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ブレイクソード  作者: 遊者
変化する世界
33/97

第三十三話 昔話

~ブレイク視点~

「ところでベータは行き方を知っているのか?」次々と運ばれてくる料理を平らげながら聞いてみる。


「一応な。でもここじゃ話したくない」周りの目を気にするように視線を巡らせた。どうやら秘匿にしたい情報の様だ。


「蒼髪は、なんでそんなに、そこに行きたいの?」金色の髪を揺らし、料理を丁寧に食べながらアミスが聞いてきた。


「ん-。大切な人が待ってる、からだな。煮え切らない返答で悪いな」自分でも伝わりにくいだろうなと思いながら返答する。これ以上でも以下でもないから仕方が無い。


「なんかいいな、そういうの。俺はとっくの昔に無くしちまったよ」遠くを見ながら呟く彼には陰りが見えた。


「そこに行けば見つかるんじゃないか?」フォローとも言えない無責任な言葉が口から出た。


「あればいいんだが,,,なにせ概念だからな。俺ができることなんて伝えることくらいだ」笑いながら言っているがなんか特大なものを抱えていないか?概念って世界を支える大事な要素じゃないか。


「何を?」アミスは概念について興味があるようでベータの発言に喰いついた。こういう年相応の行動をするのがいとおしいんじゃ。


「ただの昔噺さ」笑いながらあしらう彼にはやはり、悲しさの感情が張り付いていた。


「聞かせて」そんなことはお構いなしにどんどんと突っ込んでいくアミスを笑いながら見る。この感じ、やっぱり二人を思い出すんだよな。


「嫌だね~。あ、お姉さんチキン二つ追加で」舌を出して馬鹿にした後に追加注文をしていた。


「ケチ、カス、最低」アミスは無表情からの罵倒攻撃を仕掛けた!


「そんな言葉言われ慣れてるから効かん!」しかし、効果が無いようだ!


「ブレイク、からも、なにか、言って」肩を叩かれて味方に付くように言われた。勘弁してくれ。ただでさえ零れそうなんだから。


「そんなこと言われてもな。とりあえず飯食い終わってからにしようぜ?」何とか逃げ道を探す。このままエスカレートしていったら間違いなく俺がパラディに怒られる。あんな駄目な人間に怒られるなんて絶対に嫌だ。


「逃げるの?」泣きそうになりながら上目遣いで見てくる。これを断るのは男じゃない!


「ベータ、仲間だから隠し事は無しでいかないか?」圧倒的手の平返し。ドリルの名を冠してもいいくらいの回転力。


「ゲッ!お前そっち側かよ!ありえね~。アミスから何か教えてくれたら教えてやるよ」運ばれてきた追加のチキンを片手にアミスから話す様に促している。


「分かった。私の、能力は、展開」四語で終わらせた?あれ?そんなに秘密な事なのか?って能力はまじで大事な情報だ。あっさり言っちゃうなんてやばいんじゃないの?


「四語じゃ、駄目?」俺の心の中の声を読み取らないで!ていうか展開って話の展開にも直結するの?


「そんなこと、ない。頭、使って」心を読んで、罵倒ですか。気持ちがいいですね!私、こういうのがたまらなく好きなんですよ!でもこれじゃベータは納得しないんじゃないかな。


「へ~。じゃあ俺の番だな」あれ?ベータもなんで納得した感じでいられるの?ちょっと俺が追い付けない速度で話を展開しないで。


「俺が目指しているのは終わりなき交差点のその先、『神の門』と呼ばれていたところだ。本来なら英雄たちが行けるところだったんだが、どうにも世界が歪んで到達することができないんだ。禁断の魔法を使えば行けるみたいなんだが、代償が大きいってのと失われたものが多すぎるってのが現状だ。だからこうやって強い人間の後ろに入らせてもらって情報を集めている。手掛かりはそのくらいだな。あ、あと俺の能力は収集だ」


