3、主人公に会え……た?
結果で言えば、主人公のカイトたちは領内にある小さな村にいた。
召喚された国から飛び出し、まずは資金づくりだとハンターギルドで薬草採取を主に行なっていたらしい。
一緒にいたのはヒロインであるカイトの幼なじみの女の子と、彼の姉で……姉……だと?
「はじめまして、矢野カイト……カイト・ヤノです」
「友人のユウコ・ハネダです」
「カイトの姉のカオリ・ヤノです」
この国では珍しい日本人特有の黒髪黒目、クリーム色の肌をした三人は俺の前でぺこりと頭を下げた。
カイトはいかにも「ラノベの男子高校生主人公」といった風貌で、ユウコはゆるふわセミロングで低身長。カオリはショートボブで、日本人にしては背が高く前世の俺くらいの身長だ。
やや冷たい空気を出すバスチアンを目で制し、俺は『辺境伯』として彼らと向き合う。
「よく来てくれた。私はこの領地の領主をしている、デューク・ウェスターだ。館で何かあれば執事のバスチアンに声をかけてくれ」
「え? セバスチャン?」
「いいえ、バスチアンと申します。お客様」
思わずといった様子で呟いたユウコに対し、秒でバスチアンが切り返している。
おい。それくらいでピリピリするなよ。俺だって初めてお前の名前を聞いた時に「セバスって呼びたかったのに」とか言ったぞ。その頃はまだ前世の記憶がもどってなかったのに「執事といえばセバスチャン」って謎の思い込みがあったなぁ。
それにしても、主人公たちに対してバスチアンが冷たい感じがする。どうした? 嫉妬か? いやそれはないか。
「さて、我が領地で新しいダンジョンを発見したのは君たちという報告を受けているが?」
「俺たちというか、俺の姉が見つけました」
「ほう、カオリ殿が……」
俺がカイトの姉であるカオリに目を向ければ、困ったように微笑む彼女と目が合った。
飛び上がる心臓を鉄の意志で抑えながら、俺はひたすら王都で培った貴族相手の『辺境伯な仮面』を保ったまま話を続ける。
「カオリ殿のおかげで領地が潤う。礼を言わせてくれ」
「いえ、そんな……」
「幸いにも領主館の近くにダンジョンがあるらしいな。しばらくはここを拠点とし、ダンジョンの探索に励んではどうだろう?」
「デュ……ご主人様!」
バスチアンが焦っているような声を出す。
確かに俺の提案は、当初彼と打ち合わせしていた内容とは違う。しかし、ここは譲れない。
俺だってこんなことになっているとは、思ってもみなかったんだ。
「今日は泊まっていく予定だっただろう? 今夜にでもゆっくりと話し合って、答えを聞かせてくれないか」
「は、はい」
コクコクと頷くカイトの横で、ユウコとカオリは戸惑うように頷いた。
彼らが執務室から出ていくと、物問いたげなバスチアンの視線に気づかないフリをして、俺はひとり物思いにふける。
主人公カイト、彼の友人でヒロインのユウコ。
そして、カイトの姉であるカオリ……。
カオリは、俺の前世で会社の後輩だった。
「デューク様、なぜ彼らを館に留めようとされるのです?」
「気が変わった」
「カオリ様ですか?」
「わかっているなら聞くな」
いつもなら主従関係なんのそので揶揄ってくるバスチアンが、今は微妙に歯切れが悪い。
「旦那様……あの者たちは自国の平民でもなく、他国からの流れ人です」
「わかっている」
長年一緒にいるバスチアンには分かったんだろう。俺が、カオリに対してだけ『辺境伯の仮面』を分厚くしていたことを。
まさかカオリが、あの作品の『主人公に巻き込まれて召喚された』キャラクター、だったなんて……。
そして彼女がダンジョンを見つけた理由はすぐに理解できた。俺がすすめたネット小説を、後輩である彼女はしっかりと読んでくれていたんだろう。もしかしたら書籍版も読んでいるのかもしれない。
色々と話を聞きたいが、俺が元日本人で元社畜な現辺境伯だって、どうすれば信じてくれるのだろう。
てゆか。
そもそもカオリは、俺のことを覚えているのだろうか。
いや、それよりも彼女たちが、俺の知っている『日本』から来たという保証はどこにもない。やばい。色々ありすぎて考えがまとまらん。
それにしても、カオリは変わってなかったな。
いつも会社で「先輩」と呼びかけてくれていた彼女の笑顔に、いつも癒されていたんだ。
なのに俺は彼女を、最後に泣かせてしまった……。
「ん? 泣かせた?」
「デューク様、どうなされたのです?」
「いや、彼女の泣き顔を思い出したんだ」
「婦女子を泣かせるなど、鬼畜の所業ですね」
さっきまで不安げな表情をしていたくせに、その碧眼を一気に蔑むような視線に変えて俺に突き刺してきやがる。
痛い。痛いぞバスチアン。
「そうは言われてもなぁ。俺は前世で彼女をかばって死んで、泣き顔を見たのはそのときだから、しょうがないだろう」
「婦女子かばって死ぬとか……褒められるべきとは思いますが、残されたほうはさぞ苦しんだことでしょう」
「だよなぁ」
今さらカオリに前世の俺が「先輩」だったとか、どの口が言うんだって話だよ。申し訳ない気持ちと罪悪感がハンパない。
カオリに会ったからか、前世の死因だけでなくその時の感情まで思い出した俺は頭を抱える。
あの時の俺は「雨でスリップした車から格好よく後輩を助けて、あわよくばちょっと恋愛的な展開になっちゃったりしちゃったりなんかして(はぁと)」みたいな邪な気持ちでカオリを庇ったのはいいけど、日頃の運動不足とひ弱な体のせいで自分だけ避けきれずあっさり車と衝突して死んだ。
間抜けにもほどがある。
「……とりあえず我らは、お客様のご希望どおりに対応します」
「悪いな」
「デューク様の無茶振りには慣れてますから」
そう言って深々と一礼したバスチアンが執務室を去ると、俺は椅子の背もたれにぐったりと背中を預けた。
「ああ……この世界で、またカオリに会えるとか……マジか……」
記憶に残っているままのショートボブと、すらりとした細身の彼女。
剣と魔法のファンタジーという煌びやかな一面もあるが、全ての生き物の命が軽く扱われる世界だ。魔獣などの危険生物が蔓延るこんな場所に突然連れてこられて、どんなに心細かったことだろう。
彼女の心情を思うと、なんともいえない気持ちになる。
しかし……。
もし原作どおりだとすれば、主人公たちはこの世界に来る時に神から力を得ていると思われる。
カイトは格闘技やあらゆる武器を使いこなす力を。
ユウコはケガなどを回復し、補助する力を。
カオリはあらゆる魔法で攻撃する力を。
「さて、話し合いの結果はどうなるかな」
すべては明日。
彼らの出す結果次第で、俺のこれからが決まるのだ。
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