元冒険者の助勢
フレイフレイに絶体絶命の危機が訪れた、まさにその時。
「楽しそうだなぁ。俺も混ぜてくれねえか?」
そういって現れたのは、元冒険者の男だった。
「なんだぁ? これからお楽しみって時によぉ」
「おい。お前ら、2人でさっさと片付けてこいよ」
「ちっ。しょうがねえなあ。そっちこそ、さっさと終わらせろよ。後がつかえてるんだからよお」
「わかってるって。順番、順番」
男は、フレイと同様に、船団の護衛をしていた冒険者だった。
捕らえられ、海賊島で雑役をして過ごしていた男は、侮られていた。
あっさりと、実にあっさりと、無力化された為であった。
では、その実力のほどは、どうだったかといえば。
ずぶり
「……え?」
「あーあ。思ったようにはうまく行かねえなあ。こう、『俺も混ぜてくれや』『ええで、ええで』『ゲヒャヒャヒャ、待ってろ、今、俺のぶっといので貫いてやるぜえ』『え、あれ? ぶっといのって、それ、剣、剣』『俺を貫いてどうすんだよぉ』みたいな展開をかんがえてたのによぉ。まさか最初からヌッコロムーブかましてくれるとはよぉ。これだから三下は使えねえぜ、なあ? と」
ヒュバッ
男は、誰にともなくぼやきながら、無造作に剣を抜き、呆然としていたもう一人も斬って捨てた。
「あ……あ……あああああああ~~~~~~~~!」
最初に『ぶっといの』で腹を貫かれた方も、ようやく自分の腹を見て状況を飲み込めたようで、悲鳴を上げている。
うるさそうに顔をしかめた男は、悲鳴を上げ続ける海賊を蹴りとばすと、残る最後の一人へと歩み寄りながら、語りかける。
「てめえら、さんざんこの俺を小馬鹿にしてくれやがってよお。そりゃあ確かに? 俺はこいつの親にあっという間にやられちまったさ。でもなあ、これでもCランクなんだぜ? 三下海賊なんざ、ものの数じゃねえってんだよ!」
「あ……あひぃっ……たす……たす……たすけふぇっ」
最後に残った一人も、命乞いの言葉を言い切る前に喉を斬り裂かれ、血だまりに沈んだ。
男は、蹴転がした海賊の死体から服を破り取ると、剣の血を拭った。
「さて、と。俺はこのまま救出されるのを待ってもいいんだが。
頭の娘。お前の方は討伐隊に見つかったらどうなるか分かんねえし、海賊共も、はっきりいって信用ならねえ」
フレイフレイは、ボロボロになった身体に力を入れ、必死で立ち上がろうとしていた。
その間も、男はフレイフレイに向けて語り続ける。
語り続けながら、海賊の死体を漁り、金目の物を回収していく。
「そこでな。俺についてこい。俺も死んだことにして、このどさくさに紛れて逃げちまおうと思ってな。入り江に小舟を隠してある。討伐隊の船からは見えねえし。討伐隊はでっけぇ船を先に押さえに行く筈だからな」
言うだけ言うと、男はフレイフレイに背を向けて進み始めた。
討伐隊に捕まれば、海賊の一味として処刑されるか、良くて慰みものだろう。
男の言う通り、もはや、海賊も信用できない。
母と合流できれば何とかなるかも知れないが、おそらくそれは望み薄だろう。
男は、フレイフレイに振り返らず、どんどん進んでいく。
決断するしかない。
フレイフレイはよろよろと立ち上がると、足を引きずりながら、男の後をついていった。