。
「落ち着けって。そろそろ終わるからよ」ベータは笑いながら魔力を注ぎ込んでいる。なんでこいつはこんなに冷静なんだよ。アミスもクロも平然と乗っているし。
竜籠が揺れ始めてから少し経った頃、ようやく安定し始めた。さっきまでは余裕が無かったが、後ろには俺たちが登ったであろう雄峰が。目の前にはどこまでも広がる海がある。
美しい。俺が言えるのはこれだけだ。自分の語彙の無さを今は憎みたい。そのくらいの絶景だ。
「綺麗だな」ベータが飲み物を飲みながら柵によしかかる。こいつにもこういう感性があったんだな。
「同感」アミスもまた横並びになるように俺の隣に立った。手には何も持たず、目を見開いて、この景色を噛み締めるように見ていた。
「圧巻だ」クロは背が高いから後ろから眼前に広がる海を眺めていた。
「そうだな」俺たちは二度とない今のこの空間をただただ楽しんでいた。空中にいて、仲間がいて、そして自然の芸術が俺たちのことを歓迎してくれている。
素晴らしき世界にずっと浸っていたいが、終わりが近づいてきている。竜籠は高度をどんどんと下げ、地面はもう後数百メートルのところまで来ている。初めは嫌だったが、終わりが近づいてくると悲しい気分だ。
「もう着くぞ」ベータの言葉で皆が着陸の準備を始めた。ベータは次に着く街の情報を見返し、アミスは愛用の槍の汚れをふき取り、クロは防御魔法を張っている。
俺か?俺は竜籠酔いしてるから何も出来ていません。地面が恋しい。さっきまではあんなことを言っていたけど、また揺れが激しくなり始めている。本当に使えないリーダーで申し訳ないです。
轟音と共に竜籠の動きが止まる。無事に着陸できたみたいだ。俺の体は限界を迎えてげろっている。汚い俺を愛してくれますか?
「目的地であるユグドラ・リーフィンに歩きなら数日かかるな」俺の地図を見ながら現在の位置と計算してベータが教えてくれた。山を越えても道のりはまだ長い。
「一日で行けると思ったんだが」風向きが悪かったのか、遠くの位置に辿り着いてしまったみたいだ。当初の予定を変える必要があるな。
「仕方ないだろ。竜籠は気まぐれなんだからな」魔法空間にしまい込みながらベータがそう言った。あのくらいの大きさになると収納するまで時間が掛かるな。
「気楽に行こうじゃないか」クロは笑いながらキャンプの設営を始めていた。辺りはすっかりと暗くなっていた。こんなにも見えているのは竜籠の魔法陣が光っているからだろう。
「そうだな」乾いた木を拾い火を付ける。これで明かりは確保できた。後は食料だ。魔法空間には食料が残っていない。個人差はあるが俺の空間は時間の流れ速い。生ものを入れていたらすぐに腐ってしまう。
「今日の飯はなんだ?」設営を終えた皆が期待の目で見てくる。ここで何もないなんて言ったら失望してしまうだろう。何とかして切り抜けなければ,,,久しぶりにコマンドを出すか。
1誤魔化して食料を調達する。
2謝る。
よし。2で行こう。ていうかこれしかない。
「ごめんなさい。ありません」土下座の態勢を取って謝罪する。これが大人になった人間が取る最大の謝罪行動だ。これ以上が存在するのなら教えてほしい。土下寝?土下埋まり?なんじゃそりゃ?そんなこと知りません。知っても絶対にやりません。
「そうか」「仕方、ない」「食料調達と行くか」あれ?俺許された?誠実な心が通じたのか!?嬉しい!こんな人たちとパーティーが組めるなんて!
