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ブレイクソード  作者: 遊者
交差点に向かって
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第四十四話 頂点を目指して

~ブレイク視点~

「お前ら本当に俺とパーティーでよかったのか?」大剣で迫りくるオークを斬りながら後方にいる緑髪の男ベータと、その間に居る金髪の少女アミスに聞く。


「当たり前だろ」ベータは腰に着けていた袋を開ける。袋は黒い霧の様な物をまき散らし、小さな雷を発生させていた。


「今更」アミスはベータの動きを見て、能力を発動させる。展開された袋は爆発的な雷を生み出し、近くにいたオークを焼き払った。残党はアミスが丁寧に槍で殺す。それでも間に合わなければ俺が左手に着けているボウガンで頭を撃ちぬく。今回はいらないようだ。


「終わったな」戦場の渦の真ん中で状況を確認する。周りにはオークの死体が転がっていて増援の気配もない。俺たちの勝利だ。


三人で行動してから三ヶ月の時間が経った。索敵は俺とベータが。戦闘は俺とアミスがやって支援はベータ。雑用は各々が得意としていることをしている。


洗濯はアミスがやって物の管理はベータがして、料理は俺だ。それ以外にも色々やっているがその時その時で変わっている。


「今日は何を作るんだ?」オークを捌きながらベータが聞いてきた。今俺たちがしているのは素材回収だ。肉に皮。牙に骨。オークは余すところが無いくらいに非常に優秀なモンスターだ。


聖騎士がくっころとか言っているイメージが強いかもしれないがこの世界にそんなものはない。子は産めないし、反抗する可能性がありから速攻で殺しにくる。


「オークを焼いて食うに決まっているだろ」霜が乗った肉を持ち上げて笑う。この世界は食うか食われるかだ。俺達も同様でいつも死が付きまとっている。


「また、肉,,,」警戒に回っているアミスは不満そうな顔をしている。アミスはバランスの取れた食事がいいらしいが、こればっかりは仕方のないことだ。野菜は高いし、そこら辺の草と変わらんだろ。


って言ったら前、槍であり得ない位突かれた。俺じゃなかったら多分死んでいる勢いだった。もう速いのなんの。目で追えないから体に身を預けたよ。そのせいでその日は愛用の大剣が使えなくて戦果がいまいちだったし。


乙女はやはり、体を気にするものなのだろうか。俺らみたいな男には理解できない感情だ。ブランにもよく怒られていたっけな。


「野菜を取ってくる」ナイフをベータに渡して、そこら辺の茂みの中に入る。紅一点の申し出とあれば全身全霊を懸けて遂行するのが漢ってもんよ。


「これは食える奴で,,,これは毒か,,,」魔法空間から野草図鑑を取り出して食えるものと食えないものを分けていく。この本は一冊五百万リルする。この世界じゃ製本技術が拙いから全部直筆の一品ものだ。


これは非常に高い買い物だった。俺の財布の中身が空っぽになり、王国の金からも出した。だが、そのおかげで俺はアミスからの攻撃を回避することに成功した。


なに、リルの五百万位安いもんさ。俺の命が無事でよかった。でもよ、ブレイク財布が!


こんなことをしている場合じゃなかった。さっさと集めて晩御飯の準備をしないとな。担当のことはしっかりこなす、それが一流の冒険者だ。


「戻ったぞ」魔法空間に野草をパンパンに入れた俺は二人がいるところに戻った。さっきまでは血の匂いがして、肉片が散らかる汚い戦場が綺麗になり、野営の準備ができていた。真ん中にはモンスターが嫌う臭いが込められた袋が数個置かれていた。


この仕事の速さはベータだろうな。あいつは戦闘と料理以外なんでもできる。索敵に支援に情報収集。全てが誇れるくらいにできる、正直羨ましい。


「戻ったか。料理するなら向こうの焚火でな」仕事を終えた彼は本を読みながら料理も準備もできていることを教えてくれた。


「お疲れさん」魔法空間から酒瓶を取り出して放り投げる。仕事が終わった後の一杯は最高に美味い。これを分かってくれるのは今はアイツしかいない。アミスは酒飲まないし。


「ブレイク、野菜は?」焚火の前に立って肉を焼こうとするとアミスが近づいてきた。装備も脱いで軽装に変わっている。槍も持っていない彼女はまさに天使。今すぐにでも抱きしめたいが、そんなことをしたら間違いなく首を持って行かれる。


