乙女ゲームの脳筋担当騎士の婚約者のモブは私です
リハビリに書いてみました。こっそり掲載します。
サーラ・オベリスク伯爵令嬢 様
――学園にいらっしゃい。可及的速やかに。
オフィーリア・ファラデー
サーラ
先日は、突然で驚いたが学園に来てくれて嬉しかった。
家の方で何かあったのか心配したが、俺が心配をかけていたとは申し訳なかった。あまり、友人や警護対象以外に興味がないので、付きまとわれていたこと自体気づいていなかった。オフィーリア様にも心配をかけたのだな。俺からも謝っておいた。
「あの女が何を勘違いしているのかよくわからないけれど、あなたたちの仲の良さを見せつけたらあきらめると思ったのよ。いい案だったでしょ」
と笑っておられた。
あの女は、俺を完全にターゲットから外したようだ。やはり、サーラという婚約者がいることを見せたことが良かったのだろう。この間はすれ違いざまに「なによ。第四人気のノウキン騎士のくせに!」と言っていた。ノウキンの意味は分からないが、サーラに心配をかける種がなくなったので、それについてはよかったと思う。
それから、サーラの話、殿下も、もちろん俺も重く受け止めている。サーラに前世の記憶があって、サーラの前世ではこの世界はなにかしらの物語のようなものだったというのは、にわかには信じられない話ではあるが、しかし、つじつまは合う。俺もあの場であの女の発言を聞いているし、これまでも「ひろいん」だとか「もぶ」だとか「こうりゃくたいしょう」という言葉を口走っているのを聞いたことがあった。庶民の俗語なのかと思っていたが違うのだな。サーラの話を信じた上で対処するから安心してくれ。俺もオフィーリア様を少し誤解していたところがあったようだ。これからは、将来騎士団に所属するものとして、より一層気を引き締めて殿下とオフィーリア様をお守りしようと思う。
エリック
サーラ・オベリスク令嬢 様
先日は、王都まではるばるお疲れさまでした。
サーラ。あなたとエリックの仲の良さを見せつけたおかげで、エリックはあの女に付きまとわれることがなくなったわ。安心して頂戴。
――今は、殿下に執着しているわ。殿下もとりあえず様子を見ているのか、お側に近づくことを許していらっしゃるの……。だから、しばらく他の家の令息に近づくことは無さそうなので、あなたのお友達にもいらない心配をかけないで済むわね。
殿下が、あの女を気に入ったのかどうかはわからないけれど、最終的にわたくしと結婚するという「義務」を果たさない無責任な方でないことは信じているから、心配しないでね。
休みにはあなたの領地にも寄れるといいのだけれど。またゆっくり話したいわ。
オフィーリア
サーラ
手紙ありがとう。
サーラが心配していた通り、現在あの女は殿下に付き纏っている。殿下は、あの女の真の狙いを突き止めるためにしばらく泳がせることにしたようだ。
オフィーリア様に余計な心配をかけないよう今回のことは殿下と俺で対処するとおっしゃっている。
そこで、少しでも対策を確かなものにするために、サーラも前世の記憶のことをできる限り詳細に教えてもらえないだろうか。先日直接聞いた時には、やはり衝撃が大きく必要な情報を尋ねきれなかった。
手紙が心配なら、王都に遊びに来ないか。
子爵宛て、サーラを招待する手紙を同封している。
エリック
サーラ様
先日はわたくしのところにも寄ってくれてありがとう。
弱音は吐いていないつもりだったけれど、あなたにはお見通しだったわね。さすがあの鉄仮面エリックの婚約者をやっていられるだけあるわ。
エリックもあなたも殿下を信じてほしいとおっしゃるけれど、わたくしも殿下がわたくしとの婚姻の利がわからないとは思っていないわ。だから、このまま婚約者でいて良いという殿下のお言葉は信じているのよ。
でも所詮わたくしたちは政略的な婚約だから、あなたたちとは違うわ。
わたくしが殿下をちゃんとお慕いしていれば大丈夫。
そう言い聞かせて毎日過ごしているけれど、弱音を吐いていいですよと言うあなたの言葉にどれだけ救われているかわかる?