「よっし行くぞ!」大剣を持って意気揚々と前に出ようとする,,,がそれは三人によって阻まれた。
「お前は待機だ」「見張り」「私たちに任せろ」悉く潰されていく俺の出番。これが主人公ですか。そうですか。世界はよく出来ていますね。
「分かった。できる限りの準備をしておく」大剣を魔法空間に戻して、準備を始める。すると言っても場所の確保とか、器具の用意位だ。こっから先は退屈な時間が流れるな。そういう時は,,,
「場面変更!」
~ベータ視点~
「しっかしなんで食料が無いんだよ」小石を蹴りながら索敵をする。俺は戦闘はからっきしだから二人に頑張ってもらわないと。
「分からないな」クロは呆れたように笑っていた。こいつはブレイクとの付き合い方を分かっている。
「馬鹿、だから?」戸惑いながらアミスが答える。
「正解だ」この三ヶ月間でアイツがいかに優秀で馬鹿なのかが骨に刻み込まれている。あいつはいろんなことができるが、いろんなことができない。
戦闘ができる。料理ができる。仲間へのフォローもできる。だがあいつは金の管理ができない。在庫の確認ができない。自分のことを過剰評価している。上げだしたらキリが無くなる。
「おっと目の前に反応」二人の前に手を出して制止させる。
「数は三。この反応の大きさからしてイノシシ系統だろう」情報をかき集め、大事な部分だけを抜粋して教えていく。大事なのは量じゃなくて質だ。無駄なことを言うと混乱する。
「了解」「良し」二人は自分の武器を構えて、接近してくるモンスターと相対する。
「ぶもおぉぉ!!」目の前から猛進してきたのはやはりというべきがイノシシだった。しかし大きく違うのは異常なまでに発達した牙に鋭くなった爪。そして一際目立つのはその巨体を覆う銀の体毛だ。
「ジルヴァボアだ!気を付けろ!!」こいつの特徴は圧倒的なまでの好戦的な性格。そして持ち前の体格で相手を轢殺していく。
「任せて」アミスはそういって槍を展開し始める。
「やろうか」クロは背中に担いでいたメイスを取り出して詠唱を始めた。
「なら援護は任せてくれ」腰から袋を二つ取り出してばら撒く。一つはパッシブを上昇させてくれる粉。もう一つは視界を悪くする粉。これは二人に当たっても問題ない。
「シンパシー!」俺が新たに取得した能力で俺の意識と視覚を二人に繋ぐことができるからだ。これは俺の脳への負担が大きいが贅沢は言っていられない。それに俺は情報屋だ。正確で分かりやすい情報を客に提供しないとな。
「アミスは右に四!クロは後ろに六!そのあとに三!」どうすれば攻撃を回避できるのか。そして隙ができるのかを計算して指示を出す。二人は初めてのことなのに難なく対応してくれている。
「アミスは一旦退避!二秒後にクロは集中砲火!」三匹が一か所に固まったことを確認して指示を下す。クロが構築していた魔法は範囲の狭い火力特化のものだろう。
「「了解」」二秒後にはアミスは俺の後ろにいてクロは魔法を発動させた。辺りが肉が焦げたような臭いに包まれるがあいつらはまだピンピンしている。
「アミスは高火力の技を!クロは魔法を構築して待機!」腰から瓶を取り出してアミスに振りかける。敏捷性が上がるポーションだ。
「ヴァミリア!」赤い稲妻が三匹の間を走る。ジルヴァボアは掠れた咆哮を出している。これでも死なないのか。
「アミスは今すぐ撤退!クロは四秒後に発動させろ!そのあとに視覚奪取の効果が切れる!」ボアが感電して動けないのを確認してから指示を下す。
「レイニーランス!」遥か頭上から尖った石の塊が降り注ぐ。赤熱したそれは猛攻を耐えきった毛皮を貫く程の威力を持っていた。
「こりゃやばいな」岩陰に隠れて余波の影響がないようにする。アミスは援護に回れるようにクロの横に立ったままだ。
魔法が撃ち込まれること数秒。周囲は銀の体毛が舞い散っていた。真ん中には綺麗にイノシシの死体が転がっていた。
「お疲れさん」労いの言葉をかけて魔法空間に収納していく。これくらいはやらないと役立たずって言われちまうからな。
「さっきの視覚奪取に共有。面白いな」魔法空間に丁寧にイノシシを詰め込んでいるとクロが話しかけてきた。アミスは小瓶に入っていたジュースを飲んでいた。可愛い。
「そういってくれると助かる。今度は事前に言っておくよ」頭を下げて謝罪をする。一歩間違えればみんな死んでいた行動だ。俺の好奇心を満たす行為で仲間を殺すのは嫌だ。
「何、あのくらい慣れているさ」笑いながら肩を叩いてくれた。仲間というのはやっぱり暖かい。
この後は交代で警戒をしながら夜を明かした。ブレイクは籠酔いしたのか、一時間もしないうちに根を上げたので、俺達三人が補助をした。