彼女のパッシブを侮ってはいけない。俺達よりも数段上だ。油断なんてしていたら一撃で狩られる。興味本位で着替えを覗こうとしたら地面に倒れていたからな。首を落としたのかと思って地面を探しちゃったよ。


「持ってきた」魔法空間から浄化魔法をかけた野草を取り出して渡す。ついでに俺が作ったソースも。


「ありがと」アミスは手にたくさんの野菜を抱えてテントの中に入ってしまった。彼女は食事しているところを見られるのがあまり好きじゃないということがこの三か月間で分かった。理由はよく食べるからだ。


良いと思うんだけどな。たくさん食べる女の子。健康的でかわいらしい。食べていない子よりもは遥かにグッドだ。


「ごちそうさまでした」皿はベータに任せて、明日の準備を始めるために自分のテントの中に入る。準備と言っても武器の手入れとかだな。ボウガンも面倒を見てやらないと機嫌を損ねるし、剣も切れ味が鈍る。というか全く切れてくれない。


前まではこんな事無かったんだけどな。ま、武器の手入れは楽しいからいいんだけど。寝る間も惜しんで自分と武器を磨く。ここまで心を昂らせてくれるものはあるのだろうか?


いや、いっぱいあるな。女の尻を追っかけるとか、仲間と宴を始めるときとか。おっと話が逸れてしまいそうだから軌道修正。


「あとは地図で経路を確認するだけだ」ベータの収集能力のおかげでどこから忘却の墓場に行けるのかが分かった。世界樹の幹の方だそうだ。なんでもそこは英雄の魂が行くとされる場所でかつては戦争の火種にもなるくらいには重要なものらしい。


歴史はあんまり詳しくないんだ。王国で研究職に就いてやっと世界の歴史について学び始めたんだ。って考えると俺の学の無さが分かるだろ?これには深い事情があるんだがまた今度だな。そろそろ寝たいしささっと確認して横になりたい。


「明日は山を越えないといけないのか」山越えは気乗りしない。飛竜はいるし、落石や落雷は当たり前。それに転機も変化しやすい。急激な環境の変化はストレスになる。明日は精神力が試されそうだ。


なんだかんだここまでは平原と森を選んで歩いてきた。山は基本的には迂回。でも今回ばかりはそうもいかない。世界樹に行くためには専用の港に行く必要がある。そしてそこは山で囲まれている。


行くためには必然的に山を越える必要がある。時間を掛ければ別のルートも選ぶことができるが俺には時間が限られている。なるべく最短距離で行かないといけない。


「晴れると良いな」外に出て空模様を窺う。焚火も消されていて真っ暗。二人のテントも明かりが消えている。もう寝たのだろう。リーダーは辛いぜ。どんな時でも仲間を優先して行動しないといけないからな。


「俺が望んだことだから仕方ないな」あの時俺はこのパーティーのリーダーになることを断ることもできた。でも俺はそれをしなかった。理由は,,,かっこいいから。餓鬼っぽく聞こえるだろ?でもそのくらいがちょうどいいんだよ。この世界を生き抜くにはな。


「明日のためにも、もう寝るか」テントの中に入って明かりを消す。周りから二人の寝息が聞こえてくる。二人を死なせないためにもしっかりやらないとな。


「おはよう」準備が終わったみんなと顔を合わせながらこれからの話をする。


「これから山に登ることになる」目の前にあるのは高い高い天をも突き破る山。今俺たちはそのふもとに居る。山と言っても切り立った崖が連なっているものだが。


「俺の声の後にロープを掴んでくれ」二人に声をかける。俺の手元には二十メートルほどのロープにフックが付いているものだ。これで崖を登っていく。引っ掛ける先は木や頑丈な岩だ。もしも間違えてしまえば一気に滑落。死がお出迎えしてくれる。


「それじゃ、先に行ってくる」ロープを頭上にある木に向かってぶん投げる。シュルシュルと木に巻き付き、フックが突き刺さった。大丈夫か腕に力を入れて体を倒す。


大丈夫だな。そのあとはロープに手だけで掴まり、木が生えているところまでよじ登る。これを数回繰り返していく。そのあとは上から俺が安全を確保したロープを垂らして上がってきてもらう。


なんでこんなことをするのか。答えは簡単で道が確保されていないからだ。適当に樹海に入れば迷子になって死ぬ。かといって慎重になりすぎると、自然の猛威を味わうことになる。


だから最短距離に近いこの方法で行く。上る時は時間が掛かるが、降りるときは爆速だ。そのことは俺たちが降りるときになった教えよう。今は上がっていかないと。あ、昇天するわけじゃないかんな。


