第二十九話 さようなら
~アクセル視点~
格好つけたはいいものの手も足も出ていない。視認できない程の速さの攻撃。圧倒的なまでの破壊力に俺は回復だけを強いられている。
隙なんてまるで無い。攻撃されたと思った瞬間には二回は被弾している。接近戦に持ち込みたいが、魔法による攻撃がきつい。詰めれる余裕なんてない。
今もフィーレの後ろから魔方陣が展開され、怒涛の魔法攻撃が繰り出されている。属性もそれぞれで、人間に対して殺傷能力の高いものが選ばれている。本当に戦争兵器だということが実感できる。
でも彼女の中に優しさが見え隠れしているということも分かる。今に至るまでに致命的なダメージを負っていない。この展開は彼女も望んでいないはずだ。何が正解なんだ。背負ってあげればいいのか?そんなこと俺にできるのか?やれるのか?
「やるしかねぇな!」自身に喝を入れて、攻撃を見切る。今まで足りなかったこと。勇気、希望、そんなものじゃない。全てを受け止めてやること。これだった。戦いなんてしなくたってよかった。
「全力で来い!!」俺は短剣を地面に放り投げる。俺には必要ないものだ。彼女を傷つける。そんなことなんてできない。十分に傷ついたはずだ。これ以上そんな酷な事なんて出来やしない。
「死にたいなら殺してやる!!」恐ろしい程の剣幕と、魔方陣の量に俺はビビってしまった。でも俺は剣は握らない。そうしてしまったら、彼女は本当に___
ドォン!バァン!キィン!ズガァン!!魔法が俺の体を持って行く。身に着けていた鎧も塵になっていく。聴覚も網膜も上手く機能していない。でも俺はまだ諦めていない。彼女とまた同じ道を歩けるということを。
「いてぇ,,,」回復が間に合っていないのは一目瞭然だった。ちぎれかけの四肢に爛れた肺。視界も赤く染まっている。
でも、これよりも彼女も傷ついているし、世界も傷ついている。それに気づいていないだけ。いや気が付こうとしなかったのかもしれない。残酷な世界から目を背けて楽園だけに焦点を当てて。
「なんで,,,抵抗しないの?」泣きながら攻撃をしてくる少女を見て、心が痛くなる。なんでこの子がここまでの業を背負わなきゃいけないんだよ。
「君はまだ、機械じゃない。人の心があるから。現に君は加減してくれているだろう」問いかけてきた少女に簡潔に答える。俺の言った通り彼女は機械なんかの無機質な人間じゃない。
人の痛みを知って、心を知って、分かち合おうとしている。周りが冷たかっただけ。凍てついた心を溶かすには時間が、痛みを知る人が傍に居ないといけない。
居場所が無かった幼い時に俺の恩師、エルザが教えてくれたこと。辛そうにしている人に必要なのは痛みでも怒りでもない。優しさだけだって。だから俺はこうして 、無防備になって受け止めている。
「でも,,,もう,,,戻れない。さようなら」一人の少女は俺の右腕を破壊する魔法を発動し、その場に泣き崩れた。そして、爆散した。文字通り跡形も無く。彼女が最後に見せたのは笑顔だった。
辺りに散っていく肉片に血液。それに見合わない金属。涙なのかなんなのか分からない液体が宙に舞った。
「え?,,,????」何が起こったのか理解できなかった。唯一理解できたのは一年という長い時間を共にした仲間が今日の内に二人、目の前で凄惨な状態で死んだということだけだった。
「嘘,,,だろ??」散らばった肉片をかき集める。体中が血にまみれているが、そんなことはどうでもよかった。なんでこんなことになんているんだ?俺が何か間違ったのか?二人をここまで連れてくること自体が過ちだったのか?
