最低な初夜
貴族は火遊び至上主義。
いかにスマートに色恋沙汰をこなせるかが社交界におけるステイタス。
異性と寝た数が多ければ多いほど一目置かれる世界。
上手に遊ぶ人ほど人気が高い。
一途な人間は馬鹿にされがちで、スリルを伴う最高の遊びなのに臆病なのねと嗤われる。
そんな中、ひときわ派手なメイクと高い露出を武器に、狙った男は必ず落とすと噂される魔性の女。
それが私、ローズ・ウィリアムズだ。
私に関する噂はそこかしこから聞こえてくる。
貴族としての地位も高く、傾国と謳われるほどの美貌。
そして細身なのにバランスよく肉感的な肢体。
これらが男を虜にしてやまないのだそうだ。
誘われれば誰とでも寝るそこらの安い女とは違う。
気に入った男としか話をすることもない。
なんとか口説き落としてベッドまで持ち込んでも、少しでも気に食わなければ平気で寝室を追い出す。
高慢と言われようと、決して媚びない女。
それでも言い寄る男が後を絶たないのは、一夜でも共にすることが出来れば、それだけで男を上げると言われるからだ。
そんな高嶺の花である私が。
現在、ものすごい大ピンチに陥っていた。
* * *
新品の天蓋付きベッドに押し倒されて硬直する。
両腕を絡めとられ頭上に縫い留めるように押さえられて、身動きできない状態で必死に酸素を吸い込んだ。
私の上には白けた顔の、明らかにやる気のない男がいる。
「……全然好みじゃないから正直勃つ気しないんだけどさ」
顔と同じくらい白けた口調なのに、淀みない手つきで着実に私の服を脱がせていく。
その行動に迷いはない。
「まぁ最低限の務めは果たそうよ。お互いね」
情欲などひとかけらも感じない、冷めた目だった。
本当にただの義務で、気乗りしない行為だと思っているのだろう。
「子供さえ産んでくれたらあとは好きに遊んでいいから。あ、一応避妊だけは気を付けてね。よその種仕込まれたら色々面倒だからさ」
私の身体は、冷静でいようとする意思に反してブルブル震え出し、挙句の果てにはジワリと涙が滲み始めた。
「それくらいは理性働いてるか。なんせ百戦錬磨のローズ様だもんね。失敗して堕胎したなんて話も聞かないし、言われなくてもわかってるって?」
屈辱にではない。
単純に、恐怖からだ。
嘲笑交じりのひどい言葉も気にならないくらいに、私の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
胸ははだけて、裾はたくし上げられて、私の裸体は薄明かりの中に少しずつ晒されていく。
抵抗する気力は湧かなかった。
身体に力が入らないのだ。
そもそも女の力で、目の前の男に敵うわけもないのだけれど。
「ちゃっちゃと終わらそう。僕も君の好みじゃないだろうけど安心して、上手いらしいから。イかなかった女はいない。ま、それも全部演技かもしれないけど。女ってホント怖いよね」
肩を竦め、ため息を吐いて苦笑する。
面白い冗談でも言ったつもりなのかもしれない。
残念だけどこれっぽっちも笑えなかった。
彼は私が何も言わないのをどう思っているのか。
自分と同じように、気乗りしない行為に冷めているだけだとでも思っているのか。
怖いのはこの男だ。
聞いていた話と全然違う。
だけどそれは相手からしても同じ気持ちかもしれない。
だって魔性の女と名高いこの私、ローズ・ウィリアムズは。
――――紛うことなき、処女なのだから。