08 シュザード・アルバイエンス
豪華な噴水とこれ見よがしに金の掛けられた花畑。
贅のつくされた庭園には、主の性格がにじみ出ている。
やたら過剰な装飾が施されたその庭は、嵐でもきたら大変な事になるだろう。
しかし、そんなことはきにせずとも良いのだ。
壊れたらまた直せばいい。
そのための金はあるのだから。
そんな考えが透けて見える。
「いけすかねー金持ち様の庭だな」
「あ、アメリアさん」
「わーってる、お口にチャックだろ」
ぼそっと呟いたらエルエリーデにたしなめられた。
へたれ貴族に注意されるくらいには、今の自分は不満げな声を出していたらしい。
しかし、ほどほどにするべきだ。
相手は一筋縄ではいかない。
いつも以上に慎重にいかなければならないのだから。
豪邸の中を通って、向かったのは客間の一つだ。
すでに来ていた貴族のお坊ちゃまたちが、下品な笑い声を上げながら騒いでいる。
「というわけでさ、その女に金をばらまいてやったってわけよ。そしたら這いつくばってかき集め始めたんだ」
「ははっ、みっともねー。俺だったらごめんだぜ」
想像以上に酷い会話だ。
心構えはしていたが、思わず眉間に皺が寄ってしまう。
だがそれはエルエリーデも同じらしい。
あたしは護衛らしく、三歩後ろを歩いているが、見つめる背中には心なしか怒気が感じられた。
いつも頼りなさげな足音も、若干重く聞こえる。
すると、あたし達の姿に気が付いたお坊っちゃまたちが声をかけてきた。
「よう、エルエリーデ。なんだよ、お前もきちんと来たんだな」
「と、当然だよ。ぼ、僕もメンバーなんだから」
嘲笑交じりの笑い声がその場に響く。
「まあ、分からなくねーよ。お前の立場を考えると、こういう息抜きできる場所が必要だもんな」
「そうだね」
エルエリーデの声は固い。
今、何を考えているんだろうか。
先ほどのトラブルが頭に焼き付いている。
余計なことをしなければ良いのだが。
「ちょっとお腹すいたから、何か食べたいな。朝抜いてきたんだ」
これ以上話をしたくないと思ったのか、エルエリーデはその家の使用人に頼んでサンドイッチを持ってくるようにお願いした。
あたしもその方が良いだろうなと思う。
あいつらと会話してても価値観が合わねーだろうし、余計な事をいってぼろを出したくない。
そのままエルエリーデは使用人が持ってきたサンドイッチを食べながら時間を過ごす。
他のお坊っちゃま達は、絡んできたのは最初だけで、あとは連中同士で会話に花を咲かせている。
屋敷にやってきてから十分ほど経った頃だろうか。
バッククロウドをまとめているリーダがその場に姿を現した。
「待たせて悪かったな。最近遊び歩いているだろって親父にしかられてたんだ。大目に見てくれ」
涼やかな声でそんな事を言いながら入ってきたその人物は、笑いながらこちらに歩いてくる。
整った顔立ちの青年だが、目つきが鋭い。
一瞬室内を見回すその眼光は、温室育ちのただの貴族のお坊ちゃまとは何か違った。
奴の名前はシュザード・アルバイエンス。
レトロクロニカでは名前の知れた有名一族の子息だ。




