第十三話 王国 6
こいつとはどう戦うのが正解なんだ。レンはさっきの一撃のせいでまだ動けないだろうから、時間を稼ぐか?それとも単独での撃破を狙って攻撃をしていくほうか?どっちを選んでもリスクが高そうだな。
カラカラと頭上から音がする。もう攻撃できるのかよ!咄嗟にバックステップをして回避をする。俺がいたところにはクレーターが出来ていて、中には骨が散らばっていた。捨て身の攻撃かよ。
なんて思っていたら、骨たちが一点に集まってスケルトンに変化した。まじか、長期戦になればあり得ない位に不利な状態になる。スケルトンは聖魔法じゃないと倒すことが出来ないから厄介だな。
仕方ない、こっちは捨て身で攻撃してやるよ。宙に浮かせている剣に乗って、巨人の頭を目指す。コアが有るとするなら頑強に守られている頭蓋骨だろう。
「おわっ!」こいつ攻撃めっちゃ速いし正確だな。どうやって位置が分かっているかは謎だが、偏差を考えて腕を振ってきた。俺みたいに自由に動ける人じゃなかったら攻撃を受けてたか、地面に落ちてたな。
「やられっぱなしは性に合わないからな!」蒼で頭を狙って攻撃をしようとした。しかし、俺の攻撃は虚空を舞った。何故なら巨人が別の人間に倒されたからだ。
奴が、俺が最も恐れていた人間がこっちに出てきたのだ。俺は急いで地面に降りる。
「よぉ、lbr」真っ赤な髪と瞳を持った俺が軸という壁を越えて目の前に現れた。こいつがジェノサイドか。今にも逃げ出したい。俺が苦戦していたダリア家を一瞬で塵にしたこいつの目の前から、今すぐに。
「思ったより力があるみたいじゃないか?」緋の色をした槍のようなものを俺に向かって投げてきた。
「ぐはっ!!」避けきれない。音速を超えた攻撃に片手が持ってかれそうになった。寸前で蒼で覆ったから何とか付いてはいるが。
「どうした?そんなもんか?」雨の様に攻撃をしてくる。俺の蒼と同じ様なものを使ってくるのか。対処は出来そうだが、体力が持たない。
「クソがっ!!」まともに避けることも叶わない。時間が経つたびに体に傷が増えていく。溢れていくのは血と弱い自分への愚痴だ。
「お前の本気が見てみたい。回復してやるよ」ジェノサイドは攻撃を止め、俺に回復魔法を施してきた。疲れも痛みもすべてが引いた。絶好調に近い状態だ。
「全力でかかってこい」仁王立ちの姿勢で俺の攻撃を待っている。俺のことを完全に舐めている。渾身の一撃を与えるならこの瞬間しかないだろう。
「感情の奔流!!」込められる限りの力を蒼に纏わせる。いくら強くなった俺の別軸とはいえ、この一撃は痛手になるだろう。
「この程度,,,か」ジェノサイドは呆れたように俺のことを見る。やばい、完全に殺される。俺の旅もここまでか。仕方ない、実力が無かっただけのことだ。
「攻撃とはどういうことか見せてやる」緋色の魔方陣が展開されていく。あっちの俺は魔法までマスターしてんのか。調停者もお手上げ状態になるのも分かる。魔方陣?もしかしたらあの盾で防げるかもしれない。
急いで魔法空間からドレイン・ドレインを取り出して、攻撃に備える。
「ジェノサイド・ブラスター」緋色の魔方陣が開門し、緋色のレーザーが俺のことを貫こうとする。しかし、盾によって吸収され、俺は無傷で済んだ。
ミシッ!縦に亀裂が入った音がした。次また魔法を撃たれたら死ぬだろう。それでも俺は盾を構え攻撃に備える。弱者の俺にはこの行動しかすることが出来ない。
「俺の魔法を,,,なかなかやるじゃないか」ジェノサイドは攻撃を耐えてくれたことが嬉しいみたいだ。俺からすれば悲しいことなんだが。
「今度のはどうだ,,,ってお前の後ろに居るのは仲間か?」最悪だ。今まで隠せていたレンの存在がばれてしまった。
「ああいうのが居ると弱くなるんだよ。殺してくるから待ってろ」やめろ、やめてくれ!俺から仲間を取らないでくれ!!言葉にしようとしても、恐怖でかき消されてしまう。体も目の前にある絶対的な死に怯えて動いてくれない。
絶対にそんなことはさせない。自分の中で何かが固まっていくのが分かる。これは、まるで,,,
