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ブレイクソード  作者: 遊者
変化する世界
21/97

第二十一話 消滅少女

~ブラン視点~

「ブレイクとの約束までに強くならないとね」あの日から私たちはそれぞれの道を歩くようになった。二人が行くところは分からないけど、必ず戻ってくることを信じている。


今私が向かっているのは世界で最も魔法で栄えているマギア王国だ。グレイからだと一年以上はかかる距離だが、アクセラレーションとテレポートを駆使すれば三日以内に着くところにある。


そこでやることはただ一つ。マギア魔法大学校に入ることだ。そこは最も入るのが難しいことで有名だが、二つ名を何体も倒してきた私ならどうにかなるだろう。


それにこう見えても地元の学校ではずっと主席だったし、魔法もピカイチだった。不安な要素だった体力も旅の間で二人に鍛えてもらったおかげで半日は走れるようになっている。身体強化魔法のおかげでもあるが。


「この草原を抜ければ次は砂漠か。暑いのは嫌だからテレポートで楽でもしますか」あの町から出てから三時間くらいだが、もう折り返しのところまで来ている。これも禁忌の魔法のおかげだろう。


あの軸の私には感謝しないとね。それにしてもあの軸の私はどうして優しくしてくれるのだろう。メリットは無い筈なのに。考えても分からないな。でも可能性があるとすれば__


「だ、誰か助けてくれぇぇ!!」思考を巡らせていた時に草原の奥の方から声が聞こえた。向こうは死の森でこの辺りの人は絶対に立ち入らない場所のはず,,,馬鹿な冒険者でも入ったのだろう。私に助ける義理も無いし見捨てようかな。助けに行って死ぬのは勘弁ね。でもブレイクなら助けに行くか。


「はぁ、面倒くさいわね」飛翔魔法を使い空に浮かび上がる。目標は,,,案外近くに居た。男二人に女三人でそのうちの三人が負傷している。そして目の前には赤い鱗の大蛇が居た。早めに助けに行かないと手遅れるになる。


「テレポート」この魔法は目に見える範囲ならどこにでも転移できるという魔法だ。これと千里眼や浮遊を組み合わせれば広範囲の移動を可能にすることが出来る。


「あんたは?」重装備の傷だらけの男が私の前に盾を構えて聞いてきた。この判断速度は並みの冒険者じゃないわね。恐らくは高レベルのパーティーで、不測の事態が起きたのだろう。


「今は私を守っておいて」この男が守ってくれることに賭けて魔法を展開していく。レッドサーペントは魔法抵抗が高いことで知られている。こいつを一撃で葬るならかなりの威力が求められる。


「しゃあぁぁ!!」魔法を展開している間にも容赦なく大蛇は攻撃を仕掛けてくる。盾男はしっかりと攻撃が私に来ないように抑えてくれている。中々腕が立つみたい。


「お疲れ様。下がっていいわよ」魔方が完成しレッドサーペントに向かって二つ炎雷が時間差で放たれる。これは私のオリジナル魔法だ。こいつ弱点である雷を当てるために表面を炎で焦がし、鱗が剥がれ落ちたところに遅れてもう一撃が当たる。


「しゃぎゃあ!」最後は反撃をしようと突進をしてきたが、風魔法で上空に吹き飛ばし、不発に終わらせた。死の森といってもこの躯体の強さなのね。単身でも勝てそうだわ。


「助かった!なんて礼をすれば,,,」さっきの盾の男が駆け寄ってきて、礼を言ってきた。私からすれば魔法の実験台に過ぎないから感謝されることでも無い。


「そういうのは後にして。怪我した人を治療するから」男の横を通り、負傷した人間たちの方に向かう。手当をしていたのは盗賊の女で、必死に包帯を巻いて出血を止めようとしたり、ポーションをかけたりしていた


しかし、レッドサーペントが持っている毒は回復魔法と聖魔法、浄化魔法を組み合わせないと解毒できない。こんなことをしたって、気休めにしかならない。


「少しどいてもらえる?私が直すから」禁忌の魔法を展開する。それに合わせて周りが赤色の魔方陣で覆われる。聖魔法を習得していない私はこの方法でしか使う頃が出来ない。


「その光って,,,」盗賊の女が何か言っているが、目の前のことに集中している私にはノイズでしかない。こういう時は黙ってみてくれるものじゃないのかな。


「エクス・ヒーリング」周りが神々しい光に包まれ、怪我をした三人に降りかかる。どうやら魔法は成功したようだ。失敗していればいまだに魔方陣が私のことを覆っているからね。