この手紙に封をしたら、明日もちゃんと「王太子の婚約者の公爵令嬢」ができるわ。
サーラ、また王都に来てね。
オフィーリア
サーラ
先日は会えてうれしかった。
サーラの話とあの女の動きは一致することが多く、殿下もかなり有益な情報を得ることができたとお喜びだ。
オフィーリア様の件だが、俺が見る限りはいつも通りの様子に見える。
サーラが一番わかっていると思うが、俺は全く人の感情の機微を読み取ることができないので、――サーラがいなければそのこと自体に気付けていなかったが――、オフィーリア様に少しでも変わったところがあれば、知らせるよう伝えてある。
サーラが、心配しているということは殿下にも伝えておく。
あまり心配しすぎず、健やかに過ごせるよう願っている。
エリック
サーラ
侍女からの報告では、部屋で物思いに耽っている時間が多くなっているらしい。
オフィーリア様にも全てを話したいというサーラの願いを殿下に伝えてみたが、許可されなかった。すまない。
サーラの問題ではなく、オフィーリア様が事情を知ったときに、自分を犠牲にしてでも殿下や周りを守ろうとされることを殿下は非常に心配していらっしゃる。
特に今回は、あの女はオフィーリア様を「悪役令嬢」とかいうものに仕立て上げたがっている。もちろん、相手にしない者が大半だが、一見殿下があの女に気を許しているように見えるために、あの女にすり寄って、オフィーリア様を蔑ろにする愚か者がいるのも確かだ。
もちろん、殿下はその者たちをきちんと把握していらっしゃるので安心してほしい。
オフィーリア様が、「悪役令嬢」の役回りを自ら担って、事態を収束させることを厭わない方であることは、サーラもよく知っていると思う。
殿下はオフィーリア様に危険があることをことのほか恐れていらっしゃるのだ。
オフィーリア様を表立ってかばうことができないのが歯がゆいが、オフィーリア様は強い方なので、耐えてくださると思う。
エリック
サーラ
先日の手紙がそんなにサーラを怒らせるとは思わなかった。
殿下とオフィーリア様は子どものころからの婚約者だし、信頼関係で結ばれていると思っているのだが、またどこか見当違いなことを言っているだろうか。
サーラがオフィーリア様を心配しているからには何らかの根拠があるのだろう。
オフィーリア様が王都を離れたがるとは思えないが、万が一、そのような事態になったら、協力する。約束する。
だから、許してほしい。
あの女はますます増長していて殿下も手を焼いている。単純なたちなのか、殿下が自分に気があると思っているようだ。
オフィーリア様には近づかせないようにする。
エリック
サーラ 様
もうだめかもしれない。
O
サーラ
約束を果たす。
一番信頼できる者を付けた。そのまま、そちらで使ってもらって構わない。
エリック
サーラ
知らせてくれてありがとう。居場所は公にしないでほしいという約束は必ず守る。だが、殿下には、時々様子を知らせてもらえないだろうか。オフィーリア様が姿を消して以降の憔悴ぶりは見ていられない。
サーラのところにいること、俺が逃亡を手助けしたことは、早々にばれた。すまない。
一発殴られたが、そちらに向かうことは今の状況では得策ではないということは理解されているようで、今は寝食を忘れて証拠集めに動かれている。
オフィーリア様は、表向き病気療養中ということになっている。サーラに言われたとおり、どのような噂になっているか調べたら、殿下に婚約破棄されそうで、そうならないように逃げているという噂があった。表向きの情報は、皆信じないものだな。噂の方が真実だと認識されているようだ。
