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店の引き戸を開けると、荒木さんの隣にいる花音さんと目が合った。彼女は一瞬だけ瞳を輝かせるが、それはすぐに落胆の色に変わった。

「おはよう瀬川君。今日は遅かったんだね」

荒木さんのその言葉に僕はまず挨拶を返した。

「委員会の仕事があったから」

「そっか、お疲れ様。部屋にお茶持って行こうか?」

僕はお願いする意味を込めて「ありがとう」と言った。本当はコーヒー派なのだが、わざわざ口に出すほどのことではない。荒木さんがカウンターから立ち上がり、僕も部屋へ向かおうと足を踏み出した時、ものすごい力で肘の辺りを掴まれた。

「ちょっと瀬川さん、あなた私に挨拶の一つもありませんの?」

この馬鹿力を振りほどく方法を僕は知らない。僕は面倒臭さを隠そうともせず花音さんの方を振り向いた。

「してほしいならまず自分がしなよ」

「私は客ですわよ?そちらからするのがマナーじゃありません?」

「僕にとっては客じゃないから。勝手に押しかけてきて迷惑してるくらいだよ」

「どうせ店長は来ないんだからさっさと帰って仕事した方がいいんじゃない」という続きはかろうじて飲み込んだ。これ以上言うと更に面倒なことになる。まぁ、花音さんはすでに思い切り眉を吊り上げているが。

「花音ちゃんちょっと後ろごめんね。瀬川君は部屋で待ってて。すぐ持ってくから」

花音さんが何か言い返そうとしたところで、それを止めるように荒木さんがカウンターから出た。彼女は僕の背中をぽんと押すと、笑顔を作ってそう言った。

せっかく荒木さんが間に入ってくれたので、このまま部屋に退散することにする。僕の姿がまだ消えないうちから花音さんが愚痴を言い始め、それを宥める荒木さんの声が聞こえた。

部屋のドアを後ろ手に閉めてため息を吐く。あんなのと同じレベルで会話をするなんて。疲れるだけだってわかっているのに。

僕は投げ出すように鞄を置き、パソコンの電源を入れた。起動準備を始めたディスプレイをぼーっと眺める。気を取り直して仕事に集中しよう。




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