第二十六話 助けるためには力がいる
「おっさん、元気で生きろよ」あれから一日かけて町に到着した俺たちは門の前で別れることになった。襲撃も無かったし、落ち着いた旅路だった。彼の話も面白かったし、食事も美味しかった。
「ええ、あなたも元気で生きていてください。また逢えるかもしれませんから」そう言うとネメシアは門をくぐり、雑踏の中に消えてしまった。最後に見せてくれた満足げなあの顔を二人に見せてほしい。
「それじゃ俺は待機列で順番でも待ちますか」でかい町に入るにはやはり、門をくぐらなければいけない。犯罪者が入ってこれないようにするためだ。俺は指名手配されているが、王国の力でもみ消してもらった。国家権力、最高だぜぇ~。
ってこんな事を言っていたら、生レバーとユッケを食べている人間に怒られそうだな。照らして輝いていそうだ。
俺がこれから入る町はラック・ロック・ブレイン。幸運が訪れるとされる岩が点在していてそれに触れるためにお閉じれる人も少なくない。そしてこの町は巨大な岩を削り取ったような形をしている。これは昔賢者が自分と仲間を守るために魔法で城と砦とそこに居た人間を守るために作ったという伝承が残されている。今もこの伝承は残っているから信憑性は高いだろうな。
それにしても地形を大きく変えて後世に残せる魔法となると禁断の魔法しか考えられないな。それか極級の魔法を何回も使って要塞に仕立てたのか。どちらにせよ、賢者は相当な腕の魔法使いであったことは間違いない。今でもこの魔力溜まりに引き寄せられてモンスターが寄ってきているからな。俺みたいな冒険者も多いだろう。
「次の方ー!ってその紋章は!?どうぞ入ってください!!」俺の番かと思って門番に近寄ったらすぐに通された。なんでかな。ってやべ、王国の紋章を外すのを忘れてた。これで目立つのはプロティスに怒られるから嫌なんだよな。俺は肩についていた紋章を外して魔法空間に収納する。
「今のは見なかったことにしてくれ」俺のことを通した門番に金を握らせて、黙秘するようにお願いする。あくまで名を挙げるのは王国では無くて俺の方だ。こんな所でも王国にいいところだけを吸われるのは嫌だ。
町の中に入ると大きな岩が目の前に入ってきた。あそこが観光名所なのだろう。俺はいかないけどな。これ以上運気が上がったら逆に死んでしまうからな。なっはっは!
そんなことよりもギルドと宿を探さないとな。今日からここは俺の活動拠点になるところだからいい宿にも泊まりたい。体を労わって上げないと攻撃力も魔法もスキルの精度も下がってしまう。
なるべくならギルドの近くがいい。依頼を受けるのも早く済むし、疲れたらすぐに宿に帰って寝れる。これだけは絶対条件だ。最もそんなところは冒険者で埋まっているだろうが。
「こことかよさそうなんだが埋まっているよな」ギルドが目の前にあって立地も悪くないし外観も青色で落ち着いていて綺麗だし、何よりも大きい。ここに泊まれれば最高なんだが,,,取りあえず聞いてみるか。
「空いていますよ。ですがあなたの様な貧乏人には,,,」宿に入って受付に聞いてみたら、空いてはいるらしいが、馬鹿にされている。目の前の綺麗なお姉さんは俺の身なりを見て笑いを堪えている。これでも王国の権力者なんだが。
ま、この見た目なら仕方ないか。今の俺は黒いボロボロのマントに傷だらけの金属の鎧。腰には少しのポーションが括りつけられている。靴は革靴でくるぶしよりも上にある。スパイクが付いていて好きなんだが、これが貧乏に見えるのを助長させているのだろう。
金の持っている奴は傷だらけの装備なんて着ないし、派手なマントや剣を身に着けている。靴も機能性度外視の履きづらそうなものばかりだ。
仕方が無い。ここは国家権力の使って黙らせるか。俺は魔法空間から外した紋章を受付に見せる。
「すみません!今すぐ最高級の部屋に案内します!!」俺の紋章を見るなり受付のお姉さんは顔色を変えて俺を部屋に案内してくれた。まじで初めから案内してくれよ。こんなので目立ちたくないから。
「こちらが部屋になります。何かあればそちらのベルを鳴らしてください。それでは失礼します」俺が宿泊する部屋は三食が付いていて広さも申し分ない。金は一日十万リル程。冒険者の一日の収益は平均で五万位だからとても高い。まぁ、今の俺なら何個も掛け持ちして稼げるから問題は無いな。
「それじゃ、ギルドに足を運ぶか」肝心のギルドの中をまだ見ていない。できるなら一回が宴会場みたいな感じだと嬉しいんだよな。稼いだ金をそこでばらまいて、情報を集めてみたいなTHE・冒険者みたいな。
二階はやはり依頼なんかを受け付けるところであって欲しい。理由は今までのギルドの構造がそうだったから。まぁ、この作者のことだ。俺んお要望の通りのギルををたててくれるだろう。な?作者さんよ。
【ちょっとめんどくさい】
えーー!!なんで!?WHY!?そこを何とか頼みますよ。ほら物語的にもここら辺で落ち着けたいでしょ?なら俺たちにとって良好な環境にしたいだろ?
