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ブレイクソード  作者: 遊者
闘争人間
18/97

第十八話 防衛少年

路地裏を隠密を使って素早く移動していく。俺が向かっているのは発見した集団の裏側だ。そこからなら奇襲を仕掛けることが出来る。おれが戦いたいのは、弱い奴じゃなくて強い人間だ。


雑魚は狼に任せて猛者だけに狙いを定めて戦う。そうしないと俺は上に行くことが出来ない。


向こうも俺が移動していることに気が付いているな。極僅かだが、足音が複数聞こえる。この独特の歩き方は冒険者特有の警戒した歩き方だ。今回の相手は俺のことを楽しませてくれそうだ。


千里眼を使ってどこにいるかを確認するか?いや、やめておこう。使ってる間は無防備だし、物陰に隠れられていたら発見できない。無駄なリスクを負うのはやめよう。


「探してこい」俺は狼を追加で召喚して、襲撃を考えている人間たちの位置を割り出すことにした。俺の考えだと、恐らく複数の集団で別れているはずだ。理由はレーネたちが居る宿はどこからでも見えるくらい何もないところに建っているからだ。


それに監視に回していた狼たちの反応が全くない。こっちから探した方が早い。だけど本当の目的は二人を守ること。これだけは忘れてはいけない。


「早速発見か」狼を召喚してから数分で一つの集団を見つけることに成功した。この距離だったらすぐに倒して戻ってこれるだろう。問題は俺が二人のところにすぐに行けるかということだ。


「仕方ないが使うしかないか」ランダム要素が多いこの技を使うのは嫌なんだが,,,当たりを引ければ防衛が楽になるだろう。はずれが来たらその時に考えよう。


「大神召喚」地面を手に当てて、欲しい姿を想像する。ゴーレムか石造なんかの要塞系が欲しい。空間が割れ始め姿を現す。今回の大神は今までにないくらいに強い力を持っている。こんな顕現の仕方は見たことが無い。


「,,,」俺の目の前に佇んでいるのは、数メートルの岩だった。これは,,,ゴーレムなのか?俺の想像だともっとレンガみたいな模様とかをしているんだが。まぁ、守ってくれるなら何でもいいか。


「宿を守ってくれ」短い言葉を聞いた後、岩は大きな音を立てながら人の様な形に体を歪めながら、二人が居る方向に向かって動き始めた。しっかり意思疎通が取れる様な奴で助かった。これで何も出来ない馬鹿だったら切り刻むところだった。


「こっちから音が聞こえたぞ!!」しまった。あいつの音がでかすぎるせいで、相手に居場所がばれてしまった。最悪だ、奇襲を仕掛けるつもりが,,,


「ここら辺だ!探せ!なんだこいつ,,,ってうああぁぁ!!」音を聞いて集まった人間たちは、俺が召喚したゴーレムにぶつかり、大声を上げた。それもそうだろう。何もない路地裏から、岩の巨人が現れたのだから。折角だからこいつの強さでも見ておこう。


「お前らビビんな!死の森から帰ってきた俺が付いてるぞ!」重装備の人間が盾を地面に落として、構えながら後衛の仲間を鼓舞している。こいつが強い人間の一人か。俺を楽しませてくれるくらいの実力はあるのだろうか。


「「うおおおぉぉ!!!」」男の声に心を奮わされたのか、先程までは顔を白くさせていた奴らが、武器を持って戦闘態勢を取っている。これが一流の人間なのか。カリスマ性が凄いな。


「,,,」ゴーレムは先ほどまでは宿に向かって動いていたが、接敵した瞬間に動きを止めその場に佇んだ。まるで敵の力量を測る探索者の様に。前までの召喚で出てきた奴らだったら、猪突猛進の如く敵陣に突っ込んでいただろう。今回の奴は相当賢いな。


「こいつが止まっているうちにダメージを与えるぞ!」男の盾を中心に膜のような薄い何かが半円を描き、仲間を覆った。恐らく防御スキルなのだろう。それにしても広範囲だな。数十メートル離れた俺のところまで伸びている。


「アイアンチェーン!!」「ダウンアーマー!」後衛の魔法使いたちはデバフ系統の魔法を撃ってい居る。ゴーレムなんかの防御力の高い相手には有効な戦いじゃ方だな。それにしても統率がしっかりと取れている。


