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トワイライト・ドラゴン 頭のおかしい王子様に心臓を人質にとられながら働かされてます  作者: リィズ・ブランディシュカ
第1章 女盗賊の出会い
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07 魔物



 逃走した不審者を見送ってから、致命的な状況に陥っている事に気が付いた。


 盗賊に逃げられた。

 これは、かなりまずい。

 しかも、一番重要なのが、宝を横取りされたという点。


 罪だけかぶって、放置されたあたしの身はかなりピンチだ。


 ザーフィスは、あたしが狙っていた宝と同じものを持っていってしまった。


 偶然、という線は考えにくい。


 あの依頼主、アタシ以外の奴にも同じ依頼よこしてたのだ。


 要するに、腕を信用されていなかったというわけだ。


(これじゃあ、何のためにここに来たんだよ)


 目当ての品物(王妃の証であるティアラ)を盗めなかったから、依頼金ももられないままだった。


 このまま取り逃がしすわけにはいかない。


 クラン(王子)に正体がばれたのもそうだし、苦労して王城に盗みに入ったというのに成果がゼロではタダ働きになってしまう。


 ザーフィスが逃げていった窓から身を乗り出して、外を眺める。

 目をこらすと、あいつは城の屋根を伝って移動している。


(今からでも追いつけるか? いや、追いつかねーと)


 焦りながら窓から外に出ようとしたのだが……、「ぅおい! こんな時にっ」つっかえた。


 何がって体がだよ。

 腰のあたりがぎゅっとしている。


(おい、窓枠。アタシはそんなに太ってねーぞ!)


 体をねじってなんとか出ようとしていると、背後から笑い声が上がった。


「ははは、そういうちょっとドジな所、とても可愛らしいと思うよ」


 こいつは一体この状況で何を言っているんだろうか。

 人をからかっている場合ではないだろうに。


「うるせぇ! おいこら! 言ってる場合か! 大事な宝なんだろ!」

「と、そうだね」


 じたばたしてたら、笑い声をあげたクランが脇とかひっこめたり、お尻とかを押してくれた。


(せくはら!)


 とか言ってる場合じゃない。

 急いで外に出ると、後からクランも追随してくる。

 クランはつっかえなかった。


(あたしは王子より、ガタイがでかいってのかよ)


 落ち込みたい気分だ。


 それはともかく。


「れっ、礼は言わねぇからな」


 あたしは、並走するクランにそう言っておく。

 王子に対する物言いではない。

 けれどクランは気にした様子はなかった。


「僕もあの盗賊を追いかけたい、手を組まないか?」

「何が目的だ」


 正直信じらえない気持ちだ。

 なんでそんな風に平然としていられるのか。


(あたしはお前の城に不法侵入した盗賊なんだぞ)


 宝だって盗むつもりだった。本気だったのだ。


「話は追いかけながら、だ。見失ってしまう」

「く……」


 クランの狙いは気になる。けれど、ザーフィスも見失えない。


 あたしはしぶしぶクランと共に、ザーフィスを追いかけることにした。


 建物の屋根の上を、気を付けながら疾走。


 のんきな事に、下であるいている見張りは何も気が付いていない。


 そんな連中の目をかいくぐりながら移動していくのはザーフィスも同じ。

 奴に追いつくのは、そんなに難しい事ではなかった。


「ザーフィス! その宝はあたしのもんだ!」


 けれど、あと一歩というところで邪魔が入ってしまった。


 クランが警告の声を発する。


「アメリア、危ない!」

「なっ」


 空から何かが近づいてくる気配がして、慌てて身をかがめる。


 何かが空を切る音がした。


 体を起こして、気配の主を探るとそこには大きな獣がいた。


 翼を持った飛行型の魔物ワイバーンだ。


 魔物っていう生物は、人の生活圏内には入ってこないはずだ。

 狂暴性はあるけれど、警戒心が強い生き物だというのに。


 ワイバーンはバサバサを音をたてて羽ばたき、ザーフィスに近づいていく。


 ザーフィスはそのワイバーンに飛び乗った。


 どうやらあの盗人が魔物を使役しているらしい。


 魔物は狂暴で人になつかない。

 人が使役するなんて難しいはずだ。


 それなのにザーフィスは簡単に魔物を操って、その場から離れていってしまう。


「まっ、待て!」


 慌てて走り夜も時すでに遅し。


 ワイバーンは空高く飛び立って、どこかへと飛んで行ってしまう所だった。


 逃げられた。


 あと一歩という所だったのに。


 しかし悔しさに歯噛みしている場合ではなかった。


「魔物が飛んでいる!」

「屋根に誰かいるぞ!」

「何者だ!」

「侵入者か!」


 ザーフィスが目立つ事したもんだから、こっちまでとばっちりを受けてしまっている。

 こちらの姿に気づいた見回りの兵士達が、騒いでいた。


「げっ、まずっ」


 この状況から逃げるのは至難の業だった。


 冷や汗を流していると、クランがあたしの手を掴んでいった。


「とりあえずここから逃げるのはまずい。皆に顔を見られている。いったん僕の部屋に戻らないか?」



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