【物語の動きは自由だが、もう見過ごせない。結果が変わりすぎている】
何かが昂ろうとしたときに作者の声が天から聞こえた。俺はそれに安心感を持った。それよりも作者が出てくるのはよっぽどなんだな。ジェノサイドも作者の登場は予想していなかったみたいだ。ひどく動揺しているのが見える
「今回はここまでか,,,次に会うときはもっと強くなっていてくれよ」何もない空間に亀裂が入り、その中に入って消えてしまった。次が無いのが一番いいんだが,,,
「なんで今頃になって出てきたんだ?」レンに俺の声が聞こえていないのを確認して、作者に問いかける。
【調停者からある程度は聞いているだろう】
作者から帰ってきたのは冷淡で簡潔な言葉だった。軸の監視とか消去とかで終われてるんだっけか。これは完全に俺が悪いから何も言えん。
「ところでなんでダリア家は裏切ったんだ?」ローを殺す前に聞いておきたかったことだったんだが、ジェノサイドが殺してしまったから真相は闇の中だ。真実を知っているのはこの物語の紡ぎ手である作者だけだろう。
【簡単だよ。王のことを信頼できなくなったんだよ。何十年も一緒に年を重ねていくうちに自分のことをどう思っているのか。こんなちっぽけな考えに苛まされて滅亡を望んだんだ。これから先は王と家来と話してくれ】
エコーを残しながら作者の声は遠ざかっていった。また別の場所の軸に行ったのだろう。忙しくさせてすまんな。
「ブレイク?さっきのお前にそっくりなのは誰なんだ?」さっきの戦いを見ていたのか、レンは近づいてはきていたが俺に怯えていた。
「あれは,,,詳しい話はこれが終わってからにしよう。お前のことも知らないからな」濁すようで悪いが、ここで話すのは得策では無い気がした。
「隠していたいことはあるよな。でもさっきのはまるで,,,」何かを言おうとはしていたが、途中で言うのを止めた。こいつなりの配慮ってやつか。
「気を遣って貰って悪いな。城に戻ろう。王が心配だ」
「そのことなら心配ない。ギルガ家が直属で守護しているからな。それと並行して革命派の貴族も護っているからな」だからギルガ家は戦いに来なかったのか。そう考えると、レンは特例中の特例なんだろうな。恐らく監視の役割も担っていると思うが。
「ならこの調子でオーバー家を倒しに行くか」アクセルのことを考えると少し憂鬱だが、仕方ない。割り切って全霊で戦おう。
「そうしたいが、少しだけ休ませてくれ」ドサッと音を立ててその場に座った。回復して時間が経っていないから体が追い付いていないのだろう。時間はまだあるだろうから大丈夫だな。
「了解」俺は飲み物を渡してレンの正面に座った。無言の時間が流れる。それもそうか。あんな俺を見たら距離を置きたくなるよな。俺だってあんな殺戮に身を堕とした知人が居たら、殺すか距離を置く。でもこいつはまだ俺のことを信頼してくれている。ありがたいな。
夕焼けが照らす頃に俺たちは行動を開始した。「
見えるか?あそこが奴らが居る場所だ」目線の先を追うと、厳かな雰囲気とどこか寂しさを見せる赤色が基調の屋敷が目に入った。流石は貴族。見た目が派手だが所々に職人としての魂を感じられる建物になっている。
「あれって壊してもいいのか?」壊す気満々なんだが、一応聞いておく。ま、駄目って言われても攻撃するんだけど。
「吹き飛ばしてやれ」爽やかに笑ってやばいことを言っているこいつに対してちょっとぞわっとした。戦争だから別にやばくはないのか。勝てば官軍というものだ。
「了解。自由の咆哮!!」大剣を取り出してスキルを発動させる。もう剣が無くても出せはするが、あった方が雰囲気も出るし、威力も上がる。
ドゴゴオォン!!数百メートル離れていても耳鳴りが凄い。現場は飛んでも無い爆音に驚いているだろうな。もしかしたら鼓膜が破れているかもな。
「何してるんだ?全然壊れていないじゃないか」満足して剣を戻そうとしたが、レンに水を差された。
「冗談だろ?今のは中々の,,,」こいつも言うようになったな。なんて思いながら屋敷のほうを見る。本当に壊れていなかった。それどころは傷一つ付いていないんじゃないか?
