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海賊島の娘  作者: たつたろう
海賊島の終焉
7/14

小舟の上で

 フレイフレイは、ゆらゆらと揺れる小舟の上から、遠く聞こえる剣戟の音や、何かが燃え上がる火の光に意識を向けていた。


 小舟とはいっても、大人が10人ほど手を繋いで円を作れるほどの広さはあり、二人で10日程度はしのげる程の食糧と水が積んであった。

 侮られていた分、用意するのも容易かった、と元冒険者の男は呟くように言っていた。


 生まれてからずっと暮らした海賊島を離れながら、フレイフレイは運命の皮肉に思いを巡らせる。


 今、自らと小舟を共にしているのは母でもなく、手下の海賊でもなく、名前も知らない元冒険者の男だ。



 母は、どうなっただろうか。


 逃げることはできたのだろうか。

 つかまってしまっただろうか。


 それとも、戦いの果てに命を散らせてしまっただろうか。



 母を想い、強く、弱く、ゆらゆらと揺れる遠くの火を見つめていると、ふと、背後に気配を感じた。

 振り向いたフレイフレイが目にしたのは、剣を振りかぶり、今にも振り下ろそうとしている、男の姿だった。


「――――――――!」


 声にならない声を上げて、夢中で転がった。


 近くに置いてあった木箱にぶち当たり、中身がこぼれる。

 貴重な食糧だが、今はそれどころではない。


 男は容赦なく剣を振り下ろしてくる。

 フレイフレイは、剣を構えることも、立ち上がることもできず、必死で右に左に転げてかわし続けた。


「どう――してっ!」

「ハッ! 決まってんだろ。ここまでくれば、もう邪魔が入ることはねえ。てめえの親さえいなけりゃ、俺はこんなところに連れてこられることもなかったんだ。あんなバカどもになめられたり、ひでえ目に遭わされるようなことも、なあ!」


 男は、話しているうちに思い出したのか、剣に怒りが込められていく。


 フレイフレイは、力任せに振り下ろされる剣から逃れながら、段々と勢いがなくなってきていることに気付いた。

 生き延びるために必死なフレイフレイは、海賊に裏切られたこともあり、冷静に、もっとこの男を怒らせた方が良いと考えた。


 命を助けられた男にまで裏切られたショックは、既にない。


「それ――で、あたしを殺すの? アンタが斬り殺した3人だって、あたしを犯して、殺そうとした。

 母さんじゃ、なくて、あたし。分かって、るんでしょ?

 アンタは、母さんに、勝てっこない。だから、逃げてる。

 アンタだって、あの3人と、同じ!」

「うるっせえぞお! くそ生意気なガキが! ぶっ殺してやるああ!」


 一層激しく、男は攻め立ててくる。

 フレイフレイも無理に無理を重ねて避けているが、ここまでの逃走劇で疲れ切っていた。

 避け損ねた攻撃で、ひとつ、またひとつと、裂傷が刻まれていく。


(まだだ。まだ動けっ。あたしの身体!)


 フレイフレイは、もう過信していなかった。

 自分が手も足も出なかった海賊3人を、易々と斬り捨てたこの男に正面から向かっても、きっと勝てない。

 例え、逆上し、疲れを見せていたとしても。


「うらああああ!」


 今ではそこら中に転がっている食糧を、フレイフレイは手当たり次第投げつけた。


「うざってえんだよ!」


 男は、それらを剣や腕で弾きながら、距離を詰めてくる。


 フレイフレイは、破壊された木箱に気が付くと、手を痛めることも構わず、割れた板をひっつかんで、男に投げつけた。

 ザクッと音がして、男の頬が裂ける。


「この、アマ!」


 ブチ切れた男が、大きく一歩を踏み出してくる。


 よけられない!


 そう思ったフレイフレイは、目を大きく見開いて、男を睨みつけた。



 絶対に目を閉じたりしない。

 最後の最後まで戦い抜く。


 その強い意志が。

 冷静な挑発が。

 必死の抵抗が。


 チャンスを作った。



「うっ、お?」


 男が怒りに任せて踏み込んだ、その大きな一歩の足もとに、散々壊してまわった木箱から転がり出た果物が、落ちていた。


 それを踏みつぶした男は、バランスを崩して倒れかける。

 しかし、腐ってもCランクの男は、わずかな隙を作っただけで、持ち直した。


 だが。


 そのわずかな隙で、充分だった。

 目を閉じることなく、しっかりと見据えていたフレイフレイにとっては。


「うおおらああああっ!」


 勢い良く振り上げた剣はきれいな弧を描き、男の腹を下から斬り裂いていく。


「かっ……くっ、このお!」


 男は剣を振り下ろすが、フレイフレイは剣を手元に引き寄せ、渾身の力を込めて突進した。


「うぐぉっ。ぐっ! こ、こんな……」


 フレイフレイの剣は男を貫き、男の剣は、フレイフレイの背中を浅く傷つけるに留まった。

 男の身体から急速に力が抜け、だらりと垂れた手から剣が滑り落ちる。



 フレイフレイも、もう限界だった。

 そのまま男を押していく形で、前のめりに倒れていく。


 男は腹に剣を突き立てたまま仰向けに倒れ、フレイフレイは、その横に倒れ込む。


 そして、そのまま意識を失った。

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