「それじゃ」やることが終わった私は早々にその場を去ろうとしたが、盾の男に呼び止められた。


「あんた名前はなんていうんだ?」


「,,,ブラン」


「何かあったときは俺たちを頼ってくれ。って助けられた俺たちが言うことじゃないが」笑いながら渡されたのは、一枚の紙きれだった。中身は依頼を一回無料でしてくれるというものだった。端にはパーティーの名前が書かれていた。


「覚えていたら頼んでおくわ」そしてテレポートで王国に近づくために転移した。


いくら急いでいるからとはいえ、あの態度は流石に無いわね。転移した先で一人反省会をしていた。もうちょっと友好的にしてればよかったな。そんなことを思いながら、アクセラレーションを使って砂漠の中を走り抜ける。


暑さを避けるために常に上から水をかけているが、すぐに蒸発してしまうくらい気温が高い。なんでこんなことになっているかというと、世界で今でも語り継がれている災禍が住み着いているからだ。


こいつはモンスターを無尽蔵に生み出すし、形態は状況によって変化させる知能に、強大な力で自然に干渉をするという化け物だ。でも、ここ数百年はここに留まっているし、近年じゃ死が近いなんて言われている。


まぁ物騒なところには変わりないから、早くここを抜けたいわね。万が一出くわしたりでもしたら、死は確定しちゃうしね。


「それにしても暑いわ。そしていつになったら抜け出せるのよ」この砂漠に着いてからもう数時間は経っている。アクセラレーションとテレポートを使っても終わりが見えない。


「はぁ、遠回りだけど、山岳の方にすればよかったかしら」マギア王国に行くための道は三つあって一つはこの砂漠を通る道。二つ目は海を回っていくというルート。三つ目は竜の抜け道という山岳だ。


皆が良く使うのがこの山岳ルートだ。時間はかかるが安全だし、ここでしか取れない鉱物もあるから人で賑わっている。


なんて説明してたら緑色の草が見えてきた。どうやら終わりが近いようだ。浮遊からのテレポートは精度が悪いから時間が掛かってしまった。でも三日以内には辿り着けそうだわ。


「日が暮れてきたし今日は野営でもしますか」必要なものは全部魔法空間に入っているから、後は立地のいいところを見つければ終わりだ。


「立地のいいところを探すのが一番苦労するのよね」浮遊魔法を使うと魔力でモンスターが寄ってくるし、千里眼も無いから、徒歩で地道に探すしかない。


歩くこと数時間、完全に日が落ちたところでいいところを見つけた。洞穴だ。ここなら一方通行だから、奇襲は無いし、襲撃があったとしても魔法で制圧することが出来る。


「ここで一晩過ごしますか」体を伸ばした後に、浄化魔法を使って体を綺麗にした後に、火を起こす。勿論魔法で簡単に。いちいち火花を出してやるのはとても効率が悪いからね。


「晩御飯は,,,適当なのでいいか」魔法空間から保存食を取り出してかじりつく。私もブレイクと同じで、栄養が取ればいいと思っている。まぁ美味しいものは食べたいけど、今日は疲れたから楽してるだけ。


「あとやり残したことは,,,結界張るのを忘れてた」三人で旅をしていた時はお香に結界を張ってモンスターが来ないようにしてきた。でも今は四方を囲まれているから、出入り口にだけ結界を張っておく。


何かが入ってきたら、私に反応が来るし、そのあとに麻痺、睡眠、毒が同時に放出される。無害な人間だったら助けるけど、それ以外は死んでもらう。あとモンスターもね。


「今日はなんだか疲れたわ」魔法空間からベッドを出して横になる。これで野宿でも体を痛めなくて済む。ブレイクは慣れてるし、そこそこあるから大丈夫だと思うけど、アクセルは,,,なんか察せるわ。


「明日には着いておきたいわね」ゴロゴロしながら明日の計画を立てる。ここまで急いでいるのは試験が一週間後だからだ。大学校の試験は夏季と冬季の二回しかない。どっちか逃すと、半年は時間を潰してしまう。それだけは避けたい。