「な、言っただろ?」なんか得意げな顔をしているこいつを無性に殴りたい。今回だけは特別に許しやるか。
「魔法で壁でも作っているのか?鑑定してくれよ」こんなに攻撃が通らないのは初めてだ。
「遠すぎるから無理だ」即答かよ使えないな。
「それよりデュランダルを使ったどうだ」指摘をされたが、使えない理由があった。
「もう刃こぼれし始めているからいざというときにとっておきたい」今回の革命で沢山使い過ぎた。魔剣は使用回数が決まっていて限界が来ると壊れてしまう。
「そうか。なら近づいて鑑定するか。これ以上方法が無いみたいだしな」軽く息を吐いて、森の中から屋敷に近づく。居場所は割れていると思うが、念のためだ。
気配を完全に殺して屋敷の一歩手前まで来ることが出来た。よく見てみると結界のようなものが張られていた。俺の攻撃を防いでいたのはこれか。
「鑑定するから少し待ってろよ」結界に当たらないくらいのところまで、手を近づける。手の周りが不思議な光に包まれていく。今回はどのくらいかかるんだろう。やることはほとんどないしな。強いて言えば警戒位か。
蒼でいつでも攻撃できるようにして、レンのことを見守る。鑑定している間のレンはイケメンだな。戦闘の時は華があるが、こういう場面の時は知性が感じられる。
「鑑定の結果は超級の炎結界だ」結界にも位があって、上に行けば行くほど強く範囲が広くなる。そして上級を超えると属性を付与することが出来る。
「超級か。久しぶりに弓でも使うか」魔法空間から弓と特殊な矢を取り出す。
「お前弓なんて使えるのか?」
「多少な」矢を弦に引っ掛けて、狙いを定める。今回狙うのは結界の中央って言いたいんだが、そこまでの精度は無い。だからこの魔封じの矢で一時的に結界に穴を空けて侵入する。
結界にも針の穴のように小さい弱点のようなものがある。アーチャーはこれを狙って破壊したり、魔法自体を阻害する。この世界にも職業的弱点がある。
「ふぅー」息を吐いて手が動かないようにする。この結界は精密に作られているな。弱点となる場所が中々見当たらない。家主が作ったのだろうか。
弓を構えてから数分。いまだに放つことが出来ないでいる。久しぶりってのもあるだろうが、本当に見当たらない。もうこの際適当に撃ってしまおうか。
バヒュン!空気を裂くような音と共に矢が放たれる。案の定適当に撃ったため弾かれた。やっぱりそうだよな。気を取り直してもう一度構える。今回は真面目に狙うか。
ギリギリと音を立てながら探していく。どこか極小の穴はないか,,,あった。眼をあり得ない位凝らして見えるレベルのところに。
スパァン!決まった。俺が放った矢は結界に人が通れるほどの穴を作り出すことに成功した。久しぶりで心配だったが戦闘でも使えそうだな。
「長く開かないからさっさと中に入ろうぜ」超級の結界を潜り抜けオーバー家の敷地に入った。
「どうしたブレイク。なんだか顔色が悪いが」前を歩いていたレンに調子が悪いのかを聞かれた。
「そういうわけじゃないんだが」仲間の家族を殺すのは気が引ける。かと言ってここで引き下がるわけにもいかない。適当にはぐらかすか。