「よくやった!お前ら総攻撃だ!」盾を構えた男がゴーレムの前まで突進していく。それに合わせて近接武器を持った人間たちが前進していく。ここから俺のゴーレムはどう出るのだろうか。


「鎧砕き!」「半月斬り!」前衛の人間たちは幕から出ないように攻撃をしている。賢い、この一言に尽きる。これなら自分たちは攻撃が出来て相手は攻撃が出来ない。やはり死の森から帰ってきた人間は凄いらしい。


ゴーレムは攻撃を受けても動じずに、その場に立ち続けている。徐々に体が削られてる。それでも反撃をせずに男たちを見続けている。


「,,,」体が半分くらいになったところでゴーレムが動き出した。右腕を上にあげ、地面に叩きつけた。その威力は凄まじく、地面を砕き塵や砂が舞い上がっている。男たちは膜のおかげで一命をとりとめているが、かなり後ろまで吹き飛ばされてしまった。


「お前ら下がれ!こいつはやべぇぞ!」盾を持った男が大声で全員に警告をする。しかしその判断は遅かった。全員が退却の準備をしている時にはゴーレムが地面を持ち上げ、集団に向かって投げていたからだ。


「ぷぎゅ!」「ぎゅぅ!」塊が直撃した人間は情けない声を上げて絶命した。運よく避けれた人間も体のどこかが欠損している。盾の男は自分のことだけを考えて防御をしていたので無傷だった。


「お前は宿に行け」俺は自己回復しているゴーレムに命令をして、盾の男の前に出る。こいつは俺が倒したい。こいつの盾を俺の剣で貫きたい。


「お前は死の森から岩石樹を討伐して帰ってきた人間だな!」アイツはやっぱり二つ名持ちだったのか。それにしても換金しているところを見られていたのか。最悪だ、あんな時間に行かなければよかったな。


「そんなことはどうでもいい。俺と戦おう」短剣を二刀を腰から抜き出し構える。俺の狙いはこいつだけだ。残りの奴らはどこかしら怪我をして、全力で戦えないだろうし、あの程度の攻撃を捌けないようじゃ弱い。


「お前いかれてんなぁ!俺を殺したらほかの奴も黙ってねぇぞ!」何やら喚いているようだが関係ない。俺が強くなれればそれでいい。


「そうか。なら俺はまた強くなれる」短剣を逆手に持ち替えて、男に向かって疾走する。ジグザグに動いてどこから攻撃が来るのかを予想しずらくする。


「クソが!かかってこいや!」男は膜を圧縮したようなものを体に纏い、俺の攻撃を待っている。これは反撃タイプのスキルの可能性が高いな。直接攻撃するのは控えておこうか。


「飛べ、狼」待機させていた狼を一匹男に向かって突撃させる。これで何も反応が無かったら防御力を上げるスキルだろう。そうだっただ心置きなく攻撃が出来る。


「なんでわかんだよ!?」男は酷く動揺した表情で構えた。ぶつかった狼は爆発し、跡形も無くなった。やはり反撃に特化したスキルの様だ。


「そのスキルはいつまで持つかな?」~狼現門~俺は狼が無限に現れる門を召喚する餓狼を大量に使うが仕方がない。この戦いが終われば補充できるし、大丈夫だろう。


「開門」俺の言葉と同時に門が開き中から狼が飛び出し、男めがけて攻撃を始めた。ダストが言ってた楽になるってのはこういう戦闘のことか。


「調子乗ってと首元狩られるぞ!!」男が狼に包まれながら叫んでいる。調子には乗っていないんだが,,,っと、後ろから気配がするな。俺のスキルを搔い潜れると思うなよ。


「ふっ!」気配がした方向に向かって、投げナイフを投げる。すると、何もないところから血が噴き出した。俺と同じ盗賊か。だが熟練度、経験がまだまだ足りないな。気配を消すなら邪念まで捨てないと。


「ぐふっ!」隠密が自動的に解除され透明化していた女がその場に倒れた。腹部から大量の血が流れている。このまま生きていても後遺症が残って辛いだろう。気の毒だな。こんなことに参加していなければまともな生き方を出来たはずなのに。


