表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイクソード  作者: 遊者
グロリア編
14/97

第十四話 王国 終

戦闘前に俺が放った矢が着弾するのにあと数分はかかる。このまま逃げて時間を稼ぐのもいいが、こいつらに一泡吹かすことをしたいな。そう思って現在始めているのが、蒼を極細の糸に変化させ魔封じを込めて床に撒いている。


矢に込めたりするよりも効果が下がってしまうが、足止めになるなら十分だ。逃げ方も、無作為に走るのではなく、ウェンの周りや、次に来そうな場所にしている。


こいつは俺のことをあまり意識していない。この罠に掛かるのも時間の問題だ。それよりも懸念すべきことがある。俺が罠に掛かる間までに手の内をどれだけ明かさないで入れるかということだ。


ここで蒼を盛大に使うと後々の戦いに不利が出てしまうだろう。それだけは避けたい。俺は弱い人間だという意識を刷り込んでおく必要がある。そのためにも反撃できる隙があっても逃げ続けている。恐らくレンは気が付いているだろう。


時折俺のほうを見てはにやりと笑っているからな。馬鹿にする笑いではなく、成功させろよ、という俺に期待を寄せた笑いだ。しっかり応えないとな。


「守るだけだと護りたいものを守れないぞ!!」爆裂魔法の感覚がどんどん狭まっていく。これは少しやばいかもしれないな。レンも汗をかき始めている。ここら辺で足止めが出来れば簡単なんだが、そう上手くはいかないよな。何ん手思っていると。


「それはどうだろうな?」レンが挑発をしてくれた。おかけで、一気に近距離までウェンに近づくことが出来た。仕掛けるならこのタイミングだ。これを逃したら次は無いだろう。


「魔封陣!」ウェンに手を押し当てて発動させる。至る所に張り巡らされた蒼がウェンに向かって一斉に襲い掛かる。細い糸から太いものまで、千差万別の糸に対処が遅れている。それもそうだろう。これに少しでも触れれが魔法の効率が格段に落ちてしまうからな。少しは危機感を持っているだろう。それにもう少し経てば上から矢が落ちてくる。この戦い、貰ったな。


「ふざけた真似を!フンッ!」ウェンは自分自身を爆裂魔法で覆い、糸を燃やし尽くした。流石は血統魔法だ。こんな小細工だらけの魔法は眼中にないってことか。その思い上がりが自分の首を絞めるんだぜ。


「お前はそうやってすぐに感情的になるな」背後に回り込んだレンがウェンに一太刀浴びせる。致命傷まではいかなくても、かなりの深手のはずだ。背中からは滝の様に血液が流れている。


「ぐあぁ!!」ウェンはその場にしゃがみこんだ。途端に緑色の光で包まれていく。回復魔法で治療を始める気だ。だがレンはそんな行為は許さない。


「だからいつまでも俺に勝てないんだよ」その場にしゃがみこんだウェンの首元に無情にも太刀を振り下ろす。その顔はどこか悲しげだった。


ザンッ!!辺りに血と肉が飛び散る。戦場では日常茶飯事な光景だが、改めてみると相当むごいことをしているな。まぁ、仕方がない。自由を手に入れるためにも、守るためにも必要なことだ。


「レン、休憩を取った方がいいんじゃないか?」戦闘がひと段落着いたところで、魔法空間からレンが気に入っているイチゴのジュースを渡す。


「ありがとな。でもここで休んでいたらすぐに対策を練られてしまう。このまま一気に家主の首元まで行こう」ジュースを飲み干して、上へと続く階段を見る。明らかにこの階よりもどす黒い人間の感情が感じ取れる。


「その前に新しいやつが後ろから来てるぞ」玄関のほうを見ると、オーバー家特有の赤髪に金のメッシュが入った人が立っていた。


「ウェンを殺したのはお前か?それともレンなのか?」声は低く圧倒的な強者のオーラを感じることが出来る。こいつはウェンよりも強い。俺の経験が教えてくれる。それにどうやらレンのことも知っているみたいだ。


