プロローグ ニューゲーム
ここからネタ要素全開!
『力が……欲しいか』
どこかで聞いた事のあるセリフを誰かが語りかけてくる。
(誰だ……?)
『力が……欲しいか』
(全てが終わった私に力があったって意味無いし……)
そこまで思考した所で、自分が死んだにも関わらず考えることが出来ていることに気づいた。
私は…死んでいない? 生きている? あの凶悪な兵器を2発も食らったのに? しかし、目を開けることも出来ないし、体を動かすことも出来ない。
『新しい人生を…歩みたく無いのか』
新しい人生? そりゃあそんなもんあったら良いけどさ。もう遅いよ。罪を償いたくても償えないよ。
『良かろう。其方に人生、それに力を与えよう』
人生も力もくれるって? 故郷も、大切な人も守れなかった私に?
『せいぜい楽しませてくれよ…私の世界もつまらなくなってきた物だからな……』
私の世界? 何言ってるんだ?
途端に私は謎の浮遊感に包まれた。
心地よい風が私の体を吹き抜けた。それがまた私に眠気を催させる……が、
え? 私は生きてるのか? あの謎の声が言った通りの新しい人生?
そう思って私は体を動かそうとした。起き上がる。立ち上がる。両腕をあげる。右脚をあげる。そして左脚も……
転んだ。そりゃあもう盛大に尻もちをついた。
いやいや、両脚を同時にあげられるわけ無いでしょっ! とまあこんなアホなことをやる必要は決して無かったのだが、取り敢えず私が生きていて、自由に体を動かせることは確認できた。
次は周りの確認をする。首を動かして周りを見渡してみる。
12時方向……地平線までずっと草原。
1時方向……地平線までずっと草原。
2時方向……地平線までずっと草原。
3時方向……地平線までずっと草原
………この辺りで嫌な予感がしたので、恐る恐る後ろを振り向いてみる。
見渡す限り全て草原。そりゃあもう見事なまでに草生えてますよ。これが本当の大草原不可避。
「いやいや、全く笑えないわ! 初っ端から詰んでるじゃん!」
私の一人ノリツッコミの声は虚しく大空へ消えていった。
ん? 待って、なんか私若返ってね? 慢性的に悩まされた肩のコリも、体の怠さも、腰痛も無い。そして何より、声の周波数がここに来る前と比べるべくも無いくらい高い。さっきまでダンディーなおじ様の声だったんだけど。
「誰か説明おなしゃすッ!」
『私がお答えしましょう!』
「うわあああああああああああ!」
人っ子一人いない草原のど真ん中で寂しくボケた私に、耳元で返事されるとかそりゃあ驚くわ! タンスの角に足の小指をぶつけた時と同じくらい衝撃的な出来事だわ!
『えっと……なんか、ここに来る前の性格と今の性格、めっちゃ変わってません?』
「逆に聞くけど、ダンディーな研究者のおじ様が、他人の目があるところで一人ノリツッコミしてたらどう思う?」
『………』
「ちょ、沈黙で返されるとか傷つくわー。まあ、話を振ったのは私なんだけど」
『あの、そろそろ本題に……』
あ、そうだった。危うく話が脱線するところだった。もう脱線してるじゃん!とか言うツッコミは無しで。
『まずは私の自己紹介です。私は神によって作られた知的存在で、あなたの補助をするように、と主命を受けております。名前は無いのでお好きにお呼びください』
「これはご丁寧にありがとうございます。えっと、私の名前は……私の名前は……名前は……」
あれ、私の名前ってなんだっけ。え、ボケた? 私ボケた? 独りでボケかましてたら頭までボケた?
『あの、名前を思い出せないのは、あなたがボケた訳ではなく我が神がそれに関する記憶を消したからです。ニューゲームなんだからキャラクターの使い回しは良くないだの、意味のわからないことを言って……』
「………」
そうね。ドラ〇エにファイ〇ルファンタジーのキャラが出るのは良くないもんね。……ってそういうことじゃないわ! 名前が無かったら他の人と交流を持つことさえ出来ないわ! あれか、「吾輩は人である。名前はまだ無い」とでも言えば良いのか? いやいやいや、初対面の人にそれ言ったら変人だと思われるわ!
『えっと、名前は自分でつければ良いのではと考えます。この世界に戸籍なんて概念は無いので自分でつけても問題ないかと……』
「おお! なるほどそれは名案! でかしたぞアドバイス君!」
『あ、アドバイス君……』
「そう! 君の名は今日からアドバイス君だ! 耳元でアドバイスしてくれるからね! よろしく! さて、私の名前はどうしようか……」
何やら愕然としているアドバイス君だが、異論は認めない! そんなことよりも私の名前だ!