あの女は、「もうすぐ本番なのに悪役令嬢が事前に退場ってどういうこと!」と叫んでいたらしい。
エリック
サーラ
サーラの怒りももっともだ。サーラは再三、オフィーリア様のことを心配して我々に忠告してくれていたのに、お守りしきれなかったこと、本当に謝罪のしようもない。
事件の解決こそ最大の防御だと思ってしまったこと、笑顔の裏にあったオフィーリア様の苦しみをわかって差し上げられなかったこと、痛切の極みだ。
結局、殿下も俺もオフィーリア様に甘えていたというのは、本当にその通りだと思う。
言っても仕方のないことだが、サーラが俺たちと同い年で王都にいてくれたらよかったのにと思うよ。年上らしくない、頼りない婚約者ですまない。
今、とてもサーラに会いたい。
手紙だけでも連絡ができている俺が殿下にそれを言うことはできないけれど。
殿下は、取り繕ってらっしゃるが、かなり体調が悪い。精神的に限界なのだと思う。早く事件が解決して、誤解が解けて、いつかオフィーリア様に許していただける日が来るといいが。
愚痴ばかりですまない。そちらが、無事であればそれに越したことはない。どうか体を大事に過ごしてくれ。
エリック
サーラ
王都まできてくれるとのこと感謝する。婚約者を招くのに理由はなんとでもなるから大丈夫だ。殿下との面談についても、オフィーリア様の件であれば、必ず応じてくださるだろう。
殿下宛ての手紙もありがとう。
少し安心されたようだ。
取り急ぎ子爵宛てサーラを王都に招待したい旨の手紙を同封する。滞在中は我が家のタウンハウスにいてくれ。なるべく会いに帰る。
エリック
サーラ
王都の様子はどう?
私のせいで、王都まで行ってくれてありがとう。
でも、私のおかげでエリックに会えるのだからおあいこね。
あなたが王都に出掛けてからも無事過ごしているわ。ここの空気が綺麗なのか人が優しいせいなのか、最近はとてもよく眠れるの。サーラのおかげね。今度はサーラが忙しくなってしまってごめんなさい。
私のことにかまけすぎず、王都を楽しんでね。
あなたは遠慮しそうだけれど、婚約者に会いに王都に行ったのに、あまり閉じこもっていては不自然よ。何かあるのかと疑われるわ。
私のためにも、お願いします。エリックにも怒られたくないしね。
王都のおいしいお菓子が食べられるお店のリストを付けます。
あまり高級過ぎないお店を見繕ったけれどどうかしら。
――殿下はお元気かしら。
O
サーラ
殿下の様子を知らせてくれてありがとう。
殿下が私に会えなくなって憔悴しているって、サーラは言うけれど、それはサーラが期待しているような意味ではないと思うの。
おそらく私がいなくなったことを取り繕うために苦労されているのだと思うわ。
でも、私は殿下やエリックに無理をしてもらうくらいなら、大事になってもいいと思っているの。
今回のことが、無事落ち着いたとしても一度でも殿下に蔑ろにされたと思われている私が王太子妃になれば、必ず殿下の瑕疵になるわ。
あの子をいじめたとされている私の資質を突かれたり、殿下ご自身の気持ちの揺らぎを責められたりすることがあると思うの。
それよりもこの婚約は私の責で解消して、殿下には弱みにならない新しい方と結婚していただいた方がいい。
私の気持ちなんて国家の安定に比べたら取るに足らないものだわ。
エリックにもきっと無理をさせているわね。
二人に私のことはもう心配しないように伝えてくれる?