「俺が殺したよ。悪いが俺たちの縁はここで断ち切らせてもらう」レンは太刀を構えて、いつでも攻撃ができる状態にしているが、手は震え、顔は強張っている。こんな風になっているってことは余程の猛者なのだろう。


「そうか。お前とは仲良くしていく予定だったんだがな」魔方陣があり得ない速度で展開されていく。その数は百を優に超えている。そして魔力の底が全く見えない。ウェンの時はすぐにどのくらいかは見えたんだがこいつは全く見えない。深淵を覗いている感じだ。オーバー家はどれほどまでの化け物を育てているんだ。


「俺もそうしたかったよ」迫りくる爆裂魔法を両断しながら会話が進んでいく。流石は剣だけで生きてきた人間だ。この程度のことは造作もないだろう。それにウェンとの戦いで腕も温まってきている。さっきよりも動きに切れがある。


俺は矢が落ちてくるタイミングを操作している。こいつらの昔話に水を差すのは悪いからな。


「いつから亀裂が生まれたんだろうな」爆裂魔法を撃ち込みながら質問をしている。両者の顔には余裕の顔が生まれている。本当に次元が違う。此処が俺が辿り着くべき場所だ。


「くだらない下級貴族のせいさ」太刀を最小限の動きで火球を払い落している。


「それとも,,,いや話し合いはこのくらいにしておこうか。情が湧いたらお前のことを殺せなくなる。エルグ、本気で闘おう」太刀を鞘に納めて、一撃を狙っている。


「お前のそういうところが良かったな。俺も全力で応えよう」数多の魔方陣が一つに集約されていく。今この場所に太陽が二つ出来ている。片方は白く、もう片方は紅蓮の色をしている。


「真・紅一閃」「クリムゾンバースト」スキルの発動タイミング同じ。勝敗を決めるのは威力か、それとも技の練度なのか。この赤色の視界が晴れるまでは分からない。


火の粉と砂塵が舞う中で一人の男が立ち、もう一人は倒れ込んでいた。勝敗はエルグのほうに上がった。やはり、職業的な要因が絡んでいるのだろう。こればかりはどうすることもできない。相手が悪かっただけだ。


「そこに居るレンの仲間よ。お前も俺と戦うか?」赤色のマントを翻し、こちらを見ている。今の俺じゃこいつの足元にも及ばないのが明白だ。こんなところで無駄死にはしたくない。


「遠慮しておく。こんなとこで死にたく無いんでね」とは言ったものの相手は俺のことを逃がすつもりが無いようだ。隠密魔法で隠してはいるが、魔方陣が展開されているのが見えている。あと数秒もすれば魔法が飛んでくるだろう。矢がどうにか抑えてくれれば,,,


そう考えているとエルグの近くに空中から突入前に仕込んだ矢が落ちてきた。しかし魔法の展開を止めることも出来ない。力不足もいいところだ。


「そうか。じゃあな」爆裂魔法が俺に向かって放たれる。この威力じゃドレイン・ドレインでも守れないだろう。完全に負けた。


「なら私が戦ってもいいのかい?」死を覚悟した時、目の前に褐色の肌に黒の髪を揺らした女が現れた。彼女は瞬く間に魔法を完封し、目にも止まらぬ速さで気絶をしていたレンと俺を安全圏まで引き離してくれた。


「また厄介なのが来たな。ラシル、お前も敵になったのか?」エルグはどこか悲しげな表情で彼女に問いかけている。どうやらオーバー家とギルガ家は仲が良かったらしいな。


「そうさ。もう戻れないところまで来たんだ」ラシルも寂しげな表情を浮かべている。本当に戦いたくないようだ。


「また一からってのも,,,無理だな。全力で来い」先程とは比べ物にならないほどの大きさと数の魔方陣が展開されていく。屋敷は半壊状態で空にまで魔方陣が伸びている。圧倒的な魔力の渦に気圧されてしまう。