「よいしょっと」百メートル程上がったところで平らなところに出た。ここならロープを垂らしてもよさそうだ。重りはどれにするか。俺でいいか。いや駄目だな。周囲を警戒しないといけない。


「これでいくか」大剣にロープを括りつけて地面に突き刺す。これなら俺がフリーだし、安心感も抜群だ。


「オッケーだ!」二人がいるところに向かってロープを投げて待機する。俺がやることはここの安全確保と、飛竜の撃墜だ。飛竜は何かと厄介で、こういうことをしていると毎回出てくる。


それを俺がボウガンと魔法を駆使して倒していく。俺がベータよりも先に上に行くのはこのためだな。あいつの魔よけの煙は横にしか伸びないから平地じゃないと安全じゃない。


「お疲れ」五分もたたないうちにベータが上がってきた。アミスも同時に上がってきたようだった。道理でロープが悲鳴を上げていたんだな,,,


「って痛い!!ギブ!ギブ!」俺の腕が完全にホールドされ、骨がミシミシと泣いている。なんで俺の心読まれているのかな。


「ブレイク、最低」アミスは一通り俺をいじめた後、満足したように魔法空間から飲み物を取り出した。


「ははは!お前はデリカシーが無いな」ベータは俺の腹を抱えながら一部始終を見ていた。なんでこいつはお咎め無しなんですか?不平等じゃないですか。絶対同じこと考えていましたよ,,,


「って痛い!痛い!!ギブ!ギブ!ほんとに骨が死ぬうぅぅ!!!」痛烈な俺の声が山中を包み込んだ。


「はぁ。行ってくる」魔法で折れた腕をくっつけた後、またロープを上方にぶん投げる。骨が折れるまで極めるなんてあんまりだ。なんでここまで差が生まれているんだ,,,


「いってら」ベータは相変わらず笑ったままだ。何が面白いんだか。俺は痛い思いして泣いているのに。


「よっと」ロープを上げては回収しての繰り返し。平地に出たら安全を確保して二人を登らせる。幸い、飛竜の襲撃も無いし、天候も良い。この調子でいけば今日中に山を越えることができるだろう。


それも下山する時に裏技を使うからな。もっとも、ベータがオーケーを出すかどうかなんだが。念入りに情報を集めて、条件が合えば使うことができる。合わなかったら、数日は山の上で待機だな。変に動いて方角が分からなくなったら困るし。現に今も迷いそうだしな。


「結構上がってきたな」開けた場所に座って遠くを眺める。標高は三千を超えた。いまだにベータの指示に従って登り続けている。条件に合うのはもう少し上だそうだ。


目の前に広がるのは雲の海だ。どこまでもどこまでも続いている。そしてそれを突き破って見えるのがこの山脈だ。俺の上にもまだまだ山が続いている。


「休憩したいが、その前にこいつらを倒さないとな」この高さになってくると飛竜がずっと飛んでいやがる。風も強いから矢も上手く飛んでいかない。だから剣で斬り伏せるのが現状だ。


「自由の咆哮!」蒼を大剣に纏わせて上空に穿つ。基本これで倒れてくれるんだが、耐え抜く歴戦の個体がいる。


「ぎゅああぁぁ!!」騒がしい咆哮と共に翼が折れた飛竜が突っ込んでくる。これだから飛竜は厄介なんだ。自分の命が尽きるまで戦闘を挑んでくる。


「射程圏内」ボウガンで狙いを定め頭を貫く。体のコントロールを失った飛竜は重力に身を任せて奈落に落ちていった。


俺の方はこんな風に討伐できるんだが、二人が少し心配だ。ベータは戦闘にあまり関わることができないし、アミスは槍での攻撃を得意としている。空中からの攻撃に上手く対処できているといいんだが。


「ま、今は俺の心配だな」平地ということもあってか、飛竜以外のモンスターも押し寄せてくる。陸に空のモンスター。手こずるのは目に見えている。


「がああぁぁ!!」咆哮と共に戦闘の鐘が鳴らされた。数は十数体。獣型が二体。飛竜が十体。そして黒い鱗に包まれたドラゴンが一体。一人で終わらせるのは厳しそうだな。


地面に汗がしたたり落ちる。久しぶりに死線を掻い潜ることになりそうだ。両手に力を入れて相対する。


~ベータ視点~

「このモンスターの量はやばいな!」爆薬を撒いてアミスに展開して貰っているが終わりが見えない。これはブレイクも同じ状況だな。


特に飛竜が厄介すぎる。ブレスに接近攻撃。測りにくい間合いに翻弄されている。今のところはバフアイテムでアミスに戦って貰っているが押し切られるのは時間の問題だ。ブレイクの救助も見込めない。


