いつもの景色
五百文字制限企画へ参加予定の物語です。
海鮮丼で有名な港町。小学校から三人の少女が楽しそうに下校している。美しい夕焼け空を海猫たちが舞っている。
お揃いの服。三人で選び、お年玉で買ったお揃いの服。
真っ直ぐ進む本通りに沿って伸びるブロック塀の切れ目に小さな脇道が現れる。三人は立ち止まった。ここで一人だけ脇道に。
「じゃ、じゃあね……。またね」
祐香は笑顔で二人に別れを告げる。小さく手を振る。
「うん、ま……またね」
美菜と亜希も応じ、笑顔で手を振った。
祐香は脇道へ曲がり、二人は真っ直ぐ歩き始めた。
いつもの景色。
10メートルほど進み、美菜は亜希に震える声を掛ける。
「もう……大丈夫かな?」
「……うん」
二人は振り返る。
祐香は見えない。
それを確認した途端、堰を切ったように二人は泣き出した。
「もう、祐香ちゃんと……会えないんだね」
「ちゃんと笑って……泣かないでお別れ出来たよ、私たち」
祐香は転校する。遠く離れた街に明日早朝、引っ越す。
祐香も脇道に入ってすぐ、一人で泣き続けていた。家まで我慢出来なかった。
「またね」がないことくらい、三人とも分かっていた。
「最後まで笑顔」の約束は守られたし、破られた。
そんな美菜と亜希、祐香を海猫たちが空から見ていた。
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