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ブレイクソード  作者: 遊者
神の世界
38/97

第三十八話 神界5

「神達はサービス業の頂点だな」カムイは下界に降り立ち、祭日で神社に来た参拝客たちに神力を分け与えている。


「そうだな。お客さんの腹を満たすだけのスキルを求められるな」八咫烏もまた下界に降り立ち同じところで力を分け与えている。


「それにしてもあの別れ方きついんじゃないか?」キンカムイは笑いながら参拝客と目を合わす。神の見え方は人それぞれだが、多くの人間は孤高の存在だと信じてやまない。だからこうやって談笑していても気が付かない。それどころかありがたい言葉を貰った気でいる。


「アクセルはそんなとこで終わらないさ」翼を大きく広げ民衆の注目を集める。下界に降りた神達の仕事は信仰している人間に対してリターンを分けること。それができなければ堕天をするか力が大幅に下がるか。それを避けるために神達は必死なのだ。


もっとも、力が下がった神は信仰もされないし、神界でも馬鹿にされる。だから堕天する神が後を絶たない。それを食い止めるためにも神達は選別を重ねている。


「キンカムイ様は美しいですなぁ」一人の参拝客がカムイを褒め称えている。老人でよぼよぼ。足元はおぼつかなくて杖で何とか立っている状態だ。


「カムイは俺と談笑してないで参拝客と向き合いな。俺と違って信仰が少ないからな」実際のところ、大和国もしくはジパングと呼ばれるところでは烏の方が信仰されている。


理由は二つ。一つは今の大和国の頂点である人物を今の地位まで導いたとされているのが八咫烏とされているからだ。そしてもう一つ。熊の神が信仰されているのは極一部の地域に住んでいる民族だけだからだ。


「そうだな。こうやって出張しないと信仰が足りなくて力が無くなっちまう」だからカムイは信仰されていない地域に赴き、烏が信仰されている神社にお邪魔しているってわけだ。


「爺さん。あんたはまだまだ現役だぜ?」カムイは拝んでくれた爺さんに力を分け与える。


「お、おぉ!」力を貰った爺さんは筋骨隆々の体になり、禿散らかした頭はふさふさの髪になった。それに死んでいた目には活気が満ち溢れ希望を見据えている。


神の力にはいくつかの種類がある。力を分け体を強化させるもの。運気を上昇させるもの。五感を強化させるもの。ここでは挙げきれないし、もっと細分化される。カムイは体を強化させる種類に分類される。


「お前に負けてられないな」烏はさらに大きく翼を広げる。それはまさに太陽の輝き。圧倒的カリスマ。


「おおぉぉ!!」その輝きを見た者たちは五感が研ぎ澄まされていく。空気の流れ。普段は聞こえない音まで。全てが手の中にあるように分かっていく。烏の力。それは五感を上昇させる力。


「お前のそれ。ほんとにチートだな」カムイは笑いながら参拝客と向き合う。まだまだ祭りは始まったばかりだ。


~祭日のどこかで~

「転生した先で祭りがやってるなんてな」黒い髪に整った顔立ちの男が着物を着こなして出店を見ながら歩く。


「ラッキーだな。それにチートスキルも貰ったし」隣を歩くのは整った顔とは言えない。そしてそのことをコンプレックスだと思っているのか帽子を深く被り、分厚いレンズが装着された眼鏡をかけている。


二人の手にはリンゴを砂糖で固められた、いわゆるりんご飴を舐めている。


「リョウマ、お前はどんな能力を貰ったんだ?」


「俺か?竜化。ヒデ、お前は?」リョウマと呼ばれる男は能力の名前を言うと、目が赤くなり、瞳孔が細くなり皮膚の一部が赤い鱗に覆われた。頭の一部からは小さな黒い角が生えた。


