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番外編 ヒルダとエイリス ※R15

あたしをハメたクソ野郎が悠々と去っていく。

追いかけることは出来なかった。

エイリスに手首を掴まれていたから。


「……ヒルダ、今のは一体、どういう、」

「あー、ね。いやほらあれよ。あたしいろんな男と寝たけど、そういやエイリスとはまだじゃん? だからちょっと試してみたいなーって。でもそれだと幼馴染みの絆にヒビが入るかもしれないからさ。やっぱやーめたってなってたんだけど。ニコあいつ今めっちゃ浮かれてっからさ。試しに言ってみればっつって。馬鹿だよね。軽々しくそんなこと言えるかー、みたいな」


苦し紛れの言い訳が口をついて出る。

ニコライとの会話を、エイリスがどこから聞いていたのかなんて分からない。

だけどなんとか誤魔化して逃げ切りたかった。

だって今更だ。今更正面から向き合って、それで傷付くのなんてごめんだ。


「そう、なのか……」

「うん。なんか悪いねこんな話。あ、でも結局聞かれちゃったし、試しに遊んでみる? なんて」


馬鹿みたいにへらへらして笑い話にして、それで終わりにしてほしかった。


エイリスは散々いろんな女の子と寝ていても、あたしにだけは手を出してこなかった。

それはたぶん、ずっと一緒にいたから、姉みたいに思ってて、だからあたしと寝るなんて考えもしないし、気持ち悪いのだろう。

だからこんな馬鹿な誘い文句も呆れて苦笑しながら断ってくれるはずだ。


「いや」


エイリスの表情は真剣だった。

今まで見たこともないくらいに。


「もう遊びで寝るのはやめたんだ」


あ。

やばい。

泣きそう。


これってガチのやつじゃん。

遊びでは、ってことは、つまり本命が出来たってことでしょ?


なんだこれ。

なんだこの感じ。


足元がすこんと抜けて、真っ暗な中に落ちていくみたい。


「……あ、そー、なんだ?」


笑え。

笑え。

笑え。


「なに、好きな子でも出来ちゃったわけ?」


茶化すように言って、掴まれたままの手をぷらぷらと揺らす。


「……ああ」


エイリスが頷く。


なんだろう。

なんかすごく傷ついてる。


エイリスなんてもうどうでもいいって、ニコライに言ったばかりなのに。

割と本気で言ってたつもりだったのに。


エイリスが他の女の子たちと遊んでてももう嫉妬しないし、今まで寝た男たちのいろんなところをちゃんと本気で好きだった。


だけど今わかっちゃった。


エイリスが誰と寝ても本気にはなってなかったこと。だから嫉妬の必要がなかったこと。

好きだと思った男たちの、目も、唇も、鼻も。喋り方も、笑い方も、ひとつひとつが全部。

好きだと思った少しずつがエイリスに似ていて、まったくもってニコライの言う通りだったらしい。


なんだあいつ。

あたしのことよく見てんな。

大好きかよ。

いつかローズにフラれたら慰めてやろうかな。


そう思って、そんな日は絶対にこないなと気付いて笑いが漏れた。

笑顔は歪んだ。

涙が出そうだった。


「そか。おめ。良かったじゃん。だれ? とか、聞いてもい? ってうざいか。ごめん、」

「ヒルダがっ、」


上手く言葉をまとめられなくて、つらつらと思いついた言葉を並べるのをエイリスが遮った。手首を掴む力が強くなる。


「……ヒルダだけが、ずっと、好きだった。今も。ずっとだ。だから遊ぶのはもうやめた。逃げるのも。自信がなくてずっと言えなかった、けど」


ぽかんと口が開く。

エイリスの言うことが上手く頭に入ってこない。

こいつは何を言っているんだろう。


「好きなんだ。ヒルダは兄上を好きだから諦めたかったけど、どうしても諦められなかった。ずっと好きで、弟としか見られてないのは知ってたけど、好きなんだ」


苦しそうに吐き出す言葉は震えて、他の女の子の前ではいつもスカした顔をしているくせに今はなんだか泣きそうだ。


「……ヒルダが俺で遊びたいっていうなら喜んで付き合う。だけど俺が本気だってことは知っててほしい」


そう言って、力なく笑う。

手の力が緩んだ。

ゆっくり離れていく。


だから掴んだ。

その手を。


うまい言葉は何一つ出てこなかった。

だからただ抱き着いた。


駆け引きもなにもあったものじゃない。

だけど知ったことか。

ここにはあたしとエイリスしかいないのだから。




エイリスの部屋に入ってすぐにキスをした。

深く深く。

呼吸をする間も惜しんで。


お互い無言で、無言のまま急かすように服を脱がし合う。

いつまでもキスは終わらなくて、だからなかなか服を脱がせることが出来なかった。


こんなのはいつもと全然違う。


頭がドロドロに溶けそうで、息が苦しくて、ずっと胸が痛かった。


「ねぇ、どうしよう、しんじゃいそう」


男を喜ばせるための安っぽいリップサービス。

本気で言う日が来るなんて思ったこともなかった。


エイリスが笑う。

それはそれは嬉しそうに。


「うん。俺も死にそう。幸せで」


汗で髪が濡れていて、その必死さが可愛くて、嬉しくてその身体を抱きしめた。


「どうしよう。夢みたいだ」

「あはは、泣くなよぅ」


耳元でグズッと鼻を鳴らすエイリスに笑う。

だけど私の目からも大粒の涙が溢れた。



ローズに憧れていた。

可憐で素直で強い女の子。

信念を曲げず、流されることなく自分を貫いた。


あんなふうになりたかった。

なれなかったことを悔やんだ。

嫉妬した日もあったかもしれない。


だけど本当はただ眩しかった。


ローズ。

あたしの大切な幼馴染みを愛してくれてありがとう。

あんたの夫のお節介があたしのいじけた背中を押してくれた。


ごめん、今日はたぶんあんたのとこにはいけない。

だけどきっとニコライが上手いこと伝えてくれているだろう。


次に会った時はちゃんと話す。

たぶん。

恥ずかしくて上手く言えないかもだけど。


でもまぁ。

うん。


とにかくこれだけは伝えよう。


あたし、しあわせだ。


番外編も以上で完結となります。

最後までお付き合いいただき誠にありがとうございました。


もしよろしければ、評価ボタンを押していただけるととても嬉しいです。


R15投稿のため、アルファポリス版から性的表現を少し削りましたが、もしまだ過剰である場合はご指摘いただけますと助かります。

不慣れなため加減が分からずご迷惑をおかけします。


読んでくださった皆様に少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。


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