たくさんの情報で埋め尽くされてるけどこのままいっていい感じなのか?俺は大丈夫だけど、皆は読み返すのをお勧めするぞ。


「大変、頑張って」胸の前で握りこぶしを作って応援するアミスは天使そのもの。本当にかわいい。


「最後はブレイクだな」


「聞かせて」

二人の視線が俺の方に移る。勝手にお前らが始めたんだから俺のことを巻き込まないでくれよ。でも、ここで断ったら空気が読めない人間だって思われるか。


「俺の能力は知らん。教会に行ってないからな。話せるのはグロリア王国で王族に仕えてるってことくらいだ」能力が判明するのは教会に行って神託を貰って初めてわかる。だから行ってない人間とか、無神論者は能力を知らないまま死んでいくのが多い。稀に自身の才能だけで分かる奴もいるが。


「面白くないな。続きは言わなくていい」


「同感。つまんない」


二人は俺の話には興味が無いようだ。お前たちから振ってきたのに薄情だな。そんな俺の気持ちを無視して二人はまた食事を始めた。俺の財布に大ダメージだから勘弁してください。


「お前らが俺の話に興味が無いってことは分かったよ」俺も注文していたステーキに手を付ける。なんか塩の味が強い気がするが気のせいだろう。


「拗ねるなって。お前の昔話でも聞かせてくれよ」俺のことを慰めるようにベータが話題を振ってきた。こいつDVとかやってんじゃないだろうな。


「ちょっと、気になる」アミスも俺の過去について知りたいようだ。


「しょうがないから話してやるよ。ただ最後まで聞いてくれよ?」頷く二人を見て俺は昔の話を始めた。


~回想~


夢への第一歩、魔法大学校の一次選考合格通知を両親に目の前で破られて、魔法研究の趣味も全否定。狭い鳥かごの中を飛び出して世界に飛び立ち、数年の歳月を経て身籠ってまた、鳥かごの中に戻って子を育てた女の人の話。


まぁそれが俺の母親。どれだけ理不尽なことがあっても笑顔を絶やさなかった母を俺は尊敬していた。だからどんなことがあっても泣かないって決めていた。でも世界は運命と言わんばかりの現実を叩きつけてきた。


「赤髪が来たぞ!」「相変わらず汚いわ!」「近づいたらゾンビになるぞ!」俺は小さい頃いじめられていた。それも町単位で。外に出れば石を投げられ、家に居れば窓や壁を壊される。いじめの理由はただただ気に喰わなかった、ということらしい。


正確には神聖な赤い髪を持った人間が粗暴な行動をしているのが嫌だったから、らしい。両親は茶髪だったし隔世遺伝で俺の髪が赤くなっていた。そのことを知ったのは祖父と会ってからだった。


両親に迷惑をかけたくなかった俺は七歳で外に出ては傷を負い、転々と動いていた。治りもしない傷に、満たされることのない空腹。そして何よりも孤独に俺は絶望していた。


そんな中で唯一の希望だったのは幼馴染のブランだった。彼女だけは分け隔て無く俺に優しく接してくれた。


でも俺に優しく接してくれた彼女にもいじめの被害が出るようになった。だから俺は言ってはいけないことを言ってしまった。彼女を自分から遠ざけるように。


「お前の顔なんて見たくない。どっか行け」と。俺の言葉を聞いた彼女の悲しそうな顔。そして何も言わずに去り際に見せた涙。俺の心はまた深く抉れた。


あの時は何が正解だったのかもわからない。周りが全てが悪に、敵に見えた。そうして俺は時間が経つごとに荒れていった。


そんな中俺に転機が舞い降りた。いつもの様にいじめられていた俺。だが、普段とは状況が違った。誰も来ないような深い路地裏に声も響かないコンクリートの壁。それにいじめてきた三人。


