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いつもの食卓
グルメ×恋愛×ヒューマンドラマ!
主役の二人は小説家♂と編集者♀。
美味しく、楽しく、時には切ない記憶が胸をよぎる食卓の物語。
どうぞよろしくお願いします。
──決して忘れられない大切な思い出がある。
ごく平凡な家庭での食卓のワンシーンだ。ダイニングテーブルの席に両親が隣り合って腰掛け、自分と妹はその向かいで母の手料理を夢中になって食べている。
茶碗を片手に席を立った自分が母に尋ねる。
『お母さん、豚汁まだある? ご飯は?』
『豚汁はあと三人分くらい? お父さんとお母さんはいいから、あなたが食べなさい』
『お兄ちゃん、ついでに私の分もよそ……。あっ、やっぱりご飯はいいや。太っちゃうし』
いつもたくさん食べていた妹の変化に気付き、ついニヤニヤ笑ってしまった。
『中学生のガキが何言っているんだよ。……わかった。好きなヤツができたな?』
『お兄ちゃんってデリカシーがない!』
頬を膨らませたあどけない妹の表情を、両親の笑顔を今でもありありと思い出せる。二度と取り戻せないからこそ、胸が痛くなるほどよく覚えていた──