40
「ど━━おして蓮太郎さんでなく貴方なんですの」
「店長が決めたことを僕に文句言わないでよ」
花音さんはそう言うとわざとらしいため息をついた。僕はそれに冷ややかに返事をする。
「もともと乗り気しない仕事でしたし、蓮太郎さんも来ないとなるとテンションも上がりませんわ」
「気分によって業務の質に差が出るなんて、君はいつまで新人気取りでいるの?」
「あら、何かおっしゃりました?先輩に向かって何か」
「文句ばっかり垂れられても困るんだよ。君は自分の気分が第一で他人の気分なんか考えもしないんだね」
「何故私が貴方の気分なぞ考えなくてはなりませんの?そもそも貴方に気分なんて不釣り合いなものがあるとは驚きですわね」
「そんな当たり前のこと言わないでくれないかな。現に僕は今ものすごく不愉快だよ」
花音さんは大きく鼻を鳴らすとそっぽを向いた。肩に担いだ細長いケースが彼女の後頭部を隠す。まったく、何故僕がこんな人と組まなければならないのか。それもこれも、この人と組むのを嫌がった店長のせいだ。帰ったら絶対に一発殴る。
その時、目の前の路地を真っ黒な服の男が横切った。僕らが諍いを起こしながら待ち構えていた人物だ。僕はそれを追うために、屋根の上から降りるべく梯子の方へ向かった。
「全く、何をとろとろしてますの」
その横を花音さんが飛び降り、ブロック塀をひらりと飛び越え、男を追ってさっさと路地を走って行ってしまった。優に二階分はある高さだが。脳みそがゴリラかと思えばどうやら身体もゴリラ並らしい。
僕はゆっくりと梯子を降りながら人っ子一人いなくなった路地を見つめた。まぁいい。僕の担当はもともと情報サポートだ。身体を動かす仕事はあのゴリラに任せばいい。




