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報酬血液

 姉はよく僕に血を飲ませてくれた。

 血を出すことは好きだが血を見るのが嫌いだった姉は、僕に血を飲ませることで欲求を満たしつつ、血を見ないようにしていた。

 僕は最初血を飲むことが好きではなかったが、姉の喜ぶ顔を見ていると徐々にそれが嬉しくなってしまって、しいては、血を飲むことが好きになってしまった。

 毎日血を飲む生活をしていた矢先、僕は修学旅行に行くことになった。

 血を飲めなくなるのは少し嫌だったが、修学旅行ができる日はもう来ない、ということで修学旅行へ行くことにした。

 帰ってくるやいなや、姉の死体があることに気づいた。姉の傍らには血が入った500mLのペットボトルが2本あった。

 多分出血による死であることがわかった。

 僕がいないばかりに、満足ができなかった姉は血液を出し続けて亡くなってしまったのだと思う。

 血液がもう飲めないということがわかると、とても悲しい気持ちになった。

 ただ、ペットボトルの他に、一つ紙を見つけた。姉が血液で書いた文字だろう。

「お願い。血液で私の遺書を書いて」

 なるほど、書道を習ってる僕に書いてもらうことで自分の最後を美しく表現してくれ、ということなのだろう。

 そう考えながらペットボトルの血を飲んでいると全部空になってしまった。

 しまった、と思った。昔からこういう悪い癖があるのだ。目の前のことに夢中になって失敗をしてしまう。反省したが、やはり血は美味しかった。

 さて、残り1本になったペットボトルで何が出来るか。

 何を書こうか、と迷う。いつも習字では書くべきものが決まっているので、こうして自由に言葉を書いていい状況で何を書けばいいのかわからないのだ。

 そう考えながらペットボトルの血を飲んでいると全部空になってしまった。

 しまった、と思った。昔からこういう悪い癖があるのだ。目の前のことに夢中になって失敗をしてしまう。反省したが、やはり血は美味しかった。

 焦った僕はすぐに半紙を買ってきた。

 いつもの書道の道具を用意する。(すずり)の上に乗った血液が甚だ妖しく、見とれていた。

 血液が筆にまとわりつく。ここで、血液がそう簡単に落ちないことを思い出して、いつもの書道の道具を使ってはいけなかったんじゃないかと思ったがもう遅かった。いや、血液に浸れるのだから筆も本望だろうか。

 とりあえず、半紙に1+1=2と血液で書いてみた。書道の世界で血液で数式が書かれたものを見たことがないため、唯一無二という感じが出ていてとても良い。

 書いたものは新聞紙の上に置いておく。血液は墨よりも乾くのが早いと言っても、少しは垂れてしまうものだろう。作品が壊れないように優しく置く。

 次に、思い出したように姉の感謝が出てきたので、ありがとうと書いてみた。まるで美味しそうな字だった。

 次に、さようならと書いた。姉がこの状況を作ってくれたのだから、一応思っていなくてもこういう面白くない労いをかけるべきだと思ったのだ。

 さて、ここからは好き勝手に書こう。

「奴隷娼婦」「多数派の圧力」「東ティモール」「戦争とは何か」

 この4枚を書いたところで血液がなくなった。正確には、またも血液を飲みながら書いていたので、本当はもっと書けたのだろう。

 ただ、これで満足できなかった僕は、いつも姉が使っていた注射器を取りだし、姉から血液を入手することにした。注射器で血液を取っては硯に入れる作業をした。

「欲望の醜さ」「死体の入口」「洗脳は弱さ」「処女膜」「刺繍」「テレゴニー」

 色々な言葉を書いた。それは半紙を50枚全て描ききってしまうほど。とても楽しかった。新聞紙の数も4枚まで至った。

 血液で血の文字を書くことは初めてだったが、墨で書くよりもこんなに美しいのかと思った、まるで飲みたくなるほど、いや邪念は断ち切ろう。邪念を抜きでも美しかった。この文字が僕の筆で、僕の手で書かれているものとは到底思えないほどの衝撃や妖艶さや作品性があった。

 ここで、あることに気づいた。この作品たちには名前が無い、と。書道の世界では、名前を書くのが当たり前になっている。ただ、ここに名前を載せることがふさわしくないと思った僕は、空いた空白に遺書と書入れることにした。

 改めて、遺書と書く場所に名前を書くため、血液を姉から注射器で回収する。人は死んでも血液は意外と残っているものらしい。

 そして50枚の全てに遺書、と書入れる。ゲシュタルト崩壊をしそうになったが、姉の最後の作品のために、間違いがないよう必死で書いた。

 そして全てが終わった。とても素晴らしい作品になったと自負している。乾いた50枚の遺書を姉の死体の周りに置いておくととても壮観だった。これが本当の作品なのか、そう思った。

 そして最後に、注射器で姉の血液を吸い取って自分の口の中に入れる。頑張ったあとの血液は格別に美味しかった。


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