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「おはよう瀬川君」
夕方、店の引き戸を開けると、カウンターに座っていた荒木さんが顔を上げた。僕は「おはよう」と挨拶を返す。彼女は、相変わらず単調な喋り方だと思ったことだろう。
「どこ行ってたの?」
「コーヒーがきれてたからコンビニに行ってきた」
僕は見えやすいように左手のビニール袋を軽く持ち上げた。
「あ、そうだったんだ。ごめんね気づかなくて」
僕はその言葉に荒木さんは何も悪くないという意味の返事をした。昨日まで少しだけ残っていたコーヒーを今日全て飲み干してしまったのは僕だし、何より彼女は買い出し担当ではない。実際、荒木さんは何も悪くないのだ。
「そういえば店長どこ行ったか知らない?」
「さぁ。僕が来た時にはいなかったよ」
荒木さんが「そっかー」と呟いたのを聞いて、僕は自分の部屋へと足を早めた。唯一の共通の親しい存在である店長の話題が出たら、もう話のネタ切れなんだと何となく感じていた。毎日のようにふらふら出歩く店長の行き先なんて、荒木さんだってもう気にしてないはずだから。