第二十八話 世界の崩壊
~アクセル視点~
「ここが目的の場所ですか,,,」今俺がいるのは世界樹の根の中。そして最奥部に位置しているとされている場所だ。
あの後、俺は急いで身支度をして、世界樹の根に向かった。今まで約束なんて破ったことが無かったからそれはそれは酷い慌てようだっただろう。まぁ何はともあれ中に入れたからいいだろう。
でも中に入るまでに時間はかかってしまった。理由は入るのに許可証がいるからだ。俺たちはそんなもの持っていないし、手に入れようなら莫大な金がかかる。
だから門番を吹き飛ばして強引に中に入った。中に入った後はレーネが道のりを知っているみたいで、すんなりと進めた。俺たちのことを追いかけていた門番たちは道が分からなくて混乱していた。
でもここに来るのも時間の問題だろう。後ろから無数の足音と声が聞こえる。索敵スキルを持っている人間がいるのだろう。迷わないで俺たちに近づいてきている。向こうも本気の様だ。
「そうですね。本当にありがとうございました」フィーレは俺に深々と頭を下げてお礼を言った。感謝されることは慣れていないから恥ずかしいな。
「それでここで何かするんですか?」見た限りでは何もない緑に覆われた空間が広がっているだけだ。ここが目的地だというなら何もなさすぎる。
「はい。それで申し訳ないんですが,,,」魔力がレーネに集まっていくのが分かる。何をする気なんだ,,,
「ここで死んでください!!」根が生き物のように俺に襲い掛かってきた。どうやら本気で俺を殺そうとしているみたいだ。
「なんでこんな事するんですか?」四方から迫ってくる根を斬り落としたり、剣で弾いて軌道を変えたりしながら疑問を投げつける。
「魔法の発動にあなたの様な強い人が必要なんですよ」フィーレのオリジナル魔法が加わり、攻撃が熾烈になる。余裕を保つのが厳しくなりそうだ。
しかし、なんで生贄が必要な魔法を発動させようとしているんだ。それに世界樹の根である理由,,,何かが繋がりそうで繋がらない。戦争が関係しているのか。
「考え事なんて余裕そうですね!!アイアン・メイデン!」顔の横が何かが掠った。咄嗟に後ろを向くと壁に鉄が刺さっていた。これがレーネの奥の手か。予備動作も詠唱も全く見えなかった。避けるのは不可能に近いだろう。なら的を増やすか。
「死線を友と共に乗り越えてきましたから」~炎纏餓狼~
体に炎を宿す。これである程度の判断ミスがあってもリカバリーできるだろう。二人はこの能力について何も知らないから有利になるはずだ
「餓狼ですか?舐められたものですね。ブラック・レイン」頭上から黒い塊が俺めがけて高速で落ちてくる。同じ場所に留まっていたら狩られそうだ。
俺は攻撃が当たらないように地面を走り、壁に向かって飛んでは蹴り宙を舞い、根に当たりそうになったら天井に跳躍するということを繰り返した。
「ちょこまかと鬱陶しいです!!フィーレ!」「はい!」
「チェーン・ルート!!」
二人が手を合わせて魔法を発動させると地面が網に変わった。これが二人の隠し玉か。これはちょっと厄介だ。
「くっ!!」地面が自由自在に動き回り俺は拘束されてしまった。根を解こうと体をよじっても無駄だった。
「本当にありがとうございました」レーネは笑顔感謝を言うと、魔法で俺の頭を撃ちぬいた。魔方陣も見えないなんてとんでもない高速詠唱だ。
「まだ終わってませんよ」レーネの後ろに回って麻酔毒が塗ってある短剣で浅く切りつける。痛いだろうが、死ぬよりはましだろう。あとおまけに魔封の札を張っておく。解毒されないようにな。
「なんで,,,生きて,,,?」地面に倒れ込んだレーネは苦しそうにしながら俺に聞いてきた。
「俺の奥の手、ですよ」俺はその場から消えるように揺らいで、フィーレの背後に立って同じ短剣で切りつける。
俺の奥の手。それは陽炎。奇しくも同じ名前の盗賊団がいるらしいが、まったくもって関係ない。炎纏餓狼によって生み出された熱を利用して分身を作り出す。本当はここに幻覚魔法なんかも組み合わさるんだが、二人は魔力の流れに敏感だ。だから時間が掛かった。
「奥の手、ですか。私もあるんですよ」短剣で麻痺させたはずのフィーレが俺の後ろに立っていた。毒が効かない体質とかだろうか。
