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三月二日。退院してから三日後。夜の八過ぎ、インターホンが鳴り玄関へ向かった。こんな時間に誰だろう。脱ぎっぱなしになっているローファーを引っかけてドアを開ける。
「こ、こんばんはっ、瀬川君。お見舞いに来たんだけど」
ドアを開けると鳥山さんが立っていて、僕にビニール袋を差し出した。彼女は一昨日もここへ来たし、何なら入院中も一度来た。
「見舞いなんて別にいいのに」
「ううん、たまたま近くまで来たし……。それにその腕じゃご飯作るのも大変でしょ」
僕は受け取った袋の中身を感覚で確認した。一昨日もらった物から考えても、中身はレンジやお湯を使って作る食べ物ばかりだろう。
「それともやっぱり迷惑だったかな……?」
「そんなことないよ」
正直に言うと迷惑ですという言葉を飲み込み、肯定でも否定でもない返事をする。さすがに僕だって空気くらいは読む。
「そういえば、花木冴改心したらしいわよ」
「そうなんだ」
「瀬川君からしたら捕まった方がよかったのかな……?」
「恨んでるわけじゃないしどっちでもいいよ」
そのあと五分程一方的に話すと、鳥山さんは慌ただしく帰って行った。僕は彼女が門を出るとすぐにドアを閉める。
食料を持って来てくれるのは確かに有り難いが、別に近くのコンビニへパンを買いに行くことくらいできるのだ。見舞いに来られるのは実際少し欝陶しい。
それにしても、彼女は何故食料を持って来るのだろうか。そりゃあこの家で料理をする人間は一人もいないが、彼女がそれを知るわけがない。僕の家庭環境を知っているのはおそらく店長だけだろう。
「…………」
仕事に復帰したらまず店長をしめることから始めよう。