「言われなくてもそうするよ」ラシルは双剣を構え腕に取り付けていたボウガンのトリガーを外した。


「焼き尽くせ」魔方陣から膨大な魔力と共に火球と爆弾が飛び出だす。遠くからでも熱さで皮膚が焼け落ちる。回復魔法を発動させ続けないと俺とレンが死んでしまう。そんな中涼しい顔で闘っている人がいた。


「甘いね」空を自在に翔ける鳥の様に舞い火球を避け、ボウガンで空中に浮いたエルグに向かって矢を放っている。恐らく矢には即死の魔法か魔封じのエンチャントがされているのだろう。俺の矢のことは気にも留めていなかったが、今は避けている。


「昔と何も変わらないな」魔法を撃ち込みながら話を始めた。昔話か?命を懸けた戦闘の最中だってのに余裕だな。


「いつもお前の背を追う俺たちを完膚なきまでに叩きのめすところが」どこか懐かしさを感じる様な語り方は、信頼できた仲間だということを表していた。


「そして懲りずに何回も挑んでくるお前たちをあしらうのは疲れたね」ラシルも昔を思い出しながら話し始めた。俺には一つの物語の一部を見ている気分だった。


飛び交う斬撃にすべてを燃やす爆炎の魔法。その中で過去を振り返っててやり直すことはできないかと模索をする二人。決して叶うこと無いがそれでも抗うことはできないから、全霊をもって戦いに挑んでいる。なんでこんな風になってしまったのだろうか。


「話は終わりだよ。今回も昔と同じの様に,,,私の勝ちさ」ボウガンから放たれた音速を超える矢は空中を飛び回るエルグの心臓の横を貫いていた。俺は急いで治療に向かった。


「やはり,,,ラシルには遠く及ばないよ」地面に落ち、かろうじて呼吸をしているがもってあと数分だろう。俺の魔法じゃどうにもできない。極級じゃないと治せない。


「あんた、強くなったね」ラシルは血で染まったエルグの頬にキスをした。もしかして二人は想いあっていたのだろうか。だとしたら、この戦争は残酷すぎる。あらゆるものを犠牲にしてまで手に入れる自由は本当に自由なんだろうか。


「最期でこれを貰うなんてな。もう少し生きたかったな」頬に一粒の雫が流れ落ちる。今まで見た中で最も透き通っていて、美しかった。


「あんたの,,,まで,,,」あまり聞き取れなかったが想いが込められた言葉を贈ったのだろう。


エルグはラシルの胸の中で息を引き取った。その顔は寂しげで、だけど満たされたような顔だった。何も知らない俺でも泣きそうだ。時代が、身分が違ったら幸せな道を歩んでいたんだろうな。


「レンの様子を見てくる」二人の時間を邪魔したくはない。月が雲の間から顔を覗かせる頃、どこからか上がった煙が天まで届いていた。それは弔いのものなのか。それとも___


「レン、調子はどうだ?」いまだに意識を取り戻さないレンに声を掛けながら回復魔法をかける。全身に酷い火傷を負っているがあの時ほどじゃない。このくらいだったら、時間がかかるが完治させることが出来る。


回復を続けながら周囲の状況を確認する。ラシルにエルグ、そして半壊したオーバー家の屋敷に、荒れ地となったここら一帯。惨状だな。


それよりもなんで家主は顔を出さないんだ?家族が二人も殺され、家も半壊しているのに。俺だったら真っ先に殺そうとするんだが。ここら辺が貴族と平民の違いなのかもな。


もしかしてこのことを予想していて王のことを殺しに行っているのか?だとしたら顔を出さない理由も分かるし、足止めにエルグという強敵をここに向かわせたのも分かる。


この考えが当たっていれば王の命が危険だな。今まで見てきた貴族の中で一番の火力と強さを持っていることはエルグを見れば分かる。でもどうしようか。ラシルさんは今の時間を大切にしたいだろうし、レンは戦える状態じゃない。俺一人で闘うか?行ってもきっと無駄死にをするだろう。


俺は弱い。そんなことは分かり切っている。だが、自由を求めるこの体が、宿命が戦えと俺に語り掛けてくる。抑えつけることの出来ない衝動に体が燃え上がりそうになる。行くしかない。立ち向かわなくては。その先に死が待っていようとも。


レンの傷を治した俺は急いで城のほうに走った。街は酷い有様で崩壊した建物に、無残に殺された人の死体の山が出来上がっている。それにどこからか肉が焦げた臭いがする。オーバー家の家主がここを通ったのか?