いつもの様に殴られて、血を流していた。右ストレートを喰らい地面に倒れ込んだ時、手元に何か、鋭い、悪意の塊のようなものがあった。


誰かが落とした、恐らくは冒険者が落とした使い捨てのナイフ。この時に俺の中の何かが暴れだした。なんてことは無く、刃毀れもしていた汚いナイフでは何も変えられなかった。


本当に変えてくれたのは隠居していた祖父だった。祖父は偉大な人物で世界中を回り旅をして、地図を描いた人だった。今まで隠れていた理由は地図を描いていたかららしくて、本当はすぐにでも来たかったというのを実際に聞いた。


その時はなんで地図を描くのを止めて来てくれなかったんだよと思ったが、現金な俺は完成した地図を貰った瞬間にそんなことはどうでもよくなった。


それからは祖父が暮らしていた郊外の方に移って生活をした。今までとは考えられない位に落ち着いた生活に初めの方は困惑いたが、次第に慣れていった。それと同時に今まで俺が生きてきたのは本当に狭い世界だったんだと実感させてくれた。


「ブレイク、剣に興味はあるか?」同じ家に暮らす様になって数年が経って、街でのことを忘れかけていた時に祖父に聞かれた。


「うん!」俺が元気に返事をすると祖父は笑って魔法で隠された部屋に案内してくれた。その部屋には溢れんばかりの金銀財宝、武器に防具。そして祖父が半生以上の年月をかけて書いたであろう地図が部屋中に走っていた。


その時に俺は雷に打たれたような衝撃を受けた。俺の家族にはここまで凄い人がいたんだと。そしてこの出来事以上に衝撃的な発言を聞いた。


「わしはもう長くない。最後にこれを見せたかった。俺の夢を」と。その満足した横顔を見たときに俺は泣いた。悲しいからとかそんな感情では無くて、憧れを俺が目指すべき人物像を目の前にしたからだ。


「夢は綺麗で美しいだろう?それにはな、たくさんの辛い思いと涙が詰まっているからじゃ」笑顔で頭を撫でてくれた赤髪の祖父のその言葉に俺はまた心を掴まれて泣いた。


「これをブレイクに託す。名前は無い。自分に自信が持てたときに名を付けてやってくれ」そうして渡されたのは俺の身長よりも高い大剣だった。金属特有の光沢があり、刀身には反射して俺が写っていた。


「あとはこれを。わしがまで書けていない場所があったら足しといてくれ。」渡された大きな紙を広げると、世界中のことが書かれて地図だった。


町の名前やどのような地形なのか。複数枚の地図で構成された三次元的なそれは俺の心を大きく惹きつけた。


隠し部屋に案内されて三日が経ったときに、祖父は安らかにこの世を去った。葬式とか大きいことをしたかったけど、遺書にブレイクだけで穏やかに終わらせてくれと書いてあったので、俺が一人で終わらせた。俺に残されたのは身の丈に合わない大きな家と、大剣。そして祖父が愛した世界の地図だった。


遺書の裏面に部屋に入りたかったら入ってみなという挑戦的な文が書かれていた。最後まで遊び心を忘れない人だ。俺も初めの頃は開けようと躍起になっていたが、段々とその意欲は風化していった。


だけど、別の意欲が俺の中で大きくなっていった。町で俺のことをいじめてきた奴らを見返したい。両親の前では笑顔でいたい。


そう思った時にはもう行動していた。筋トレから初めて、体力をつけて、近くの森の中に入って自給自足の生活をしていた。慣れない狩りに料理に洗濯。今までやってきてもらったことがやるというのが難しくて初めは何度も何度も失敗した。


そんな過酷,,,までとは言わないが生活を送り始めて一年が経った頃、俺は大剣を持ち上げて振ることができた。ただそれだけの事。でも俺にはとても大きなことを成し遂げた感じだった。


大剣を振れるようになった俺は庭にあった訓練用のダミー人形をひたすら殴った。斬ったということは出来なかった。刃をまともに当てられないし、型も分からないから独学でただ地道に積み上げていった。