「かっこいいな。俺は爆発」彼の片手には赤い光が集まり小さな爆発を起きた。その小ささ故、皆は異常性に気が付いていなかった。一部を除いて。


「これでこの世界の整った顔を壊してやるんだ」ヒデはそこら辺の通りかかった通行人の頭を掴み爆発させた。掴まれた男の顔はぐちゃぐちゃになり、血が辺りに飛び散った。


「「「きゃあぁぁ!!!!」」」楽しかった祭りの雰囲気は一変して狂気が入り混じる空間に変貌した。


「はは。落ちこぼれの俺たちはこうやって世界を壊さないとな!!」完全に竜になったリョウマは口から火炎を吐き出した。瞬く間に火の海になった空間を二人の神が食い止めに入った。


「これだから異世界人は,,,」カムイは腰に佩いていた大太刀を抜き取り火球を全て斬り伏せた。


「嫌いなんだ、だろ?」斬り落とせなかった火球や爆発を受け止めるように烏は翼を大きく広げ、漆黒の中にと吸い込んでいった。


「なんだお前ら?俺たちの最強生活を邪魔すんなよ?」ヒデは間合いをあっという間に埋めカムイの腕を掴み爆発させた。


「ぐっ!!」カムイは今までに受けたことのない攻撃に後ずさりしてしまう。爆発された腕の表面は焼き爛れ、神経がむき出しになっている。


「この世界で俺らに勝てるの神だけなんじゃね???」ヘラヘラと笑いながら言ったリョウマのその言葉に神は額に青筋を浮かべた。


「「神を舐めるな」」殺意をむき出した神に異世界人二人は後方に引き下がった。リョウマは大きな翼で大気を押し出し、ヒデは足を爆発させて。


「烏、お前は爆発持ちを。俺は竜を殺す」カムイは大太刀を鞘に納め、大きく姿勢を下げ、抜刀の構えを取った。


「承知した」烏は翼を圧縮し、深い暗闇を生み出す。


「ごちゃごちゃ抜かしてんじゃ,,,!」リョウマが何か言いかけた途端、どさりと鈍い音を立てて何かが落ちた。竜の右前足だ。


「お前ら調子に乗り過ぎだ」~神威古潭~

音を越え光も超えるその抜刀で前足を斬り落としたのだ。古来よりも語り継がれてきた神の威厳を剣に託すその技は神業に相応しい。


「俺の名前はキンカムイ。神だ。もっと崇めたらどうだ?」~火無威~

カムイは竜に変身したリョウマのブレスを封じる。火を失くす威厳。熊が火を恐れない理由。それは神が火を操るからだ。


「黙れ!お前らになんの苦労が分かんだよ!?」リョウマは自身が持った巨体をフル活用し暴れる。数十メートルの体は動くだけで脅威になる。竜が強い種族とされている理由はそこにある。


