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ブレイクソード  作者: 遊者
神の世界
35/97

第三十五話 神界2

幾ばくの時が経った頃、音を立てながら京全体が揺れ始めた。小さかった揺れは次第に大きくなり、ゴゴゴゴゴと重く鈍い音を立てながら上下左右に、振り子のように。


「なんだ,,,?」大きくなっていく揺れを感じて俺は待合所から外に出た。屋内に居れば倒壊した建物の下敷きになるかもしれないし、なにより外の状況を把握したかった。


皆の考えも同じようで神達も外に出て、この後の動向を窺っていた。これほどまでの大きな揺れは生まれてこの方経験したことが無い。自然の強大な力に何もできない自分に対して無力感を感じる。


「帰ってきたな」「何回目だ?」「百から数えてないな」「あいつも物好きだな」神達は俺の感情とは反対で、この状況を恐れてなどいなかった。むしろ非日常的なものに喜々とした表情を見せていた。


これが格の違いなのか。そんなことを思いながら俺は揺れの中心に向かった。烏の気配を微弱だが感じることができたからだ。そんなのが無ければ俺は一目散に逃げていただろう。


先程とは全く違う顔を見せる街を通りながら俺は歩いた。建物は空中に浮き、地面は塊になり、落ちたり、跳ねたりしている。あらゆるところで竜巻が起き、通り道全てを薙ぎ払っている。


世紀末。もしくは世界の終わり。この言葉が相応しいだろう。現に今も破壊の勢いは増している。なのに神達は催し物が始まったかのように笑っている。俺からしたら不気味な光景だ。


まるで夢を見ているかのような、風邪をひいたときに見る、苦しくて意味の分からない夢。通常じゃ考えもできないし、見ることもできないあの独特な世界。あれが今目の前で起こっている。


本当にこんなところに烏がいるのだろうか。そんな疑問が何回も頭をよぎるが、烏の気配があるから居ると信じて振り払う。


見かけることが多かった神達も中心に行けば行くほど少なくなっていった。それもそのはずで竜巻は天をも巻き込み始め、地面は砕け生命を根絶させようと飛んできている。


飛んできた物を短剣で弾くことは出来るが、前に進むことが全くできない。それに竜巻が寄ってきたら後ろに下がらないといけない。それに挟まれることがあったら俺は間違いなく魂を削られるだろう。


ゴオオオォォ!!


「っ!!」一瞬だが気を抜いた瞬間に竜巻二つに挟まれてしまった。後ろと前。横は岩や建物が飛んでいて行くことができない。どうすればいいんだ?短剣で弾き続けるか?いや体力が持たないだろう。なら___


「茨の中に答えがある、だったな」幼い頃エルザに言われたことだ。困難なことに飛び込んでこそ、正解が、欲しいものが存在すると。楽をすれば見つからない本当のモノを。


俺は竜巻の中に飛び込んだ。一か八か。生きるか死ぬか。いや存在が消えるかのどちらか、だな。


「無茶をするんですね」竜巻をかき消して一人の女性が目の前に現れた。見た目は蒼緑の髪を腰に纏めていて、エメラルドの瞳にはよどみがなく、透き通っていた。そして何よりも目を引くのが長い耳に、黒い小さな角だ。


「あなたは何者ですか?」神すらも接近を嫌がる竜巻をかき消す彼女を警戒するように俺は間合いを取った。


「私はオーラン、エルフです。この角は魔法障害で出来たものです」彼女は俺の警戒を気にも留めないで頭を下げて挨拶をしてきた。それは余りにも無防備でいつでも殺せるくらいに。


「何故僕を助けたんですか?」これだけの力を持つ彼女が俺のことを助けた理由が分からない。


「ワールド・ブレイクの発動を手助けしてくれたからですよ」笑いながら彼女はある場所を指さした。今回の揺れの原因と思われる、雷と風が入り乱れ、赤い光を纏う球体を。大きさは数百メートルを超える歪な球体だ。


「道を示して」彼女が言葉を発すると竜巻は何かを避けるように回転し、流れ込んでくる障害物は道案内をするかのように球体に流れ始めた。


「それだけです。ご武運を。欲しいものは必ずありますよ」彼女は笑いながら姿を消した。文字通り何も残さないでこの場所から。魔法も能力もスキルも封じられた世界で。彼女はいったい何者なのだろうか。本当は使えるだけで俺の力が足りていないのから使えないのかもしれない。神のみぞ知る話だな。