「どういう魔法を使うのか忘れてな。思い出すのに必死なんだよ」
「なんだそういうことか。オーバー家は血統魔法の使い手で爆裂魔法を操る。中でも家主は高速詠唱で連続で魔法を放つから注意が必要だ」屋敷に近づきながら、小さな声で教えてくれた。
「もう着くが大丈夫か?」もう目の前まで屋敷が迫ってきている。覚悟を決めないとな。
「あぁ」腹を括って大剣を宙に浮かせ、弓を構える。いつでも戦闘が可能な状態にする。そしてこの戦いを必勝にするために小細工を仕掛ける。
ヒュン!矢が空気を軽く引き裂く。魔封じの矢を屋敷の上空に向かって風魔法を纏わせて放つ。俺たちが戦う頃には落ちてくるだろう。これで魔法が使えなくなってくれればいいが。使えたとしても威力は格段に下がるだろう。
「仕掛けは終わったか?」俺の意図が伝わっていたのか攻撃をしないでいた。こういうところにも戦闘のセンスが現れるんだな。俺も見習うべきだな。
「行くか」玄関から勢いよく入る。中には大勢の魔法使いがいた。想定していたよりも人数が多いが関係ない。レンが一掃してくれるからな。
「紅一閃」スキルの発動と共に屋敷の一階は瞬く間に業火に包まれた。剣聖対血統魔法か。果たしてどちらの方が強いのだろうか。
阿鼻叫喚の中でどちらのほうに軍配が上がるのかを予想する。俺の考えがあっていればレンは負ける。魔法使いの間合いは果てしないからな。それに対して剣を使う者は間合いが存在する。それをカバーするために俺みたいな仕掛けをする盗賊のような役割が存在する。
「ギルガ家のクソガキか」業火を手で払いながらこっちに歩いてくる人間がいた。この家の人間だ。
「久しぶりだな。オーバー・ウェン」レンが睨みつける方向を見ると、俺達よりも一回りは年を取っている青年がいた。
「子守は苦手なんだよ。死んでも文句は言うなよ?」魔方陣が高速展開されていく。屋敷は眼中にないってことか。
「俺も目上の人に愛想を吐くのが苦手でね」太刀を構え、反撃の態勢を取っている。反撃と言うよりは守りの形に近い。
「死ね」爆裂魔法が俺たちに向かって放たれる。無数に飛んでくる爆発する火球をレンは涼しい顔でいなしている。俺か?必死に逃げて時間稼ぎしとるわ!!こんなん無理やって!明らかに次元が違うやん!命乞いか小細工くらいしかできないわ!
「ブレイク!何時まで逃げてんだ!?」俺を馬鹿にするようにレンが遠くから煽ってくる。自分は余裕だからって俺のことをコケにしやがって。
「お前がそいつを倒すまでだよ!!」爆裂魔法を間一髪のところで避けながら返事をする。これは冗談だが、レンと俺がいないとオーバー家を全員倒すことは不可能だ。
職業的な条件もあるし、俺がこの手でアクセルの仲間を殺したくはない。レンには申し訳ないがこのくらいの負担は剣聖なら許してくれるだろう。
「そうか!なら一生逃げっぱなしだな!」爽やかな声で罵倒される。これは,,,ありかも知れんな。っていかんいかん。こんなところで性癖を開発されても困る。戦いに集中しないとな。
混沌を極める中、オーバー家との戦いの火蓋が斬り落とされた。