後ろを振り返ると城まで一直線に焦げた跡のようなものが見えた。なんでここに来るまでに気が付かなかったんだ。もう王に牙が剝いている。ここでやられれば今までの犠牲も革命も全て無駄になってしまう。なんとしてでも食い止めなくては。


俺は一層早く走って城に向かう。城に近づけば近づくほど、焦げた臭いが強くなっている。どうやら俺の考えは正しいようだ。


「まじかよ,,,」そう呟いた俺の前には凄惨な光景が広がっていた。人の形を残して燃え尽きている死体に、跡形も無い城を守っていた壁。そして未だに燃え続けている炎。


「本当にここに家主が居るのか」傷が入っていない城を城門から見て安心したが、油断はできない。撃退に成功したのかもしれないし、全滅している可能性もある。


俺は警戒をしながら進んでいく。片手にデュランダル、もう片方にドレイン・ドレインをもって何とか耐えられるようにしておく。王だけでも生きていれば十分だからな。


なんだ?この考え方は。まるで自分が自分じゃないような。何故王だけでもという考えが湧いて出てきたんだ。本当の目的はこの革命を成功させることであって王を生かすことで華はずだ。死ねば別の貴族が王になるだけだ。


もしかしてフェインの宿命を背負ってしまったせいなのか?根本的なことは分からないが、あの時から何かを守ろうという意思が強くなっていた気がする。もしかしてフェインが背負っていたものは,,,


「もうここまで来たのか」くだらない妄想に囚われている間に城の前まで来てしまったようだ。辺りからは焦げた臭いなどはしなかったが、微かに魔法を使用した痕跡がある。この独特な流れは純血魔法のものだろう。


早く行かないとな。俺は走って王の間に向かう。城の中は綺麗で荒らされた痕跡が一つもなかった。何かがおかしい。歯車がかみ合っていないような。革命というものが根本的に違っているような気がしてきた。


それでも俺は走るのを止めなかった。止まればきっとあいつらに失望されてしまうから。もう王が座っている空間まであと一歩のところまで来てしまった。今この扉を開いてしまえば後悔しそうな気がする。


だけど真実を知るためには行かなくては。覚悟を決めて扉を開く。中に居たのは王と王妃。そしてリズレットとオーバー家の家主がいた。だが不思議なことに王たちは無傷でオーバー家の家主が傷を負っていた。


「はっはっはっ、ブレイク。君はどこまでも鈍い人間の様だな」パチパチと手を鳴らしながら笑っている。隣にいる王妃も笑っていて、リズレットは笑いを堪えるように顔を歪めていた。


「どういうことなんだ!!」声を荒げ目の前に居る、醜悪な人間に問う。


「今から死ぬ人間に教えても意味がなかろう」王は片手を振り上げた。周りの魔力が吸い込まれていくのが分かる。強大な魔法が来る!!蒼とドレイン・ドレインを構え、攻撃に備える。デュランダルはまだ使わない。