「来世に期待してくれ」女の首元に向かって短剣を突き立てる。女は声にもならない音を上げて絶命した。この感触は何回やっても慣れないな。


「クソ!クソ!クソがぁぁぁぁぁ!!!!」どうやら男の方も限界が近いようだ。流石にあの狼の群れの前には無敵ともいえるスキルも意味をなさないだろう。膜も剥がれて傷がつき始めている。


「次からは地力も鍛えてきな」膜がはがれた男を張り倒して、短剣を首元に当てる。男は目を血走らせて睨んできている。今更そんな威嚇は効かねぇよ。ま、これでこの戦いは終わりだな。


「油断したお前の負けだよ!!」次の戦いを考えていた時に男は体を膨張させ始めた。自爆攻撃か!やばいと思って離脱を始めたが遅かった。俺は爆発に巻き込まれ、数十メートル吹き飛ばされた。


「ぐふっ!!」視界が傾いている。耳鳴りが止まない。これは相当なダメージを貰ったな。いまだに揺れている視界を上の方から下に向ける。予想通り、下半身は完全になくなっている。左腕も肘から先が無い。餓狼で防御したがそこまで意味がなかったか。


「まじでいてぇ。死にそうだ。いざって時に取っておきたかったが餓狼で回復するしかないな」黒い霧を体に纏わせて、高速修復を試みる。次第に痛みが引いていくのが分かる。それに伴って体の感覚も戻り始める。


この回復方法はエネルギーをあり得ない位に消費するし、餓狼が一時的に使えなくなる。ここからは地力で闘っていくしかない。こんな状況は慣れている。自分が持っているものを最大限有効活用して活路を見出そう。


「そろそろ行くか」体が完全に治ったので、俺は次の集団に向かって走り始める。あんなにでかい音が響いたんだ。もう隠れていても意味がないだろう。俺がやることは一つ一つ確実に潰していくことだ。


「あそこに居るのがもう一つの集団か」家の上から見下ろして観察する。強そうなのは,,,灰色のローブを来ている魔法使いだな。それ以外は平均位の実力だろう。さぐに倒さないといけないのは、アイツに決まりだな。


右腕に隠して装着しているボウガンを魔法使いの頭を狙って弦を引き絞る。チャンスは一回のみだ。外したら接近戦は免れないだろう。近接と戦いながらの魔法攻撃。考えただけで厄介なのが想像つく。


ヒュン!矢が風を切りながら魔法使いの頭めがけて飛んでいく。これは決まったな。この矢には魔封じのエンチャントがされているから、シールドも貫通するだろう。


「かひゅ!」頭からはずれたが喉には当たっている。あの感じを見ると出血多量で死ぬだろう。このまま放置でもいいが、無駄な苦しみは与えたくはない。追い打ちをかけるか。


バキュン!!初撃と比べるとかなり威力の高い矢が魔法使いに飛んでいった。これで確実に死ぬだろう。あいつらが困惑している間に下に行って奇襲をかけれるか試してみるか。


「誰かポーションは無いか!?」「このままじゃ死ぬぞ!」アイツらの主力はやはり魔法使いだったようだ。何とかしようと、慌てているのが聞こえてくる。


アイツらが俺に気づく気配は無いな。このまま一人ずつ殺していくか。ばれないように離れている人間から迷路のようになっている路地裏に連れ込んでいこう。


「うぐっ!?」多少声が漏れてしまったが、仲間は治療のことで手いっぱいだ。こいつが消えてるなんてことも気づきはしないだろうな。


「すまないな」短剣を振って頭を斬り落とす。ごとりと鈍い音が足元から聞こえた。この調子で残りの人間も殺していくか。短剣に付いた血を拭いながら次の狙いを定める。固まっていて殺しづらいな。真っ向勝負を仕掛けるか。


「ぐはぁ!!」一番近くに居た男の腹部に短剣を突き刺す。そのまま剣を捻じり臓器に重大なダメージを与える。これでしばらくは動けないだろう。スキルが無かったらそのまま死んでくれる。


「こいつが犯人よ!!」女が甲高い声で叫んだ。耳が痛いな。あいつから先に殺すか?いや、手前に居る男二人が邪魔だな。隙間からボウガンで一発を狙うか?今の俺の技量じゃ空回りして終わりそうだ。やめておこう。


「死ねぇ!!」「調子のんなぁ!!」巨漢二人が斧と大剣を振りかぶりながら接近してきている。


「っ!!」片手で斧を弾き、逃げる隙間を作る。このまま出来たところに転がって背中から斬りつければ,,,次の動きを考えている間に視界が大きくぐらついた。まさか,,,!


