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頼もしい存在

「でもねヒルダ、私はもう心の準備は出来ているつもり。なのにニコライはそんなこと興味ありませんみたいな顔で優しくハグして自室に帰っていくのよ。これってやっぱり私に魅力がないからよね? だって夜はメイクも服も全然だし。考えてみれば私今まで派手か地味かの二択しかなかったから丁度良いというものが解らないの。ニコライにだって一途だという以外にも好みってものはあるでしょうし、それに近付けたいと思うのだけどこのタイミングで聞くのって結構露骨じゃない? 私あなたにセックスアピールがしたいんですって感じがいかにもで」


会えなかった時間を埋めるかのように捲し立てる私に、ヒルダがやや引き気味に半笑いの表情を見せる。

喋りすぎてしまったことに気付いて、途端に恥ずかしくなった。

乗り出していた身体をソファの背凭れに落ち着けて、コホンとひとつ咳ばらいをする。


困った時のヒルダ頼み。


情けない話だけれど、悩みすぎて頭がパンクしそうになるとついヒルダのところへ来てしまう。

もう二十歳だと言うのに、成長のなさが我がことながら嘆かわしい。


「いつも頼りっぱなしでごめんなさい」


項垂れて謝罪すると、ヒルダは「いやいいけどさ」と笑ってくれた。


友人と呼べる人たちはそれなりにいるけれど、こんな話を出来るのも真剣に聞いてくれるのも彼女だけだ。


「よっぽど鬱憤溜まってんだね、花嫁修業の」

「え? そんなことないわ。新しいことを学ぶのって好きだもの。つけてくださる教師の方達が一流で、何を質問しても全部答えていただけるから頼もしくて。でも、ヒルダに会えないのはとても寂しいわ」


入籍の準備期間も合わせて、ずっと忙しくしていたからヒルダに会うのは半年ぶりくらいだ。

悩みの有無に関わらず、会って話がしたいといつも思っていた。


ありがたいことに、今日は半日何も予定がないという非常に珍しい日だった。


ニコライは相変わらず大忙しで、自分だけ友人に会いに来るという後ろめたさはあったが、悩みすぎて爆発しそうだったから迷わずヒルダに連絡を取った。

彼女は二つ返事で予定を空けてくれて、私の話を茶化さず真面目に聞いてくれた。


「つかさ、それってただビビってるだけっしょ」

「でも心の準備はしたんだってば」

「じゃなくてそのおーじさまがさ」

「ニコライが? それはないと思うけど……女性との経験は何度もあるって言ってたもの」


思わず首を傾げてしまう。

いつだって私の悩みをズバッと解決してくれるヒルダが、なんとなく見当違いに思えるようなことを言って自信満々に笑う。


「絶対そうだって」

「そうかなぁ」

「そうそ。今まで尻の軽い女とばっかヤってたんでしょ? 初めての本命相手にどうしていいかわかんないんだよきっと」

「本命……」


ヒルダの口からはっきり言われてポッと頬が熱くなる。


ニコライは噂通りに誠実だ。それは近くで見ていてよく解った。


私をとても大切にしてくれるし、宣言通りに守ってくれるし、エスコートも当たり前にしてくれる。

公務で困るようなことがあってもさりげなくフォローしてくれるし、相手に私の印象が良くなるように話を広げてくれる。


なにより、そこかしこにいる綺麗な女性に意味ありげな視線を送るということが一度もない。

私にだけとろけるような笑みを浮かべてくれて、私にだけ熱い視線を向けてくれて、ともすれば他の女性には少し冷たい感じすら見受けられた。


「大丈夫。あんた絶対めちゃくちゃ愛されてるから。変に不安になることなんてないって」

「そうかしら……ヒルダって驚くほどポジティブよね」

「まーね。じゃなきゃビッチなんてやってらんないっしょ」

「そういうもの?」

「そういうもの。同時進行の極意よ」

「一人に絞ろうとは思わないの?」

「逆に絞る必要ある? みんなそれぞれいいところは違うのに」

「ふふ、ヒルダって相手のこと絶対悪く言わないよね」

「ええ? たまには言うよ。女殴るクソ野郎とか」


玉潰したくなるよね、と朗らかに笑いながら言う。

さすがに本気ではないと信じたい。


「とにかく、あっちがビビッてんならあんたから手ぇ出してみれば?」

「私から!?」

「ん。夜、ローズの部屋に来るんでしょ? 袖引っ張って上目遣いに「ヤろう」って言えばイチコロよ」

「言えるかしらそんなこと……」


ヒルダの提案に困惑する。

自分から誘うなんて発想は全くなかった。色気のない人間がしても効くものだろうか。

それに女からそんなことをするのははしたなく思われないだろうか。


「いやさすがにもちょっと色気あるセリフでね?」

「た、たとえば?」

「あたしが考えたセリフ言ったらそいつ絶対萎えるから。ローズが自分で考えんのよ」

「……わかった。がんばってみる」

「よく言った。女は度胸! もうお披露目の式典も近いんだし、一発キメて次期国王夫婦は仲良しで将来安泰ですって民衆に見せつけてやりな」


親指を人差し指と中指の付け根に挟んで下品なジェスチャーをしながら、ヒルダがニヤッと笑う。

つられて笑うと、意気込んで無駄に力んでしまった身体から力が抜けた。


あえてふざけることで元気づけてくれているのだとすぐに解った。


ヒルダに相談すると大抵の悩みは解決してしまう。


今も昔も、ヒルダは私のヒーローだ。

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