そこからまた月日が流れて、俺の背丈が大剣を越えた頃、町に被害をもたらしているモンスターがいるというのをブランから聞いた。彼女は俺に酷いことを言われても翌朝には気にもしていなかったようで、すぐに俺のことを探してくれていた。彼女の心の広さは海よりも広く、空の青よりも深かった。俺の居場所を見つけるのには随分と時間が掛かったようだが。


その話を聞いた俺は内心はざまぁみろとか思ったりもしたが、中には両親が生活をしていたから心配だった。そしてある感情が俺の中で芽生えた。


もし、そのモンスターを倒せたらみんなは俺のことを認めてくれるんじゃないかって。馬鹿な俺はまともな防具も着ないで大剣を一本だけ担いで出現したという森の奥に入っていった。


ここで俺は二回目の後悔をした。俺が到底勝てる相手じゃなかった。そもそも俺ごときが勝てる相手だったらとっくに討伐されている。


森の中に入って三日が経った頃に俺は情報と酷似したモンスターを見つけた。三メートルほどの体躯に凶悪な爪を持った前足。地面を抉る脚に、艶やかな毛皮に包まれた、熊を。


俺の本能は奴を見たときに警鐘を鳴らしまくっていた。早く逃げろ。死ぬぞと。だが俺の理性は本能に抗うように奴との対峙を選んだ。


震える手と足に力を入れて俺は大剣を振り下ろした。刹那、天地が逆転し俺は数十メートル後方に吹き飛ばされていた。


何が起きたかを理解するのに時間はいらなかった。圧倒的なまでの実力差。覆らない狩る者と狩られる者。ただの力も込めていない一撃で俺は戦闘不能状態に持って行かれた。


死を悟ったのはその時が初めてだった。目の前にいるのは絶対強者。いじめとは違い、殺すか殺されるかの世界。


もうだめだ。諦めかけたときに、熊の横から魔法が飛んできた。中級の魔法が十七連発。熊はそれに怯えたのか森の奥に走っていった。


何とか助かった。流れる血を止めるために服を破いて止血をしていると魔法使いが目の前にやってきた。魔法使いの正体は小さい頃から育ってきたブランだった。


「あんた死ぬ気!?いじめられて死んで満足なの!?」泣きながら俺は頬にビンタをされた。でも不思議と痛くは無くて温もりがあった。心の底からの言葉を始めてもらった気がした。


「ごめん」俺はただ謝ることしかできなかった。これが三度目の後悔。


「そう思うなら、見返してみて」彼女は泣きながらそう言ってその場から去った。


そこからは俺はどうすれば見返すことができるのだろうかを考えた。粗暴な行動を慎むということは不可能に近かった。理由は祖父の夢に魅せられてしまったからだ。


それなら人の役に立てる様な行いをすればいいんじゃないかって考えた。建築を手伝ったり、誰もやりたがらない泥臭い仕事でも率先してやるとか。


でも俺はそれでいいのかって思った。俺の生き方をなんで周りの関係のない奴らに決められなきゃいけないんだって。


絡まった思考に俺は泣きたくなった。何をすればいいのか、何が正しいのか。何が正義なのか。気づけば俺は空に助けてと書いていた。神なんか信じる暇なんてなかった。いるなら俺はこうも苦しんでいないから。


俺はひと月ほど悩んで自由に生きいることにした。親にも迷惑が掛かるかもしれないって思ったけど、どうでもよかった。ていうか二人とも強いからそんな心配はいらなかった。俺が戦った熊を殺したのは俺の両親だったから。この話を聞いたのは俺が町から出る直前に聞いた。もっと早く言ってくれと思った。そうしたら悩まなくて済んだからな。


そのあとはまた鍛えるために大剣を振って、肉を喰らって、汗を流して生活をした。ブランに言われたことが頭にこびりついて離れなかった。満足なのかって。満足してないから戦ったんだろって俺は思ったりもしていた。