「掛ったな!!」こんなところに斥候が居るなんて。見逃していたのか、最悪だ。網に絡まり空を見上げる形になっている。このまま終わるのは絶対に無理だ。


「ガキが粋がんなよ!!」大剣が俺に向かって振り下ろされた。


「油断すんなって」大剣が俺に当たる直前に何者かの短剣が攻撃を防いでくれた。毎日見た顔に声。どうやらダストが助けに来てくれたらしい。


「なんだこいつ!?なにも無いところから,,,」動揺する男たちを瞬く間に細切れにして、俺の拘束を解いてくれた。


「助かった。お前が居なかったら死んでいたよ」ダストの手を取って礼を言う。はっきり言って今回ばかりは死んだと思った。一瞬だったが走馬灯が見えた。エルザとバルトリアが歌っていた光景が脳裏を走り抜けていった。



「まだ安心するには早いぞ」腕に隠していたボウガンで逃げようとしていた女の頭を打ち抜き、絶命させた。明らかな技量の差。果ての見えないほどの実力差。近づいたと思っていたが、どうやら離されていたようだ。


「楽になったとはいえ、気を抜くと死ぬぞ。この世界は残酷だからな」ダストはそう言い残すと、空間に亀裂を生みだし、元の軸に帰っていった。


そうだ。この世界はあまりにも残酷だ。今一度そのことを思い出す。油断をした瞬間い死という鎌が首元まで迫ってくる。俺もいつか狩られる側に立たされるのかもしれないな。


「餓狼も使えるようになったし、次の集団に向かうか」クールタイムを終え、餓狼が使えるようになった俺は、最後の集団に向かって走り出す。全力で空中を翔け回るのは気持ちがいい。世界が自分の手の中にあるような感覚だ。


定位置に配置した狼の反応も無いし、また自力で探すしかないか。どうやら襲撃を企てた人間は思ったよりも賢いようだ。唯一の欠点があるとすれば全開の俺の実力を知らないということくらいだろう。


「万象眼」このスキルは建物などあらゆる物を無視して知りたい情報だけを手に入れることの出来るスキルだ。代償は片目が無くなることくらいだが、戦闘が終われば餓狼で修復することが出来るから問題は無い筈だ。ただ、あり得ない位出血してしまうから眼帯が必須だ。中二病ってこういうのが好きなんだろ?俺もだ。


「いてぇ~。でも居場所は分かったな」どうやら最後の集団は地面を掘って宿を目指しているようだ。まさかここまでするとは。地下なら探知スキルも通りづらいから賢いな。本当に。


「入り口から狼でも入れていくか」後ろから狼。前から俺が攻撃を仕掛ける。完全な挟み撃ちに奇襲。今回の戦いは貰ったな。負けるビジョンが見えない。こんなことを言うと負けるんだよな。しっかりと気を引き締めて戦うから安心してくれ。


「それじゃお前らは入口に行ってこい」狼現門を発動させ、狼達を一斉に送り出す。俺はあらかた場所の予想がついているから先回りをして、穴を掘って待機しておく。場所は宿屋の真下か、真後ろ。奇襲が一番しやすいところに来るだろう。


「ここら辺でいいか」絶対に来るであろうところに穴を掘って待機する。微かだが、穴を掘る音が聞こえる。発掘スキルでも持っている人間が居るな。掘る速度が尋常じゃない。


「もしかしたら気が付いて進路を変えるかもな」少しの心配を抱えながらも自分を信じることにした。


「もう少しでエルフの宿でやんす!」掘削の音と男の声が混じりながら聞こえてくる。その後ろには複数人の人間が歩いているだろう。


「ご苦労。成功したら懸賞金で打ち上げでも行くか」低い声が鼓膜を揺さぶる。この人間が一番強い。俺の直感がそういっている。


「終わった後が楽しみで,,,ってうわあぁぁ!!後ろから狼が!!」どうやら俺の狼が後ろまで回ってくれたようだ。俺が戦いの場に出ていくのも時間の問題だろう。


「心配するな。俺がいる」壁越しで何をしているか分からないが、狼の気配がどんどんと減っていっていくのが分かる。想像以上の強さだな。これ以上待っていたら、俺の餓狼のエネルギーが無くなってしまうな。もう戦闘を開始するか。