ってそんなことを考えている場合じゃないな。俺は派手な演出をしている八咫烏に説教をしてやらないといけないからな。それに腹を決めたってのにそれを消されたからな。これも全部こんな事をしているアイツが悪い。この際溜まりに溜まった鬱憤を晴らさせてもらおうか。


「こんなことをできるのは神しかいないよな」人工的にできた道を歩きながら球体を目指す。歩くという行為は簡単だが、やはり神の威厳というか力というのが俺に圧をかけて進めないようにしてくる。


「誉め言葉か?俺もついてくぜ」後ろから聞いたことのある声が聞こえた。振り向きたくもないが、機嫌を損ねたらめんどくさいから反応しておくか。


「お前じゃないぞ」そこにはカムイが飄々とした表情で立っていた。しかし、そんな顔とは裏腹に腰には剣と身に着け、背中には大弓を担ぎ、毛皮で出来たベストを着ていた。大自然を纏っているかのような見た目に俺は少し驚いた。


「そんなこと言うなって。どうせこの先はお前じゃ進めないからな」俺のことを馬鹿にするように鼻で笑った。


「何故だ?」その言葉に腹が立った俺は強めの口調で聞いた。


「簡単さ。神に成れていないからな」腕を広げながらカムイは俺の横を通り、軽々と前の方に進んでいった。


「どうだ?お前にこれができるのか?」笑いながら聞いてくる。確かにそんな芸当は俺にはできない。悔しいが認めるしかない。


「できないだろ?だから俺からの一方的な贈り物だ」カムイは懐から一つの瓶を取り出して俺に放り投げた。


中身は透明な液体で満たされていて、蓋がされている。開けてみるとなんとも言えない香りが鼻を突く。例えるならそこら辺の雑草をすり潰したみたいな。とりあえず健康には良さそうな臭いだ。


「これを飲むのか?」確認を取ると頷いた。気が進まないが、飲むか。ていうか飲む以外の選択肢が無い。不自由なものだ。


俺は瓶に口を当てて一気に流し込んだ。味は意外になく、鼻から抜ける臭いにさえ目を瞑れば普通に飲めるものだった。


「それで来れるはずだ」カムイの言う通り俺は足を前に運んだ。確かに感じていた圧が無くなっている。どういうからくりなんだ。


「一時的に神に成れる神薬だ」俺の心を見透かしているかのように回答してくれた。そういうのって結構高価だったり、代償が付いていたりするが、何も言わないってことは何もないのだろう。


「なるほどな」俺は納得して、カムイの後ろを歩く。瓶は適当に放り投げた。どうせこの悪天候だ。誰かに当たってもどっかの建物から出てきた物品としか思わないはず。


にしても今の俺は神なのか。実感が湧かないな。本来は偉業を達成したりして生涯を捧げてやっと成れるかどうかなのだから仕方ない。スキルも能力も使えるようになったわけじゃないしな。オーランという女性は本当に何者なのだろうか。


「ここからは気を引き締めた方がいい」カムイは剣を片手に取り、構えを取った。何が始まるってんだ。


「お前も死にたくないなら,,,いや、魂に負担を与えたくないなら用心しな。来るぞ!!!!」カムイは剣を超高速で動かし、何かを切り刻んだ。それは余りにも完成された業だった。


ビチャビチャ!!何かが飛沫を上げて地面に散らばった。赤色の塊から滲み出ているもの。血だ。何を斬ったんだ?皆目見当がつかない。ただカムイの言うとおりにしておいた方がいいな。


短剣を逆手で持ち、何かが来ても反応できるように上段と下段に構える。心臓部分さえ、中心さえ守れれば大丈夫だろう。


「剣は苦手でな。これを使うか。お前も居るし」カムイは俺を見ると、背中に担いでいた二メートルはある大きな弓を取り出した。俺が足手まといみたいな言い方しやがって。


「お前も神を使役するなら力を得な」三本の矢を素早く腰に付けた矢筒から取り出し、一斉に撃ちだした。それはやはり前方から飛んでくる何かを迎撃していた。こいつには何が見えているんだ。