「アミス!時間を稼いでくれ!」これは俺のとっておきを使う必要がありそうだ。本当ならもっと後の方にとっておく予定だったが、出し惜しみはしていられない。素材と魔力を使い切るだろうが、命が優先だ。下山は明日に引き延ばしてもらおう。


「任せて」彼女はそういってモンスターの波の中に入っていった。舞い上がる血飛沫がアミスのじゃないと信じて、調合を始める。収集の能力を使って辺りに散らばった魔力と死体をかき集めていく。


新鮮な肉に竜の血液、こぶし大の魔石に大量の火薬。そして莫大な魔力を一点に集中させていく。なんせ俺の能力は収集だからな。限界まで集めてやる。そしてあの技を,,,


轟轟と音を立て赤色に光輝く球体は今にも爆発しそうだ。あともう少し、あともう少し、魔力を練り込むことができれば完成する。


「アミス!避けろ!」~竜の雫~

完成した赤い球体をモンスターの群れに向かってぶん投げる。後はアミスが自分のタイミングで爆発させてくれるはず,,,展開しなくてもあと数秒で爆発するから関係ないが、怪我とかしたら困る。


ドオォォオオン!!閃光が辺りを包み込み、土砂が舞い上がり、大きなクレータが形成された。爆風に耐えるために俺は足に力を入れ、顔を腕で覆った。発動したようだな。


だが俺の竜の雫はこんなところでは終わらない。さらに周囲の魔力を飲み込みさらに爆発を引き起こす。アミスは無事だろうか。きっとあいつなら大丈夫だな。一つの影が戦線から離脱したのが見えたし。


「ベータ、もう少し、早く」後ろから槍で突かれた。アミスは俊敏性に長けているようだな。


「悪いな。思ったより早く完成しちまった」頭を撫でて謝罪する。こうして撫でてみると分かるが絹の様な金の髪は撫で心地が良いな。いくらでも触っていたい。


「それよりも、何とかしようぜ?」撫でる手を止めて、目の前に現れた青色の鱗に包まれた竜を睨みつける。こいつは少し,,,やばそうだ。


「私に、任せて」アミスは俺の横から消えたかと思えば、竜の喉元まで接近していた。俺は完全にアミスの補助だな。ボウガンを構えて狙いを定める。戦闘は駄目でも、支援は一級品だってことを教えてやるか。


~アミス視点~

「ッ!」竜の喉を槍で突いてみるがが手ごたえがまるでない。アダマンタイトか、それ以上の金属を攻撃している気分だ。余裕ぶっている場合じゃない。今はこいつを何とかしないと。


「展開」距離を取って槍を展開させ、赤い稲妻を発生させる。ヴァミリアの状態になったこの槍でもあの装甲を貫けるか怪しい。


「アミス!これを!」後ろから小さな透明の瓶を投げられる。咄嗟にそれを受け取って、蓋を開けて口の中に流し込んでいく。空気のように抵抗が無い青い液体は体中に巡り、力を活性させてくれる。


恐らくは身体上昇のポーション。これがあれば攻撃が通るかもしれない。槍を握り直して、竜と相対する。体長は二十メートルを優に超えている。翼を広げればもっと大きいだろう。前足には地面を抉る程の強靭な爪が、後ろ脚は飛翔に十分な力が伝わるように筋肉が発達している。


「ぎゃあぁぁあああ!!」耳を劈く咆哮で頭が揺れる。正直怖い。手が震えているのが分かる。戦場に駆ける金の槍という二つ名を貰っているが、ここまでのモンスターとは戦ったことが無い。任せてと強がってみたが、逃げ出したい。


「こっちだぞ!とかげ!!」そんなことを考えていると、私よりも戦闘が苦手なベータが袋を竜にめがけて投擲し、疾走を始めた。竜はそのことに激怒したのか、地面を蹴り、飛翔し頭を喰らおうと接近する。


このままじゃベータが死ぬ。何か打つ手は,,,これしかない。やっと見つけた私の仲間。こんなところで見捨てられない。


「展開」~赤雷纏~

ヴァミリアをさらに展開させる。柄の部分は完全に赤い稲妻になり、迸る力は大気中に放たれている。持っている手が感電して雷紋ができ始めている。赤雷で攻撃された時と同じ症状だ。


「アミス!あとは任せた!」


バクン!