「らあぁ!!」餓狼を纏い、壁を粉砕して男たちが居る場所まで大穴を開ける。数は少ないが、精鋭ぞろいだな。油断をしたらすぐに死ぬだろうな。


「なんでやんすか!!」モグラに似た男が突然の出来事に慌てている。それ以外の人間はのう戦闘態勢を取っている。戦い慣れしているのはこいつ以外だろう。


「悪いが死んでもらう」餓狼で強化した短剣で戦闘なれしていない男の首を落とす。誰も守らないのを見る限りこいつは捨て駒なのだろう


「お前がここ最近暴れている愚か者か?」重装備の男が重々しい声で聞いてくる。こいつが一番強いな。


「それがどうした?俺はやりたいようにやらせてもらっているだけだ」後衛の魔法使いに向けて矢を飛ばして、注意を引く。ここでこいつが守りに入らなければ。全員が捨て駒の扱いになる。


「ぎゅ!」「ぬぅ!」一人は絶命したが、もう一人は紙一重で回避されてしまった。だが、守る気が無いのを見ると本当に捨て駒、自分の利益のことしか考えていないのだろう。


「お前からは俺と同じ匂いがする。殺人を楽しむという匂いが」こいつは何を言っているんだ?俺は守りたいものがあるから戦っているだけで、その過程に殺人が含まれているだけだ。


「お前と同じにするな」影で移動し瀕死になった人間の背後に忍びより、餓狼で喰らい尽くす。これでエネルギーの充電も完了した。


「同じだ。今のお前の目には殺人を楽しんでいる愉快犯とそっくりだ」男は背中に取り付けていた長剣を取り出して、戦闘態勢に入った。俺も本気で闘うか。腰に差していた短剣を二刀取り出し、餓狼を纏わせる。


「黙れ」そんなことは俺が一番理解している。理由を付けて人を殺しているクズ人間だ。それでも守りたいものが、約束がある。それは俺の命を懸けても良いものだ。


「どうやら図星の様だな。俺の名はガラリエータ。生死を決める戦いを始めようか」彼は周りに赤いオーブの様なものを浮かし始めた。接近職に見せかけた後衛職か。完全に間違えたな。


「お前にはここで死んでもらう。厄介そうだからな」~紅蓮砲~

夥しい量の火球が俺めがけて飛んでくる。二刀で捌きやすいとは言え。厳しいものがあるな。でもまだアクセルは全開じゃない。ここからトップスピードまで加速してやるよ。


「これが俺の本気だ。敗因は俺の実力を把握してなかったことだな」~餓狼七星~

輝かしい光を纏った七連続の斬撃がガラリエータを襲う。一撃が入るごとに火力が増していく。その様は寿命を迎える星々の様に。


「そんな甘い攻撃で粋がるのか?」鎧は赤く熱された状態になり多少の傷はついているが、ダメージは入っていないようだ。魔法職でここまで硬いのは反則だろ。だけどアクセルを踏んでいることで俺の攻撃はどんどん火力を加速させていく。


「黙れ!」俺は再び攻撃を仕掛ける。自身に向かって飛んでくる火球を舞うように避けながら、男に接近していく。さっきよりも威力が落ちているのが分かる。口だけで本当は内部にまでダメージが入っているじゃないか。


「ぐぅぅ!!」連撃に次ぐ連撃でガラリエータは地面を抉りながら後ろの方に下がっていく。それでも攻撃が止むことは無かった。上、真横あらゆる角度から俺のことを燃やそうと炎が迫ってくる。


「遊戯は嫌いなんだ!!」火球を蝶の様に舞いながら躱し、当たりそうになったら、切り払う。これを繰り返し確実に殺せる好機を狙う。


「俺もそう思ってたんだ」地面から土で出来た槍が俺の足を貫いた。突然の痛みに攻撃の手を緩めようとしたが、ここまで来て負けるのは俺が許せない。


無理やり足を槍から引き抜いて攻撃を続ける。足は綺麗に貫かれていたが、無理に抜いたせいで、引き裂かれたような傷になっている、冷静に対処していればここまでの傷にはなっていない。


