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トワイライト・ドラゴン 頭のおかしい王子様に心臓を人質にとられながら働かされてます  作者: リィズ・ブランディシュカ
第6章 準備終了

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04 心配





 クランの怪我は深かったけれど、城の医師達が優秀だったらしい。


 一週間後くらいに目を覚ましたクランは、割と元気そうにしていた。








 クランはあたしのせいで怪我をした。

 あたしが弱かったせいで。


 だからいけすけねー奴だけど、様子くらいは見にいってやらないといけない。


 お見舞いに行くと、クランが起きて本を読んでいた。

 手は動かせるから、たまにこいつはこうしてる。


 腹が動かせないから上体もまだ不自由なのに。


 近くのテーブルには紙束の山がある。

 

 これで書類仕事してるみたいだけど、どうやってやってるんだろう。


 近づくと、クランがこちらに視線を向ける。

 無表情な顔に心配げな色がまざった。


「元気なさそうだね」

「そんな事ねぇよ」

「そうかな。いつもより顔色が悪い」

「気のせいだ」


 部屋に入るなりクランはあたしの事を案じてきた。

 これでは立場が逆だ。


 なんだかむかむかする。


「飯は食ったのかよ? 食わねーと治るもんも治らねーぞ」

「そういえば、食べてないな」

「もしかして食べさせてくれるのかい?」

「そこまではしねー」


 ベッドの近くにある代に荷物を置いて、傍にある椅子に腰かける。

 あたしはお見舞いに持ってきた果物を、自前のナイフでさくっときり分けた。


「手際いいね」

「慣れてるからな」


 果物があると、いつもチビ達が早く早くと急かすからな。

 でも、適当にやるわけにはいかないから、大変だ。

 こういう甘い物は大抵譲られたり、腐る寸前の格安のやつを買ってきたりするもんで、そうなると状態があれなわけだ。


 腐ってるとこもあるから、きちんと切り分けてやらねーといけねーし。


「良いお嫁さんになれそうだ」

「ぶっ、何言ってんだ。こんな時に」


 こいつはいつでも変な事言わないと気がすまないのか。

 せっかく、今日くらいは親切にしてやろうと思って来たのに。


「あーんはしてくれないのかな?」

「するか馬鹿、口ん中ねじ込んでやろうか」

「アメリアならそれもご褒美だけどね」

「あ?」


 こんな時まで冗談を言うクランを睨みつけると、ごめんごめんと軽く謝られた。


「そういえば、前々から聞きたかったんだけどよ。お前、なんであたしなんかを竜騎士部隊に入れたんだ?」


 口の中で果物をしゃくしゃく言わせてるクランが、こちらを見つめながら小首をかしげる。


「君の事が気に入ってるから、だよ」


 そんなふんわりした回答求めてねぇよ。

 まさかそれだけってわけじゃねーだろ。


「わけわかんねー。何であたしなんだよ」


 さらに追及すれば、クランは少し考えるそぶりを見せる。


 口に出したのは、こっ恥ずかしくなるようなセリフだ。


「ふむ。なら……どんな逆境にあっても、負けない君に惹かれたから、かな」

「はぁ?」


 いや、めちゃくちゃ逆境にやられて暗殺者なんてもんやってたけど。

 こいつの目に映るあたしは、なんでそんなお綺麗な事になってんだか。


 クランはあたしの顔を見て微笑んだ。


 言葉を紡ぐその声音は優しい。


「君の事は一応調べさせてもらった。闇の仕事をしている時でも、無実の人は逃がしてあげているそうじゃないか」


 そんな事もあった気がするけど、だから何だというのだ。

 自分の仕事に言い訳なんてしないし、罪だっておかしている。


「だからなんだよ。あたしのやってる事が褒められた事じゃないってのは変わらないだろ。それにきちんと調べられなかった無実の罪の人とやらも、絶対いるだろーしな」

「それじゃ、僕もそうだよ。王子なんてやってると、切り捨てなくちゃならないものがたくさんあるんだ。綺麗事じゃやっていけないからね」


 金持ちってのは楽してるイメージ合ったけど、やっぱりこいつは苦労してるんだろうな。


 王子なのに、任務に同行してる事もあるし。


(まあ、そういう意味じゃおあいこって事なのか?)


 部隊にいる時のこいつは、素の自分のままでいられるんだろうか。


 そうだったらいいなと思った。


(あれだ、人として、だ。この心配な感情は、特別な感情とかじゃないぞ)


 自分の中で言い訳を考えていたら、話が進んでいたようだ。


「僕は弱いんだ。今でもこの仕事から逃げだそうと考えてしまう」


 ふと、クランがぽつりとつぶやいていた。

 思わず相手の顔を見てしまう。


 それはクランが吐いた弱音だったから。

 初めて聞いた本音だ。


「それでも、昔とある少女と約束したからね。良い王様になってこの国を良くするって」

「そうか。そいつは……」

「死んでしまったよ。色々あって」

「わりい」


 居心地が悪くなったから、そろそろこの部屋から出ようかと思った。

 そうしなかったのは、もっとクランの事を知りたいと思ったからだろうか。

 こいつが自分の事こんな話すのなんて、なかなかないしな。


「謝る事はない。ヒューズともその時の事で溝ができてしまった」

「でも、心配はしてただろ。戦ってた時」

「そうだったかな」

「そうだった。あたしは見てたぞ。喧嘩したってんなら、仲直りしろよ。ヒューズだって、お前と仲直りしてーんじゃねーの?」

「それは、いつかね」


 後まわしにすんなよ。

 そういうのずるずる後にしておくと、いつか取返しのつかない事になるぞ。

 って、人の命刈り取ってるあたしが言えるセリフじゃねーけど。


 話をして体力を使ったのか、クランは少しだけつらそうだった。


「もういく。疲れたんならしっかり休めよ、こんな時くらい仕事なんてしなくてもいいだろ」

「そうしたいのはやまやまだけどね」


 強引に布団でクランを隠す。

 抵抗しないって事は、やっぱり疲れてたんだろうか。


 少しだけ顔を出してから、目をつむって大人しくなった。


 眠った?

 のか?

 ふりじゃねーよな?


 近くの棚にドラゴンの置物があった。


 これ、確か病人の部屋にかざっておいていいもんじゃなかったよな。


 竜は不滅の象徴。

 変わらないという意味もある。


 だから怪我の回復を願うなら、置いておいちゃいけないんだが。


 王子の持ち物勝手に動かすのよくねーだろうしなあ。


 あ、近くにシェフィの手紙があった。


 元気になってくださいと書かれていた。


 そうか子供の贈り物はむげにはできないよな。


 一秒で事情を把握してしまうくらい、わかりやすい品物だな。


 どうせあのうるさい商人少女、クックあたりが変な事いって、買わせたんだろう。

 後で絞めておこう。


 クランは目を閉じたまま喋らない。

 寝てしまったんだろうか。


 王様になった時、この国で一番偉いのがあいつだとしたら。

 あいつを支えてやれるのは誰なんだろうな。


 なかなか本心を明かさなさそうだから、信頼できるやつがいればいんだけど。



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