理由はオーバー家の家主が見ているからだ。手の内を早々と明かしてしまうとこの後の戦いが厳しくなってしまう。もう死神の鎌が首に当たっているんだけどな。


「吹き飛べ」手を振り下ろすと風の壁がオーバー家の家主ごと飛んできた。オーバー家とは敵対しているので間違いない。そんなことよりこの魔法に耐えなければ。


「うおおぉぉ!!」蒼で何重にもバリアを作り、威力を軽減させていく。それでも守り切れなかった魔法はドレイン・ドレインが吸収してくれる。


バキ!バリ!パリン!バリアに攻撃が当たって砕けていく音が聞こえる。このままだとドレイン・ドレインが壊れるだろうな。でもここを抑えきらないことには何もできない。


足と蒼に力を込めていく。足が床にめり込んでいくのが、蒼の色が濃くなっていくのが分かる。俺の限界はまだまだ来ないってことだな。


俺は数秒間の魔法を耐えた。周りには傷が何一つついていない。王の魔力制御の強さがよくわかる。普通なら対象以外にも被害が及ぶのに王はそれが無い。


「鈍い割には強いのだな。流石はダリア家の女が付けていた男だ」玉座の裏から女が出てきた。アクセルが助けようとしていた女だ。正確には特徴が全て当てはまっているだけだが。こんな特徴がこの世の中に二つとして存在していい筈がない。


短髪の白髪に本来目のあるところに空いた一つの穴。骸の様にやせた体には機械と思わしきパーツが左腕と左足に装着されていた。口は糸で縫わされていて、心臓があるところには紫色に光る石が埋め込まれているのが服越しからでも分かる。


「それが,,,人間の,,,生命にやっていいことなのか!?」無意識の内に蒼が雷となって辺りに飛び散り始める。


「感情に飲まれる人間は弱い。そこのプロティスと同じようにな。それに弱いものが淘汰されていくのは自然の摂理。弱者の声は強者には聞こえない、届かない。残酷な話だが受け入れるしかないのだよ。こいつと同じ様に」女の肩を撫でながら醜い笑い顔を浮かべている。今にも殺したいくらいだ。だが、今の俺にそんな能力なんてない。


「貴様,,,俺の方に来い。真実を教えてやる。協力してくれ。この下らな争いを終わらせるために」脳内に直接声が聞こえてきた。恐らくプロティスの魔法だろう。どっちを信用すればいいんだ。簡単な話だ。こっちに決まっている。


俺はプロティスの方に走る。邪魔が入らないように蒼で盾を張りながら。


「お前の方に来てやったんだ。打開する方法でもあるんだろ?」魔法空間からハイポーションを取り出して振りかける。瀕死の状態だったプロティスの傷が瞬時に塞がっていく。


「勿論だ。その魔剣を貸せ」腰に差していた魔剣をおとなしく渡す。剣士の俺には何の脅威でもないからな。それにこいつは嘘を吐いていないはずだ。アクセルと同じ目をしている。


「銘は?」受け取った魔剣に何かの魔法を掛けながら魔剣の名前を聞いてきた。魔剣の使い方を瞬時に理解している辺り、そっちの分野にも詳しいのだろう。


「デュランダル」王からの魔法に耐えながら教える。俺らがこうやって会話している間にも王は攻撃を止めなかった。プロティスが居るおかげで余裕が少し生まれたが、のんびりしていられない。


「ありがとう。これで終わらせることが出来る」俺に礼の言葉を述べるとバリアの外へと駆けだした。


「馬鹿野郎!!」止めようとしたが遅かった。


「デュランダル!!」魔剣を振り下ろしその真価を発揮させた。王の魔法を暴発させ。さらに追い打ちをかけるように魔力を圧縮させた弾が襲った。


「すまない」王の間を埋め尽くすほどの魔方陣が展開され爆裂魔法が繰り出された。王は何とか応戦しようとするも、デュランダルの真の能力のせいで魔法を展開できないでいた。


全ての魔法が繰り出された時には俺とプロティス以外の人間は居なかった。全員死んだのだ。この男一人によって。


「君が賢い人間でよかった。アレスも君と同じだったらよかったのにな」ボロボロになったデュランダルと一緒に言葉を渡された。


「どういうことなんだ?しっかりと教えてくれ争いの意味を」俺が聞くと快く教えてくれた。


「いいぞ。どこから話すか,,,」話は朝まで続くほどの長い話だった。


始めにグロリア王国について教えようと思う。王の継承は王の息子か、四大貴族の英雄に渡るということだ。ここでいう四大貴族はギルガ家、ダリア家、ゲルマ家、オーバー家だ。初めはこの貴族たちで王の座を争っていたが熾烈なものではなかった。遊戯に等しいもので、血が流れる様なものではなかった。


