第百話 世界戦 十
~逃亡者・ホープレス視点~二人に接触する数分前~
「アイツらに死なれた困るんだよなぁ。でも死ぬ気配もあんま感じないんだよなぁ」世界から隔絶された空間から二人を観測する。現状で二人が打開者と強奪者に勝てる可能性はゼロに近い。
理由は二つ。一つは二人はまだ本気を出していない。二つは神具の解放をしていない。その気になれば一瞬で細切れにすることも可能だろうが渋っているように見える。
恐らくはテトリアが勝利の可能性を引き上げる要素を持っていると踏んでいるからだろう。
アイツの持っている神具はこの世界の英霊、そして異界の英霊まで呼び起こすことができる。もし、全てをひっくり返す者を降ろされれば,,,と考えているはずだ。
最も、その可能性は無く、降ろした瞬間に魂ごと世界に喰われ、抜け出すことも出来ないまま、無を彷徨うことになる。
以上の事からあいつらの狙いは堕落者を遠くに逃がすこと、上位者の強さを身に刻み込ませ、士気を下げることが目的だ。
「そうなると、俺の目標からは遠ざかっちまうなぁ」ため息を吐きながら時空を歪ませる。俺の目的はこの鳥かごからの逃亡。外に広がる世界に行くことだ。
「助けるかぁ」少しだけ息を吐き、四人がいる戦場に空間を繋げる。一度希望を捨て、全てを諦めた俺がまた夢のために動くとは,,,
「ゆっくりしてる時間はねぇな」予想とは反して強奪者が感情的になっている。もしかしたら殺されるかもしれない。いや、殺される。
「そうはさせねぇよ!」強奪者すらも気が付かない程の速度でと霊神とアクセルを抱える。
「こいつらにはまだまだ活躍してもらうんだからな!」二人が落ちないように支えながら距離を取る。
「「逃亡者!そいつらに加担する気か!?」」打開者と強奪者の罵声が後方から聞こえる。
「上位者の面汚しが!!」後方から尋常ではない気の塊と、全てを奪い去る霧が迫りくる。初っ端から必殺技を使ってきやがって,,,
「知るかよ。俺は目標のために生きるぜ」攻撃を能力で振り切り、時空の裂け目に入り込み、即座に入り口を閉じる。これで奴らは追ってこれない。
「大丈夫か?」二人を隠れ家のベッドの上に放り投げる。
「,,,」テトリアの方は意識が無いのか返答も無く、だらりと横たわっている。回収するまではまだ余力があると思っていたんだが。
「僕は平気です。それよりもテトリアさんは大丈夫なのでしょうか?」放り投げられたアクセルはすぐに体を起こし、仲間の心配をしていた。
「多分大丈夫だ。目立った外傷も無ければ魂の損傷も無い。時間が経てば目を覚ますだろう」
「そうですか,,,それよりもあなたは?」
「俺は逃亡者。またの名をホープレスだ」
「僕たちは敵対関係であるはずです。何故助けたのですか?」真っ当な質問がアクセルの口から出た。正直に答えるべきか否か,,,まぁ、嘘偽りなく答えた方がこの後の計画にも支障をきたさないだろう。
「俺の目標を達成するためだ」
「ホープレスさんの目標とは?」
「この世界からの逃亡だ。詳しく教えてやるよ」俺はそこからテトリアが起きるまでの短い時間で現状分かっていることを彼に伝えた。
『お前等にも分かるように話を見せてやるよ』
まず、この世界はこの軸を起点にあらゆる時間、時空に拡散している。そしてこの軸からの分岐を止めることは不可能だ。しかし、纏めるということは可能だ。似通った軸を統合し、分岐を完全に遮断することができる。
上位者、抵抗者が狙っているのはこれだ。結局のところ、上位者はこの軸から生まれた力を持った人間であり、自分たちの存在を定着させるために戦っている。抵抗者は安全な軸だけを残し、これからの世界のために戦っている。
どちらも似たような考え方ではあるが、相容れることは無いだろう。
だが、俺からしたらそんなものはどうだっていい。俺は俺で他の軸に存在していようがこの軸で生きる間は俺が変わることは無い。それにそんなちっぽけな戦いで命や魂を削りたくなはい。
この世界は無限とも思える枝分かれしている。しかし、抜け道が少しばかり残されている。それがLIB、もしくはオリジナルと呼ばれるこの軸だ。
LIBとはlast、infinity、breakの三つの結末をのどれかを迎える可能性がある軸のことだ。
lastはこの軸で全てを終わらせこれからの未来を奪い去るものだ。一部の奴らがこれを狙っている。俺の、俺らの意識を改変し、手のひらで踊らせていた,,,調停者なんかがな。