「じゃないと、烏の暴走を止められないぜ?」球体に向かって数百の矢を穿ち始めた。目にも止まらぬ業。


「お前の言ってることが分からない!烏が暴走ってどういうことだ!?」短剣を構えながら前に進む。カムイが、そしてオーランが作り出した道を一歩ずつ。


「昇るってのは神力を使うんだ。魂だったり、器が足りないと、暴れるんだよ。そして不足した分をここから持って行くってわけだ。現に京が崩れてるだろ?」後ろを見ると綺麗だった町並みは跡形も無くなり、瓦礫で埋もれている。空は赤黒く染まり、立ち上っていた雲も形を崩している。


「それを補填するのがお前だ。さっきの薬はアイツにやる予定だったが,,,お前が使役してんだろ?助けに行ってこい」カムイが幾千もの矢を大弓に番え、構えた。ギリギリと音を立てているそれは少しの衝撃で壊れそうな程、歪で不快な音を立てていた。


カムイの言っていることが分かった気がした。俺は任されていたんだ。この京を守るという大事なことを。


気が付いた時には俺は心の底から打ち震えた。事の重大さを。そして今自分が何をするべきなのかを理解して。


「任せてくれ」餓狼を纏い俺は球体のもとに走る。今まで使えなかったスキルが使えるってことは俺の覚悟に薬が呼応してくれているのだろう。


「お前の覚悟気に入った」~古潭~

後方から唸るような爆音が聞こえ、それを追うように莫大な数の矢が飛んできているのが分かる。そしてそれは前から飛んでくる羽を狙っているということも。あいつ、本当に手のかかる奴だな。


俺は驀進した。カムイの腕を信じて。烏に理性が残っていることを信じて。短剣に、纏わせて餓狼は狼の形になり、俺の行く手を阻む障害物を喰らい始めた。俺の意思とは関係なく、こいつらが邪魔だと思ったものは全て。


「今行くからな」球体の上部が開いたのが見えた。そこに矢が飛んで行っているってことはあそこに烏がいるのだろう。矢は絶え間なく飛んできている。タイミングを見計らって突撃しないと巻き込まれる。


「待っている」どこからか烏の優しい声が聞こえた気がした。理性があるうちに助けに行かないとな。


「ここだ!!」矢が一瞬だけ途切れた。入るならここしかない。俺は間に入る形で球体の中に侵入した。俺が球体に入る前に見た空は汚く濁っていた。絵具をばらまいた水の様な乱雑な汚い色。


グチャリと音を立てて俺は着地した。


「気味悪いな」球体の中は赤く、脈を打っていた。山龍の時を思い出すな。あの時もブレイクを助けるために自ら進んで気持ちの悪いところに入っていったな。


足元は血?の様な液体で満たされていて歩きにくい。それに時折、大きな脈を打つせいで不安定だ。餓狼で身体強化していても抑えきれない位だ。神の力があるのにここまでの差があるなんてなんだか悔しい。


「それに、羽のおまけもあるのか」~炎纏餓狼~

炎を身に纏わせて迫りくる羽を焼き払う。前までとは力の出力が違う。烏に力を渡すのが惜しいな。


炎のおかげで地面を満たしていた液体が蒸発を始めた。害のあるものが出てこないといいんだが。こういうのってスキルで無効化できないし、ポーションで薬漬けしないと駄目なんだよな。能力で毒が無効化される奴もいるが、戦闘じゃ役に立たないし、日常生活にも支障が出るからかわいそうなんだよな。モンスターとかだったら話は変わるだろうが。


「やっぱり毒か,,,!」空気を吸い始めて数分で呼吸が苦しくなった。これはポーションをかちこむしかないな。数には限りがあるから最速で烏のところに行かないといけないし。なんでこんなクソダンジョンみたいな仕様にしてんだよ。まじで会ったら文句を言ってやろう。それじゃないとマジで怒りが抑えられない。


「残りは三個,,,か」ポーションが入っていた瓶を地面に捨て、歩き始める。効果は大体十分くらい。俺がここに入れるのは四十分あるかどうか。餓狼は身を守るために発動させないといけないから、解除できないし。ジレンマが凄いな。


「幸いなのは烏の居場所がぼんやりと分かるってことか」スキルで場所は少しだが掴めている。だが、なぜか違和感を覚える。この球体の中の空間が無限に広がっているような気がする。


「こっちだ,,,」暗闇の向こうから俺のことを呼ぶ声がする。烏の声だ。だが俺が聴いてきてのはこんなに暗く、威圧するような奴じゃない。惑わされるな。俺はこの目で見たものだけを信じればいい。音は飾りだ。


「早く,,,来い!」喧しい声が木霊する。俺を呼ぶならもっと対等な状態じゃないといけないんじゃないか?