だが、次第に均衡が崩れていくことになった。それは元国王だったアレスの政策によるものだった。ざっくりいうと国民たちの税を跳ね上げ貴族の娯楽を盛り上げていくというものだった。


そんな政策が出されて数年。国民たちは不満の声を上げ始め、内部では小さいながらも反乱の炎が燃え始めた。税を納めない者、貴族を殺そうとする者。


王は反乱分子を見つけるために見せしめに民衆の前で殺していった。また、疑いが掛かった者も殺していった。


だが、こんな先延ばしの考えが通るはずもなく、国はやせ細っていった。そんな中で王が国民に発言をしたのがこの革命と呼ばれるくだらないものだった。


王は外交をを活発化させると言っていたが、これは他国に戦争を吹っ掛けようという考えだった。革命派に貴族の名前が入っていない人間が居るのも、外部から過去の栄光で人を呼んでいたからだ。そして厄介なのが、この国の掟で貴族は王の命令以外で国外に出てはいけないというものだった。


だから、一度ここに貴族として呼ばれた人間は一生縛られることになる。そして戦争の駒として使われることになる。惨い話だ。


ここでいうところの革命派は戦争に賛成の人間で、保守派は今の状態で政策を見直すべきだという主張のものだった。


つまり俺がしていたのは自由を追った戦いではなく、戦争を助長させるものだったということだ。無実の人間も沢山殺したことになる。


そのことに気が付いた俺は全身が震えプロティスの前で嘔吐してしまった。己の無知を、罪を責めた。だがそんなときにプロティスは初対面である俺に優しい声をかけてくれた。


「過ちは誰にでもある。今回は規模が大きかっただけだ。お前はまだやり直せるんだ」そうだ。まだ俺にもやり直せるチャンスが,,,いや俺みたいな人間はここで死んだ方がいいのかもな。


首に愛剣の刃を当てる。もう死ぬ覚悟は出来ている。思い残すことは,,,少しはあるがこの争いで犠牲になった人たちに比べれば余りにも小さいものに過ぎない。


「何をしてるんだ?お前にはやるべきことが残っているだろ?」首を斬り落とそうとしたときに、剣を取り上げられた。なんなんだよ。俺はもう死なないといけないんだよ。


「外に逃げた人間はどうする?この後の国の存続は?お前が荒らしたせいで収拾


「だけどよ、外に誘導していたのは王国騎士だぞ?」俺に加勢していたのはこの王直属の騎士団だ。まともに逃がしているとは思えない。


「そのことなら心配ない。ウェンとグエンがしっかりやっているはずだ」


「その二人は俺たちが殺したぞ?」確かに俺はこの目で二人が死んだことを確認している。でもこいつが嘘を吐いているとは思えない。


「魔法で分身を作ってたんだよ。純血魔法の応用さ」プロティスが二人、三人と増えていく。これが本当のことならアクセルの家族を殺していないことになるのか。良かった。


「そうか,,,なら償いの意を込めて、オーバー家に尽くすことを誓おう」俺はプロティスの前に跪く。俺の命はここで終わってもいい。あいつらの約束も,,,俺がしたことに比べれば軽い。死んだと思ってくれるだろう。


「そんなに畏まらなくていい。俺はもうこんなことが起こらないように対等な人間関係を築き上げていきたい。ま、統治する人間は必要だけどな」肩を持ち上げられて、手を交わした。ここまで人間を信頼しているのはアクセルと同じなんだな。


「さぁ、新しい国を作っていこうか」プロティスは焼けた地面ではなく、果てしなく広がる空を仰ぎながら宣言した。こうして革命は終わった。今を守りたいという人間の意志によって。


なぁ、フェイン。お前が目指していたものを俺が、俺たちが作り上げていくから、その時まで見守っていてくれないか___

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