「逆に聞く。お前らに俺らの苦労は何が分かんだ?」竜の体を軽くいなし山に直撃させる。カムイは依然額に青筋を浮かべている。


「俺等が作り上げた世界。お前らみたいな来訪者に何が分かんだって聞いてんだよ!!」~竜神白威~

上段から降ろされた白竜を模した大太刀は竜の体を真っ二つにし、絶命させた。カムイは自身たちが作り上げた世界に愛情を持っていた。物語の根幹に居座る者として。


「リョウマ!?お前ら爆発させて殺してやるよ!!」ヒデは自身の体の認識を広げ空気中を爆発させた。それは連鎖反応を起こし、烏の体に迫りくる。


「その爆発、アクセルの餓狼に及ばないな」~案内人~

最適化された道を辿り、烏は難なく爆発を回避する。こんな攻撃は見慣れたもの。それどころか普段よりも退屈なほど遅く威力も小さいものだった。


「アクセルって誰だ!?俺よりもイケメンか!?それとも強いのか!?まぁ俺よりも下なのは分かるがな!!」~爆裂発卦~


ヒデの空間認識能力が向上し、烏も体の一部と認識された。


「くっ!」爆発を直に受けた烏は翼を失い地面に落ちた。


「お前キンカムイと同じ神なのか?だとしたら格が低い,,,」


「神を舐めるなと言っただろ?」~八咫烏~

翼を失ったはずの烏は太陽の如く熱く眩い翼を手に入れ天に昇った。そう彼は太陽の神。墜ちては昇ってを繰り返す。世界が崩壊するまで。終わりを迎えるその時まで。


「じゃあな」五感を強化された民衆がヒデに襲い掛かる。彼の能力は案内人。それは人々の意思までも案内し、自由自在に操ることができる。


彼がなぜ大和国でここまで信仰されていくのか。それは民衆の意識までも動かせるからだ。


「く、くそがぁぁぁ!!!!」断末魔と共に一つの命が、魂が儚く散った。神を下に見た、馬鹿にした奴の末路は皆死を与えられる。神罰。どの世界でも同じだ。


~ヒデ視点~

俺とリョウマは幼い時から仲が良かった。俺の醜い容姿を見ても彼は笑わなかった。それどころか俺の痛みに理解を示してくれた。お前のコンプレックスは分かる。それで傷がついているってことも。


「お前の痛み俺が背負う。だからお前は俺の痛みを背負ってくれ」笑いながら肩を回してくれた腕には今までに感じたことのない温かみがあった。友情。俺が欲しかったものがそこにあった。


「任してくれ」俺は泣きながらその提案に乗った。そこから嫌いだった小学校に行き、中学校、高校と上がった。周りから馬鹿にされることはあったが、リョウマが全て背負ってくれた。


俺は見返りとして彼の悩みを聞いて解決した。恋愛の話もあれば勉強の話も聞いた。俺はリョウマよりも勉強ができた。それどころか周囲よりも頭二つ抜けて賢かった。だから俺は挫けないで学校に行った。リョウマのおかげもあったけど。


そして高校生活が終わろうとした日、俺たちは交通事故にあった。暴走したトラックにひかれて運転手もまとめて死んだ。ベタな話だろ?事故にあって異世界転生。


そのことに気が付いたのはこの世界の管理者に出会った時だ。隣には見慣れた顔リョウマがいた。向こうはこのことに気が付いていなかったようで辺りを見渡していた。


俺はこの手の本をたくさん読んでいたからすぐに状況を理解できた。異世界転生で俺つえーができるって。


「リョウマ、俺達死んだみたいだ」状況が理解できていなかったリョウマにいつもの口調で伝えた。無駄な心配を、不安を煽らないように。


「嘘だろ!?なぁ!!」リョウマはそれでも取り乱して俺の胸倉に掴みかかった。それを止めたのがこの世界の管理者。オリジンと呼ばれる五人だった。


「君たちが死んだのは事実だ」蒼い髪を揺らしながら整った顔立ちの男が俺たちの間に入った。なんで異世界人はこんなに整った顔をしてるんだか。俺は怒りの炎を燃やしながらリョウマから離れた。


「転生するか、輪廻の輪に入るかどっちがいい?」蒼髪の男の後ろから出てきたのは茶色い髪をした超絶美人の女だった。正直俺の好みドストライク。今にでも口説き落としたかった。でも醜い容姿が邪魔をした。


「輪廻の輪に入ると記憶は無くなるから転生をお勧めするぜ」黒い髪に赤色のメッシュ。それを隠す様に深くフードを被った男が影の中から出てきた。手には短剣を持っていて並々ならぬ雰囲気を醸し出していた。恐らくこの中で一番やばい人間だ。