でも正直な話をすると満足だった。誰からも攻撃されない安全圏で生きていれたから。でも彼女の言葉で俺は一気に引き戻された。


彼女の言うことにも一理あった。このままあいつらの思うつぼでいいのかって。だから俺はまた体を鍛えた。何が得意なのか不得意なのかもわからない、暗闇の中をただただがむしゃらに突っ走った。


無茶をして死にかけることもあった。俺を死の淵まで追いやって熊の後も崖から飛び降りたり、モンスターと戦闘を何度も休みなく繰り返したりして。いつか糧になると信じて。


そうしてまた月日が経って魔法を独学で扱えるようになった。祖父の家に魔導書があってそれを読んで上級までは使えるようになった。初めは魔力の流れなんか全く分からないし、発動させても飛んでいかなかったり、形が崩れたりして、不完全なものが多かった。


やっと魔法が様になって無詠唱もできるようになった頃にブランがいじめられているというのを両親から聞いた。このころから両親も俺とコンタクトを取るようになって話をしたりなんかした。


その話を聞いた時、俺の中で何かがちぎれる音がした。俺の希望を絶やそうとする、ごみクズが世界に存在していると知って。怒りで自我を失いそうになったが母が止めてくれたおかげで何とか冷静になれた。


俺は聞いた。何故ブランがいじめられているのかって。そしたらバカみたいな回答が返ってきた。「魔法の才能があるから」って。本当にふざけてるよな。才能の無い奴は黙ってればいいのにな。俺みたいに。


また俺の怒りは頂点に達した。今度は制止されても振り切って町に駆け出した。あの時の両親の顔を今でも覚えている。二人が爆笑している顔を。あの時の二人は俺が敗けると思っていたんだろう。でもその予想に反して俺は勝利を掴んだ。


それもそうだ。才能の無い奴がある奴を貶めるところで燻っているだけ。俺が敗けるはずが無かった。


町に入った俺はすぐに注目を集めることに成功した。数年単位で失踪していた俺が突然戻ってきたから。翌日には町の一番広い広場にいじめの主犯格が俺のことを呼び出してきた。


俺にとってはチャンスだった。何回もビビッて逃したこれをやっとつかめる時が来たんだって。


大剣を担いで現れた俺を見ていじめてきた奴らはすぐに魔法を撃ってきた。数年も前の俺ならビビッて逃げてやられていただろうけど、長い年月が俺の精神を強くしてくれていた。


「初級かよ。俺は独学で上級まで上がったぞ?」向こうが繰り出したのは炎魔法の下級であるファイアだった。それに対して俺は独学で習得したフレイム・ブラストで迎撃した。


この世界では努力すればだれでも超級までなら扱える。理由は最も効率的な魔力制御の確立と魔方陣による補助があるからだ。俺は魔法の才が本当に無かったから全て上級で止まってしまった。独学じゃなかったら、もっとうまくいったのかもしれないが、過去の話だからどうでもいいか。


圧倒的なまでの地力の差に向こうはやってはいけないことをした。そう、ブランを人質にとったのだ。それが俺の逆鱗に触れた。


「お前がブランの幼馴染だってことはいじめて知ってんだ!こいつがどうなってもいいのプギャ!?!?」人質にとった奴の言葉を俺は最後まで聞かないで顔面を殴った。今まで俺のことを見下してきた人間を殴ったのは何とも言えない感情を入れに植え付けてくれた。


「黙れ。俺はお前らを拒まない。だから俺の大切なものに手を出すな」地面に倒れた奴を巻き込んで俺は魔法を発動させた。あれが俺の魔法史の中で一番威力が高かったのかもしれない。即興のオリジナル魔法で、町の片隅は消し飛んだから。


魔法が発動した直後にキーンと耳鳴りがして、その後には土砂が降って魔法の中心地には大きなクレーターができた。いじめてきた奴らは生きていた。ブランが魔法で守ったのだ。