「対人間戦闘兵器番号2971識別名フィーレ。私の名前です」そう言うと今まで隠してきた背中を見せてきた。カチカチと音を立てながら回る機械や揺れ動いて駆動しているエンジンの様なものが見える。
機械だから毒自体が効かないのか。機械といえばドワーフなんかが得意としている分野らしいが、エルフも取り入れていたんだな。それにしてもなんで対人間用なんだ?やはり戦争が関与しているのだろうか。
「レーネさん。今までありがとうございました」どこに隠し持っていたかもわからない短剣をレーネの喉元に突き刺して殺害した。そこにはためらいなんてものは存在していなかった。
「もうあなたの様な賢い人間は気が付いているはずです。私たちは戦争用の兵器。そして戦況を一人でひっくり返せるゲームチェンジャーであるということを」右腕が花のように開き、赤い光で覆われた。
「消し飛べ」言葉と同時に放たれた赤い閃光は世界樹の根を丸ごと持って行く力を持っていた。
「ぐ,,,まじか,,,」直撃ではなかったが、体の機能が欠損している。両手はもげ、両足には力が入らない。呼吸上手く出来ないし、視界は赤く染まっている。
「大神,,,召喚」~八咫烏~
力を振り絞って俺が出せる最上級の神を召喚する。俺が炎纏餓狼で回復するまでの間の時間を稼いでくれればいい。
「神様ですか。貴方から何度も聞かされていましたが、実際に見るのは初めてですね」まじまじと鳥を見る姿からは先程の攻撃をした少女とは思えない。
「でも、神様なんて偶像なんですよ」また右腕が赤色に染まっていく。
「悪いが我は実像。そなたの攻撃なんぞ遊戯にすぎない」それを許さないと言わんばかりに烏が羽ばたくと少女の右腕は地面に落ちた。一瞬で切り裂いたのだ。
「なるほど。ではこれはどうでしょう」再生し始めた腕を変形させて鎌の様な形を取った。しかしそれは余りにも禍々しく人間が扱うようなものではなかった。
ヒュン!!高速で武器が横を通る。烏が軌道を変えてくれなかったら俺の体は半分になっていたことだろう。
「だから言ったはずだ。所詮は人間の作り物。我らには届きえない」太陽の様な輝きと共に烏は翼を前に持ってきて力を溜め始めた。
「それを壊すのがこの魔法なんだよ!!ワールド・ブレイク!!」全てを吐き出したかのようなその一言には少女の___が詰まっていた。
「!」烏の存在が曖昧になる。神にも届く力、それが禁断の魔法。世界の均衡を破壊するこの少女は一体,,,
「邪魔者は居なくなりましたね」少女は悲しそうに言った。まるでこの結末を望んでいないように。
「全力で来てください」一人の少女は泣きながら魔法を展開していく。この時に俺は気が付いた。この世界は余りにも残酷で、一人では背負いきれないものがあるということを。
「手加減しませんよ?」炎纏餓狼で癒えた体を起こし、対峙する。はっきり言って勝ち筋なんて見えはしないが、男には引けない時が来る。それに一人の女の子を抱きしめるだけだ。なんて簡単な事だろう。
彼女が今まで背負ってきたものを肩代わりできるのならいくらでも背負ってあげよう。俺が勝てたら、の話だが。そんなことはどうでもいいか。戦いを始めよう。
~天界にて~
「どうやらワールド・ブレイクが発動したようだな」長い髪を揺らしながら一人の神が下界を見下ろす。ここは天界でも唯一外下界が見れる場所『神の遊戯』そんな場所には二人の神がいた。
「ここからどうなるのかしら」長髪の神につられるように、もう一人の少女の神が覗き込む。
「さぁな。でも、言えることは一つ。あいつに勝ちやすくなったことだな」
「そうね」少女はそんなことには興味が無いような素振りを見せて、紅茶を飲んだ。
「お前は能天気だな」ケイオスは呆れたように笑う。その後ろでは多くの天使が死んでいっているのに気にもかけないで。戦争の真っただ中だというのに、二人はそんなことなんて記憶の片隅だ。
「あなたもでしょ。それより、私堕天するわ」一人の少女は笑いながら、下界に通じる穴に身を放り投げた。戦争のことなど知らないと言わんばかりに。
「そうか。頑張れよ」ケイオスはそんなことを咎めるなんてことをしないで、見送った。それどころか、腹の底から笑った。これから起こることに期待をして。
「それじゃあ、クソ天使ども。死ぬ準備は出来てるか?」亜空間からなんの変哲も無い剣を取り出す。これは彼が愛用している長剣『無銘』長い間神として世界を御していた彼を唯一楽しませてくれた友人が作った逸品。