今回私が受けるのは夏季の方だ。こっちの方が暖かいし、卒業が早い。私は飛び級ですぐに出れると思うけど。念には念を入れておいた方がいいからね。


「明日は宿を見つけて,,,」いろいろなことを考えているうちに睡魔に襲われて、誘われるがままに眠ってしまった。


寝てから三時間くらい経った頃に結界に反応があり目を覚ました。私の睡眠を邪魔したのは誰かしら。そんなことを思いながら出入り口に向かって歩く。


「あんた山賊ね?」無精ひげに赤のバンダナ。川のベストに、サーベル。間違いない。


「クソっ!なんでこんなとこに結界が!」向こうは私の話に聞く耳を持たない様子だ。こういうのは放置で死ぬのを待った方がいいか。山賊だし。


この世界では盗賊と山賊で向けられる目が違う。盗賊は人の役に立つように活躍をするが、山賊、そして海賊は自分の力を良くない方向に使う人間のことを指す。こういったのは殺しても良いと法で決まっている。


でも確定したわけじゃないし、口を割ってもらうしかない。とりあえず状態異常をすべて解除するか。っとその前に動けないように鎖で縛っておかないと。


「お前がやったのか!?早く外せ!」向こうは状態異常が無くなるなり、私に向かって命令をしてきた。どうやら自分の立場が分かっていないようだ。


「うるさいわね」喚く男の足に氷でできた槍を突き刺す。非力な私でも、魔法を使えばこのくらい造作もない。


「ぎゃあぁ!いてぇ!いてぇよぉ!!」男はあまりの痛さに悶絶している。この状態だと、喋ることも出来ないか。回復してあげよう。そしたら自分のことを話してくれるだろう。


「ヒール。あんた山賊で間違いないわね?」傷を即座に治療した後に尋ねる。


「ち、違う!!俺は山賊なんかじゃ,,,」


「本当のことを言ってくれるかしら?」男の腹部に向かって炎で包まれた槍の魔法を飛ばす。中々口が固いみたい。


「があぁぁ!!!分かった!本当のことを話す!!だから、だから,,,」男は必死に命乞いをしてくる。やっと自分の立場が分かったみたいね。


「ヒール。もう一度聞くけどあなたは盗賊ね?」みるみるうちに塞がっていく傷をみて我ながら成長したなと思う。


「俺は盗賊で間違いない!でもこんなことはしない!約束する!!」男は泣きながらこんなことはしないと言ってきた。ブレイクがこういうやつは必ず、何回も繰り返すって言っていたな。


「ありがとう。次はまともに生きなよ」山賊だと確定した男に向かって炎雷をぶつける。黒い煙が立ち上がった後、そこに残ったのは煤塗れの装備と、臭い肉の塊だった。


「はぁ、こんなにも早く殺人するなんて」ため息を吐きながら私は寝床に戻って朝を待つことにした。幸いにもこの晩はあの一件の襲撃以外は何もなかった。


「ふあ~。良く寝たわ」外から入ってくる暖かな太陽の光と共に目を覚ます。この感じだと今日中に着きそうな気がするわ。禁忌についても少しだけ知ることができたし。


禁忌について知れば知る程、魔法だったり力が付く、代償はかなり痛いけど、簡単に力が入るならこれくらいは安いものね。


最近は睡眠中でも禁忌について触れることができるようになったから効率がいいわ。代償がどれほど大きくなるかは分からないけど、今のところは支障は無いし、どんどん知っていこうと思う。


「よし、行きますか」魔法空間から水を出して、飲んだ後に昨日出したものを全て収納していく。間違えて変な者を入れないように注意しないと。前なんか間違えてムカデを数十匹入れちゃってたからね。


「ここからだと,,,うん、夜までには着きそうね」地図を見て現在自分がどこに居るのかを把握して、向かう方向にテレポートを始める。


マギア王国に行くためには大陸を渡らないと駄目で船や飛行船を使う必要があるんだけど、私は一か八かの賭けで浮遊からのテレポートで海渡を狙う。失敗したら海の中で何回もテレポートのクールタイムを待たないといけないから避けたいところ。


「魔力も温存しておこうかしら」転移系の魔法は莫大な魔力を使うので、魔法陣なんかが使われている。そっちの方が安定しているし、魔力の消費も少ないからね。普及していないのはお偉いさんが自分たちのためだけに技術を独占してるから。本当に厄介でゴミだわ。


海まではアクセラレーションで走ることに決めた。ここから先は広い平原があるだけで、迂回する必要もないから、走っていくことができる。


途中で休憩を挟みながら走り続けること数時間。太陽がてっぺんに昇ったところで小さな町を発見した。地図にも書かれていないから村という表現の方が正しいか。


「ここで何か買おうかしら」魔法空間の中を確認して不足しているものが無いかを見る。日用品あるし、ポーションもある。対モンスター用のアイテムあるし,,,夜必要は無いかな。