【そんなに言うなら,,,】
はい最高。これで俺の生活も楽になりますわ。ていうか言質取ったから無しとか禁止だからな。俺の勝ち、なんで負けたか次の話までに考えといてください。
【編集でいくらでも変えられるんだが?】
それ反則じゃない?対等な条件で戦おうぜ?まじで。勝ち目の薄い戦いは盛り上がるけどこれは流石に勝てないよ。だってあんたが俺たちの物語の語り手なんだから。自由に動き過ぎたかもしれないけど、さすがにそこまではしないよね?ね?
【冗談。紹介文にも書いてあるから君たちの意思に沿って書かせてもらうよ】
マジで神。ていうかその感じで俺つえーとかさせてくんない?ブランとかアクセルとかの場所も教えてくれないか?あんたも結構困ってるだろ?
【それはオリジンとトゥルーと契約してるから無理。後は頑張って】
作者の声が遠ざかっていくのが分かる。こうやって会話したのは久しぶりかもな。おっと感傷に浸っている場合じゃなかった。ギルドに行かないと。
ギルドはこの宿から歩いて数分のところにある。本当に立地のいい場所だ。空いているのは値段が高いからだろうな。本当に強い冒険者を狙いとした宿なのだろう。
「ここがギルドか」見た目は横に大きく、塔の様なものが三本連なっている。塔の様なものには窓が付いていて三階まであるのが分かる。重厚感のある黒い石は鉄壁と感じさせるものがある。
「中もいい感じだな」内装は獣の物が多く使われていてワイルドな感じになっている。一階は酒場の様なもので、真ん中にキッチンがある。提供されるものが目の前で見れるのは正直嬉しい。
二階は依頼の受付、素材の買取をしてくれるところだ。ここは清潔感のある白いものが使われていて黒とのモノトーンでメリハリがついていてとても良い。三階以降はギルド職員及びギルドマスターしか入れないようになっていた。
ギルドマスターは名前の通り、そのギルドを運営する人間のことだ。成るためには実践の経験を多く積んでいるか、座学の試験を受けて合格しているかどうかだ。前者は二つ名や盗賊なんかを倒していると、ギルドから推薦を貰える。後者はギルドに莫大なお金をかけて試験を受けることができる。
もっとも、ギルドマスターは冒険者から成っている人間の方が多い。理由はギルド内でのいざこざを仲裁するためだ。力があればすぐに制圧できるからな。俺も小さいときは夢見ていた。ギルドマスターになって皆を率いて大型討伐とか。
話が大きく逸れる前に今出ている二つ名の依頼でも見るか。ここは魔力のたまり場だから頻繁に二つ名が現れる。
俺は依頼版の前に立ってどれを受注するかを吟味する。魔法を使ってくるようなモンスターは苦手だから近接系のモンスターの方がいい。後はどれだけ強いのかもポイントだな。強ければすぐに名前が広がるからな。
「うーん。よし、これに決めた」依頼版から紙を破って受付に渡す。俺が今回倒すのはミノタウロスの亜種だ。亜種って言うのは原種とは違う性質を持ったモンスターのことを指す。
こいつの二つ名は嵐斧。二つの斧から繰り出される一撃必殺の攻撃が連続で繰り出されるらしい。生存者の報告だと攻撃が掠っただけでもミスリルの鎧が砕け散ったというのがある。他には衝撃波だけで木々がなぎ倒され、こいつが居た後は嵐が通ったように地面が渦巻いているそうだ。
気になる点があるとすれば、魔剣の様なものを所持しているというのがある。どのような効果があるのかまでの報告は無いが、厄介なのにには変わりないだろう。もしかしたら魔剣じゃなくて魔力の籠った斧なのかもしれない。気を付けて戦わなといけないな。
「さてと、いっちょ金稼ぎと行きますか」大剣を背中に担いで町の外に出る。普段ならこんなことはしないんだが、名前と容姿を覚えてもらうには目立つ格好をしておいた方がいい。
青髪に大剣を使っている奴がいるって話が流れてきたら、成功だな。名前まで覚えていてくれたら大成功だ。
「場所はここから一日で着くくらいだな。俺のダッシュだったら三時間くらいだな」体のストレッチをして走る態勢をを整える。変なところで体を壊して、戦闘になったら目も当てられないからな。