「なんで守ったんだよ?お前、アイツらに苦しめられて,,,」俺はなんで守ったのかを聞こうとしたが、拒絶するかのように俺はグーで殴られた。


「やり過ぎよ!それに同じ土俵に立った終わりでしょ!考えなしに行動しないで!」また、俺は殴られた。いじめてきた奴の殴打よりもブランのが一番効いた。


「ごめん」俺はまた謝ることしかできなかった。これで四度目の後悔。何も成長していない自分に一番腹が立った。後悔をするだけして、学習をすることができない。木偶の棒。愚か者。能無し。カス。クズ。心の中で俺は自分のことを罵倒しながら町を出ようとした。後ろから女の子が泣いているような気配があったが俺は振り向くことができなかった。


「こんなことが許されると思っているのか!」門をくぐろうとしたときに門番に道を塞がれた。


「じゃあこいつらの行いも許されないんじゃないのか!!」ギロリと門番を睨みつけ、いじめてきた奴らを指さした。


「そ、それとこれは話が違うだろう!」


「どう違うんだよ!」声を荒げて俺は門番に詰め寄った。俺は悪いことをしている自覚があった。それでもこうするしか道が無かった。俺はどうしようもない___


「だ、だから,,,」狼狽える門番に追い打ちをかけるように俺は大剣を構えて忠告をした。


「次に同じ様な事がこの町で起こしてみろ。地図から消してやる」俺はそう言い放って町から出た。あの時の俺は本気だった。それにあの程度でビビっている門番なんてたかが知れていた。


そして俺はまた祖父の家に引きこもって鍛えた。地図から消すというのをできるようにするために。魔法を独学で鍛えて、大剣もどの構えからでも攻撃できるように。魔法空間も自力で開発して、今まで取れなかった素材なんかも集めて、錬金術にも手を出した。


初めはポーションからの作成,,,ってい言いたいところだが、錬金術は本当に能力でしかなれない職業だから断念した。まぁ、バフアイテムとかは作れたりはしたんだが。


できることはなんでもした。この世界についての事象もまとめるようになった。何かの役に立つかもしれないと思って。何故ものが下に落ちるのか。魔力とはどういった存在なのか。もう哲学の分野にまで到達していた。


結果としては魔法の精度は上がったし、オリジナル魔法も応用が利くくらいには扱えるようになった。魔法空間の原理も理解したし、瞬時に取り出せるようになった。今でも俺の奥の手として活躍してくれている。


大剣も上手く使えるようになった後は、短剣や盾、弓なんかも使えるように練習をした。慣れない動きに体は悲鳴を上げていたが、休んでいる時間なんて無かった。俺みたいな落ちぶれた奴には努力しか解決してくれないと思っていたから。


そしてある程度の武器が扱えるようになったときに俺は街戻った。その時にはもう十五歳くらいになっていたかな。周りは俺の立ち振る舞いでもう勝てないと悟ってくれたのか、友好的に接してくれるようになった。


だから俺もそれに合わせるようにみんなの意見を聞いて行動した。友好的なら友好的に。敵対するならとことん敵対する。枯れかけた俺の自由を満たすのにはこの方法しかなかった。


「そのあとはこうやって仲間を集めて旅をしている。ざっくりと話すとこんな感じだな」俺の話が終わるころにはいつもの様な喧騒が戻っていた。


「俺の目的は自由に生きること。運命もそうなっているっぽいしな。こんな俺でもよければ一緒に来てくれ」俺はそう話を締めくくった。


「お前も、大変だったんだな」泣きながらベータは俺の方に腕を回してきた。こいつって情に脆いんだな。


「ブレイク、これから、よろしく」アミスは手を出して握手を求めてきた。本当に結成できるな。


これからどうなるかは分からないが、今までよりも楽しくなるんだろう。でも少しだけ寂しいな。過去が褪せていくのは。勝手に彩られていくものだと思っていたが、そうでもないようだ。今を___生きよう。