「そこの魔法使いさん!助けてくれないか!」そのまま村を横切ろうとしたときに村人から声をかけられた。


「どうしましたか?」私は帽子を取って挨拶をする。


「急な話なんだがうちの息子を助けてくれないか?昨日モンスターとの戦闘で怪我を負ったみたいで」焦りながら状況を教えてくれた人はクェザという名前の村長さんだった。見た目はよぼよぼのおじいちゃんだが、歴戦の力を持っている印象を持たせる鋭い眼光が特徴的だった。


「別にいいけど,,,何か差し出せるものは?」人を助けるのはいいが、ボランティア活動ではない。対価を貰わないと皆生きていけないのがこの世界だ。


「その感じだと向こうの大陸に行くんだろ?一回限りだが、専用のスクロールがあるんだ。村にとって無用のものだからそれを対価として差し出す」この提案は魅力的ね。早く着けるってことはその分大学校の対策が取れるからね。それに不安定だったのが安定するし。


「分かったわ。それであなたの息子さんは?」


「こちらになります」村長に案内されながら村の奥に向かう。やっぱり偉い人は奥の方に家を構えるのだろうか。


村は全体が柵で囲われていて、最低限の守りが保証されている感じで、道はあまり舗装されていない。皆が頻繁に使うところが道になっている。中は畑や井戸、家畜が居て、自給自足は出来ていそうだ。人口は百人もいないだろう。


「ここに居るのね?」村長に確認を取って中に入る。この村で一番大きな家だ。見た目も周りの家とは違い、モンスターの素材で装飾されている。中も豪華なもので、熊の毛皮や、石で造られた大きな暖炉があって、肉が干されている。


「親父,,,その人は?」ベッドに横たわっていた人がこちらの方を見て指をさした。灰色の髪にすっと通った鼻筋と切れ長の目でイケメンだと一目で分かる。


「お前を治療してくれる魔法使いだ」


「それじゃ、早速魔法を使うわね」息子さんの包帯を外して傷の状態を確認する。外している間、息子さんは痛々しい声をずっと上げていた。


「これは酷いわね,,,」包帯の裏側あったのは生きているのが不思議なくらいの大きな傷だった。背中はばっくりと開いていて、骨が見える。腹部は大きな傷は無いが、小さな穴が何か所も開いていて、出血が酷い。


そんな体に応急手当で薬草をすり潰したものが塗られている。恐らくこれで延命に成功しているのだろう。


「今すぐ治すわね」息子さんの体に手を当てて魔法を発動させる。体が暖かい緑色の光に包まれていく。治癒魔法はそこまで得意じゃないから何回かかけ直す必要があるかもしれないわね。


「おぉ,,,」見る見るうちに傷が塞がっていくのを見て村長が感嘆の声を上げている。でもまだ安心できない。大量に血を流しているから、魔力を生命活動に必要なエネルギーに変換して送る必要がある。血がそこまでだったり、すぐに治療してるのであれば必要ないんだけど。


「体が動く,,,」息子さんが治ったと思って体を動かそうとしている。これだとすぐに倒れてしまうから止めておこう。


「まだ終わって無いからじっとしてて」軽く体を手で押さえて、魔力を体に送り続ける。この人の許容量は分からないけど、流れ出た血を予想して送ってみよう。失敗したって、魔力暴走を起こして気絶するだけだし。


「ちょっと痛いかも,,,」どうやらここが限界の様だ。供給を止めて体を確認する。傷も無いし完全に治ったようだ。


「これで治療は終わり。それじゃ約束のものを頂戴」役目を終えた私は村長にスクロールを要求する。これでもらえなかったら禁忌の魔法で消し飛ばしちゃうかも。


「約束のスクロールだ。本当にありがとう」家の奥にあった箱の中から紙切れを渡された。中身を確認するとしっかりと王国に行けるものだった。


「今度は油断しないで戦いなよ?」転移する前に村長の息子に忠告をしておく。いくら生活がかかっているとはいえ、大切な命であることには変わりない。


「あぁ!約束する!!」顔を赤くして彼はそう告げた。まだ治ってすぐだから熱でもあるのだろうか。もう関係は無いけど。


紫色の光に包まれて転移が始まった。やっぱり安定した転移は楽ね。魔力の調節も必要ないし、座標も設定しなくていい。それに燃費がいいから魔力が無い人でも扱える。高値で取引される理由も分かるわ。