早くサーラに会いたいわ。
O
サーラ
先程の手紙の内容は殿下に伝えた。今日は帰れない。
心配しないでくれ。また連絡する。
エリック
サーラ
この手紙は外に漏れないように届けさせる。
読んだら燃やしてくれ。
今、サーラの家に来ている。
殿下をお止めできなかった。すまない。
殿下はオフィーリア様の病がうつったことにしてある。
殿下とオフィーリア様の話し合いに立ち会うことは遠慮した。
殿下もオフィーリア様に会いにご自身が動かれては、相手方に悟られると思って耐えていらっしゃったが、ついに我慢できなくなったようだ。
でも、もう今から何かあっても勝利を確信しているというのもある。安心してくれ。
王都にサーラ一人を残しているのが心配だ。屋敷から出ず、過ごしてくれ。数日以内には帰る。
エリック
サーラ
エリックと会えたようでよかったわ。
エリックを先に帰したこと心配しないで。
すぐに代わりの騎士もきたし、何より子爵家だけじゃなく、エリックの侯爵家の騎士も厳戒態勢を敷いてくれたから心強かったわ。
私も殿下もサーラが心配だったし、何よりエリックがサーラを心配しすぎて、殿下曰く「あれじゃあ、何の役にも立たん」って言う状態だったのよ。
エリックから、聞いているかもしれないけれど、エリックのことだからあんまり伝わっていないんじゃないかと思って、改めてこれを書いています。聡いサーラならエリックの説明でも理解しているのかしら。
私が学園で徐々に孤立していったのは、前に話したわよね。「彼女」がそのように立ち回っていたのだけれど、殿下とエリックは、最初から怪しいと思って泳がせていたのね。私ったら気づくべきだったと反省しているわ。そして危険を知らせてくれたのはあなただったのね。
そういう意味では最初にエリックを狙ったのが失敗だったわね。
そして殿下のお心も伺ったわ。
あなたが何度も殿下の気持ちを聞いたほうがいいって言ってくれたのに、私、ずっと頑なだった。
決定的なことを聞くのが怖かったのね。
でももう大丈夫。
殿下と帰って立ち向かうわ。
八年前のあの日、避暑のついでにとあなたの子爵領に連れて行って、あなたに会わせてくれたエリックに本当に感謝しているわ。
たとえ、それが殿下一人をあなたに会わせたくないっていう嫉妬心だとしてもね。
卒業パーティにはサーラも来るんでしょう? 会えるのを楽しみにしているわ。
あ、そのパーティで殿下がどのような様子でもびっくりしないでね。怖かったらエリックにしがみついていたらいいわよ。
オフィーリア
サーラ
無事家に着いたようで安心した。
卒業パーティに来てくれて嬉しかった。それに、情けないと思われるかもしれないが、心強かった。
あの女は、何故かパーティでオフィーリア様が断罪されると思っていたようだ。確かにサーラの言っていた前世の物語ではそうだったようだが、現実にそのようなことが起こりうるはずがないということは、誰が見ても明らかな状態だったから、まだそんなことを考えているとは驚いた。ずっと俺にはあの女の思考回路がわからないと思っていたが、サーラもわからないと知って安心した。
殿下もオフィーリア様を連れ帰ってから、これまでの様子は何だったのかというほど、絶好調で、回復されてよかったと思っていたのだが、あのお方の絶好調がどんなものか、パーティで嫌というほど思い知らされた。おかしい。俺は当日のシナリオを知っていたはずなのに。やはり、俺には人間の細かい機微は理解できないのだな。しかし、あの日の殿下の様子、正直言うと俺はあの女に少し同情した。オフィーリア様が止めてくださってよかった。
サーラにも怖いものを見せてしまったな。すまない。オフィーリア様はさすがというか、あれも含めて殿下をお慕いしていらっしゃるのがすごい。尊敬する。あ、あくまで尊敬だ! 殿下には内緒にしてくれ。殿下は、ああ見えてものすごく嫉妬深いんだ。俺を重用して、オフィーリア様に近づかせてくださるのも俺にはサーラがいるからだと思う。
とにかく、全て無事に終わってよかった。
これから半年は殿下とオフィーリア様の婚礼の準備で大忙しだが、それが終わったら俺たちの番だ。
殿下の婚礼にはサーラも招待されるそうなので、準備も含めて二か月ほど前にはタウンハウスに来ておいてくれ。ドレスもなにも、俺が選ぶとサーラに恥をかかせそうなので、一緒に見てほしいのだ。子爵には、また改めて連絡する。
そろそろ寒くなってくるから体に気を付けてくれ。
春を楽しみにしている。
エリック
サーラ
結婚おめでとう。
サーラは私たちの式に来てくれたのに、行けなくてごめんなさい。式に参列できないのは残念だけど、社交シーズンが始まったら、会えるから我慢するわ。
エリックの休暇は本当は来週からだけれど、珍しくそわそわして殿下にからからかわれているわよ。休暇も溜まっているらしいし、一足先に新郎をお届けするわ。
どう? 驚いた?
サーラの幸せを誰より祈っているわ
オフィーリア