二人の肉片を虚しくかき集めていると、二つの金属がくっ付いているのを見つけた。金属には2971と8181という番号が彫られていた。恐らくは,,
「おえぇぇ!!」俺はその場で嘔吐してしまった。そのあとのことを想像したくなかった。でも、フィーレの言った通りもう戻れないんだ。
泣きながら俺は二つに金属を綺麗にしていく。今までの思い出は忘れないように、彼女たちの意思を引き継ぐように。
すると目の前に二人が現れた。俺は幻覚でも見ているのだろうか。
「アクセルさんがこれを見ているということは私たちは死んだんですね」よく見てみると金属から光が出ていて、それが二人を形作っていた。
「受け入れられないかもしれないですが、これが私たちの運命だったんです。こうなることは分かっていました。なので人間達でも手を付けられないコアに思い出と伝えたいことを残しておきました」無機質な声なのに、震えていて、笑顔なはずなのに泣きそうになっていた。
「人間たちは世界樹を征服すると、私たちを奴隷のように扱ってきました。ここまで知っていますよね?私たちが知ってほしいのはここからなんです」
「世界を守る防人として生きてきた私たちは極悪人として見世物として生きてきました。そして、世界樹の前で、機械を埋め込まれ、特定の人間に従属するということを強制的に契約させられました。」
「これは破ると私たちは死んでしまいます。後は、人間に危害を加えすぎると死にます。恐らく私がやったんでしょうけど」笑いながら言っているが、声は震えていて、十何歳の見た目の子がしていい演技じゃなかった。
「データがもうないから、伝えたいことだけ」レーネが子供に言い聞かせるように俺に言葉を渡してくれた。
「エルフたちを助けてください。人間たちと対等な関係を築いてください。これだけです。一方的で申し訳ないです」
「あ、あと私たちが使った魔法は世界を揺るがす魔法です。だからこの場所で誰かが死なないといけなかったんです。詳しくはアクセルさんが,,,」何かを言い残して彼女たちは霧散していった。
なんでそのことを言ってくれなかったんだよ。俺が力に,,,いや、俺に力が無かったんだ。大事な時に力が無い。こんな俺を殺した悪くなるくらいに憎い。彼女たちの約束を果たしたら俺は___
「休んでいてください」二人を埋葬してあげたかったが、追手が来ていたので、魔法空間に収納した。しばらくは窮屈だろうが、世界樹の幹で寝かせてあげたい。俺のエゴだけど、大目に見てほしい。
「お前か!?無断で入ったのは!?」聞いてくる警備員を無視して横切ろうとしたが止められた。それもそうか。
「イライラしてんだ。殺すぞ?」短剣を首に押し当てて威圧する。なんでこんなくだらないことしかできないんだよ。
「と、通っていいから!!やめてくれその顔!」腰を抜かしそうな警備員を横目に通り過ぎる。
俺に勇気があれば、力があれば、全てを変えれたかもしれない。今日の雨は冷たく、俺の心の芯まで冷やした。深くフードを被りながら俺は歩いた。目的地は世界樹の幹。この二人をここまでした人間を殺しに行く。俺ももう止められない。
二人は和解を求めてはいるが、絶対に無理だ。だって人間はエルフと違って純白無垢じゃない。醜悪で自分を中心に考えている奴らばかりだ。王国に居たときに俺はそうやって覚えて育ってきた。
ブレイク。会うのはもっと後になるのかもしれない。それくらい二人との旅は楽しかった。暗い過去が明るくなるくらいに。お前との旅も楽しかったが,,,
ん?何か欠けているような。まぁいいか。世界樹までは遠いが何とかなるだろう。
「大神召喚!」~八咫烏~
暗い雨の中、烏が俺の呼びかけに応じてくれた。力が戻ったんだな。
「道案内を頼む。世界樹まで」本来の能力は戦闘では無くて道案内らしい。折角だから神の手腕を見せてもらおう。
「構わないが,,,酷い顔をしているな。何かあったか?まぁ、話したくないのなら話さないでいい」そう言って烏は前に羽ばたいた。やはり神はそこに座っているだけはあるんだな。
~ブラン視点~終わりなき交差点にて~
「死んだってのは理解できるけど、ここはどこなのよ」調停者に殺された私は所謂死後の世界というところには来ているんだけど、設定で聞いていたところとは全然違う。楽園みたいなところって聞いていたんだけど、楽園要素がゼロ。
見慣れた景色が永遠に続いているだけ。どうしようかしら。歩き続けてもいいんだけど、当てのない行動は嫌なのよね。旅はブレイクとかがいたから良かったけど、今は一人だから心細い。
「はぁ、魔法も使えないし。どうしよう」何回も魔法の発動を試みているが、魔方陣はおろか、魔力すら掴めない。ここには魔力が無いのだろう。じゃぁあスキルはどうだろうって?試したけど全部不発。これ以上やったら、理不尽に殺されたことを思い出すからやめておく。
「どうしたんだい?迷子かね?」途方に暮れていると、一人のおじいちゃんが前の方から歩いてきた。見たところ外のなさそうな人だからいいか。ここは死後の世界だから、何されてもいいしね。
「そうなんです。どうすればここから出れますか?」純粋な疑問を聞く。まともな返事はこないってわかっているけど。