「着いたわね」手に持っていた紙が朽ち果てて地面に落ちていく。目の前には巨大な城とそれを覆う巨大な魔法の結界が何重にも張られていた。マギア王国だ。


「門まで歩いて行かないと」この王国に入るには門を通る必要がある。ここはどの国も同じだろう。でもこの国には入り方が二つある。


一つは四方に配置された門を身分証などを見せ、中に一般人、旅人などの身分で入る方法。ここで犯罪者なんかを弾いている。


もう一つは転移魔法を使って無理やり入る方法。これは魔力が大量にある人間ならできる裏技的な方法だ。これは私にもできるけど明らかな欠点がある。それはこの国を敵に回すということだ。


これをすると結果魔法が発動し、常時居場所が分かるようになり捕まるまで解除されることは無い。逃げれたとしても指名手配されすぐに捕まってしまう。さらに烙印を押されてしまうと魔法が使えない体にされてしまう。


そこまで体を張って入るところじゃない。それにこの方法をする人間は一個人で一つの国と対等に戦える人間だ。そんな人間はこの大陸と前に居た大陸で数人くらいしかいない。


あとは,,,実際にこれをやった人間が居るわね。名前はファーストネームがワールドってことだけは分かっている。それ以外は何もわかっていない謎の存在だ。この人物に関わる情報を国に渡すだけで一生過ごせるくらいの大金がもらえてしまう。そのくらい重要で危険な人物だ。


話が逸れてしまったわね。でもそのおかけでもう門の前まで来れたわ。表現する描写が省かれて作者は喜んでいるわ。後はこの長蛇の列に並んで自分の番が来るの意を待つだけだ。


「この時間が暇なのよね,,,」魔法でいろんなものを生み出して壊してを繰り返して時間を潰す。これに飽きたら人間観察。ここはいろんな人が魔法を学ぶために来るから様々な種族がいる。


人間や獣人。ドワーフやエルフ。ハーフなんかも居るわね。装備も十人十色だ。剣を持っている人もいれば斧や槌。素手の僧侶や重装備の魔法使い。見ているだけでもある程度の時間が流れる。


「はーい。次の方ー」どうやら私の番が来たようだ。長いようで短かったな。


「はい」門番の前に行って身分を証明できる冒険者カードを出す。作中じゃあまり触れられていないからこの際話しちゃうわ。


冒険者カードは名前の通り冒険者が持っているもので、身分を証明するのに使ったり、自身に功績に応じて色が変わったりするわ。依頼もこのカードを通してやり取りしたりする。


使える魔法やスキルなんかもここに一覧で表示される。私は秘匿魔法で見えないようにしている。こういうのはばれる時もあるけどお金を渡せば見逃してくれる。門番は給料が高い職業じゃないからね。


それと犯罪を犯したりすると名前の欄が赤色に変化して見つかり次第処分される。そんな人間は殆どいないけどね。あとは犯罪者相手を殺しても赤色にはならないわね。


私のカードのランクは高くないから鈍い色をしているわ。功績を積み上げれば煌びやかになるけど興味が無いから関係ないわね。


「通って良し!!」門番は握り拳を作って私のことを通してくれた。これで私の学園生活に近づいたわね。後は合格するだけの簡単な作業だ。


ぐぅ~。おっとおなかの虫が鳴いている。早いところ宿を探しておま化を満たすとしようか。幸い太陽はまだ昇っているから宿はまだ満席じゃないだろう。k所の際いい感じの宿に泊まって合格するまでの根城にしようかしら。


明日からの計画を考えながら雑踏の中に身を投じる。ブレイクたちが感じていたロマンはこんなものだろうか。二年後が楽しみになってきたわね。


「とりあえず宿から確保ね」ブレイク達がしてきたように私もそうする。慣れないことをすると体を壊しちゃうから。


「この宿を無制限で泊まりたいって?冗談は勘弁してくれよ」王国に着いて私はすぐに接続の良い場所の宿に足を運んだ。外観も内装も私好みの落ち着いた色合にそれなりの大きさで気に入ったのだが、店主が私のことを小さいからって見くびってきている。


「冗談じゃないわ。ほらお金」魔法空間から一般人なら数年は暮らしていけるほどの金を見せる。これはブレイク達が魔法空間入らないからと私に押し付けてきたお金たちだ。こうやって使っても文句は無いだろう。


「これはこれは。どうぞ好きなだけ泊まっていってください」莫大な量のお金を見ると店主は目の色を変えて接客をして来た。初めからこうしてくれれば気分が良かったんだが。小さい自分が悪いか。


「部屋はどこを使えばいいの?」お金を少しずつしまいながら聞く。こうすることで相手を急かすことができる。だって罠に掛かったカモが逃げようとしているのだから。


「三階の角部屋です!鍵はこちらに!」店主は後ろに向かって声を上げると、すぐに黒い服を着た男が鍵をもって出てきた。厳ついわね。


「お嬢様。どうぞこちらへ」黒服に案内されて部屋に向かう。その間にいろいろなところに目を向けておく。絵画やカーペットなんかを。気に入ったものがあれば交渉して貰いたい。


