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5、監査官にあばかれる秘密


 この世界の魔法とは、魔力を媒体として自身のイメージした現象を起こすものと、神や精霊に願って引き起こすものがある。

 俺には魔力はないが、精霊を視たり、彼らの言葉を聴くことができるのだ。


「はぁ……デューク様のように精霊使いであれば、お役に立てますのに」


「バスチアンは役に立ちすぎているくらいだぞ」


「そ、そうですか」


 珍しく照れているバスチアンに癒されてながらも、俺はやれやれとため息を吐く。

 この国だけではなく、精霊使いを生業にしている者は少ない。というよりも、むしろ精霊魔法は役に立たないと思われている。

 精霊はとても気まぐれで、視える者が呼びかけてもほとんど応じることがないのだ。

 かくいう俺も精霊使いの素質があったものの、ずっと剣の腕ばかり鍛えていた。だがしかし、ある日俺は気がついた。


 風の精霊なら早く流れているのもあれば、ゆっくり流れるのもいるということを。

 火の精霊なら激しく燃えているのもあれば、小さく灯っているのもいるということを。


 自分の意思と彼らの意思が重なった時、精霊魔法を成功させることができたのだ。


「まぁ、精霊魔法を使いこなせるようになるまで十年はかかったけどな……誰も教えてくれないし……」


「デューク様の使い方は特殊すぎますからね」


 これもたぶん前世で、社畜スキルひとつである『中間管理職』を経験していたおかげだろう。

 精霊と起こしたい現象の間に立つのが自分なのだから、その認識で動けばいいだけだ。

 ほら、今も俺のことを興味深々で見ている風の精霊がいる。


「何が知りたい?」


『ソレ、オイシイ?』


「飲ませてあげようか。名前はどうする?」


『ホシイ、チョウダイ』


「そうか……香風かふうにしよう」


『ウレシイ、アリガトウ』


 ふわりと半透明の少女が現れるが、慣れているバスチアンは特に驚くこともなく新しいお茶をいれてくれる。自分に興味を示してくれる精霊は名前を欲しがり、与えると人や動物の姿になって手助けしてくれる存在となる。

 この子は紅茶が好きみたいだから、次に願いがあって呼び出すときに用意しておけば喜んで手伝ってくれるだろう。


「願ってもいいか? 彼女を数日、守ってやってくれ」


『イイヨ。アト、コレモホシイ』


「全部持っていくといい」


『アリガトウ。ガンバルネ』


 茶菓子として置いてあったクッキーと少女の姿が消え、バスチアンが新しいお茶と茶菓子を用意してくれた。


「過保護ですね」


「何とでも言ってくれ」


 風で煽られた自分の髪を整えた俺は、誤魔化すようにまだ熱い茶を勢いよくすすり、むせた。








 ここが『小説の世界』だとカオリが知ったのは、召喚された直後のことだった。

 大神官と名乗る老人から「偉大なるゲススギール帝国に、よくぞ参った異界の者たちよ!」という、物語序盤で全読者の腹筋が崩壊したという、一度聞いたら忘れられない国名を言われたからだ。


「ゲススギールって、もう、笑いをこらえるのに必死だったわ」


「カオリ姉さんが小説を読んでいてくれたのは助かったけど、一人でずっと小刻みに震えているんだもん。泣いてるのかと思って心配したのに」


「ふふ、ごめんごめん」


 ちなみに現在カオリたちがいるのは、セルリア王国という至極真っ当な名前の国にいる。

 小説にあった地図を思い出したカオリは、国境近くにあるダンジョンをなんとか見つけ出し、一応物語どおりには進んでいるだろうと考える。

 細かいことは思い出せないが、小説では主人公が領主である辺境伯の後ろ盾を得て、そこからダンジョンで金を稼ぐことになっているはずだ。不安だらけだが、今はとにかくダンジョンの探索をやるしかない。

 まさか会社の先輩から紹介された小説の世界に転移するとは……と、カオリはしみじみ思っていた。先輩が聞いたらきっと羨ましがることだろうと。

 そこまで考えた彼女は、ふと表情を暗くする。


「先輩……一緒にいないってことは、やっぱり事故に……」


「姉さん、そこは考えないほうがいいよ」


 カオリが事故にあう直前、通りの向こう側にカイトとユウコがいた。

 会社の先輩に庇われたカオリは、ちょうどカイトたちのいるほうに突き飛ばされ、その瞬間強い光と共に魔法陣が現れたのだ。


「神様から特別な力をもらえたのは良かったけど、先輩がどうなったのかは教えてもらえなかった……」


「大丈夫だよ姉さん、頑張って元の世界に帰ることを考えよう。その時に、何かできるかもしれない」


 異世界に来てから身体能力や体力も上がり、今までなかった魔力というものを得ることができた。

 この世界に来る前に会った神と名乗る存在は、異世界から人を召喚する禁術を使われたことを管理不足だと謝罪した。元の世界に帰すことはできないが、いくつかの力を与えてくれる。そして、この世界を探せば戻る方法はあると教えてくれた。


「そうだねカイト。今は自分たちに出来ることをやっていくしかないよね」


「がんばろう姉さん」


 ダンジョンへ向かうため、森の中を進むカオリたちは息ひとつ切らしていない。

 後ろで気配を消しているバスチアンの部下たちは、驚きながらも彼らに遅れることなくついて行った。







 水の精霊から冷水をもらって舌を冷やしていると、さっそく王都から監査官がやってきた。

 思ったよりも早い。

 もしかしたら、有事にしか使えない転移の魔道具を持っているのかもしれない。


 玄関まで出迎えに行けば、ちょうど馬から降りる細身の男性が見える。

 金髪碧眼のイケメンだ。うちのバスチアンもイケメンだが、茶髪碧眼だから一見地味に見えるんだよな。本人は地味なわけじゃなく俺の銀髪が目立つだけだって言い張るんだけど。


 馬車ではなく馬を使ったということは、文官ではなく騎士なのかもしれない。腰には剣を下げているが、目立たないようにするためか紋などは入っていなかった。


「はじめまして、王都から監査官として参りました、近衛騎士のアレク・ガートランドと申します。アレクと呼んでください」


「デューク・ウェスターだ。遠路はるばるよく来てくれた。アレク殿は、もしやアルドルフ・ガートランド将軍の?」


「はい。ガートランド家の次男です。父からはウェスター辺境伯の逸話を多く聞いておりまして、お会いできるのを楽しみにしておりました」


「父君とは国境の魔獣討伐戦で共に戦った仲ではあるが、逸話というのは?」


「荒くれ者たちの集う傭兵団をひと声で黙らせ、皆が恐れる魔獣に単独で飛び込んで行ったとか……」


「ははは、アレク殿の父君は大げさだな」


 バスチアンの視線が痛い。

 目立たないように動いていたつもりだったが、さすがに隣にいた将軍は誤魔化せなかったらしい。うう、こんな風にバラされるとは……よりにもよってバスチアンに……。


「何か理由があったのだろうと、これは自分と父しか知らないこととなってまして……あっ」




 お気づきだろうか……。

 俺の隣で冷気をまとった執事バスチアンがいる、ということを……。



お読みいただき、ありがとうございます!


次回の更新は少し後になりそうです。

毎度、不定期ですみません。

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