infinityはこの状況を放置し、いずれ自然に来る終わりを迎えさせようとするものだ。オリジンやトゥルー、神がこれを狙っている。
breakはこの軸を崩壊させ全ての軸を自由にさせるというものだ。禍福や、他の軸、神々、八強などが望んでいる最も成功率が低い結末だ。勿論俺も世界の外に出るために狙っている。
しかし、これらの結末は上位者、そして観測者、監視者、管理者に妨害されているということだ。この三柱をどうかにしなければならない。
その対抗策がLIBの軸に生きる人間と抵抗者やそれに準じる物だ。後者は軸の移動を容易にできるほどの強大な力を持ち、且つ意思疎通が概ね取れている。
前者はかなり不安定だ。力もバラバラで軸越えも他者の力を借りなければならない。前までは育てることで意見が一致していたが状況が急激に変化し、力を手に入れられるように介入することになった。
今回助けたのもそのうちの一つに入る。多分あのまま戦闘を継続していても誰かしら止めに入っていた。現に注視していた人物があと三人は居たからな。
まぁ、ともかく俺が伝えたいのは世界の終わり方は三つあるということ。そのうちの一つに俺の目標があるということだ。
「世界がそうなっているとは」アクセルは俺の話を疑いもせず、全てを受け止めた表情をしていた。ここまでの道のりでこいつの中の何かが変わったのだろう。俺の知る限りでは深層で全てを疑っていた。
「テトリアは教えてくれなかったのか?」
「あまり詳しくは教えてくれませんでした。ですが断片的ですがホープレスさんと似通ったことを言っていました」
「そうか,,,」数多の軸を行き来し世界がどうなっているのかを知ってるアイツが黙っているということは何か策があるのだろう。
「他に知りたいことはあるか?」
「上位者は他の軸の僕、僕たちで間違いないのでしょうか?」
「お前等が元になった奴らもいるし、そうじゃない奴らもいる」
「ではホープレスさんはどちらなのですか?」疑いの目ではなく、知りたいだけという純粋な目だった。
「俺は,,,いや、好きに想像してくれ」そんな目をされた俺は嘘を吐くわけでも、真実を言うわけでもなく、ただただ濁してしまった。今はまだ、正体を明かしたくないから。
「そうですか。失礼なことを聞きましたね」アクセルはそう言って頭を下げた。
「気にするな」申し訳なさそうにしているアクセルを見るとまだ理解し合えたアイツの事を思い出す。
元気にしているだろうか。それとももう夢半ばでくたばったのだろうか。
「少し外の空気を吸ってくる。テトリアが起きたら教えてくれ」扉を開け廊下に出る。少しでも体重を掛ければ軋むほどのオンボロな床を抜け、外に出る。
「ふぅ」目の前には天をも貫く霊峰。その頂から流れ落ちる大瀑布。周囲は幻想的な霧に包まれ、青々とした草木の間を妖精が優雅に飛び回っている。
「相変わらず綺麗だな」ここは友と共に見つけた秘境。神界と人間界を繋ぐ境界に当たる場所だ。不可思議なところにあるここは時折、珍しい来訪者が現れる。今目の前に居るのもそのうちの一人だろう。
「久しぶりだね。ホープレス」白色とも紫色ともとれる何とも不思議な色合いをした髪を束ねた少年が近づいてきた。
「元気にしてたか?ナギサ」
「そりゃあね。それに終わりが近づいているのにのんびりできないよ」
「それもそうだな。それより何しに来たんだ?神がこの辺をうろつくのは不味いんじゃないのか?」いくら神力が満ちているここでも管理者どもにバレる可能性がある。
「アクセルに会いに来たんだ。偶に神通力を通して会話はするんだけど、顔を見たくてね」遠い記憶を思い出すように目を伏せた。
こんな姿を見せられたら断るわけにもいかないだろう。それにこの先の戦いでは大神召喚が鍵を握る。好感度は上げておかないとな。
「そうか。アクセルは仲間と共に寝室にいる。鍵は閉めてないから自由に出入りしていいぞ。俺はもう少しこの世界の空気を吸ってるからな」
「ありがとう!用事を済ませたら戻るから」宝石に様に輝く笑顔を見せた後、急ぎ足で家の中に入っていった。
「ようやく動き始めたんだな。俺の物語が」誰にも聞かれないように呟く。
世界はもう回り始めていた。俺だけが、停止していた。あの日からずっと。
家族、故郷を、友を失ったあの日から。手に残ったのは見栄だけの名前と大層な名をした能力だった。逃げ続けたツケをようやく清算できた。
「待っていろよ。俺が、俺達が手にしてやるからな」砕けた空に手を伸ばし、笑う。俺の旅はまだ序章に過ぎないんだからな。