「なぁ、烏」四方から幾千もの羽が飛んでくる。あいつは___耐えられなかったのか。


羽を俺に当たる前に餓狼で燃やし尽くされた。それよりも厄介なのは俺の目の前にいる八咫烏の様な奴。恐らくは奴の思念体。これを消さないと無限に空間をさまようだけだ。


「全力で行くぞ!」短剣に餓狼を纏わせ、周囲にも散布する。狙うは短期決着。長引くと俺の魂が削られる。こんな形で再開したくは無かったよ。


~八咫烏視点~


体が焼けるように熱い。地獄の業火に焼かれている気分だ。何回も堕天し昇ってを繰り返してきたが、今回の様な事は初めてだ。


誰かいないのか?オーランは?キンカムイは?あいつら俺が昇ってきたときには必ず姿を見せるはずなのだが,,,


暗闇が、無限に続いている。ここは一体どこなんだ?アクセルはどうなった?アイツは神界に来ているはずだ。あいつならここに来るんじゃないか?


いや,,,俺が殺したのを根に持っているかもしれない。助けに来ないかもな。散々好き勝手やって生きてきたんだ。罰が下って当然か。最後は俺の役目を全うしたかったが、俺の性に合っていなかったようだな。


本当なら案内をするのが俺の能力で役目だってのに、今まで散々路頭に迷わせてきたんだ。終わりの無いところに送られて当たり前か。


此処にいる時間はどれくらいになるのだろう。少なくとも俺が生きてきた時間以上は閉じ込められるだろうな。原初も性格が悪いからな。それくらいのことはしていそうだ。


魂も器も未熟だった俺が全て悪かったんだな。力も無い癖に威張ってきたんだからな。


こんな風に考えて、苦痛に耐えているってことはそれなりに心当たりがあるんだろう。神に成れた俺は周りを見下して楽しんでいたんだ。


快楽主義者。皆は俺にそう言って指を差していたな。やらなかったのはオーランとカムイくらいだ。あいつらは俺みたいに誰にも属していなかったがその資格が有った。


力もあり、人格者でもあった。内心俺はあいつらのことが羨ましかったんだろう。だからまねごとをしていた。そのことを悟られないように快楽に飢えているように振る舞っていた。


一体どこから道を間違えたんだろう。考える時間はたくさんある。罰を受ける時間も。俺の半生を反省に回す時が来たみたいだ。


でも最後にアクセルに、カムイとオーランに感謝の言葉を言いたかったな。魂の循環の輪を離れた俺にはもうあの世界では受肉できない。後悔ばかりが募る。


「,,,,てんだよ」アクセルの声が聞こえるな。俺ももう末期だな。でも、アイツの声を聞いて消えれるなら本望だな。


「何,,,てんだよ」しつこいな。俺はもう満足したんだ。二人にもよろしく伝えてくれよ。もう贖罪の時間が来たんだ。


「何諦めてんだよ!!!」先が見えない漆黒の中で確かにアイツの姿が見えた。声が聞こえた。必死に俺のことを探そうとしている。


諦めている,,,か。俺もこの運命だけは受け入れたくは無いな。最後に悪あがきさせてもらうか。そのためにアクセルとは正反対の思念体を倒さないとな。俺に与えられた試練がこれか。


今俺の目の前にいるのはアクセルだ。だが俺の知っている奴じゃない。出会ってすぐに餓狼を周りに散らしながら殺意を剥き出しにするやつじゃない。


「烏。お前は俺の下にいるべきだ」それに俺のことを見下して剣を握るような人間じゃないってことを俺は知っている。


「俺たちは対等な関係だろ。偽物」翼を大きく広げ、力を溜める。能力が戦闘向きじゃないからこうやって時間を使って攻撃の準備をしないと俺は攻撃できない。


「黙れよ。所詮お前ら神は俺の駒に過ぎない」短剣を放り出した?餓狼での攻撃か。霧散した餓狼に気を寄せるべきか?いや、アイツと逆ならそんなことはしない。真っ向から攻撃をしてくるはずだ。あいつはからめ手が好きだからな。


「こっちだろ?分かってんだよ偽物」俺はフェイントを仕掛けてきたアクセルに羽を飛ばす。威力は無いが牽制にはなる。フェイントに対してだったらなおのことだ。態勢を立て直すために離れる。そこを狩る!