「ここから出たいってことは未練があるんだね。それなら簡単さ。交差点に出るたびに左に曲がればいい。そうすれば来てくれるはずじゃからな」おじいちゃんはそういうと、どこかに歩いて行って消えてしまった。
今の話、真に受けていいのかしら。交差点に出るたびに左に曲がるって、同じところをくるくる回るだけじゃない。ボケてるんじゃないかしら。
でも、ここでの経験は私とよりも確実に長いだろうから、飽きるまで曲がり続けてみようかな。もしかしたら、ブレイクとか助けに来たりして。ただでさえ好きなのにもっと好きになっちゃうわね。
惚気はさておき、早速歩き始めますか。石畳を歩いて行く。コツコツという音が響き渡る。なんだか心地いいわね。疲れが来るまでは歩き続けられそうだわ。ていうか死んでるから疲れとかないのかな。
死んだことって何気に初めてだから分からないのよねってみんな初めてか。それか覚えていないだけか。死んだ後にこうやってどこに行くのかわかっていれば案外、受け入れられるのかもね。
輪廻転生はこの世界にはあって、徳を積んだ生物が上に上がれるシステムなのよね。上って言うのは神に成れるかどうかってことで、どこからでもなろうと思えばなれる。楽になるのは圧倒的に徳を積んだ方だけど。
だから、邪神とかが生まれるのよね、悪意の塊みたいなやつでも、神に成れるから。神に成れるかどうかは他の神からの推薦を受けたら、みたいな話を聞いたことがある。どこまで本当かは分からないけどそうだったらブレイクは絶対に推薦なんてされないわね。あんな破天荒な奴が神に成れたらみんな神に成って極楽浄土になるわ。
「そんなことよりどこまで歩けばいいの?」長い間歩いたと思うが、同じような風景ばかりで、どこまで進んだのか全く分からない。あのじじい、今度会ったら倒してやるわ。
「世界征服やめた~」どこからか詩を読んでいる声が聞こえる。この道の先で間違いはないんだけど、姿が全く見えない。はっきりと聞こえてはいるから近くにいるとは思うんだけどね。
それにしてもいい声ね。心の底から震えあがってくるこの感覚はこの人じゃないと駄目なのかもしれない。全く不可思議な感覚だ。詩をじっくりと聞くということは今までしてこなかったけど、とてもいいわね、これから私、吟遊詩人を目指そうかしら。
なんて考えていたら声は聞こえなくなってしまった。せっかく私好みのいい声だったのに。いい人ほど遠くに行って、手が届かなくなるから仕方が無いわ。こればっかりはね。
あの声がまた聴けないかなと歩いていると、不思議な門の前に辿り着いた。鳥居みたいな形をしていた。横に立っていた看板には神の門と書かれていた。何が神なんだろう。神秘的ってわけでもないし。
「右に曲がれよ」泣きそうになりながら必死に言葉を届けようをしている男の人の声が聞こえた。どこを右に曲がればいいんだ?
「交差点のことなのかな?それとも,,,」門の先には三つの道があった。どれも暗闇で覆われていて先が見えない。爺さんの言うことを聞くなら左側で、今の男の人の声を頼りにするなら右側だ。
困ったわね。どれが正解なのか分からない。でもなぜか、右に曲がった方がいい気がする。なんとなくだけど、左に曲がったらもう二度と戻れない感じがする。
「一回立ち止まるかぁ」二人が助けてくれることを信じて立ち止まることにした。確信が無い行動は後悔を残すだけだもんね。
「どのくらい待てばいいのかな~。もしかしたら年単位だったりして」彼女は笑いながら空を見えげた。奇しくも死後の世界でも青空は健在だった。
~アクセル視点~
俺は世界樹の最短距離を八咫烏に教えてもらいながら移動している。一日に移動できる距離は決まっているが、それでも百日以内には着くだろう。
なんで移動できる距離が決まっているのか。それは八咫烏の力を俺が引き出せていないからだ。これは烏の口からきいたから間違いないだろう。そういう契約だしな。互いに嘘は付けないって契約。
なんでも召喚される神は天界、または神界と呼ばれるとこから自ら降りてきたものが召喚に応じているということだ。だから厳密に言うと神ではないらしい。
八咫烏は堕天したものを「堕ちた者」と呼んでいた。自らの地位を捨て、暇を潰すことを優先した愚か者に付けられた蔑称らしい。もしかしたらファンドも神だったのかもしれない。にしては馬鹿だと思うが。
そういえば久しく召喚していなかったな。魔法空間も大きくなって収納に困らなくなったからな。初めは重宝したけど旅を続けるにつれて登場しなくなった。インフレは恐ろしい。
ていうか魔力の総量は変わらないはずなんだけど、増えてるんだよな,,,これも世界が変わり始めているということなのだろうか。
「俺も腕を磨かないといけないな」二人を失い、自身が余りにも無力だということを悟った。
「そういえば読めてない本があったな」あの日、店主からもらった解読の出来なかった本。たまに読んではいたが、挿絵からしか想像することしかできなかった大和国で書かれたである本。
「久しぶりに読んでみるか」魔法空間から取り出して、パラパラと数ページ読んでいく。おかしい。前までは読めなかったはずの本が読めるようになっている。もしかして二人が発動させた魔法が原因なのか?