「はっ!」地面を勢いよく蹴り上げて、前に直進する。岩が目の前に来たらジャンプで軽々と飛び越えて、川があったらそれもジャンプで飛び越える。大きい川だったら蒼を使った空中歩行をする。これをするのは中々難しいからあまりしたくはない。
町を出てから数時間が経った頃、キィン!ガキィン!ドン!とどこからか戦闘の音が聞こえる。硬いものがぶつかった様な音と魔法の音が聞こえる。どっかのパーティーがそれなりの規模で狩りでもしているのだろうか。
「誰か!こいつを治してくれ!」「無理!ブラストファイア!」「もう耐えきれない!どうするリーダー!!」「クソ!どうすればいいんだ!!」
どうやら壊滅寸前みたいだな。助けに行くか?見ず知らずの人間をか?狩の横取りはグレーゾーンだ。それでも行くか?当たり前だろう。簡単な自問自答をして俺は戦闘音が聞こえる方に走り抜ける。
「邪魔するぜ!自由の咆哮!」モンスターの横から蒼で攻撃を仕掛ける。どうやら相手にしていたのは鉄に覆われた二メートルの肉体と強靭な顎を持つ巨大な蟻、アイアンアントの群れだった。
「あんたは!?」大きな盾を持った男が俺の存在に気が付いて振り向く。戦闘でそんなことをしていたらすぐに死ぬ。
「そんなのは後だ!タンク横に避けろ!!」~蒼天~
大剣に蒼を纏わせて大きく振り下ろす。タンクはギリギリのところで俺の攻撃を回避した。蒼を喰らったアイアンアントは真っ二つになり、後続にまで深刻なダメージを負わせた。
「これじゃ倒しきれないか。フレイムバースト!」左手で魔方陣を完結させて魔法を発射する。王国に居たときに独学で練習したものだから精度は悪い。だが火力は申し分ない。当たれば即死、掠れば瀕死の状態になる。
「ギギィィ!!」右手で大剣を制御して蟻たちが攻めれないように細かく攻撃をしていく。大剣じゃなくて短剣の方がいいんだが、俺の奥の手の武器チェンジを見られたらまずい。
「この調子なら倒せそうだな」次々と黒焦げになっていく蟻たちを見て引き際を考える。ここまでの群れとなると、巣に近い可能性が高い。そうなると女王蟻を殺さないと際限なく生まれ続けてきて、無限に戦う羽目になる。
「ここは巣に近くない!誰か知らないが救援感謝する!!」後ろから青年の声が聞こえた。巣に近くないんだったら話が早い。一撃で終わらせてやろう。
「開け!獄炎門!!」自分の腹に大剣を突き刺して業火に包まれた門を召喚する。これも禁断の魔法の一つで余りにも火力が高いことから極級から禁断に変更された悲しい魔法だ。それに伴って代償を払わなければならないという制約がある。これは自身の血を吸わせてやることで完成する。
キィィィィィンンン!!耳を塞ぎたくなるような甲高い音が耳を支配する。これでやっと攻撃が可能な状態になった。
「燃やし尽くせ!!」ガコン!!門が勢いよく開き、業火が蟻たちを包み込む。これで生きていられる生物は中々いないだろう。今回の蟻は炎に弱いし死んでくれるはずだ。
「これで終わりだな。誰か治療してくれ」蟻の殲滅を確認した俺は後方のパーティーの魔法使いに回復するように頼んだ。禁断の魔法を使うと魔力の制御が一定時間できなくなってしまうから普段は使わないようにしている。今回は命が懸かっているから特別だ。
「俺たちの狩りの失敗は知られたくないからな。ここで死んでもらうよ」恐らくはリーダーである青年が俺に長剣を振り下ろしてきた。
「まじかよ!?クズ野郎だな!!」蒼を自分にぶつけて横に吹き飛ぶ。禁断の魔法は自身に掛かっているバフを消す力もあるから厄介なんだよな。今も蒼を纏って避けれればよかったんだが、できないから自傷して回避するしかない。
「好きなだけ言っとけ。お前の手柄も俺らの物だ。偽善だけで生きれると思うなよ?」青年の後ろから魔法が飛んでくるのが見える。ここで死ぬのか。こんな展開は何回もあったが今回ばかりは死にそうだな。
「お前の言う通りかもな!!」再び蒼を使って魔法の範囲外に飛ぶ。向こうは回復しているのに対して、俺は確実に死に向かっている。このままじゃジリ貧。助からないのが明白だ。
「理解してるのなら死んでくれよ。早く戻って酒を飲んで女を抱きたいんだよ」先程の魔法の感覚が短くなり、男の攻撃も組み合わさった。何とか大剣で凌げてはいるがもう耐久力が無い。