『ヒトリノリツッコミちゃんとかどうでしょうか? 一人ノリツッコミばかりしてるので』
失礼な! 私だってTPOは弁えてノリツッコミしてるよ!
『じゃあ、ボケロウジンとかどうでしょう?』
「もはやただの悪口ッ! ヒトリノリツッコミもボケロウジンも名前でさえない! そ、そんなに罵倒されたってアドバイス君の名前は変えないよ!」
『それを言ったらアドバイス君も名前でさえないのですが』
諦めたような声音で呟くアドバイス君。
「真剣に考えて私の名前どうしよう……」
私はよくネーミングセンス皆無って言われるからなあ。自分が一生涯使っていく名前を変なものにはしたくない。何かの単語から取るのはどうだろう。
私の特徴的な何かから取るのが1番無難だろうか。うーん、ダンディーで、天才的な、研究者。全部合わせてダンディージニアスリサーチャー。
無いわー。この名前は絶対無いわー。他人から見たら自画自賛してるただのオッサンじゃん。
「やばい、このままじゃ名前考えるだけで人生が終わるよ! アドバイス君何か真面目ないい案は無い?」
『私としては出来るだけ恥ずかしい名前をあなたに付けたいのですが……まあいいです。『ファイス』という名はどうでしょう?』
「ほほう、その名前の由来は?」
『信仰、信用、信義という意味のある“faith”という単語と、犠牲という意味のある “sacrifice”の末端の発音から取りました』
「faithはともかく、犠牲ねえ……」
研究で故郷を犠牲にした私を揶揄してるのか? なかなか辛辣な奴だな……
「まあいい! じゃあそれで決まりだ! 私は今日から『ファイス』だ!」
名前を決めるのに思ったよりも手間取ったな。というか他の説明をチャチャッと終わらせないと日がくれるぞ。
『では、名前もお決まりになったようですので、説明を続けますね』
アドバイス君の言葉に私は頷く。私の姿が見えているのかどうかは知らないが。
『まず、あなたの体は我が神が自ら作りました。驚異的な身体能力、他の生物を凌駕する魔術的才能、そして常人を遥かに超える思考能力。これらをどう活かすかはあなた次第ですが……』
「身体能力と思考能力は理解できるが、魔術的才能というのは? よくあるRPGゲームの魔法みたいな奴?」
『大まかにはそうですね。ただ、それらよりもかなり自由度が高いですね。誰かに師事して習うもいいし、自分で新たな物を生み出してもいい。簡単に言うと、強い思念によって物事を実現させる力と思って貰って構いません。』
何それすごい! 魔法が使える世界とか神ですか。魔法使うまでは絶対に死なんぞ! 誰しもが1度は夢見る魔法使いになれるんだぞ! 後で試してみるか。
「その他の細かな変更点としては、年齢や性別が変わりました。それに合わせて体が作り替えられましたので、早急に慣れておくことを推奨します」
いや、それ「細かな」変更点じゃないよね!? 年齢も性別も変わるとかもはや別人でしょそれ! というか年齢はともかく性別まで変える必要ある!? 無いよね!? 必要性皆無じゃん!?
『今のお姿をご覧になりますか?』
「……うん、お願い………」
すると、目の前に突然全身を写せる程の大きさの鏡が現れる。
ガクッ。私は膝から崩れ落ちた。
「……ねえ、この体って絶対『神』とかいう私の体を作った人の好みが多分に入ってるよね?」
『………』
沈黙。沈黙するってことは肯定してるんでしょ?
はぁ。
いやね、さっきまでダンディーなおじ様だったのに、いきなり銀髪美少女になってたら誰でもこんな反応すると思うんだ。
一人ノリツッコミする中身おっさんの銀髪美少女とか……属性詰め込みすぎだろッ! ブラックホール並に属性の密度が濃いわ! ただのネタキャラやん! どないしてくれんねん! この姿で一生を過ごすんやで!
はぁ。もうね、ここまで来るともう呆れるしかないわ。
「取り敢えず寝床と食事を探さないとジ・エンドなんだけど……」
『それでしたら、北へ20km離れた場所に人間の街がありますのでそこへ行ったらどうですか?』
「よし、そこへ行こう!」
私は意気揚々と歩き出す。
『あ、この世界には『魔物』という動物より遥かに危険な生物がいますのでご注意ください』
「それを1番最初に言えよ!! なんの対策も無しに歩いてたら死ぬわッッッ!!!」