「理解してないな」アクセルの声が後ろから聞こえた。まさかこっちもからめ手を使うのか!?


「俺はお前らを駒として使えればなんだってすんだよ」腹部から剣が突き出ているのが見える。確実に致命傷だ。魂が削られていくのが分かる。


「『諦め』の二文字が俺を奮い立たせんだよ!!」致命傷が何だ!魂が削られたからなんだ!!諦めたらそこで終わりなんだよ!!!アクセルも今頃俺を探してるはずなんだ。諦められるか。


「カッコつけたってもう遅いんだよ!!」剣が下に下がっていくのが分かる。俺のことを真っ二つにする気だ。でも、俺に半分でも体を残すってのが間違いだな。


「お前の負けだ。行かせてもらう」~案内人~

奴の弱点が、どこに攻撃をすればいいのか分かる。最短の距離で、確実なものが。俺が今まで神と崇められていた理由。絶対的なまでの正確さと圧倒的な速さ。そして俺を傲慢にしていたもの。これで断ち切らせてもらう。


「ありがとな」刃よりも鋭い翼で餓狼が一番少ない首元を断ち切る。他にも胴や足首が見えたが、こっちの方が致命傷になる。


「馬鹿が。神は居ない。信じてもらえなければな,,,」アクセルは散り際に何かを言った。だが、そんなのに構っている余裕はない。今はアクセルの身が心配だ。早くいかなければ。


案内人で最速の道を示せ。


~アクセル視点~

「お前がここまで強いとは,,,だが神を語るな」無数の羽が俺のことを殺そうと迫っってくる。今のところは炎で相殺できているが、突破されるのも時間の問題だろう。


「黙れ。偽物がとやかく言えることじゃない」~狼現門~


地面から門を召喚し、狼を烏めがけて突撃させていく。俺がやることは毎回時間が掛かる。これも時間稼ぎに過ぎないしな。


俺の目的は餓狼を狼に纏わせて霧散した餓狼を一点に集中させて攻撃する方法。それじゃないと地名だを与えることは出来ないし、何よりも神としての格が違い過ぎる。


自称神と本物の神じゃ力が違い過ぎる。向こうは本気で闘っていない。俺のことを下に見ているからだ。


「狼じゃなくて大神を使ったらどうだ?ってお前には無理だよな」あいつが憎み口を叩くたびに羽の殺意が増している。能力を使っているのか?だとしたら本当に早く終わらせないと,,,


「考え事か?俺も舐められたものだ」~案内人~

羽の数と勢いが雪だるま方式で増えている。このままじゃ本当に死ぬ。もってあと数秒。完成できるか?いや、やるしかない。諦めが見えない以上はできる___いや、無理だ。もう死が、崩壊が見える。俺の力量じゃ間に合わない。


「偽物は帰ってもらおうか」死を悟った瞬間黒い影が俺のことを覆った。この声と姿。そしてこの口調。間違いない、アイツが来たんだ。


翼が広がり、無数の羽を叩き落とした。そして烏が作り上げた道が見える。これを辿れば勝てる。


「遅ぇよ。馬鹿」笑いながらアイツが作った最短距離を辿る。これでこの糞みたいな空間とはおさらばだ。


「すまないな」烏の笑う声が鼓膜を震わす。


「じゃあな。偽物」短剣を赤く強調されたところに向けて突き刺す。もう片方は線だったので切り裂く。あいつが案内を間違えたことは無い。俺は黙って従えばいい。得意分野は得意な奴に任せれば成功する。


「対等な関係が,,,築けるとでも?」最後まで気に喰わない奴だな。そんなの答えは一つに決まっている。


「できる」俺は剣を振り下ろし、息の根を止めた。手に残る感触が今までで一番嫌だった。烏の思念体だからか?


