エピローグ 終焉
発展した文明。進歩した科学。徹底した機械制御による人間たちの負担軽減。その3つはとても聞こえのいい言葉であり、事実、人々を幸せにさせるものであった。
……それが軍事の類の物事に使われるわけで無ければ。
人員の損耗の憂いなく送り込まれる、大量生産された無人兵器。一瞬で多くの人々を死に至らす大量破壊兵器。……そして、それらを敵地へ一瞬で送り込める転移装置。
最初の2つだけであれば、まだマシな部類であった。だが、最後の物を組み合わせると、文字通り世界が崩壊した。
* * *
「そう…ですか」
そう呟いた、無表情の壮年の男性が1人。
「よくやった、博士! お前の開発したものは我が国に更なる栄光をもたらすであろう!」
彼と話しているのは、軍の上層部に所属している人間であった。無表情な彼と違い、この軍人は喜びを噛み締め、緩みきった表情を無理やり引き締めようとして失敗していた。つまり、軍人はかなりニヤニヤとした表情をしているのである。
だが、「博士」と呼ばれた彼は、この軍人の喜びが祖国への愛国心から出た物では無いことを知っていたし、博士自身も消して喜んではいなかった。
「少将……私は、私は! 軍事利用をするなと何度も言いました! それなのに、何故……!」
激情を噛み締めるように一言一句怒りを込めて話す博士。
「それに…あなた達が攻め入った国は、私の故郷…! 私が望んだのはこんなものでは無い! 私が開発した「空間操作装置」は、人々の移動をより手軽にするための転移装置…! それなのに、何故こんなことを……」
絶望と無力感に苛まれ、尻すぼみになっていく博士の言葉。
「……やれ」
突然、軍人が今までの喜びようとは程遠い、冷酷な声で告げた。
ヒュン。
何かが空気を切る音が部屋の中に響いた。そして、次の瞬間には博士が床に倒れ伏していた。腹から大量の血を流しながら。
「くっ…何故、だ……!」
消え入りそうな声になりながらも、博士が言う。
「何故かって? もちろん、貴様の役目が終わったからだよ。こうなる運命は貴様がこの研究所に来た時から決まっていた。せいぜい貴様の運命を呪うんだな」
博士は答えなかった。出血の為か、怒りの為かは分からないが、彼の命は長くないということは確実だった。
(全ては私の責任…。私の技術を軍事に転用されることも薄々勘づいていた。だが、私は脅しに屈し、研究を止めることが出来なかった。いや、そもそもこの国の研究所に所属したのが間違いだった。故郷の研究所よりも高度な機材があるという甘言に惑わされなければ……)
そんな思考をした所で、状況が好転するわけではない。過去に戻れるわけでも無い。
そして、2発目の、確実に彼を死に至らしめる銃弾が襲いかかる。
(故郷を救うどころか、滅ぼしてしまうとは… 大切な故郷を、大切な人さえも守れなかった。私に力があれば… もう一度、違う人生を歩めれば…!)
急所を確実に狙って飛来した弾は彼の脳をぐちゃぐちゃにした。