「お前の切り札はこれか!?だったら俺の勝ちだ」狼を影の中から召喚して、一斉に攻撃をする。ガラリエータは突然の手数の増え方に戸惑い、足元がふらついた。


「口だけなんだよお前は!」ガキィィンッ!!最後に放った一撃は渾身の攻撃で、男の鎧を破壊することに成功した。ボロボロと音を立てながら鎧が地面に落ちていくと共に、男の体も見え始める。


体には火傷や切り傷が付いていて、今にも死にそうだ。俺を見くびるからこうなるんだよ。いつか俺を馬鹿にした奴らをこうしてやる。何度も謝らせて屈辱の中で殺してやる。


「口だけ,,,か。お前は本当のことから目を背けてるんだろ?俺はしっかり見つめてるぞ」ドサッと音を立てて仰向けに倒れたガラリエータはうわ言の様に何かを喋り始めた。


「迫害されているエルフを助けて俺かっこいいとか、俺は最強です負けませんとか思ってるんだろ?」馬鹿にするような口調で俺の心を抉ってくる。


全て本当のことだ。内心ではそう思っている。こんなに力があるのなら傲慢になったって仕方がないだろう。それに今まで馬鹿にされて生きてきたんだ。誰かに憐みの情を持ったっていいじゃないか。


「それで褒め称えられて英雄気取りか?滑稽な生き方だな」男の一言が俺の逆鱗をずっと触れてくる。こんなに怒りを覚えたことは無い。剣を握る手が震える。視界が赤く染まっていく。歯がギリギリと音を立てている。


「何も言い返さないってことは,,,」次の言葉が聞こえる前には俺は男の元に走っていた。こいつの言葉に耳を傾けていたら俺が消えてなくなるんじゃないかって感じていた。


「うるせぇぇ!!」気づけば馬乗りになって男のことを串刺しにしていた。生暖かい肉の塊になっても俺は傷つけることを止めなかった。いや。止められなかった。


今までの鬱憤を吐き出すかのように叫びながらただひたすら、血を浴びながら全身に傷をつけた。傍から見れば狂人だが、自我を保つためには、彼が彼であるためにはこうするしかなかったのだ。


路地裏が血で染まってからどのくらいの時間が経ったのだろうか。気が付けば大神が俺の横の立っていた。まるで慰めてくれるように慈愛に満ち溢れた石でできた目でアクセルを見ていた。


「もう,,,戻っていいぞ」語りかけると、少し寂しそうな雰囲気を出した後に、塵となってこの世界から消えてしまった。


「これで,,,いい筈だ。俺は__」赤色に染まり始めた空を見上げる。どこで道を踏み外したのだろう。ブレイク達に出会ったときか?それとも王国を抜け出したときか?それとも___いろいろなことが頭の中に浮かんでくるが、正解が出てこない。それもそうだ。今まで否定して生きてきたのだから。


「これから割り切って生きて,,,行けるだろうか」今までの自分を受け入れて、新たな道を歩み始めるということを。弱者という舗装された道から、強者という茨の道を歩くということを。


「こんな俺をあいつらはなんて思うだろうな」赤髪の二人がちらつく。相も変わらずに笑って俺のことを見ている。無理に生きなくてもいいよという風に。それでも俺は変わらないと。二人のパーティーから三人のパーティーにできるように。


「自分を出して,,,生きてみよう。俺を知っている人間はこの地にはいないから」


この日からアクセルの意識はがらりと変化した。それは別の軸に居たアクセルも影響を受けるくらいに。それくらいガラリエータの言葉は彼の心に突き刺さったのだ。


「今日はもう帰ろう」夕焼けに背を向けて宿に向かって歩き出す。今まで下がり気味だった視界が上を向いている。汚く見えていたものも今は綺麗と感じるくらいに新鮮に見える。


彼が、世界が徐々に変わり始めていた。一定の速度ではなく、限りなくゆるい坂を転がる玉の様に。きっかけはいつも小さい。気が付いた時には巨大すぎて___手が付けられない。

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