「アクセル。助けに来てくれてありがとう」烏は俺の腕に止まると頭を下げて感謝を述べた。こいつがこんな風になるなんて球体の中で何かが起きたのか。詮索は瀬なくてもいいな。これ以上、傷を抉る必要も塩を塗る必要もない。


「感謝は今からやることを終わってからな」頭に手をかざして、神の力を送る。これ以上使い勝手のいい力はないが、俺にはその資格も無いし、神に成る気もない。これはこいつのためのものだしな。


「そういや、この空間はお前が神に成れば消えるのか?」消えなかったら俺が死ぬから勘弁してほしい。餓死とか、無限にさまようとかだったら力を送るのは止めるんだが。


「無くなるな。案内人も此処で途切れている」烏の返答を聞いて安心した。これで心置きなく力を送ることができる。


「それじゃ送り込むぞ」手に力を込めて神力を出していく。餓狼を介して出されたそれは、黒い光ではなく、神々しい白い光を放ちながら烏の胸に吸い込まれていく。


同時に俺の中に溢れていた全能感というかなんとも言えないものが抜け落ちていくのも分かった。


長い時間を掛けてい力を全てを渡しきった。そのころには俺の体は力が無くなって地面に座り込んでいた。激しい力の移動に器が耐えられなくなったのだろう。


対して烏は翼に艶が増して輝き、体毛は漆黒の暗さと優しさの両方を兼ね備え、目はこの世の全てを見透かしているように据わっていた。神に成った八咫烏はこうも美しいのか。


「感謝する。アクセル。お前がいなかったら俺は何もない空間で,,,」


「言わなくていいよ。それよりも外でカムイが待ってる」何かを言おうとしていたが、どうせ反省とかの話だ。そんなのよりも俺は楽しい話題、力が付く話とそんなのが聞きたい。


「,,,,,,そうだな。ここを出よう」烏も俺の心を読んだのか納得したように頷き、翼を広げ、飛翔した。俺はいつもの様に烏の後を追うように走る。


しばらく走っていると光が見えた。ちょうどポーションの効果が切れそうだったんだ。助かる助かる。


「やっと外だな」勢いよく球体から飛び出す。後ろを向くと球体は無くなっていた。俺たちが出たからあれはもう用済みなのだろう。


「よう八咫烏。今回は手間取ったみたいだな」カムイが笑いながら荒れた道を歩いてくる。


「珍しいですね。あそこまで暴走するのは」カムイの後ろを付いてくる形でオーランが歩いている。


「今回はどれくらい被害が出たんだ?」恥ずかしいのを隠す様に烏は話題を変えた。せこい奴だ。


「そこまでだな。オーランがあらから修復したしな」カムイは京があった方向を見た言った。視線を移すと、確かに荒れていた京の町並みは綺麗に戻っていて、戻っていないのはここ周辺だけだった。


「能力を使うの結構神力消費するんですよ?」怒った顔をしてオーランは文句を言っていた。なるほど。この世界で能力とかスキルを使うには神力が必要なんだな。俺みたいなやつは例外だから使えなくて当然か。


俺も神力というものを会得する方法を模索しないとな。


「なぁ、その神力ってのは,,,」


「お前は聞かなくていい」「知る権利は無い」「やめておけ」俺がやろうとしていることが手に取るように分かっているのか、言い終わる前に三人から拒まれた。


「そうか。でも俺ならなにがあっても成し遂げるぜ?」俺の覚悟はこんなものでは止まらない。二人を生き返らせることができるなら俺は文字通りなんだってやる。


「その顔は止めても無駄だって顔だな」カムイは俺の覚悟が伝わったって顔をしてくれた。


「オーラン、お前から話してやれ」カムイはバシッと背中を叩いて、オーランを俺の前まで突き飛ばした。


「仕方ないですね,,,」オーランの口から紡がれた話は俺からしたらあまり信じたくないものだった。


「神に成るためには二つのことを成し遂げる必要があります。一つ目は信仰を得るということです。端的に言えば信者を得るということです。自身の地位や権力を高め、人々から崇められて初めて、神に成れる土俵に立てます。二つ目は土俵に立った後、試練に打ち勝つための力を得ることです。ここから先は土俵に立ってください」レーネは話し終わると、魔法で造った椅子に腰かけた。