ビシビシ!!嫌な音が聞こえる。大剣に大きなヒビが入った。こいつはもう持たないだろう。
「お前の負けだな!!」壊れそうな大剣を見て、男は勝利を確信しているようだった。後もう少しで魔力の制御ができるようになる。そこまでは何とかしないと。
「まだだ勝負は終わって無いぞ!」大剣を地面に捨ててに突進をする。俺の相棒だから、こんなところで壊したくはない。悪いがそこで待っていてくれ。すぐに行くから。
「諦めが悪いな!!」虫の息の俺の突進は子供の遊び位にしかならないだろう。軽く踏ん張った男に力負けをしている。どんなに惨めでも生きることを捨てない俺は勝利を掴める。
「俺は生に執着してるからな!!」魔力の制御ができるようになった俺は魔法空間からドレイン・ドレインを装備して魔法を無効化する。また一定時間魔法が使えなくなるが、生き延びるために必要なことだ。
続いて俺は腰につけていた解除瓶を使って盾と体を離す。このままくっ付いていたら死んじまうからな。鈍い音を立てながら盾は地面に転がった。
「そうか!!なら惨めに負けてあの世で後悔しな!!」長剣が俺に振り下ろされる。俺はこの瞬間を待っていた。男が一番油断する瞬間。とどめを刺すこの一撃を。
「断る!!」最後の力を使って長剣を蹴り飛ばす。男の手には何も握られていない。武器が無くなったこいつが次にとる行動は俺が出した盾を拾うことだろう。こいつは奪うことが好きみたいだからな。
「そんなことしたって無駄だ。お前のこの盾を取れた時点で,,,?」男はドレイン・ドレインを手にした瞬間その場に倒れ込んだ。ようやく助かる道が見えた。
「呪われた盾、聞いたことあるだろ?」俺がそう言い放つと男は怒りが顔を歪ませた。
「だからどうした!!そんなの魔法を使えば外せるのを知らないのか?早く外せ!」男は後方に居た魔法使いに解除の魔法を指示した。
「無理ですリーダー!魔法が無効化されて,,,」その言葉を聞いて男は一気に青ざめた。今も男の体力は吸われ続けていることだろう。
「悪いな。俺は生きたいからな。この辺で逃げさせてもらう」地面に転がった大剣を拾い上げて逃走を図る。
「解除してからだな!それは!!」目の前に壁の様な男が立ちはだかった。今頃になってタンクが出てくるのか。連携が取れているのか取れていないのか。
「お前も呪われたいのか?」魔法を使うふりをしながら接近する。ただのはったりだがこいつには有効だろう。蟻にビビって腰が引けていたんだから。
「くっ!!」どうやらビビッてくれたみたいだ。初めから通してくれよ。そうしてくれれば変な真似しなくて済むんだから。
「エンチャント・カース!!」手を前に突き出して魔法を発動させた、ふりをした。こんな魔法なんて使えはしないんだけどな。
「ひぃぃ!!」タンクは完全に腰を抜かして倒れ込んだ。こんなんでタンクをやっていたなんて驚きだ。
「冗談さ」馬鹿にするように男の横を通り過ぎる。魔法の追撃もドレイン・ドレインが吸い取ってくれるから心配はいらない。
「今回は俺の勝ちだな。次があれば期待しておくよ」茂みに入って俺は腰にぶら下げていた瓶を一つ男たちに向かってぶん投げる。
今俺が投げたのはモンスターが大好きな臭いを放つ悪臭瓶だ。これで痛い目でも見てくれ。できれば二度と俺にあの顔を見せないでほしい。あいつらは冒険者の資格が無い。命を助けてもらった人間に牙を向けるのなんて野生動物と同じだ。
「何とかなったな」魔法の制御が効くようになった俺は回復魔法を使って体を治していく。血も大量に流してしまったからスタミナポーションも飲んで体力が無くならないようにする。
「偽善じゃ生きられない、か」ボロボロになった装備と体を見て改めて痛感する。この世界はそんな甘い考えじゃ通用しないってことを。でもそんなくだらないことで、夢を語れるならいいことなんじゃないだろうか。
そんなことを思いながら俺は目的地に歩き始める。天気は曇り。俺の好きなのとは正反対な表情を見せる空に複雑な感情を抱いた。俺がやったことは正しいのだろうか正解は分からない。不正解も分からない。