「面白い話も聞けたし、この町から出るか」食事も終わり、休んでいるとベータが席を立って準備を始めた。


魔法空間から旅に必要になりそうなポーションや、松明。軽装だが要所はガードできるライトアーマーを着始めていた。


アミスもそれにつられるように、魔法空間からポーションをだして腰につけていたポーチに入れ始めた。


「買い物してから出よう。二人はここで待っててくれ」何も用意してなかった俺はギルドの中にある店に向かった。その前に勘定を済ませておかないとな。


「こんなに食べたのか,,,これからは節約しないとな」出された金額をみて俺は口を開けてしまうほどだった。高価なものは食べてはいないはずなんだが,,,質より量で攻めるなんて中々に策士じゃないか。


寂しくなった財布をポケットの中に戻して、足りないものを確認する。ポーションも無いし、砥石も無い。後は食料,,,現地調達でいいか。水は俺が魔法を使えるから必要ないな。


欲しいものをかごの中に入れて会計に向かう。ポーション系は質は約束されているが本当に高い。王国の金を崩すか,,,?いや、後でどやされたら面倒だからやめておこう。


「ありがとうございました」会計を済ました俺は魔法空間に買ったものを入れていく。俺は魔法空間からものを一瞬でものを出せるからポーチとかに入れなくていい。


魔法封じされたら終わりだから保険で何個かは入っているが、そこら辺の冒険者とは荷物の量が違うだろう。


「二人を待たせるのもよくないし、早く戻るか」階段を下りていると下から、誰かが大声で文句を言っているのが聞こえた。聞き覚えがあるような,,,見れば分かるか。


「蒼い髪の奴を見なかったかつってんだよ!!アイツのせいで俺の仲間が死にかけたんだよ!!」


「そう言われましてもプライバシーを守らないといけないので,,,」職員が男を言葉で抑えようとしているが意味をなしていない。


ていうか、あいつやっぱり見たことがあるような,,,あ、思い出した。俺のことを殺そうとしてきた野蛮な人間だ。あいつら生きてたんだな。


「お前らはそれしか言えねぇのかよ!!」男が剣を抜いた。これ以上エスカレートしたらまずいな。というか俺が原因みたいなところがあるからさっさと出てって終わらせた方がいいか。


「俺の話か?」剣を抜いた男の前に出る。見た目も前見た以上にボロボロだな。リーダーがここまで取り乱してたらパーティーの統率もままならないだろう。


「蒼髪ィ!!お前の出した盾で俺の仲間が死にかけたんだァ!責任取れやァァ!!」


「おかしいな。あの盾はもう耐久力が無かったはずだが?」振り下ろされた剣を素手で受け止める。身体強化しているとはいえ痛いな。蒼でも使うか。


「それに、先に手を出したのはお前らだろ。依頼を失敗しそうになったのを俺に助けてもらって、それがばれないように俺を殺そうとしてきたのは」蒼を使って男を剣を通して地面に叩き伏せる。


「が,,,あ,,,」痛みに悶えるように男はその場に丸まっている。あの時の威勢はどこに行ったのか、ただただ惨めな姿を大衆の前で晒している。


「俺の研究の成果の盾まで取ろうとするなんてとんだクソ野郎だ」あの盾はジェノサイドとの戦いの後、修復できないか試みた。結果は言わずもがな失敗で、少しでも攻撃したら壊れるようになってしまった。それを壊せないということは、こいつらの力の底がそこらへんで止まっているということだろう。


「こいつらを殺しても構わないだろ?レッドネームだしな」職員の方を向いて確認を取る。犯罪を犯した人間は罰せられて当然だ。なんて言ったら俺も罰が下るかな。


「問題は,,,無いですが,,,」


「だよな」蒼を手に溜めて、剣の形をとる。それを見た男の表情はみるみるうちに青くなっていった。今までの罪に跪く時が来たようだな。


「やめとけ」蒼で殺そうとしたところをベータが止めてくれた。


「それは、やりすぎ,,,かも?」アミスも槍で俺のことを制止するように行く手を阻んだ。


「はぁ。分かったよ。殺しはしない」二人にこうも止められたら殺す気も罰する気も失せる。蒼を最小限まで抑え込む。それをみた二人は安堵した表情を見せた。だが、消したわけじゃない。


