異文書 其之六 帰る方法について
『さて、長々とこんなことを書いてきたのには理由がある。
非常に大きな理由。
本当ならば一番最初に君たちが知りたかったであろう情報。
帰る手段がない。
ええ、ないですとも。
探すのを諦めようが続けようが、寿命を迎える、
もしくは外的要因で死ぬやつしかいない。
諦めた方が大体は平穏に死ねる。
こんな世界でも平穏はあるもんだ。
君たちは今、もうこの世界から逃れられない。
便利なものは何もない。
冷蔵庫も、エアコンも、パソコンも、スマホも、テレビも。
ラジオは…あるかもしれん。
水道に関しては発達した都市ならば見られる、全世界で二十もないが。
だが未発展・未開拓の地域では道さえない。
食うものはどれもこれも安全でなく、水でさえ危険を冒さねばならない。
権力、都市、国家、組織、制度…そういったものは君たちを保護しない。
現代社会の利点のほぼ全てが取っ払われた場所だ。
治安なんて目を覆いたくなるような惨状の場所が殆ど。
ただしそこで、目を覆えば君は死ぬ。
それくらいに危険な場所だ。
場所それ自体が危険を発してる場合さえある。
異界、魔窟、魔宮、瘴気。
これらは最早この世界から切っても切れない、人類を脅かす何かだ。
そんな世界に今、君たちはいる。
だからという訳ではないが、君たちが今いる場所に、
「こちらの世界」に来てしまった者を集めるように努力している。
君たちがほんの少しでも長く生き残れるように、とね。
恐らくこれが浸透するまでは時間が掛かるだろう。
百年?二百年?
残念だがもっとか。
いや、その前に文明が滅ぶかもしれない。
だが少なくともこの機構が動く限りは君たちを確保し続けるつもりだ。
と言って君たちが今いる場所、図書館都市に甘えないでくれよ。
ここは俺の弟子の好意でそういう事の中心に使っていい、
となってるだけだ。
基本的には君たちは自分の力でこの大地を生き続けなければならない。
残酷かもしれないがそれが現実だ。
さて、色々言ったが括弧の多い、
長い文章を読むのにも飽きただろう。
締めの言葉と言うのも何だが一言送って、俺の忠告は終わりにする。
君たちに明日が「ありますように」。』
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共通語で何か書かれている
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私は一連の文章の中に大きなウソをいくつか書いた。
もし見つけられるならば見つけると良い。
だがそれを見つけるということは、君に死をもたらすかもしれない。
君に明日がありますように。