「かかれー!!」天使の軍団は統率のとれた動きでケイオスを瞬く間に囲った。普通の戦場であれば有効な手段かもしれない。だが、彼は神の一人。そんな戦略など無に等しい。
「威勢がいいな」~混沌~
長剣を横に振り天使たちを地面に斬り伏せる。そして剣の軌道となった空間は捻じれ、亜空間に繋がる道を作った。それは黒く、生命の侵入を拒んでいた。
「この程度か」亜空間に引きずり込まれていく天使たちを見て、ケイオスは肩を落とした。自分を楽しませてくれる存在がここに居ないことを悟って。
ケイオスの楽しみは友と酒を飲むこと。そして戦場に赴き、死と隣り合わせでいることだった。今の彼には共も居なければ、戦場もただの遊戯に過ぎない。
「俺も堕ちるか」堕天とは自ら神という地位、力を捨て、下界に身を投じることだ。無論そんなことをする神は少ない。全員が必死に積み上げてたどり着いた頂点なのだから。
だが、ケイオスは違った。勝手に神になっていた。周りは彼のことを神格化したのだ。圧倒的なまでの強さ、カリスマ、すべてを尊敬できるからと。ケイオスはそんな周りのことが嫌いだった。今まで平等だと思っていた仲間がそんな風に思っていたとは考えもしていなかったからだ。
「いや止めておこう」ケイオスは少し考えて、それを止めた。次に起こることが分かってしまったからだ。
~世界の果てにて~
「この魔力、誰かが使ったんだな」激しくうねる海流を見下ろしながら、一人の男が、異世界からの来訪者と戦っていた。
「よそ見なんて余裕ですね!」神速といっても過言ではない突きをする男に対して、赤子の手を捻るように軽々と片手で払うように剣を吹き飛ばした。
「お前ら弱いな。本当に英雄なのか?」男は馬鹿にするように笑う。彼は昔剣神と呼ばれていた人間だ。そして彼の目の前にいるのは英雄ともてはやされた人間達だった。
「黙れ!お前なんてこのスキル神速で,,,」
「神の名を冠していてそれか?俺たちも甘く見られたものだな」男が何かを言いかけていた時には、剣神は男の四方から攻撃をし、一寸の大きさに切り分けた。まさに神業。
「ショウタ!?あんたよくも!!」その光景を見ていた女の魔法使いは怒りに震え、魔方陣を展開していく。彼女が貰ったスキルは魔法の極み。魔法を全て扱うことができ、一人で国家を転覆させることができる者だ。
「だからそういうのはいいって。次に期待しとけ」腰に佩いていた太刀を抜刀して、幾千とある魔方陣を超高速で切り刻んでいく。神速というのはこの男のためにあるのかもしれない。
「いつでもリベンジ待ってるからさ」斬撃が女の首に向かって飛ぶ。いくら力のあるスキルを持ったところで、基礎が無ければ力にはならない。
「少しは変わるかなって期待したが、無理なのかもな」青空の下で神は呟く。彼の名前はスクリーム。人間から神に成り、そして堕天した愚者。今自分を殺してくれる人間を探している。この世界に飽きてしまったからだ。
「俺よりも強い奴いねぇかな」太刀を佩いて歩く姿は時代から置いていかれた浮浪者で、一時は神に座していたとは思えない。それくらいみすぼらしい風体だった。
「今後に期待かな」彼はまた強者を求めて、結界を飛び越えていく。人知を超えた存在は暇をどれだけ潰せることしか考えていない。
~龍界にて~
「この魔法が使われるとはな,,,我も動くか」大きな体躯に、左右非対称の翼。全身は黒の鱗で覆われている龍が万里眼を使って世界で起きていることを見通す。
彼の名前は二つ名は黒龍。真名はバハムーティア。世界で最も強い種族の頂点。その強さゆえに宗教ができるほどだ。傷だらけの体は今まで潜ってきた修羅場の数、生きてきた年を表している。
「バハちゃんが動くなんて珍しいですね」彼の目の前にいたのは小さな子供だった。しかし、その見た目とは裏腹に世界を揺るがすほどの力を持っている。彼の貰ったスキルは未来視。この世のあらゆる出来事を見通すことができる。変動が大きいが、彼にとって最も有意義な未来が常に映し出される。
「異世界人が知った口をきくな」龍は鬱陶しそうに口を開く。極悪な見た目とは違い、優しい音だった。