そこのあんた。いま強欲な女だって思ったでしょ?そうよ。私は欲しいものは手に入れておきたいの。大事なものが手の中から零れ落ちたら悲しいじゃない?悲しまないためにも隙間は小さくしておくものなの。ブレイクは,,,例外ね。


「どうぞごゆっくりしていってください。何か御用があればそちらのベルを鳴らしてください」着いた部屋は玄関のすぐ隣にトイレとお風呂が別になって配置されていて、その奥に大きな部屋がある。中にはふかふかの椅子やベッドが置かれていた。どうやら最上級の部屋に案内されたようだ。


「早速だけど晩御飯を用意してくれない?」外に出て、戻ろうとした黒服を呼び止めてごはんを持ってくるように手配する。こういうのは使ってなんぼだ。


「かしこまりました」一礼すると、姿勢よく下の階へと下りて行った。ここは接客がしっかりしているな。そんなことを思いながら部屋戻って、入学のための手続きを始める。


手続きといっても名前とお金を大学校に送るだけなんだけど、これが本当にめんどくさいしと話題だからここの人にやってもらおうかしら。


「えーと名前は,,,」ここで偽名を使うか悩む。偽名を使うメリットは匿名性が高いってことと、何か大学校でしでかしても逃げれるってこと。デメリットはばれたら退学ってところくらいかな。


「うーん。偽名じゃなくてもいいか」適当な紙に名前を書いて、封筒にお金と共に梱包する。これであとはここの人に出してもらうだけね。ご飯が来たときに渡して出してもらいますか。


しっかり出してもらうためにお金,,,ではなくてモンスターの素材でも渡しておこうかな。ちょうど深淵樹の素材が容量を圧迫してるし、これは魔法の通りがいいから高値になるはず。


どうやって交渉を進めて行こうか考えている間に食事がやってきた。おなかの虫はもう泣き疲れているから早く食べないと。


「食事になります」さっきと同じ黒服が蓋で覆われた料理を運んできた。ちょうどいいわね。


「店主は今いる?居るなら呼んできてほしいんだけど?」手を握って頼みごとをする。こういう人間は金に飢えているはず。


「確認してきます」手の中を軽く見た後に黒服は下りて行った。上手くいったみたいね。この世はやっぱりお金がものをいうわね。さてと、来る間に料理でも堪能してようかしら。他の人の対応もあるだろうから時間はかかるだろうし。


「おぉ」蓋を開けてみると大ぶりな肉に色鮮やかな野菜。それにコーンスープが入っていた。横の方には白いもっちりとしたパンとミルクが入っていた。ここの宿は料理にも手間をかけていそうね。


「おいしいぃ~」頬に手を当ててしまうくらい美味しい。肉は柔らかくて噛めば噛むほど肉汁が溢れうまみが口に流れ込んでくる。野菜たちは爽やかな味の中にコクがあって飽きがこない。


スープは素材の味が生かされてて、ほかの料理のおいしさの引き立て役を担っている。そしてこれらとパンが合わさるともうたまらない。ものの数分間で食べつくしてしまった。


「美味しかったわね」空になった皿を見る。明日は何が出るのか楽しみだ。ブレイク達と旅をしていた時は味は違ったけど、肉が多かったから新鮮だ。


「お待たせしました」丁度いいタイミングで店主がやってきた。


「入っていいわよ」扉を開けて中に入るように促す。ここからが本番だ。


「それでなんの用ですかな?」分かっている様子で要件を聞いてきた。この人もなかなかの人間ね。


「マギア大学校の手続きを頼みたいの」


「中々に難しいことを頼んできますね」店主はやれやれだといった仕草をしている。ここまでは想定内。


「これを見たら考えが変わるんじゃない?」魔法空間から深淵樹の枝の端を取り出す。目利きが得意な人間はここで損得が分かるはずだ。


「それはトレント亜種の素材ですか!?」店主は立ち上がって枝をまじまじと見始めた。この調子ならすぐに手続きをしてくれそうね。


「やってくれるなら幹を渡すけど?」魔法空間からちらちらと見せて店主のことを煽る。こういう人間はこうやった方が食いつきがいいの。


「是非やらせてください!!」あら、向こうから頭を下げてきちゃった。ごめんねブレイク、アクセル。あなたたちの頑張りはここで報われてるから。


心の中で二人に謝りながら店主に深淵樹の幹を渡す。これで邪魔なものは無くなったし、楽ができるし一石二鳥ね。


「お願いするわ」そう言って店主を部屋から追い出した。ここ撫ですれば確実に出してくれるでしょうけど、心配だから封筒と店主に追跡魔法をかけておく。何か問題が起きたら責めれるようにしておかないとね。