「その代わり、しっかりと罪を償うんだな」蒼を飛ばして男の頬に切れ込みを入れる。ツーッと血が流れ落ちる。次があれば容赦はしないという最終警告だ。


「行くぞ」二人を連れて外に出る。胸糞の悪い旅の始まりだが。仕方が無い。気分が悪くてもやらなければ、行かなくてはならない時がある。


「もう行くのか」外に出ると、通りから見覚えのある顔が見えた。パラディだ。そういえば、あいつに別れの言葉を言うのを忘れていたな。


「あぁ、今まで世話になったな」肩を叩いて別れを告げる。


「体には気ぃつけろよ。まぁ、歴史の追跡者と戦場を駆ける金の槍がいれば問題は無いか」どうやら二人はそこそこの二つ名がある有名人のようだ。俺もかっこいい二つ名欲しいな。


蒼を纏う剣とか、蒼空の支配者とかな。あー、でも俺は王国に仕えてるから王国の何とかになるのか。最悪だ。


「お前もな」笑いながらあの日のことを思い出す。いくら酒豪とはいえ体は壊すからな。気を付けてほしいもんだ。


「最後になるが,,,お前の冒険者のランクを上げる試験を受けるか?」パラディの口から出たのは予想を裏切る言葉だった。


この世界はやはり、ランクというのが存在する。階級による依頼の幅などは変わらないが高い程、優遇される。優遇の内容はギルドでの信頼度や、アイテムの優先受け渡し、素材を安く売れる、また高く買い取ってもらえる。


一番下はJランク。一番上はSSSとなっている。俺はランク無しだ。理由は王国にいる間は何もできなかったし、上げようとしても、事件に巻き込まれて町から逃げているからだ。


「いや、またいつかにするよ。今はアイツらと一緒の時間がいい」パラディに背を向けて手を振る。俺の前に居るのは他愛もない会話をしている仲間だ。ランクとかよりも、夢を、目的を分かち合える仲間といれる方が価値があると俺は思っている。


だから、ランクを上げるのはおあずけだ。二つ名もまだまだ後になりそうだ。


「お前の嬉しい報告、この町で待ってからな!」後ろから泣きそうな声が聞こえる。これだからおっさんは嫌いなんだよな,,,別れ際くらいはすっきりさせてくれよな。


「あぁ!絶対に戻ってお前の顔見てやるからな!!」雑踏の中に入り込む。周りはうるさいから俺の声なんてせいぜい数メートル先にしか届かないだろう。だからあいつらにもまだ___


「ブレイク!さっさと行くぞ。お前が変に目立つから慌ただしくなったんだ!」


「馬鹿、間抜け、あとで、このツケ、払って、もらう」


俺のことを急かす声が聞こえる。考える暇もないくらいの慌ただしい生活が俺にはあっている。過去も、今も、そしてこれからも。


「すまん!すぐに行く!」人ごみを掻き分けながら二人のもとに向かう。前が上手く見えないが、この人の多さだ。仕方が無いだろう。


「本当に早くしてくれよ!こっちは準備が足りてないからな!外に出たらもっかい支度させろよ!」


「これだから、能無しは、嫌い」前方から辛辣な声が聞こえる。心に響くから勘弁してくれよ。


春が名残惜しそうにしながら夏が始まろうとしている。俺たちが本格的に冒険を始める第一歩。それは余りにもジメッとしていて生暖かい。まるで過去がへばりつくように。でも、それを振り払うように晴天と日差しが俺たちを照らしてくれている。


ブレン。もう少しだけ待っていてくれ。もう後悔しない選択を取っていくから。新しい仲間を連れて、笑顔でそこから抜け出すのを手伝うから。だから、あの過去を、もう引きずらないでくれ。

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