二人の願い。和解するという意味。もしかして___点と点が繋がった。俺たちが、世界が忘れていたありふれていた概念。言語を取り戻して再び再興していこうとしていたんだ。
なんで今まで気が付かなかったんだ。エルフいるのに、俺たちと同じ言葉を話すのか。言葉を失ったから。じゃあなんで俺は使えるんだ?恐らくは二人が最後に俺にくれた贈り物。二人が使えた言語を俺が使えるようにとくれたもの。
自問自答をして、答えに辿り着いて行く。線で結ばれていくたびに俺は打ち震えた。俺達人間の浅はかさや、エルフたちが紡ぎたかったこと。そのすべてが、言葉、文字となって俺に伝えられた。
「この本はエルフたちが大和国で書いた神様の本だったんだな」挿絵を見ると、動物や人間を中心に書かれている。剣なんかは儀式のために使われているだけの装飾に過ぎなかった。あの時の俺は視野が狭かったな。
昔に何があったのか。俺は生きていないから分からない。でも二人が伝えてくれたように後世に俺が伝えていく。それが俺の役割。この無機質な機械と共に俺が途切れないように残していかなければいかないもの。
「なんだか俺がやることがはっきりしてきたよ」本を熟読して神をできるだけ多く召喚すること。人と繋がっていくこと。俺が今できることだ。もしかしたら二人を生き返らせることができるかもしれない。もしかしたらブレイクが死んだときに役立つかもしれないしな。まぁあいつは強いからそんなことは無いか。
「本当に死者を蘇らせる神はいるのだろうか,,,」全てのページを読んでみだが、それらしきものは無かった。単に大和国の文字を読めていないから見落としているだけかもしれないが、大部分がエルフ語で書かれているからそれは無いだろう。
「簡単にはいかないか,,,おっと」本を閉じようとしたら、表紙がめくれてしまった。大事なものだから大切に扱わないと,,,
「なんだこれ?」表紙をもとに戻そうとしたら、裏に文字と絵が描かれているのが見えた。
見た目は掠れていてよく分からないが、文字なら何とか読める。死んだ、生、廻、外す。汚いし、大和国のも使われているからこれくらいしか読み取れなかった。
でもここから推測できるのは死んだ人間は生を循環しているってことか。恐らくこの絵の神はそれから外すことができるのだろう。
「目標はこいつかな」本を魔法空間に戻して、歩き始める。八咫烏クラスの神だったら、間違いなくあの札は必要になる。遅かれ早かれ大和国には行くことになるだろう。適当に神を呼び出して力を付けていくのが最善の選択だろうな。
「遅いぞ。急かしたのはお前だろう」トロトロと歩いていた俺を見て烏は怒った。姿が見えないと思っていたが、めっちゃ前に行っていたんだな。
「悪い悪い。ちょっと神に夢中になってな」適当に謝って烏の後を追う。
「死者を生き返らせる神か?」烏の発言に心臓が貫かれた気分になった。どこまで見透かしてんだこいつは。
「もしそうならやめておいた方が良い。『あいつ』は堕ちた者の中で最も性格が悪いからな」
「絵の神を知っているのか?」何かを知っていそうだったので聞いてみる。嘘は付けないし何かしらの返答が来るだろう。
「多少な。あんなのに頼るくらいならブレイクとerrorを探したついでにした方が良い」烏の声が一瞬途切れたかと思えば、普通の声になった。なんて言ったんだ?ノイズが走った様な,,,
「お前は,,,いや、また今度にしておこう」意味深なことを言い残して烏は無言で羽ばたいた。空から落ちてきた一枚の黒い羽根は重く、湿っていた。
「何か隠してるのか?」烏に聞いたが口は固く閉ざされたままだった。どうやら話せないようだ。契約を無視してまだ秘匿したい何かをこいつは持っている。
「無視か?どうせ俺はそこまで辿り着くぞ?話すなら今の内だ」半分脅しのようになっていしまっているが、仕方が無い。契約を守っていないのは向こうだ。
「覚悟はあるのか?」重々しい言葉が辺りに響く。圧倒的な威圧と、神の威厳に心臓だ掴まれた気分になる。これで力を出し切れていないのか。
「あぁ」何とか言葉を絞り出して返事をする。二人を助けられるのなら何があったて構わない。
「なら死んでくれ」自分の体が上にある。頭は無い。もしかして俺は殺されたのか?誰に?烏の羽に血が付いている。犯人はアイツか?そんなことはどうでもいい。なんで俺は意識を保てているんだ。走馬灯?違う。
「向こうで待っている。もう一度我も羽ばたくからな」烏の声が脳に響き渡る。何がどうなっているんだ,,,
疑問を残しながら俺は死んだ。後悔ばかりが残っていて仕方がない。最後に見たのは太陽に向かって羽ばたく三足の烏だった。




