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「雨降ってきちゃったよ」

引き戸を開けた荒木さんは、そう言って困ったように笑った。

「瀬川君が来た時は大丈夫だった?」

そう尋ねられて、僕はひとつ頷いた。空は今にも降り出しそうな色をしていたが、僕が来た時はまだ雨は降っていなかった。

「そっか、ラッキーだね。天気予報ではくもりって言ってたのになあ」

荒木さんは折りたたみ傘をまとめると、カウンターの奥、部屋の角に立てかけた。傘から落ちた滴はすぐに床に水たまりを作った。

「ごめん、荷物置いてくるね」

僕の返事を待たずに荒木さんは店の裏へと消えていった。いつも通りのことだ。そしていつも通りなら二、三分で荒木さんが戻ってきて、僕は自室へ引きこもるだろう。雨が降っているというだけの、いつも通りの始まりだった。




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