「だってさリョウマ。俺は転生するがお前は?」俺は初めから転生するつもりでいた。醜い自分を知らない世界。そこに行ければ最高だからな。


「お前が行くなら俺も行く。言っただろ?痛みは分かち合うって」リョウマは戸惑っていたが俺についてきてくれることになった。


「そうか。なら俺らの世界楽しんでくれよな」蒼髪の男は一瞬で大剣を出すと俺たちの首を斬った。でも俺はこの後の展開を知っていた異世界に行けるってな。


そのあとはチート能力を貰った俺たちは略奪と快楽の日々を送った。リョウマは初めの方は止めてきたが、少しすれば慣れて俺と同じような行動をとった。


順風満帆。そのはずだった。この祭りに来るまでは。管理者と同じ様な存在。それに刈られた。悔しかった。だからもう一回転生してこの世界を壊してやる。


今度は復讐者として。覚えておけ。このクソみたいな世界。復讐の意識の中で俺の魂は輪廻の輪に入った。


「あの二人は大丈夫でしょうか」青緑の髪を揺らしながら下界を見つめる神がいた。オーランだ。彼女の表情は子供を心配する親の様な顔をしていた。


信仰されるのにはカリスマと力がいる。あの二人は両方持っているが使い方が下手だということを長い付き合いの彼女は知っている。そしての欠点を指摘しても直さないことも。


「まぁ、上手くやれるでしょう」彼女は振り向いて京の修復を始めるための作業を始めた。今日直す所は烏が暴走していた所とその周辺だ。彼女の神界での役割は京の管理。これで信仰の力を分けて貰っている。


京と言ってもその一部分。エルフが信仰している神と、大和国で信仰されている神が住んでいる地域だけだ。それ以外は別の神が管理をしている。


「酷い荒れ方をしていますね」烏が暴走していたところは大きな穴が空いていて、天の空と下に続く空と繋がっている。瓦礫は山のように積もっていて頂上が見えない。そして巻き込まれた神達の肉片や血が飛び散っている。


「この神達の傷、治っているといいですが」肉片を布越しに持ち上げて一か所に集めていく。血も水魔法で流して肉片と同じところに押し、土魔法で固める。こうしないとまたどこかに行ってしまう。


あらかた肉片と血を集め終わった頃、オーランは自分の血で大きな魔方陣を描いた。形は真円で円は三個。内側には魔法文字で埋め尽くされ、外の円からから六芒星、五芒星、そして三角形の線が書かれていた。


「これで魔法の修復の準備は完了ね」指先から血を流しながら拳を握る。我ながらいい出来だ。形も悪くないし、魔法文字も上手く書けている。それに魔法を構築する情報も簡潔で効率的にまとめられている。


「あとは魔力を入れるだけ」今から発動させる魔法の後のことをイメージする。この町並みはどうだったとか、この神達はどんな姿をしていたのかなどを大まかだけど、全てを思い描く。これをやらないとこの魔法は発動しても上手くいかない。この作業だけは何回やっても緊張するし、楽しい。


自分がこの世界にどれだけの思い入れがあるのかを試せるから。それに忘れられた神様も思い出せたら復活してくれる。


「ワールド・リバース!」魔法の名を叫ぶと血で書かれた赤い魔法陣が緑色に変わり光を放ち始める。第一段階は成功だ。これで骨組みは構築できる。この流れに乗っかって魔力をさらに注ぎ込む。失敗すれば緑色のまま光を失う。成功すれば,,,


「良し!」青色に変化し、自分のイメージ通りの世界を生み出せる。今回は無くなってしまった京の修復だから前の状態に戻すだけ。これが意外に難しい。


粉々に割れた見たことのないコップの元の姿を想像するくらいには。ま、私くらいになると記憶魔法を応用して楽をするんだけど。曖昧なのは私の想像で補っている。


「あとは待つだけ、ね」発動が終わった魔方陣は用なし。後は見るだけ。世界が修復される様子を。まずは肉片と血が神達のもとに戻っていく。ここは想像や記憶じゃ補えないから生きている神達に還元される。もしくはこれから復活する神達に割り振られることになる。


その次は世界の骨組み。地面と空気が構築されていく。さきほどまで空いていた穴は光に包まれたかと思うと、瞬く間に埋まった。そしてその上には建物の基礎となるものが建ち始めていた。


そしてそれを覆うように魔力が、空気が満ち始めていた。これで神界で生活ができる基盤ができた。


その次は細分化されたモノが。建物の柱ができて、それを覆うように床と壁、屋根が生まれる。何もなかった土の上には草が生え、それを彩るように花が咲く。そして消えていたはずの神達が帰ってきた。今まで起きたことが何もなかったように。