「やることも終わったし試験の日までゆっくりしておこうかしら」夕日に照らされえていく街を椅子に座って見ながら、今後どうしていこうか考える。でもなー、計画は全部試験が受かった前提の話だから足踏みの状態だ。


「明日からは魔法の練習でもしよう」できることから進めていこう。私はブレイクみたいな存在じゃないから。でも今日は寝る!だっておなかいっぱいで眠たいからね。それに太陽が沈んできてるから魔法の練習はできないしね。


それじゃ、ベッドに入って寝ますか。椅子から離れようとしたときに体が影に落ちる様な感覚があった。いや感覚じゃない!本当に落ちているんだ!


気が付いた時には遅かった。私は完全に暗闇に飲まれていた。上には宿の明かりが見えるがすぐに見えなくなるだろう。どうすれば戻れる!?試行している時間は無い。


「フライ!」浮遊魔法を唱えたが、何かにかき消されたように魔力が当たるに霧散した。なんで!?意味が分からない。魔法が駄目ならスキルで上がるしか,,,


「スカイウォーク!」このスキルなら空気があるところなら踏み出せる。呼吸もできているし使えるはずだ。


「え?」スキルも無駄に終わった。力強く踏み出した一歩も空虚に終わるだけだった。何もできない。文字通り手も足も出ない。あ、もう光も見えない。そこの方まで来たのかな。


「痛ッ!」どうやら本当に底に来たみたいだ。でも何もすることが無い。感覚はあるが、自慢の魔法も、そこそこ使えるはずのスキルも使えない。


「とりあえず動かない方がいいわよね」こういう時は動かないで助けを待った方がいいってブレイクが言っていた。普段あいつが言ってることは滅茶苦茶だけど、こういう時は信頼できる。小さい頃から見ていたからだろう。


それにしてもここはどこだろう。周りを見ても暗闇が続いているだけで何もない。手を動かしてみても虚空を切るだけ。この世界で自分だけが居る様な感覚に心が壊れそうになる。


一人になりたいと願ったことはあったが、こんなものじゃない。私が思い描いていたものは、星が空を煌びやかに彩って、草木が揺れる音に耳を貸しながら草原に横になることだ。こんな空間なんて望んでいない。


ここに来てからどれだけ経ったのだろう。どれだけ助けを待ったのだろう。何も変化が無い。『絶望』この二文字が私の頭を支配する。誰か助けてよ,,,ってこんな言葉も意味なんてないか。もう何回も叫んでいるんだから。


「希望が嘆いている,,,」どこからともなく低い声が辺りに響き渡った。同じ空間に誰かいるのだろうか。


「希望が枯れそうだ,,,」同じ音が木霊する。感情も無いし抑揚も無い。まるで死体が喋っているみたいだ。


「希望を摘むなら,,,」さっきから希望希望ってうるさいわね!こっちは絶望しているんだから黙ってよ!私が求めてるのはそんなのじゃないの!


「今だろう!!」辺りが無数の燭台の炎で照らされていく。地面は幾千もの骸に業火に焼かれたであろう灰。それに突き刺さる無数の剣。記憶の遥か彼方に置かれた防具。いまだに苦痛に喘ぐ業を背負う人間たちが遠くに見える。


悍ましい空間の中、目の前に立っていたのは、暗黒の鎧に身を包んだ騎士。そして銀色に光る剣。私はここで死ぬんだ。刹那の時間にそう悟ることができた。


「タイム・リバース」剣が私の頭を割った瞬間に一つの魔法が唱えられた。その魔法は全ての時間を巻き戻す様にこれまでに起きた事象を全て修正していった。私が死んだということも。騎士が現れたということも。


一つだけ違うのは別の軸の私が目の前に居るということだ。


「説明はあとで。時間は稼ぐから後ろに走って」今の状況を知ろうとしたが、逃げるように促された。私が言うんだから正しいのだろう。


「分かった」そう言うとまた辺りが炎で照らされていく。この後私は死ぬ,,,はずなんだけど、私が守ってくれたみたいだ。でもこの後を知っている脳みそが死んだと勘違いしたみたいで力が上手く入らない。


