04 契約成立
周囲の目が少し気になりはじめた。
誰かに聞かれていたりしねーよな。
場所を移動するべきか。
見渡しても、こっちには興味の無さそうな荒れくれ者共しかいない。
今下手に動くのもあれだな。うん。
「僕の代わりにそこに来るはずの人は欠席みたいで、盗賊を連れてくる予定だったらしいです」
エルエリーデはあたしの内心を知ってか知らずが、喋り続ける。
「はーん、だからあたしに声をかけたってわけか」
「トラブルではぐれたって言い訳するのもさすがに二回目は通じないでしょうし」
「あのさ、一つ良いか。代わりの人間がきたらお前アウトじゃん?それはどうすんだよ」
「いえ、それは大丈夫です」
なんでだよ。
貴族のお坊ちゃまはわなわなと震えながら続ける。
「目の前で土砂崩れにあって死んでしまったからですよ。大岩に押しつぶされたので身元が分からない形で」
あたしは思わず絶句。
なんというか、運が良いのか悪いのか分からないな。
最悪じゃないだけマシって考えたほうが良いんだろうか……。
「お願いです! 連中が何かをしでかしている間。傍にいてくれるだけで良いので、ついでに何かあったら、ほんのちょっとだけ身を守ってくれるだけで良いので。引き受けてください」
「うーん」
正直断りたい。
ものすごくこの場から離れたい。
記憶も消去して、今日は何もせずにぐっすり眠りたい。
けれど、その場合こいつはどうする?
他の連中に泣きつくはずだ。
その相手が一発でオッケーすればよいけど、そうじゃなかった場合?
何度も他の人間に声を掛ける間に、きっと話が漏れる。
そしたら、こいつが間違って入ったバッグクロウドに、あたしの個人情報も洩れかねない。
人の口に戸は立てられない。
義理も何もない荒れくれ共なんて、簡単に話を広めちまうぞ。
声かけられた時点で引き受けるしかねーじゃねーか。
あたしは、ため息を吐きながら水を飲む。
「ったく、報酬たんまりもらうから覚悟しろよ」
「ありがとうござます!」
エルエリーデの臆病そうな顔を見て、あたしはこの先の事を考える。
このポンコツお坊ちゃまを守りながら、どうにか状況を切り抜けられるように考えないとな。
とりあえずその日は、いつも通り宿に泊まって就寝。
次の日から装備を整えることにした。
使ってる外套はもうそろそろほつれそうだし、短剣も刃こぼれしそうだ。
腰についているポーチなんて、ちょっと穴があいている。
だからいつも使ってる店の扉を叩いた。
「おーいおっちゃん、いつもの売ってくれ」
そこそこ質の良い武器を売ってる店だ。
強面のおっさん50歳がやってるところだけど、信用はできる。
「おう、アメリアの嬢ちゃん、久しぶりだな。またいつもの剣が必要か」
「ああ、きっちり用意してくれ」
裏世界で活躍してる連中が皆おっちゃんみたいな性格だったら良かったけど、そうはいかないよな。
おっちゃんが準備をしている間、あたしは店に飾られている武器を眺めて時間をつぶす。
メルド・ヒュイトレースの力作の剣が飾られていた。
新作の剣だ。
新しく作られたものだろう。
メルドの剣は切れ味抜群だけど、なかなかお高い。
あたしには縁がないものだ。
一度試し切りさせてもらった事があるが、それ以上を望むのは贅沢だ。
「はいよ。今度はどんな依頼か分からないが、気をつけてな」
「ありがとよ、おっちゃん」
頭を振りかぶって未練を払い落としたあたしは、料金を払って武器の店を出ていった。