「そんなこと言っちゃって、その万里眼も僕のおかげなんだよ?」そう、黒龍の持つ万里眼は彼の力無しでは、全ては見通せない。できたとしても数秒先の未来くらいだろう。
「,,,そうだな」何かが折れたような気がするが気のせいだろう。気のせいでは無かったら、最強の名が揺らいでしまう。
「そんなことより、あの魔法かなりやばいよね?」青い目を使って、まじまじと一人の少女を見ながら言う。彼の持つスキルは魔法などの情報もおおよそは解析できる。
「あぁ、前にも使われた。それで異世界からの来訪者も増えた」難しそうな顔をして、これから起こるであろう事態に目を通していく。
「世界の均衡を壊す。それがあの魔法?」
「世界自体を壊す、が正解だ。均衡なんてこの世界には無い」どこか諦めている様な顔をして遠くを見る龍はどこか儚さがあった。
「大変だね、僕も本格的に動こうかな」小さな子供は不気味なほどに口を裂いて笑った。
~深淵にて~
「忌々しい魔法が使われたね~」一人の堕落した魔女が呟いた。彼女は世界樹戦争で大活躍したものの、エルフとの混血だったせいで、禁断の魔法で地の底に追いやられた人物だ。どっちにも付かない戦い方は両方から嫌われていたので、そのせいもあるだろう。かわいそうに。
「私も早く出たいな~」銀色の髪を揺らしながら、作りかけのポーションの毒見をしたりして、退屈な毎日を過ごしている彼女の名前はテルミス。全ての魔法を十歳にして極級まで扱うことができた、天才児。
しかし極端な怠け癖と、やる気のなさに周囲は呆れていた。戦争が始まったときも自分に火の粉が降りかかるまで戦わなかった。そして火の粉を払い終わった後はまただらけて過ごすというぐーたらっぷり。
「世界、変わるのかな~」埃塗れの部屋、いや、独房という方が正しい部屋の中で、テルミスはワールド・ブレイクについての文献を探していた。
ここはアベントイアの支配下。つまり世界図書館に通じているということだ。でも向こうから一方的に繋がっているだけで、こちら側からはアクションを起こせない。できるとしたら、問い合わせくらいだろう。
「見当たらないな~」どこまでもだらけている彼女が深淵から出てくるの世界図書館にも記されていない。未来に居るのかもわからない存在だ。
「気になるのはいくつかあるな~」乱雑に置かれた本の中から気になるものだけを抜粋していく作業をしていく。普通の人間であれば数分で終わることも、彼女がやれば数十分かかってしまう。
「ブレイク,,,魔法と同じ名前なのか。気になるな~」暗い世界から明るい世界に出れることを夢見て、今日も彼女は怠けるのであった。こんなんだから出れないんだぞ。
~原初の地にて~
「結局こうなるんだな」蒼髪を揺らしながら男は世界を覗いていた。結果が分かっているかのように、笑いながら。
「仕方無いでしょ。それより異世界人はどうするの?」怒るように魔法使いが肩を叩く。女の方は事態を深刻に見ているようだ。
「再転送、しかないでしょうが、魂への負担が大きいので現状維持しかないのでは?」そんな二人を仲裁するように黒髪の男が間に入った。
「でも、生きてくの、厳しい、と思う」片言の言葉を話す金髪のロリッ娘は神の槍を携えながら意見を述べた。
「そうだよな。俺らで保護するか?」頭を掻きながら蒼髪の男がまともな意見を言った。
「それが一番いい案だけど,,,場所が無いわよね?それよりもこっちの方が危ないんじゃないの?」魔法使いは今自分たちがいる場所を見て頭を抱えた。
ここは原初の地で本来は何人も来るようなところではない。強靭な魂と意識。そして肉体が必要な場所だ。異世界人は世界渡りによって魂を大幅に削られている。この地に来るのは困難だろう。仮に来れたとしてもすぐに消滅してしまうのは明白だ。
「まぁ、向こうも望んで来てるのでいいんじゃないんですか。死んでも死ななくても」黒髪は半ば諦めた様子で笑っていた。
「それで、いいと、思う。傍観、決め込む」金髪のロリッ娘も黒髪と同意見だった。彼女は冷静な判断を下せる優秀な人物の様だ。
「お前はどうなんだ?俺はお前らに任すよ」蒼髪は考えることが嫌いなようで、もうすでに考えることを放棄していた。だから主人公の地位が危ないんだぞ。
「スキルも貰っているから、もっと大きな事態になったら介入しましょう」魔法使いの発言で今回の集まりは終了した。