「早く行って!希望!」大きな声で言われて何とか倒れないように踏ん張る。私がつくったチャンスは無駄には出来ない。


「絶望が,,,!貴様は何故,,,」背後から殺気ともとれる負の感情で足がすくみそうになる。でも逃げなきゃ。


「気まぐれ。あんたは処刑台に帰んな」声と同時に爆発音が空間を埋め尽くす。そして数秒の時間差で赤色の炎が立ち上がった。それは私のすぐそばまで来たが、生きているように私を避けて奥の方に流れていった。


「それを辿って!戻れるから!」何が起きているか分からないが、今は言われたことを素直にやるしかない。


道の様に燃えている炎を上を走る。不可思議なことに熱いと感じることは無くて、舗装されている道を走っているようだった。


「どこまで走ればいいの!?」どれだけ走ったか分からないが、後ろの方からが魔法が発動する音や、剣戟が聞こえる。止まればすぐに災禍に飲まれるだろう。でも少し休みたい。


「きゃあ!!」そんなくだらないことを考えているから転んでしまった。慌てて起き上がろうと地面に力を入れる。その瞬間に嫌な感触が手に伝わった。


「何れ,,,?助けてよ?」灰の中にいた冨合が進み原形を留めることもできないような女が私の手を掴み、引きずり込もうとしていた。


「いやあああぁぁ!!」咄嗟に大きな声を出して威嚇をするが効果が無く、手を振り払った。女は地面から引き抜けぐちゃぐちゃになりながら空中を舞った。眼球はこちらを恨むように睨み続けていたが。


「ここは何なのよ!?」立ち上がることに成功した私は雑念を捨てて走ることにした。そうでもしないとここの人間と同じ道を辿ることになりそうだからだ。


どの位走ったのかも覚えていない。気づいた時には元居た宿に戻っていた。さっきのは悪夢だったのだろうか。そう思って時間を確認する。時は暗闇に飲まれる前から一週間も経っている。


「あれは夢じゃない,,,」気づいた時にはその気持ちの悪さに耐えきれず、吐いてしまった。無論、七日も食べていないのだから胃液しか出ていないのだが。


「どうやら助かったみたいね」あの時助けてくれた私が居た。でも体は傷だらけでボロボロだ。


「それより傷を塞がないと」駆け寄って魔法をかけるが傷は塞がらない。それどころか広がっていくばかりだ。


「あー。何やっても無駄よ。力を使い過ぎたから。それより私の話を聞いてね?時間も無いから」諦めたような顔をしたかと思えば、一変して真剣な表情に変わった。でも髪を撫でる手は温もりで溢れていた。


「あいつは存在してはいけない存在。いや存在すら確認できない者なんだけど。まぁ、複雑になるから省くね。あいつのことを私たちは処刑人って呼んでるの。倒すには他の軸からの助けが必要なの。今回がいい例ね。その軸の法則、概念が削除された世界に引きずり込まれて殺される。何が目的か分からないけど何人も殺されているからあなたも助けてあげて。この軸はもう大丈夫なはずだから」言葉を脳に一語一句間違えずに刻んでいく。今は分からなくてもこの後必ず必要になる。


「あなたのところは?倒しているの?」この感じから倒してはいるだろう。じゃないとここまで詳細に語れないはずだ。


「当然」胸を張っているってことは本当の様ね。この癖は指摘されるまでは気づかなかったし、これからもしてしまう仕草になるだろう。


「時間が,,,きたようね,,,」悲しそうな顔をすると私の___彼女の体が目の前で細切れになった。


「え,,,,,,,???」血液が顔中に、いや体前面に飛び散る。何が起こったのか理解できない。理解してもしたくない。この短時間で衝撃な出来事が起こり過ぎで、脳がもう追い付けない。


「やあやあ、君は僕に会うのは初めてかな?僕の名前は調停者。そして君を殺す者だよ」死体を踏みつぶしながら近寄ってきた人間は全身が黒く、ぼやけている。輪郭がはっきりとしない。情報が脳に来る前に抜け落ちているように。


「いや,,,や、やめて,,,」腰が抜けた私は後ろに下がることしかできなかった。逃げれる扉は前の方なのに。


「やめるわけないよ。僕の願いのためにも」腕のようなものが形を変えて、刃物に変わる。そして、それは無慈悲にも私の首に落ちる。死んで意識が完全になくなるほんの数秒間、私は自分のことを見上げていた。


噴水の様に血が噴き出ている。調停者は満足したような素振りを見せている。あぁ、本当に私は死んだんだ。


この日、この軸からブランという存在は抹消された。処刑人によって。

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