「上手くできたわね」今回発動させたのは世界を作り出すもの。ではなく世界を元に戻す魔法。厳密にいえば時戻しの魔法。限定された場所を限定された時間内まで。


これは使い手にもよって変わるが私の場合は半径五百メートルで一週間前までなら戻すことができる。広い範囲にもできるけど、それだと戻せる時間が短くなる。逆に狭い範囲だと何年も前に戻せることができる。イメージできれば、だけど。


この魔法の不便なところはここにある。イメージによって左右されてしまうからだ。基礎魔法は数々の偉人が生み出してきた最適解の魔法。正解が一つだけだからイメージする必要が無い。オリジナル魔法もそれの組み合わせに過ぎない。


そこからの応用のオリジナル魔法には発想力が必要だけど、それも基礎魔法の枠に囚われている。


それに代償も払わないといけないから本当に使い勝手が悪い。今回の場合は神界の神達に信仰力を代償にしているから使い放題だけど、ここだけでしか使えない。地上に降りたら力のない魔法使いだ。


「お前の魔法はやっぱりすげぇな」後ろから声を掛けられた。この声の感じからするにサウスだろう。


「あんたの力を分けて貰っているからね」振り返って返事をする。やはりそこに立っていたのは青い髪を整えないで無精ひげを生やしている不潔感漂う男、サウスが。


「それにしても、だ。お前の能力、どこまでできるんだ?」臭いのが近づいてくる。なんでこいつは風呂に入らないのか。浄化魔法で体を清潔にしないのか。わたしには本当に理解できない。


「臭いから寄らないで」鼻をつまみながら後ろに下がる。数メートル離れても漂う臭さ。なんでみんなはこいつと酒を飲んだりできるのかね。


「傷つくな。ま、そこまでやるんだったらここら辺で止まるよ」サウスは頭を掻きながら止まった。頭からはフケが落ちている。汚い。


「そうしてくれると助かるわ」フケが付かないように風魔法で体を覆いながら距離を取る。これで臭いも吹き飛んでくれればいいんだけど、臭すぎて完全に飛んでくれないんだよね。


「で、どこまで使えんだ?」今まで隠してきたことを聞かれた。ここは隠し通すしかないわね。


「しっかりと把握してないわ。下界に降りたけどすぐに殺されちゃったから」手を鼻の前でパタパタさせて適当にあしらう。実のところ自分の能力の限界を知らないから言いたくないわ。


「その顔は知らないって顔だな」ばれてる。顔馴染みだし、昔からの付き合いだから嘘ついているってことくらいは手に取るように分かるか。


「はぁ。あんたの前じゃ自分を作るのも無理だわ」ため息を吐いて即席で作った魔法の椅子に腰かける。サウスとは神に成る前から知っていたから作るだけ無駄か。キャラ作りはここら辺で終わりにします。


「当ったり前よ。それに管理者のお前が下界に長く居れるわけ無いしな。でどこら辺までならいけんだ?」サウスも自分で作った不格好な椅子に腰かけた。座面がでこぼこしているから痛そうだ。材質も金属か同等のものを使っているし。なんで平然と座っていられるのかな。


「想像できるとこまで?補正がかかるからもう少しだけ上の方」水魔法の応用でお茶を作って飲む。コップ?そんなものは無いわ。直接口の中に注ぎ込んでる。


「なるほどな。それよりもお前、その飲み方止めたらどうだ?」サウスは笑いながら亜空間から酒を取り出し、お猪口に注ぎ、一気に飲み込んだ。


「あんたに言われたくないわ。そのお猪口も私をからかうために使っているんだしょ?」ちびちび酒を飲む彼に指摘する。


「似たもの同士だよな」そう言うと彼は瓶の上をデコピンで吹き飛ばし、浴びるように豪快に飲み始めた。


彼の酒の飲み方はどこかの漫画を連想させるようなところがある。瓶を砕いてそれを飲む。私はガラス片とかが怖いからノーセンキューだわ。それに体に浴びたら魔法を使わないと綺麗にならない。わざわざ手間をかけてやるような飲み方じゃない。