土俵に立たないといけないのか。そのためには信仰が必要で,,,もしかしてブレイクはこのことを知っていて二つ名を倒していたのか?いやそれは無いな。あいつはそんなに頭の回る奴じゃない。


早く土俵に立つためには何をすればいいんだ?もっと早く上がらないといけないのに。


「今のお前には例外の枠に行くしかない」カムイは思考を回している俺の顔を見て肩を叩いてそう言った。


「例外があるのか?」俺は聞き返した。もしかしたら二つのよりも早い可能性がある。


「推薦、だな。神からの」烏は俺の後ろから例外の内容を話し始めた。こういう時に役に立つの、ありがたいよな。


「最低でも十人からの推薦が必要だ。そうしたら上位の神から試練がもらえる。それをクリアしたら晴れて神に成れる。俺は推薦するから九人だ」烏は俺のことを気に入っているみたいだ。


「俺も推すぜ。八人だな」カムイも手を挙げて俺のことを推薦してくれた。あんなに短い時間の付き合いだったのにここまで推してくれるってのは恥ずかしいな。


「私は,,,この質問に答えてくれたら推薦します」オーランは言いかけて、何かを考えた後、質問を投げてきた。


「ブレイク。蒼髪の青年を知っていますか?」ブレイク、か。しかしなんでこんな質問をするんだか。


「知っているさ。でもなんでそれを?」


「なんでもないわ。私も推薦するわ」オーランは俺のことを推薦してくれると言ってはいるが、凄まじい殺気を抑え込めていない。ブレイクと一体何があったんだ?もしかして何か神に成るために隠していることがあるんじゃないのか?


現に烏は昇ると言ってここまで来ている。それに信仰なんてされている気配すらない。もしかしたら、死ぬのが前提条件なのか?だとしたら俺がここにいるのも納得がいく。だが、なぜ生命、魂を持つものがここに集結しないんだ?


だが烏が自殺したとは考えにくい。試練をため込んでいるのか?それとも推薦されていたのか?分からない。だが、オーランが殺意を持つにはブレイクとの接点が必要だ。一回は俺たちの世界に来ているはず。


神は自由に行き来できるのか?それなら辻褄は会うが、これほどまでに殺意を持つとは考えにくいな。やはり、殺されたのが妥当だろう。


「お前ら、神に成るのに隠していることがあるんじゃないか?」刹那、京全体が負の感情に覆われた。俺は実感した。俺はカエルで今目の前にいるのは蛇、いや虎、龍だ。竦んで体が動かない。


「お前、それ以上踏み込むな」カムイの大きく沿った剣が首筋に当たる。球体と立ち向かった時使っていたものよりも凶悪で、荒々しい文様が刀身に彫られている。


「同感だわ」魔方陣が空全体を覆い隠す。そして巨大な門がオーランの後ろにそびえ立っている。それは霊的なもので、死者の声の様な呻き声が聞こえる。助けてくれと。許してくれと。悍ましいくらい夥しい数の声が。


「アクセル、今回は退いてくれ」烏は中立の状態の様で空中を羽ばたいている。だが少しでも俺が不審な動きをすれば、最短で殺しに来るだろう。


「あ,,,あぁ」俺はただただ声にもならない声を出すことしかできなかった。圧倒的なまでの力を前に。


勝てない。動けない。何もできない。目の前にいるのは天変地異を簡単に起こせる存在。俺は侮っていた。気さくな性格をしている神だけと逢っていたから。


「そう言ってくれると信じてたぜ」剣を鞘に納めたカムイだが殺意はいまだ残ったままだ。


「死に急がないだけで満点よ」魔方陣が収束していくのが分かるが、依然門は後ろに山のように堂々と立っている。


「急ぐ必要は無い」烏は俺の肩に止まり、翼の手入れをしている。だが、ただ毛色や毛並みを整える行為じゃない。砥いでいるんだ。自身の翼を。剣の切れ味を上げるように。


「推薦受けれるように、まずは神助けからだな」カムイは歩き出す。綺麗になった 京を目指して。そのあとを追うようにオーランと烏が付いて行く。俺も見失わないように俺も付いて行く。


空は形が変わった雲たちが広く長く伸び、深くどこまでも広く続く空が俺たちのことを見下ろしていた。

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