第5話
夕方とも夜とも言えない曖昧な時間。街灯がつき始め、人影もまばらになり、なんとなく薄気味わるく見える道も慣れてきた。
そーいえば卵の賞味期限がもうすぐくらいだなー。使っちゃうか。
今日の夕飯の献立を考えつつ、家路を急ぐ。
今日は愛徳と話せてよかったな。
現国が好きって勘違いされちゃったけど、きもいやつ扱いされなくてよかった。
やっぱ性格がいいんだよな。
愛徳はだれにでも分け隔てなく接するし、優しい性格にあの容姿だからとてもモテる。
よく呼び出しを受けているのを見る。それこそ毎日のように。
おれもあわよくば仲良くなれたらなんて夢もみるが、愛徳と話そうとすると緊張してまともに受け答えができなくなる。
色々な媒体を使い、対策を考えるが今のところ成果なし。
はぁ。どうしたら良いか。
思考に耽っていると家につく。
「ただいまー」
と言っても誰もいないのだが、なんとなく毎日言っている。
気分的な問題?今日が終わる為というか?
え、なに言っているかわからない?ほっといてくれ。
カバンを置いて制服をハンガーにかける。
スウェットに着替え、手洗いうがいをしたところで夕飯の支度にとりかかる。
時刻は20時。
たしか今日は親父も帰りは早いって言ってたからもうすぐ帰ってくるだろう。
今日はカニカマ卵あんかけチャーハンにしよう。
こういう時自分の体質には感謝する。なにせ一度レシピを見れば忘れることがないのだから。
二人分のチャーハンができたところで親父の分を冷蔵庫に入れるべきか考えていると
ちょうど玄関が開く。
「ただいまー。麗、帰っているか?」
「おかえり、親父。飯できているぞ。」
「おー、ありがとう!麗のご飯はおいしいから好きだぞー!なにせ母さんが作ったような味だからなー!」
「いいから早く着替えてきなよ。」
高城 勇、それが親父の名前だ。
身長はおれより若干高いので176-177cmくらいか。
今年で43歳になり、白髪まじりだが外見は家族のひいき目なしに見て整っている。
休みの日にはよく電話がかかってきているが、会社の人からも信頼されていそうだ。
親父が鼻歌まじりに着替えている間にビールを用意してやる。
高城 美沙
おふくろはおれが小学校6年の頃に病気で亡くなった。
すい臓がんだったらしい。当時のおれはどんな病気かもよくわからなかったから、
医学書を何冊も読みあさって勉強したが、そんなおれをあざ笑うかのように発覚から
3か月で逝ってしまった。
とても元気で優しい人だった。おれも親父も大好きだった。
だが何日も泣き崩れるおれとはひきかえ、親父の涙は見たことがなかった。
いつもおれを励まして、元気づけようとしてくれている親父にいらだっていた。
一度それで親父に八つ当たりをしにいった夜、
親父の部屋を開けようとしたら中から声を殺してすすり泣く音が聞こえた。
親父も傷ついていたんだ。ただおれを励ますことを考え、決しておれの前ではつらい顔を
見せなかっただけなことに気付いてからは良好な関係でいられていると思う。
「いただきます!」
「いただきます。」
二人でご飯を食べる。ちなみに親父は接待等外食がけっこう多かったりするから
一緒に食べれるのはそんなに多くない。
「麗、バスケは楽しいか?」
「そうだね。友達もおもしろいやつだし。楽しいよ。」
「そうかそうか。父さんも応援いくから公式戦あったら教えてくれよ?」
「はいはい。」
テレビには最近よく出ているお笑い芸人のトキが出ている。
めずらしく兄弟で漫才をやっているコンビで、おにいちゃんがツッコミなのだが、
やかましい。
「ところで麗、好きな子はできたか。」
ブッ
カニカマが出てしまったがテーブルに飛び散るでもなく、親父の皿に入ったのでセーフ。
「おまえはわかりやすいなぁ。素直に育ってくれて父さんうれしいよ。」
そう言いつつ自分の皿に入ったカニカマをおれの皿にうつす親父。
「できてないし。」
「そうか。相談があればいつでも聞いてこい。なにせ父さんは大学でも高嶺の花だった母さんを射止めたんだからな!」
「はいはい。その時はお願いするよ。好きな人できた時はね。」
「あぁ、できた時はな。」
たえずポーカーフェイスで無駄な抵抗を続けるおれに、親父はそれ以上その話題を広げることはなかった。
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