06 レトロクロニカ
そういうわけで、後日。
変装したあたしは、その危ない連中がたむろしているアジトへ向かう。
一般人の服装で、乗り合いの馬車に乗り込む。
依頼人とは言質の町で集合だ。
あいつ、性格はあれだけど、育ちは良いからな。
細かな所作? つーのでばれるんだよ。
「なあ、聞いたか。例の話」
「変な薬が蔓延してるんだってな」
「大丈夫なんだろうな」
「気を付けてりゃ平気だって」
知人にでも会いに行くのか、男二人が不安そうな顔でひそひそ喋ってる。
しかしボリュームを絞っていても意味がなかった。
あたしらにはばっちり聞こえてる。
同じ目的地に向かうんだから、そういうのは聞こえないようにしてくれよな。
あたしはともかく、他の乗客が不安がってるじゃねーか。
「噂では何人も被害が出てるって。適当な店に入ってから薬を盛られたりしねーよな」
「心配しすぎたよ。そんなのあるわけないだろ」
こういう連中は裏社会では真っ先に死ぬな。
迂闊な事喋るし、周囲の空気読めないし。
むしろ生き残る理由がない。
あたしは内心でため息を吐いた。
馬車の窓から見える空は、憎らしいほど晴天だ。
雲一つないけど、綺麗だとは別に思わない。
馬車内の雰囲気以前に、そういうのはとっくの昔に考えなくなっちまったからな。
しいて思うなら、洗濯ものがすぐ乾きそう。ぐらいか。
竜ぐらいにのって、空飛び回るんだったら心躍りそうだけど。
「せんたくもの、かわきそう」
なんて思っていたらぼそっと喋る乗客がいた。
誰だと思って見回すけど、分からない。
あたしと似たような事考えてる奴がいたんだな。
ちょっと気が合いそうだ。
片道半日くらいだろうか。
ガタゴト馬車を走らせたあたしは、目的の町へ到着。
レトロクロニカという名前の町だ。
昔の建造物が多く残っていて、悪く言うと古臭い。
よく言うと情緒的な街並みが特徴。
観光名所にもなっているが、今は閑散としている。
季節的にあともう数か月経つと、目玉である赤い木が一斉に色づくのだが、今はその時じゃないからな。
あたしは青々とした葉っぱが茂る、木下を通り抜ける。
町にいる市民たちはみな普通だ。
きな臭い話を聞いていただけに、少しは陰鬱な空気になっているかと思ったが、そうでもないらしい。
普通に生きている人間にとっては、基本的には縁のない話なのだろう。
とりわけ運が悪い人間は例外として。
エリエリーデに言われた合流場所へ向かう。
噴水広場にたどり着くと、奴がまっていた。
市民に変装しているが、やはり雰囲気は貴族っぽい。
「きょ、今日はよろしくお願いします!」
しかも緊張しているのかかなりガチガチ。
こんなので、大丈夫なんだろうか。
ため息をついていたら、傍でトラブルが起きた。
走ってきた女の子が、噴水の前に建っていた男にぶつかったらしい。
「あ? 何すんだこのガキ!」
声を荒げて女の子を威圧している。
災難だし、見ていて気分が悪い。
だけど、ここで巻き込まれるわけにはいかなかった。
だれかが助けに入ってくれれば良いのだが。