「そうね」私も口をあんぐり開けて宙から放出される茶を飲んでいるわけだし。豪快さでいえば大差ないだろう。こんな汚い男と一緒にされるのは嫌だけど。


「それで、あんたがここに来たってことは何かあったの?」私とサウスが合うときは何かあったときだけだ。神の管理をどうするとか。誰が堕天したのか。誰が昇ってきたのか。そういう話の時だけ。


「今回の戦争の話だ」先程までの、のらりくらりとした表情と動作とは一変して真剣な表情に変わった。手には相変わらず酒を持っているが、血管が浮き上がっているのが見える。力が入っちゃっているな。


「リラックスして。時間はたくさんあるから」興奮状態で話していても感情によって左右されてしまう。今はこうだったけど後で違うなんて言われたら対処ができないし、管理者の私にしわ寄せが来るのが目に見える。


それを避けるためにもサウスには冷静で居て貰わないと。管理者の一人だから。


「口を開けて」こういう時は私特製の激マズ激渋さん汁を飲んでもらうのが効果テキメンだ。


「ん?あぁ」彼はおとなしく私の言うことに従ってくれた。体が臨戦態勢なだけで思考は冷静なのかな。ま、ここまで来たら突っ込んじゃえ。


「これどうぞ」空中からどす黒い緑色をした液体がサウスの口に向かって放たれる。彼も私が何をするのか気が付いたようだがもう遅い。確実に口を閉じるより液体のほうが速い。


「まっっっっっじいいいぃぃぃ!!!!」口の中に入った瞬間叫びながら彼は胃の中のモノ全てを吐き出した。これで彼も落ち着きを取り戻してくれるだろう。液体には感情抑制の効果が入った薬が混ざっている。怒るなんてことはまずないし感情が昂ることも無い。


彼が叫びだして数分。やっと落ち着いた。時間が少しかかってしまったがここから先の話を円滑に進めるためには仕方のないことだろう。


「なんてもの飲ましてくれたんだ」彼は口の周りを体に巻き付けていた蛇で拭きとりながら文句を言ってきた。文句を言ってくるのは想定外だ。薬の量が足りなかったのか。


「ごめんって。でもあのままじゃ行ってたでしょ?戦場に」謝罪に私が取っておいた酒を渡す。


「あぁ、そうだな」彼は不服そうに受け取り、亜空間にしまった。彼も過去の自分が抱いていた感情に気が付いたのだろう。


「で、戦争で何かあったの?」椅子に座り直して彼に問う。あそこまで力が入るってのは余程のことがあったのだろう。


「ネオから聞いた。戦争は終わらないそうだ。それどころかこの全ての世界中に、散らばるそうだ」彼は震えながらそう言った。その震えは諦めている様にも見えるし、諦めきれないと思わせる闘志もあった。彼の二面性には驚かされることが多々ある。


「でも、確定していないんでしょ?」能力を使って未来を見てみるが、たくさんの分岐が見える。いくつかの終わりには終結するがそれでも戦争は終わらないわけじゃないし、世界中が戦争の炎に晒されるわけでもない。


「そうだが、ネオは世界でもっとも先に生きている奴だ。ほぼ確定だろう」サウスはため息を吐きながら酒を飲み始めた。彼の悪い癖で、現実から逃れるために酒を飲む。これだけは神に成っても変わらない。


そして飲む酒も同じで名前はエンピリアン。自身が思う終点まで行けるほど活力が湧くとされる酒。


「ネオってやつ、どこか信じられないんだよね」同じく未来を見れるものとしては確定していない未来を確定している様に話しているネオはそこか疑問を持ってしまう。


「あとまだ言いたいことが。神が下界で人間を殺したそうだ。それもお前の管理下の」その言葉を聞いてピクリと眉が動いた。八咫烏とキンカムイのことだ。


「それで?」


「ここからは俺達だけの話だ」


神界がまたいつもの日常を取り戻したころ。世界の片隅で二人の神が大きな爆弾を抱えた。それは世界の均衡を壊すほどの。

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