彼はそういって竜の口の中に入っていった。体の一部ではなく全身を自ら入れた。あれがこの状況での最善の選択だ。変に避けようとして傷を負うくらいなら、丸呑みされて救助を待った方が生存率が高い。彼はその情報を知っていたのだろう。


でも、知識があっても実戦でできるかは大きく違う。だから私は、彼に彼らについて行くと決めた。


「返して、もらう」~赤雷槍~

赤い閃光を携えた槍が竜の体を貫いた。しかし生命活動を絶つほどの一撃ではない。前足を消し飛ばしたくらいだ。完全に勝つためには三つの心臓を破壊するか、身体の七割を欠損させないといけない。


ベータのことを考えると、心臓の破壊は難しいだろう。腹部の攻撃は亜彼にも当たる可能性がある。七割の方を選択するしかなさそうだ。


「装填」右手にもう一度赤い槍を構える。魔槍は所有者のもとに何度でも帰ってくる。世間では呪いと呼ばれている。死ぬまで一生近くにあるからだ。


「があぁぁああ!!!」竜はブレスを乱射する。この狭く不安定な地面が向こうにとって有利な環境を作り上げている。


舞い散る岩と火の粉が皮膚を傷つけていく。そして遅れて吹いてくる風がまた地面を巻き上げて足を掬おうとしてくる。ここに居たらまずい。


「っ!!」バックステップを取って回避をする。そのあとはサイドステップを刻みながら徐々に距離を縮めていく。火球を避けながら反撃のタイミングを窺ってはいるが、中々隙を見せてくれない。


「これは、死ぬ、」赤い雷に包まれながら、死が近づいてくるのが分かる。死神の鎌が首に当たっている。じめっとした嫌な雰囲気。戦場で何度も味わった死の雰囲気だ。


~ブレイク視点~

「おらあああぁぁ!!」蒼を纏い、獣型のモンスター二匹を一斉に薙ぎ払う。あのまま飛んでいったら奈落の底だろう。これで残るは飛竜と黒龍だけだ。


「名を、なんという?」誰かの声が頭の中で響く。聞いたことのない声だ。低くそれでいて優しさが有り、その中に隠しきれない威厳がある。黒龍の声か,,,?


いや、今は飛竜を殺さなくては。黒龍は最後まで動くことはないだろう。十体くらい今の俺なら簡単に倒すことができるだろう。鱗も赤だから下級で間違いない。


「感情の奔流!!」下段から上段に向かって大きく蒼を纏わせた大剣を振り上げる。煌々と輝く青い光に飛竜の群れは瞬く間に包まれ塵と化した。これで残るは黒龍のみ。


「汝の、名は?」黒龍は巨体を揺らしながら起き上がる。大きさは三十は超えているだろう。翼はボロボロで飛翔には使えないことは見て取れる。だが、それを補うように四肢が発達している。前脚は鉤爪の様になっていて、地面が丸ごと持ち上げられている。


禍々しい顔には相応の牙が口からはみ出ている。全てをかみ砕く強靭で凶悪な牙は見る者を震え上がらせる。片方の目は完全に鱗で覆われている。これが俺が戦うべき相手。不明瞭だった存在が完全に目の前に現れた。


「ブレイク。お前は?」剣を魔法空間にしまい、愛剣を取り出す。今の今まで汎用大剣だったからな。こっからは本気で行かせてもらう。それにしてもこの展開どこかで見たような,,,


「トーワ。我の名だ」人語を操る龍は黒翼を広げ、辺りに魔力をまき散らし始めた。乱雑に散った魔力はやがて集まるようになり、臨界点に達した魔力の塊はゆらゆらと揺れながら燃える動きを見せた。


「尋常に勝負と行こうか」いつもの様に大剣を構え、不敵に笑う。なんでだろうな。好敵手と会うと笑みがこぼれてしまう。これは生まれ持った性なのか、運命なのか。それとも俺だからか。


「汝の自由、見せてもらおう」炎の柱は一層激しく燃え盛り、俺たちのことを照らし始める。いつの間にか空は分厚い雲で覆われていた。その先には晴天が。下には暗雲が立ち込めていた。どう転ぶかは俺次第だ。


神はサイコロを振らない。いつだって決めるのは俺だ。誰にも指図されない。左右されない。俺が俺である限り。

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